雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪アート・オブ・プロジェクトマネジメント 前編≫

 

今回はScott Berkun氏の「アート・オブ・プロジェクトマネジメント」を要約していきます。マイクロソフト社で多くのプロジェクトマネジメントを成功に導いてきた氏の経験に裏打ちされたプロジェクトマネジメントにおける急所を体系的にまとめた本です。本書は三部構成となっており、Ⅰ部はプロジェクトマネジメントにおける計画・Ⅱ部はプロジェクトマネジメントを行うに必要なスキル・Ⅲ部はマネジメントの技法を解説しております。今回はⅠ部の計画部分の要約を行います。

 

「アート・オブ・プロジェクトマネジメント」

O'Reilly Japan - アート・オブ・プロジェクトマネジメント

■ジャンル:開発管理

■読破難易度:中(主にソフトウェア関連のプロジェクトワークを想定していますが、サービスや製品のプロジェクトマネジメントにおいても示唆に富んだ内容になっております。実践経験があると自分自身の実務の棚卸と合わせて学べてオススメです。)

■対象者:・プロジェクトマネジメントのベストプラクティスを理解したい方

     ・非定型業務に従事する方全般

     ・コトマネジメントにおける手順・思考法を体得したい方

 

≪参考文献≫

■エンジニアリング組織論への招待

■要約≪エンジニアリング組織論への招待≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■プロジェクトマネジメントの簡単な歴史

・プロジェクトマネジメントはソフトウェア開発は勿論、ハードウェア開発や建設などの分野で歴史的に多く実践されてきました。プロジェクトマネジメントはその複雑さと膨大な処理量故に、部分と全体を統合・最適化して付加価値を高めるというそれ専門の営みです。プロジェクト初期は「曖昧さを許容」しながら権限や指示命令系統を整理し、後半フェーズでは「実行の完全性にコミットする」というしなやかさが欠かせません。文書による要件や価値基準を明記したり、議論過程や意思決定プロセスを記録に残して承認を募っていくというのは大規模開発・利害関係者が複数のPJにおいては絶対感覚とされます。

 

■プロジェクト計画について

・プロジェクト計画は「何をする必要があるのか?」という問いに対する解の要求定義・「どうやって行うのか?」の問いに対する設計・仕様書作成・実際に行う実装の3パートに別れます。優れた要求書は理解しやすく、多義が及ばないように記述されるものです。「誰が何をいつまでに行うか」・「何をもって成功・失敗とするか」を明確に記述するというのはプロジェクトワークの基本動作です。その上で、「納期・予算などの制約条件下でスコープや目的・ビジョンを明確にし、上位組織や戦略に叶うようにアウトプットイメージを作りこむ」・「不確実性を解いていく優先順位付けをする」といった思考を回し、ステークホルダーと方向性や判断基準を揃えていくというのが一般的なステップです。

・プロジェクトワークは「何を明らかにするためなのか?」という問いや目的の設定・事前調査による構造化して筋の良い施策やテーマ設定することがワーク全体の生産性のカギを握ります。プロジェクト計画・定義などは顧客・ビジネス・テクノロジーの専門家数人を招いて少数精鋭で一気に作り上げるのが基本原則とされます。たとえアジャイル開発であったとしてもウォーターフォール形式のような「プロジェクト要求書やワークフローを可視化して論点やアジェンダを設定する」・「シニアステークホルダーと定期的にすり合わせをしておく」などがポイントになります。

 

■プロジェクト計画の羅針盤となるビジョンについて

・ビジョンはプロジェクト目的・判断基準を明文化することにあり、書き留めておき参照し続けることで意味を持ちます。ビジョンをドキュメンテーションする際はシンプル・意図重視(目標駆動)・統合・閃き・覚えやすいという5つの性質を有するべきとされます。「誰をどんな状態にする」・「何を○○にする」など明瞭であり、立ち返りやすいものにするのが基本の表現法の配慮すべきポイントです。具体的で測定可能・行動志向・現実的であるなど抑えておくべき性質も明確に決まっています。

・実践的なコツとして、プロジェクトが対峙する顧客やビジネスケースにおけるワークフロー・ユーザーストーリーなど全体を網羅的・構造的にビジュアライズできるフレームワークでまとめておくことが重要とされます。これは「ステークホルダーの共通理解を促進し、認知コストを最小化すること」で協力や助言を適切に仰ぐ為に面倒でもやっておくことがPMの絶対感覚として求められます。また、ビジョンやビジネス目標は一度明文化・作成して終わりではなく、運用し続けアップデートすることで最終的な成果測定できるようにすることはPMが強い意志をもって行うことが大事とされます。

 

■アイデアの取り扱いについて

・問題解決の生産性を高めるには要求を明確にすること設計を探究することの2つのアプローチがあるとされます。つまり、「何を果たすためのプロジェクトワークなのか?」・「何をしなくてよくて何を担保しないと成功といえないのか?」といった問いに対する解の解像度を高めれば解決策や設計は自ずと導き出されるということです。要求を定義する際には解決策に真っすぐ首を突っ込むのではなく、イシューを射抜く要求であるということを構造的に分析・調査して結論を出すというステップを踏むことが大切になります。その際には前提を疑う失われている要求条件を炙り出すという役割を率先して設計過程に反映させていくように関与するのがPMの望ましい振舞い方とされます。

・上記に加えて、各要求の因果関係・優先順位を明確にしてステークホルダーと認識をすり合わせる・曖昧な用語・情報の定義を揃えるというのもPMワークにおける大事なステップです。要求書には詳細な記述や前提条件を明記すると設計フェーズの制約条件が増えるので、「誰のどんな問題を解決して何を成しえたいのか?」というゴール・目的をシャープにするということに拘るのがポイントです。要求と設計は相互フィードバックして軌道修正していく、イメージをすり合わせるというのが健全な関わり方であり、これを開発に入れ込んだのがリーンスタートアップアジャイル開発です。

・アイデアが複数ある中で制約条件解くべきお題の方向性によって「どれが仕様書に規定されるソリューションになるか」というのは必ず取捨選択されるものです。ここでしっかり検討しつくされない・不備があり手戻りになるとプロジェクトの効率は悪化の道を辿っていくことになるので、どのようにマネジメントするかはPMとして腕の見せ所となるステップです。基本原則は判断軸を複数設けて、毅然とした態度で(時に政治的な交渉に打ち克ちながら)取捨選択していくで、具体的にはコスト・実現可能性・課題解決のインパクト・戦略整合性などの切り口で判定していくものとされます。

・上記のような資源管理・優先順位付け・スコープ定義などのプロセスはキーとなるプロジェクトメンバーで発散・収束を繰り返しながら行われるものであり、定期的に明文化・可視化して共通認識を揃え続けるPMの執着的な行動が成功のカギになるとされます。後工程の開発マネジメントでの手戻りにならないように、Why・Whatを明確にするための問いを立てて課題設定やゴールイメージをシャープにするということに拘りぬくことがプロジェクトの総生産性を大幅に高めることになります。このステップは非常に精神的に胆力が求められる工程であり、フレームワークを知っているか・場数をこなしているかなどが如実に出る領域とされます。

 

【所感】

・本書では明確な組織図にない指示命令系統を権限をもたずに遂行する責任不確実性がプロジェクトマネジメントの大変さの正体とされ、どちらも相応の思考や手順・精神的な胆力が必要とされる点が難しさを助長しているのだろうと感じました。プロジェクトワークを多数行う中で断片的に学んできた知識を再度理論に忠実に理解し直す為に学び直そうと思い、基本に立ち返る意味合いで本書を読みましたが非常に頭が整理されてよかったように思えます。具体的には「プロジェクトメンバーとPMでの守備範囲・関心毎の違い故に起きるコミュニケーションのズレ・断片的なソリューション先行状態をどうマネジメントするか」という判断基準・考え方や「ビジネス戦略・上位組織の目標や利害に叶うようにアウトプット・アウトカムをマネジメントする嗅覚」を忘れないなどが読みながら理解した急所です。

・また本書を読みながらプロジェクトワークはアジャイル開発・UXデザイン・プロダクトマネジメントの理論とフレームワークに通じる内容になっており、相互の関係性・必要性が増すに至った歴史的背景などの解像度が高まりました。この分野に関しては「知っているか」・「やったことがあるか」といった努力の投下が成果に比例する領域であると感じたので、引き続き探究・探索することと小さくとも実践していくことを欠かさないようにしたいと思った次第です。

 

以上となります!

■要約≪ローマ人の物語9≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。9は「ユリウス・カエサル ルビコン以前」の中巻です。ローマ帝国属州スペイン統治にて武功を挙げたカエサルはその勢いのまま第一回三頭政治を司り41歳で執政官に就任し、ガリア遠征を繰り広げる紀元前60~49年までを扱います。

 

ローマ人の物語9

ローマ人の物語9(著者:塩野七生 2021年96冊目) #読書 #歴史 #カエサル - zashii-1434

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常によみやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとわかりやすくなります。)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方

     ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

 

ローマ人の物語6~7(勝者の混迷)は下記≫

■要約≪ローマ人の物語6≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪ローマ人の物語7≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

ローマ人の物語8(ユリウス・カエサル ルビコン以前)は下記≫

■要約≪ローマ人の物語8≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■壮年前期:スペイン統治~執政官時代(紀元前60~49年)

カエサル南部スペインに赴き、属州統治の一環として税制改革を行いました。当初の租税はローマ市民であるか属州現地人であるかに関係なくいい加減な対象に1/10税負担を強いるといった具合でした。カエサルはこれを明確にし、「誰が・いつ・どの程度」といった尺度を法律にて明文化しました。加えて、現在のポルトガルにあたるスペイン西部の統治を推し進めて属領統治の任を終えました。

・この頃、スッラが構築した「共和政(寡頭政治)の維持こそがポイントである」とする元老院派(主勢力は小カトーとキケロ)と東方遠征にて大きな武功を挙げたポンペイウスは均衡関係にあり、利害が一致したポンペイウスカエサルクラッスス三者連合を隠密に形成し、カエサルが執政官就任に成功します。

カエサルは執政官就任以後、急進派というレッテルを覆す為に「元老院議会の議事録を翌日文書にて情報開示する」ということを進めました。ポンペイウスが獲得した東方領土の属国開発促進を推奨したり、元老院議員など国家公務員の規則を制定したりと次々に政治を実行しました。経済発展と元老院議員の特権や硬直的な体制を崩すための打ち手というのが狙いです。その流れでカエサルグラックス兄弟以来タブー視されていた農地法を成立させ、クラッススおよび騎士階級向けに属州統治に関わる租税を免除する法案成立・ポンペイウス向けにローマの友好国であるエジプトの王位を即位させ、それをポンペイウスの庇護下に置くという領土拡大のようなお膳立てをするなどして三頭政治を確固たるものにしました。カエサルが執政官就任以後は領土拡大とローマ帝国強化の目的を果たす為に、属州ガリア統治の権利を獲得しました。

 

■壮年前期:ガリア戦役(1年目~5年目)(紀元前60~49年)

ガリア戦役初年度のカエサルは基盤を構築する為、ローマ本国に三頭政治派の政治勢力を構築することを中心にリソースを割きながらガリア領の周辺民族平定を少しずつ推し進めました。ガリア戦役2年目はゲルマン人ガリア人・ローマ軍が三つ巴の構図の中で、カエサル現ベルギー・スイス一帯の地域のガリア領土内の民族を平定していく動きを進めました。ライン川以東には大量のゲルマン民族が睨みをきかせるという構図の中でカエサルはバランスを取りながらガリア領の攻略を進めていきます。

ガリア戦役3年目になるとローマ本国の三頭政治に綻びが出始め、元老院派と三頭政治のパワーバランスは逆転しつつある状態にありました。カエサルはその状態を不味いと判断し、ルビコン川北部のルッカという町でカエサルクラッススポンペイウス三者会談ルッカ会談を行い政治結託の再確認をしました。具体的な内容は会談では選挙を冬に延期した上で「クラッススポンペイウスの執政官再選を目指す」というもので、加えて「執政官退任後の属領統治の赴任地を事前に決める」ということも行い、ポンペイウスはスペインクラッススはシリアに赴任することで元老院に強い抑止力を働かせる構図を構築しました。ガリア戦役四年目になると執政官をポンペイウスクラッスス両名が務める盤石の構図となったので、カエサルガリア戦役に集中することを決めました。具体的にはガリア北東部(現フランス~ドイツの境目)の開拓を推し進め、カエサルは長年の悩みの種であるゲルマン民族の脅威に対処する為に、ライン川に橋をかけて直接攻撃を仕掛けられるような体制を作るという大胆な構想でゲルマン民族を直接叩きました。

ガリア戦役四年目終わり頃にカエサル率いるローマ軍はブリタニア(現イギリス)との接触を試み、ガリアと共にローマ帝国内部に組み込む構想を練るようになりました。ガリア戦役五年目はガリア北部(現フランス)~ブリタニア南部(現イギリス)への進軍リベンジに奔走する年となります。少しの均衡が崩れたことを境にガリア領土ではガリア軍による反乱が勃発し、弟キケロクラッスス息子率いるローマ軍がピンチに陥ります。カエサルが合流しローマ軍7000vsベルギー+ガリア反乱軍60000という圧倒的な兵力差を作戦の妙で切り返し、何とか平定に成功します。その後、カエサルガリア遠征のスコープをガリア最大勢力の平定およびゲルマン民族掃討に定め、ガリア戦役終盤へ向かっていくこととなります。

・一方、ローマ本土はポンペイウス+クラッスス三頭政治体制に綻びが出て執政官に元老院派が多数を占めるまで盛り返していました。元老院三頭政治カエサルを切り崩すためにポンペイウス元老院派に引き入れようとし、クラッススはパルティア遠征総大将の準備をしている状態です。こうした混沌とした局面でガリア戦役六年目が始まり、下巻(10)に向かいます。

 

【所感】

・後の西ローマ帝国フランク王国の基盤を作ることになるガリア領(フランス・オランダ・ベルギー・スイス)とゲルマン民族文明(ドイツ)・ブリタニア人(イギリス)が一気に登場してきて、ポンペイウスが東方遠征にてローマ領土を拡大していることと同じくらいの偉業を成していること、後のヨーロッパ世界の基礎が構築されたことなどがわかり地図を見返しながら読むのが非常に面白い巻でした。

・世界史を学んだ際には無味乾燥に映ったポンペイウスキケロクラッスス・小カトーなどにもスポットライトが当たっており、関心毎や政治的力関係などが浮き彫りになり面白く読むことが出来ました。また、カエサル著のガリア戦記は文章の美しさも相まって名著と名高いのでタイミングを見て読んでみたいと思う次第でした。ローマ人の物語は8~10が「ユリウス・カエサル ルビコン以前」で11~13が「ユリウス・カエサル ルビコン以後」といった具合で多くのリソースを共和制末期およびカエサルに割いていることがわかる著者の特別の思い入れが感じられるパートです。1~7に比べると非常にスローペースで叙述されますが、ヨーロッパ世界のコアが形成されたタイミングですので楽しみながら読み進めたい次第です。

 

以上となります!

■要約≪サブスクリプション「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル≫

 

今回はティエン・ツォ氏の著作サブスクリプション 「顧客の成功」が新時代のビジネスモデル」を要約していきます。近年急拡大しているサブスクリプションのビジネスモデルおよびSaaSビジネスの急所について様々な業界での導入事例と各機能別組織のあり方についてまとめた本です。「全ての判断を顧客期待起点に」というのは近年のソフトウェアプロダクトの基本的な思想です。これはサブスクモデルの普及によるマーケティングマネジメント・UXデザイン・プロダクトマネジメントの必要性といった時代の潮流と切っても切り離せないテーマであり、様々な自分自身の関心毎や勉強テーマの統合という意味合いで本書を読みました。

 

サブスクリプション 「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル」

サブスクリプション―――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル | 漫画全巻ドットコム

■ジャンル:経営・開発管理・マーケティング

■読破難易度:低~中(様々な業界やSaaS企業の事例を基に記述されている為、読みやすいです。サブスクの概念そのものが馴染みのない人にとってはカタカナ・横文字が多く取っ付きづらさがあるかもしれません)

■対象者:・サブスクモデルについて理解を深めたい方全般

     ・ソフトウェアプロダクトのビジネスに従事する方全般

     ・マーケティングトレンドに明るくなりたい方

 

≪参考文献≫

■ザ・モデル(サブスクモデルの営業・マーケティング機能に特化して解説した本)

■要約≪ザ・モデル≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■INSPIRED(ソフトウェアプロダクトマネジメントの潮流)

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■ユーザーストーリーマッピング(顧客期待を捉える・顧客期待を起点とした機能開発の要であるUXデザイン・エンジニアリングについて)

■要約≪ユーザーストーリーマッピング≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■サブスクモデル台頭による商慣習の変化

・モノで溢れる時代において、「モノの所有ではなく利用ベースの料金発生」という概念が成立し市場浸透するようになりました。サブスクリプションモデルは料金の簡素化によりユーザーのすそ野を広げ、安定収入というビジネス提供者へ果実をもたらしただけでなく、「ユーザー獲得・利用~定着・LTV向上」というそれ専門の営業・マーケティング機能、各ファネルの移行率を高めるUXデザイン(究極的には人を介さずプロダクト上で体験が完結する世界)の重要性が高まるというビジネストレンドをもたらしました。

・上記トレンドは必然的に顧客セグメントの細分化顧客期待に合わせたサービスメニュー・提供方法の開発という事業アジェンダを多くの企業にもたらしました。加えて、2010年代にクラウド技術など「デジタル起点のビジネスモデル・提供方法におけるイノベーション」が実現したことで、サブスクモデルは一気に市場へ浸透していくようになりました。顧客接点におけるカスタマーエクスペリエンスが最重要であり、「ユーザーストーリーや顧客を深く理解した前提にプロダクトやサービスを組み立てていく」という思想が浸透するきっかけを生み出しました。具体的には「プロダクトの体験価値・機能的価値の言語化」・「NPSや継続率・ARRなどを事業の重要指標とする」といった行動変容をもたらしました。

 

■サブスクモデルにおける事業運営の要諦

クラウド技術サブスクモデルの市場浸透により、ソフトウェアプロダクトでのSaaSなどが実現可能になり、UXデザインアジャイル開発など「顧客やユーザーストーリーを起点にMVP開発をベースに仮説検証・PDSサイクル回していくことに重心を置く」という現代のプロダクトマネジメント手法の体系化が進みました。大事なのは顧客のペイン・ゲイン・セグメントを中心に考えるということですが、「顧客が答えを知っているとは限らない」・「顧客に妄信すればいい訳ではない」ということです。サブスクモデルはLTVや継続利用率・CPA・ARRなどを注視して経営せざるを得なく、それは詰まる所「データや顧客インサイトを起点にUXデザインしていくことが事業運営のコアになる」ということを意味します。例えば、ネットフリックスはセグメント別の利用時間に寄与するようなコンテンツ開発に注力しましたし、セールスフォースは分業体制と見込み顧客生成をコアとしました。顧客を引き付ける体験やブランドを持っている企業は非常に強く、GAFAスターバックスなど強烈なビジョンやコアユーザーを持つ企業はプロダクトの世界で良く参照される企業であることも必然の流れです。

・こうした変化がマーケティング分野にもたらしたのはプライシングパッケージングの重要性です。「フリーミアムでライトユーザーを獲得し、課金形式で顧客体験を紡いでいき定着促進と単価を上げていく」というプロダクトマネジメントの基礎的な概念をもたらし、各ファネル別にセールス・マーケティング・UXデザイナーと共に打ち手を施していき、KPI・NSM・ARRにヒットするようなビジネスと顧客価値の両輪を回していくといった事業マネジメントの当たり前を導きだしました。「全ての起点は顧客期待から」という考えのもと、カスタマーインサイト・ジャーニーマップを全ての土台としてプロダクトデザイン・販売チャネルマネジメント・機能開発を徹底していくというサブスクモデル起点のソフトウェアプロダクトの王道的な思考法が市民権を得るに至りました。

・サブスクモデルを導入する企業においてはARR(年間定期収益)が重要な財務指標で、これは伝統的なPLではとらえきれない稼ぐ力や収益性を時間軸の概念から捉えようということです。つまり、解約率取引単価顧客獲得コストなどがビジネスドライバーになり、「それらにダイレクトにヒットする打ち手や当該部門へのマネジメント働きかけ」など専門で行うプロダクトマネジメント業務の必要性をもたらしました。その結果、「定期収入の向上」と「定期コストの削減」という2方向に対して打ち手を施し、プロダクト戦略とロードマップをアップデートしていくのがプロダクトマネージャーの役割となり、顧客インサイトの探索ユーザーストーリーの深い理解をベースとした体験価値・機能的価値の向上の両輪を回していくことが求められるロールが多くの企業で必要とされるようになりました。

 

【所感】

・サブスクモデルの市場浸透とSaaSおよびソフトウェアプロダクトマネジメントが拡大していうのは一つのつながった線であるということが深く理解できてとても面白かったです。ザ・モデルのような営業・マーケティング分野での組織イノベーションやUXデザインの重要性など断片的に理解していた付随テーマもなぜそれだけ重視されるかということがこれまで以上に良く理解できました。「製品のサービス化」というのが大トレンドですが、労働供給制約社会が到来する中で分業して大量の労働人材でサービスを提供していくというのもどこかで限界が来ます。「サービスのプロダクト化」のようなプロダクトで体験が完結できるようにテクノロジー活用やビジネスモデル・販売チャネルイノベーションを狙って志向していきながら思考していくことが必要なのかなと考えた次第です。

・自分自身は営業・マーケティング・組織マネジメントがキャリアの骨格を形成しているのですが、UXデザインやプロダクトマネジメントの重要性が叫ばれる中でVoCに明るいことや顧客起点で考える・仮説を巡らすといったデザイン思考に近しい物にはなじみがあると感じていて、「ビジネストレンドやテクノロジー技術を食わず嫌いせず取り込み、顧客価値向上や提供方法の探索をゼロベースで模索し続けることがバリューを出すうえで大切なのだろう」という自分の現在地と今後の頑張り方のベクトルを再考するに至った次第です。

 

以上となります!

■要約≪経営者になるためのノート≫

 

今回は柳井正氏の「経営者になるためのノート」をまとめていきます。柳井氏は小売最大手企業ファーストリテイリングの社長であり、1992年に父親から商店を引継ぎ社名変更して一気に拡大路線へ経営の舵を切り、1995年に上場、21世紀にはグローバル展開を果たす日本を代表する企業へ牽引した経営者です。本書はファーストリテイリング社内の管理職育成向けに記述された内容を外部展開しており、学びの道標となるようノートのような体裁で何度も書き込みながら読み返すことを推奨されている仕立ての本です。量自体は180ページ程度のライトなものでありますが、何度も折を見て読み直すことで力がつくような構成になっている点が特徴的です。これは柳井氏が強く影響を受けているドラッカーの本に通じる要素です。

 

「経営者になるためのノート」

経営者になるための ノート/柳井正 :BK-4569826954:bookfan - 通販 - Yahoo!ショッピング

■ジャンル:経営

■読破難易度:中(読むこと自体はそこまで難しくないですが、真意を理解し実践するには相応のビジネス経験が必要に思われ職階を上がるたびに読み直して効果が出るように思われる内容です。)

■対象者:・経営者・事業責任者を目指す方全般

     ・実践的なマネジメントにおける考え方を学びたい方

     ・ドラッカーの著作が好きな方

 

≪参考文献≫

■マネジャーの実像(「マネジメントはアート・クラフト・サイエンスのバランスが重要である」というミンツバーグの経営管理者理論)

■要約≪マネジャーの実像≫前編 - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪マネジャーの実像≫後編 - 雑感 (hatenablog.com)

 

GMとは何か(柳井氏が強く影響を受けたGM経営者スローンの経営戦略論)

■要約≪GMとともに≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■経営者とは

・経営者とは約束をした成果を上げる人を指します。「社会からの要諦で会社の使命であること」を約束して成果を上げることがポイントとされます。経営は実行してなんぼであり、具体的に求められるのは「変革を遂行する力(顧客を創造し続ける力)」・「儲ける力」・「チームをつくる力」・「理想を追求する力」の4つとされます。

・経営においては計画も大事であるが、クラフト(実行)してなんぼであるということが柳井氏の強い信念であることが伺えます。小売企業としてグローバル展開していく上では「変革を牽引し、お金を稼げる強いリーダーである経営者がたくさんいないと組織目的を成しえない」という強い危機感から自社管理職向けに本書内容は文書化されました。

 

■変革する力

・非常識な目標を掲げ、コミットすることイノベーションを引き寄せることになり、単調増加的にやっていては実現出来ない目標を行うには変革を牽引することそれに適した組織を作り上げることなどが具体的なTODOになり、これを担うことができるかが事業責任者・経営者になれるかを左右するとされます。高い目標を実現するとなると必然的に顧客創造が不可欠となります。そして、ユーザーストーリー・顧客セグメント・実現した状態の企業・社会のビジュアライズなどが付随して構想することが求められるといった具合になります。

・顧客創造について、「顧客の基準というのは充足した体験価値フェーズにより自ずと規定されるものであり、常に変化・増加し続ける傾向にある」という避けられない構図をビジネスを行う上では理解しておかないといけないと本書では管理職向けに警笛を鳴らします。関連テーマとして、「凄まじい品質と基準で突き進めば業界を牽引することは容易だ」ということがユニクロヒートテックのプロダクトストーリーを引き合いに記述されています。機能的価値の追求顧客価値・セグメントを意識した価値の磨きこみを徹底した結果、圧倒的なロングセラーを生み出す製品へ昇華したのです。

 

■儲ける力

会社は株主の為にあるというアメリカ資本市場の定説に対して異を唱え、ドラッカー的に会社は顧客の為にあるというのが柳井氏の経営思想です。顧客が教えてくれるのは問題点ニーズであり、「ソリューションやその提供方法は顧客の期待・予想を超えるものでないと事業は役目をはたしていない」という哲学もこのパートでは展開されます。

・経営は実行してなんぼであり、計画や報告ばかりの行動を多くの従業員がするようになると危険なサインだとされます。また、仕事は「やらないと大変なことから優先して集中していくことで成果をあげる」というのが柳井氏の仕事の流儀のようで本章でも度々言及されます。時間や資源には限りがあり、常に上位戦略実現への連動性や費用対効果を考慮して意思決定していく手間を惜しむなということが示唆されています。

 

■チームを作る力

・「自分が如何に有能であろうと個人でできることには限りがある」ので、チームを組成しチームにレバレッジをかけることが出来るかが経営者を目指す上での資質・スキルとしての絶対条件になるとされます。その意味においてチームを組成し率いる上では個人の利害を度外視して、組織目的を体現することチームメンバーを勝馬に乗せることがスキルとして欠かせないと指摘します。尚、チームビルドの絶対原則は「信頼残高を構築すること」であり、これは言行一致に尽きるようです。

組織目的・目標・戦略を掲げ、しつこく運用・言及し続けることで判断基準をチームメンバーに浸透させていくという執着心はマネジメントのパフォーマンスに強く連動するとされます。また、仕事を任せる上では「基準を明確にする・ゴールを明確にする、それがわかっていることを確認する問いを投げ対話してから任せるということ」と「任せた行動と結果については誠実に評価を伝える」の2つにフォーカスし、チームメンバーの学習・成長サイクルを効果的に回していくことで組織成果人材育成の両輪を進めることが経営者の絶対感覚とされます。

 

■理想を追求する力

企業の存在目的・社会的使命は長く存続する偉大な企業を作る上での絶対条件であり、「顧客を創造し続けられる企業は必ず言語化されている」と柳井氏は主張します。顧客が価値に対しての対価として企業へお金を払い、それ故にを企業は存続できるので、社会から必要とされない事業は必ずなくなる宿命にあるということです。「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というファーストリテイリングのミッションステイトメントもその表れであり、フリースヒートテックなどの画期的な商品は社会を大きく変えました。

・経営の要諦は「積み上げ思考で現状の延長線上にあるのではなく、ゴールから逆算して超えるべき壁・あるべき状態を定義し、その道筋たるロードマップや解くべき重要アジェンダを設定して処理していく」というプロダクト思考のようなものです。

 

【所感】

・ハロルド・ジェニーン著「プロフェッショナルマネジャー」ドラッカーの著作に強く影響を受けている柳井氏らしい考え方・表現方法が随所に見られ、該当著作を数年前に読み漁った自分としてはとても腹落ちする内容でした。経営は実行してなんぼであるという極めて現実的で真面目なパーソナリティーも浮かび上がる構成だったように思えます。「企業の社会的な目的や使命を大切にする」「顧客を創造する」とは経営学の書籍ではよく言われますがこの基本原理を狂ったように忠実にやりきることでファーストリテイリングは偉大な企業へ発展を遂げたのかと感じました。

・「凡事徹底・日々学習、経験が大事」という基本に忠実を狂ったくらいにやりきるというドラッカー的な思想が随所に見られ、苦労して大成した・家業を継いでいるというバックグラウンド故に経営者は美的なものではなく、徹底的に基本に忠実な商売人であれという氏特有の選好性が伺えます。中間管理職ではなく、トップマネジメントに必要な資質や考え方となるとイノベーション経営管理の領域に関する言及が多くなるのだなということが関連領域の類似著作を読んで気付いたことでした。

・本書に掲載されているセルフワークチェックシートを活用し、定期的に自分の考え方や経験の現在地を測り矯正するということが必要であると思われ時間を置いて何度か読み返していく形で付き合う本に思えました。

 

以上となります!

■要約≪経済学における諸定義≫

 

今回はマルサス「経済学における諸定義」を要約していきます。人口論で有名な古典派経済学の代表的な理論家であるマルサス往年の作品です。アダム・スミスが古典派経済学の理論を構築してから後続研究が進み、専門分化していく過程で経済学に関する基本概念を表現する用語の定義・解釈が人によりバラバラである過渡期にある現状を憂いて、「代表的な著作・学者を引き合いに意味を正していきながら古典派経済学を編み直す」という壮大な構想の内容です。また、経済学を政治学・哲学などの社会科学同等の付加価値を持つ学問化するのであるというマルサス氏の強い気概も感じられる本です。

 

「経済学における諸定義」

経済学における諸定義 (岩波文庫 34‐107‐4) (改訳) マルサス/著 玉野井芳郎/訳 岩波文庫の本 - 最安値・価格比較 ...

■ジャンル:経済学

■読破難易度:中~高(基本的な経済学の理論の枠組みが理解出来ていないと、何も面白くないと思われます。教科書や代表的な経済学者の著作を読んだ上で読むことをオススメします。)

■対象者:・古典派経済学体系化プロセスに興味関心のある方

     ・近代世界における社会科学発展のダイナミックさを体感したい方

     ・古典派経済学者の思想に関する理解を深めたい方

 

≪参考文献≫

人口論

■要約≪人口論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

国富論

■要約≪国富論 第一編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第二編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第三編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第四編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第五編前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第五編後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■経済学および課税の原理

■要約≪経済学および課税の原理(上)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪経済学および課税の原理(下)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■経済学に関するマルサスの見解

・「経済学は数学的な側面があるという定説があるが、マルサス的には政治学倫理学のような思想の側面が強い」という見解を本書では展開します。「国民の富の性質と原因を明確に説明できること」が本書記述の動機・大目的であるとして経済学分野における用語の統一を図ろうというのが具体的な狙いです。

 

■当代における経済学における諸定義の乱立具合について

・本書ではフランスエコノミスト全般・アダム・スミス・セー・リカード・ミル・マカロックなど代表的な古典派経済学者の著作に言及し、経済学を構成する基礎的な概念・用語の曖昧さについて言及・論証していきます。具体的には効用・価値・富の区分「商品と労働の関係性」・「利用価値と交換価値の違い」・「需給の変数のかかり方」・「財・サービス間の交換比率」などに関して学者・学派により絶妙に解釈・言葉の定義が異なる矛盾を指摘し、基本的には古典派経済学の祖であるアダム・スミスの考え方に叶うように編み直すということがなされます。

 

■経済学における価値の尺度について

「財・サービスそのものの価値」と「商品市場価格を同義に扱うべき」という古典派経済学の一般的な見解に対してマルサスは挑戦的な見解をする営みが本書ではなされています。資本は労働を支配する権利を有しており、資本所有者が労働を支配するのでピラミッドの頂点に君臨するというのは「労働が商品と代替関係にある」という前提に成り立つ理論であり、商品が支配する労働量とは市場相場価格であり、有効需要であるという見解を示します。その一方で商品価格は需給バランスの影響を受けながらも、生産費用により自ずと規定されるという性質をもつことにも着目し、商品は「支配する労働の総量」により価値が規定されるとされたり、市場の需給バランスによるとされたり様々な解釈が成立するという見解が続いていきます。

 

■本書で定義の統一を試みた経済学における重要概念・用語について

:人間に必要、有用、快適な物質的対象物であってそれを専有したり生産する為に一定の人間の努力を必要とするもの。

効用:人間に寄与することが出来、また恩恵を与えることのできる性質。一対象物の効用はこうした寄与と恩恵との必要性および真の重要性に比例すると考えられてきた。すべての富はかならず有用なものである。けれども有用なもの全てが富とは限らない。

価値:使用価値と交換価値の2つの意味があり、使用価値は効用と同義になる。交換価値は交換上の関係であり、対象物の評価に依存する。価値が富と大別されるのは物質的対象物に限定されることと希少性・生産難易度に依存する点だ。

富の諸源泉:本質的には土地・労働・資本の3つであり、コアは土地と労働。

資本:資財(蓄積された富)の中で富の生産・分配・利潤を目的として留保、使用される部分を指す。

・本書では古典派経済学の様々なアプローチや考え方を統合していくことに取り組んでおり、その功績や視座視界は後のケインズマルクスの経済学発展に大きく影響をもたらしたとされています。

 

【所感】

・ややマニアックな内容の本でしたがアダム・スミスリカード・ミルの著作を読んでいた自分にとっては当時の時代背景・マルサス氏の課題意識も感じられ非常にワクワクする内容でした。本書で用語・概念の定義を統一化する中で下記資本主義経済における普遍的な結論を導きだしていることに凄みを感じました。労働生産性を高めて賃金を獲得し、資本を蓄積していくこと」労働者の立場から見た資本主義経済の原理原則であり、「如何に労働を節約するか・資本集約型産業を構築するか・利潤から資本を蓄積・投資していくか」資本家の立場から見た資本主義経済の原理原則であるというものです。

・様々な理論や見解を比較・統合していくという帰納法的なアプローチを好むマルサス氏ならではの著作に思えて、人口論とは違った奥深さが垣間見えた内容でした。アプローチ・論証プロセスそのものは社会学の大家マックス・ウェーバーを彷彿させるものでしたね。歴史的偉人に薫陶をうけるように学問の基礎基本を読み解いていくというプロセスは非常にカロリーがかかりますが、定期的に自分の思考にストレッチさせるための負課をかけるのに最適な内容と再認識し定期的に社会科学分野の古典は読み続けていきたい所です。

 

以上となります!

■要約≪ローマ人の物語8≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。8は「ユリウス・カエサル ルビコン以前」の上巻です。ローマを共和政から帝政へ移行させていく方向に大きく動かしたユリウス・カエサルの生涯を紐解いていくのが8の目的です。8はその上中下巻の上巻にあたり、ユリウス・カエサル生い立ち~青年後期にあたる紀元前100~61年までを扱います。

 

ローマ人の物語8」

ロ-マ人の物語 8 / 塩野 七生【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常によみやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとわかりやすくなります。)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方

     ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

 

ローマ人の物語3~5(ハンニバル戦記)は下記

■要約≪ローマ人の物語3≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪ローマ人の物語4≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 ■要約≪ローマ人の物語5≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

ローマ人の物語6~7(勝者の混迷)は下記≫

■要約≪ローマ人の物語6≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪ローマ人の物語7≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■幼少期(紀元前100~94年)

ユリウス・カエサルスブッラと呼ばれる平民が主に住む地区にて生まれ育ち37歳まで定住しました。ユリウス・カエサルはその前後の時代の偉人と違い、名門の家系に所属していないのが特徴であり、ローマ初期にあったユリウス系の系譜であることはあったくらいの人材です。カエサルには姉と妹がいて、母親からありったけの愛を受けて育ったので常に未来をみる非常にポジティブな人材に育ったとされます。

 

■少年期(紀元前93~84年)

・古代共和政ローマでは良家は家庭教師をつけて子供を教育するのが一般的で、カエサルは家に使える奴隷と一緒に家庭教師・読み書きは教養深い学者の家系である母親から直接手ほどきを受けて育ちました。この時代の初等教育を構成する科目はラテン語ギリシア語・修辞学・弁証学・数学・歴史・地理でした。専門分化したギリシア人の家庭教師に手ほどきを受けるというのが具体的な流れです。

カエサルの人格形成期のローマは同盟者戦役を経てユリウス法が成立し、マリウス・スッラ・キンナなどが勢力争いをしており、ローマ内部でクーデターが絶えない時代でした。カエサルは政略争いに巻き込まれ、望まない執政官キンナの娘との政略結婚を17歳の若さで遂げます。

 

■青年前期(紀元前83~70年)

・当代の時代の覇権を握る執政官スッラコルネリウス一門でありながら貧しい生い立ちをしたが貴族的な振る舞いと言動の明確さが多くの人を魅了するリーダーでした。スッラはマリウスキンナ率いる平民路線の政治勢力を討伐するために、マリウスに親族を殺されたクラッススポンペイウスを引き連れてオリエント遠征以後王都襲撃をして元老院体制を再興するということをやってのけました。スッラは王都制圧後、「民衆派掃討作戦」を決行し、解放奴隷をコルネリウス一門の身分を付与して役割遂行にあてがうというやり方で進めました。カエサルもこの掃討作戦の名簿にいましたが、親族がいないということも考慮しキンナの娘との離婚を強制されるという程度で済みましたが、カエサルはこれを拒んだため追撃にあい、小アジアで軍役に従事しその後はロートス島へ逃避といった具合で機が熟するのを待つ青年時代を過ごします。ロードス島はヘレニズム時代に学問で栄え、ローマ帝国とは早くから海軍を供与して同盟を結びました。いろいろな政変を経て、27歳でカエサルは神祗官になりローマ帝国本土に復帰しました。クラッススポンペイウスが政治権力に台頭する中で、カエサル会計検査官になり政治権力の基礎固めに勤しんでいました。

 

■青年後期(紀元前69~61年)

カエサル元老院議員にようやくなった頃、ローマ帝国ではポンペイウスが絶対指揮権を行使して地中海を制圧し、小アジアのミトリダテス王討伐の任を行うなどしてローマ帝国のトップに君臨する体制を着実に構築している状態でした。カエサルは歴史的偉人の中でも非常に遅咲きであり、37歳で厳しい選挙戦を経て最高神祗官になり政治権力の中枢にアクセスできる基盤を構築するといった具合でした。カエサルは物凄い借金を抱える癖のある人材でしたが、当時最もお金持ちとして名をはせたクラッススが下支えしていたので特段問題化することなく、出世の契機となるスペイン属領統治の任を40歳にして行い始めるという所で8は終了します。

 

【所感】

ローマ人の物語6・7の出来事をカエサルサイドから読み直すという構成になっており、より理解が深まりました。本書著者の塩野七生氏がカエサルという歴史的偉人を極めて特別視して評価・記述しているのがわかる内容になっており、遅咲きながらその優れた才能の片鱗や考え方をこれでもかと言わんばかりに描写しているのが特徴的です。

・生い立ちに関する言及の周辺知識として記述されているローマ社会の一般的な教育体制や土地区分などは身分階級や法秩序が強固なローマの特徴が際立つ内容に思えました。基礎的な学問と身体能力向上に関する時間を豊富に費やし青年期以降の自己実現・問題解決のポテンシャルを最大化するという狙いは近現代の教育体制やその狙いとあまり変わらないものだなと感じました。

 

以上となります!

≪下期総集編≫2023年度に読んで面白かった本8冊

 

今回は半年に1度まとめている「読んで面白かった本シリーズ」です。

この半年は自分の仕事のスタイルやスキルセットを大きくアップデートしていく危機感に迫られ、守破離の守の徹底に勤しみました。主にプロダクトマネジメントUXデザインに関する教科書的な立ち位置の本を読み漁り、Udemyで当該分野の講義を聞き「PM・UXデザインっぽい」仕事で実践して土地勘を掴むことの繰り返しでした。学べば学ぶほど自分が井の中の蛙であったことを知ると共に、「決まったフレーム・お作法・考え方を遵守していけば大きく外すことはない」ということも理解し、自分が積み上げてきた営業・組織マネジメントの経験もバカにならないなと思い返すことも多かったです。

 

※直近のまとめ記事は下記。

≪上期総集編≫2023年度に読んで面白かった本8冊 - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪目次≫

・プロダクトマネージャーのしごと

プロダクトマネジメント

プロダクトマネジメントの教科書

・UXデザインの教科書

ユーザビリティエンジニアリング

・バリュー・プロポジション・デザイン

・自省録

・ローマ人盛衰原因論

 

「プロダクトマネージャーのしごと」

O'Reilly Japan Blog - 9月新刊情報『プロダクトマネージャーのしごと 第2版』

≪要約≫

■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)

オライリージャパンシリーズの2023年10月に発売された本で、発売直後大きく話題になった本です。プロダクトマネージャーの具体的な実務・場面を引き合いに求められるスキル・職業倫理・具体的な解決策をわかりやすく解説している本です。ステークホルダーマネジメントの難しさとドキュメンテーション・UXデザインの重要性など過去の自分のしくじりを思い返しながら、背筋を正すような示唆にも富んでおりこの半期何度も読み返した記憶があります。

・プロダクトマネージャーというと開発組織の役割に思えて遠い世界に感じる方も多いかもしれませんが、担う役割や必要なスキル・経験・スタンスなどは事業開発を始めとした非定型業務全般に従事する方にオススメ出来る内容だなと感じた次第です。

 

プロダクトマネジメント

 

≪要約≫

■要約≪プロダクトマネジメント≫ - 雑感 (hatenablog.com)

ビルドトラップと呼ばれるプロダクトマネジメントにおいて絶対に避けなければならない状態に着目して架空企業のプロダクトマネージャーのストーリーを追体験しながら法則を学ぶという仕立てのPM定番本です。ビルドトラップと組織がアウトカムではなくアウトプットで成功を計測しようとして行き詰っている状況実際に生み出された価値ではなく、機能の開発とリリースに集中してしまっている状況の2つを具体的に指します。

・「HOWやスピードが先行してしまう自身の癖が仇となる」ということを強く認識し、「Why・Whatに立ち返る(ブラさない)」という癖付けを矯正するきっかけになった本です。ビジョン・課題設定・アウトカムを何時如何なる時も念頭において、コミュニケーションする・意思決定するということを強く学ばされた本です。

 

プロダクトマネジメントの教科書」

≪要約≫

■要約≪プロダクトマネジメントの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪プロダクトマネジメントの教科書 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

・「世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本」の続編でプロダクトマネジメントのキャリア・スキル・ノウハウなどを体系的にまとめた本です。今年の1月末に出版されたばかりの最新の本です。タイトルの通り、教科書のごとくプロダクト関連職種に纏わるスキル・スタンス・キャリアなど全てを網羅的に記述している内容です。

・500ページの超大作で読むのは骨が折れますが、様々なPMへのインタビューでキャリアの変遷・スキルスタンスの要諦などを多数の事例から学ぶことが出来、読み物として面白いです。モデル開発や企画関連業務を多数行う中で、国際水準に照らした自分の現在地やあるべき品質の確認をすることが出来て仕事の棚卸になった感覚が強いです。

 

「UXデザインの教科書」

≪要約≫

■要約≪UXデザインの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪UXデザインの教科書 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

・サービス開発・プロダクトマネジメントを学んでいく中で自ずとUXデザインの重要性を認識し、UXデザインの定番本の本書に辿り着きました。人間中心設計を筆頭に、UX体系化された理論や考え方・フレームワークを網羅的に学ぶことが出来、本書を読みながら体験価値やマーケティング施策を考える上で役立つ指針を体得できたのは大きな収穫でした。

・見込み顧客へのインタビュー・行動観察・ジャーニーマップ作成など自身の営業や組織マネジメントの経験で培ってきたものを転用できる内容も多いことがわかり、UXデザインが非常に馴染みあるものとして自分の中で腹落ちできたのは良かったです。「もう少し早く理論の枠組みを体得していればサービス/事業開発、仮説検証業務などをもっと効果的・効率的にやれたんだろうな」と過去の自分を思い返すこともありましたが、過ぎた時間はどうしようもないので今後のアウトカムで挽回したい所です。

 

ユーザビリティエンジニアリング」

≪要約≫

■要約≪ユーザビリティエンジニアリング≫ - 雑感 (hatenablog.com)

・UXデザインの最重要概念であるユーザビリティにフォーカスして、具体的な理論・フレームなどを体系的にまとめた本です。「ユーザーストーリーマッピングと悩みましたが、「顧客の文脈・心理・行動を最大限尊重する」・「事実と解釈を分けて仮説検証していく」などより学びが多い印象でした。サービス開発や仮説検証を高速で回していく業務に従事する方全般にオススメしたい内容です。

※参考※

■要約≪ユーザーストーリーマッピング≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

「バリュー・プロポジション・デザイン」

≪要約≫

■要約≪バリュー・プロポジション・デザイン≫ - 雑感 (hatenablog.com)

リーンキャンバスを構成する「バリュー・プロポジション」にフォーカスしてプロダクト・事業開発をしていく為に抑えるべきポイントや望ましい手順を体系的に記述した本です。顧客のペイン・ゲイン・顧客セグメントこそが事業開発においては何より大切であり、その為には「顧客に対する解像度をMAXまで高めること」、「競合優位性・差別化・代替可能性などを総合的に考慮した筋の良いソリューション選定」を抑えることがミソであるということが書かれており非常に納得させられる内容でした。

 

「自省録」

≪要約≫

■要約≪自省録≫ - 雑感 (hatenablog.com)

ローマ帝国五賢帝の一人であるマルクス・アウレリウスが内省を深める為に、自身が心棒としたストア派哲学のエッセンスを書き留めた内容の本です。「理性的であること」・「宇宙の法則に忠実に慎み深く生きること」・「公共善に務めること」など非常にストイックなストア派哲学らしい内容になっており、身が引き締まる内容でした。岩波文庫の青は読みにくい本も多い中で本書は非常に明快で読みやすいので、初学者にもオススメ出来る本です。

 

「ローマ人盛衰原因論

≪要約≫

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

・「法の精神」で有名なモンテスキューの著作で氏の歴史研究に裏打ちされた充実の内容です。「古代に一大帝国を築き上げたローマはなぜ滅びたのか」をローマ帝国の歴史をなぞりながら紐解き、間接的にフランス絶対主義を批判するという壮大な仕立てで政治や歴史に興味関心のある方であれば誰でもワクワクするような内容です。

・本書で論じられる内容は国や組織の栄枯盛衰に普遍的に通じる教訓因子の相互作用現象なども見てとれるなと感じ、非常に考えさせられる内容でした。

 

まとめは以上となります。

今後についてですが、プロダクト関連職種に関する基本を押さえるインプットに引き続き努めながら、「歴史や古典に薫陶を受ける」という従来の読書スタイルもバランスを取りながら戻していこうと思った次第です。

 

■要約≪プロダクトマネジメントの教科書 後編≫

 

今回はゲイル・マクダウェルとジャッキー・バヴァロ共著のプロダクトマネジメントの教科書」を要約していきます。「世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本」の続編でプロダクトマネジメントのキャリア・スキル・ノウハウなどを体系的にまとめた本です。タイトルの通り教科書のように網羅的に膨大な記述がなされており、本書は2回に分けて要約します。後編の今回は本書のF)リーダーシップスキル・G)ピープルマネジメントスキル・H)キャリア・I)プロダクトリーダーQ&A・J)追加情報をまとめています。

 

プロダクトマネジメントの教科書」

Amazon.co.jp: プロダクトマネジメントの教科書 PMの仕事を極める ― スキル、フレームワーク、プラクティス (Compass ...

■ジャンル:開発管理・IT・経営

■読破難易度:中(プロダクトマネジメントに関する全てを取り扱い、非常に緻密な記述がなされているので読むのに時間がかかります。既にPM業務に理解がある人が整理を深める為に読むことを目的とされています。)

■対象者:・プロダクトマネージャー・事業責任者を志す方全般

     ・プロダクトマネジメントの理論の歴史・要点を抑えたい方

     ・プロダクトマネジメントのキャリアやスキルの個別論点に興味がある方

※前編の要約は下記※

■要約≪プロダクトマネジメントの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■プロダクトマネージャーのしごと

■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■バリュー・プロポジション・デザイン

■要約≪バリュー・プロポジション・デザイン≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

■リーダーシップスキル

「自分の才能は努力と根性により時間をかけて後天的に伸ばすことが出来る」というグロースマインドセットをPM自身は勿論、プロダクト開発チームの組織文化に根付かせるようにコトをマネジメントしていくのが絶対に欠かせない感覚となります。具体的には知的謙虚さ継続的な組織学習不確実性への対峙を厭わないメンタリティを指し、これらを最も体現する代表者として強いオーナーシップでコトに対峙し信頼残高を継続的に獲得していくことがミソです。

「組織図上の指示命令系統にないエンジニアやデザイナーに働きかけることが求められる」のがPMであり、信頼関係構築の為に意図的にコミュニケーションの場を設ける、利害関係を尊重するなどの細かな仕立てるスキルがリーダーシップを発揮する上での絶対条件となります。性質故に意思決定の際はトレードオフや目的を明確にすること」「相反する意見がある場合は上司含めてエスカレする形式にすること」が望ましいステップであるとされ、軋轢はコトの意思決定をするという線引きや過去に積み上げた信頼残高を参照するのがセオリーとされます。

・説得・合意形成が重要な業務であるPMにおいて「相手の文脈・価値観に働きかけるようにシナリオややりたきことを伝える」という独特の情報編集能力が求められます。具体的なお作法としては「箇条書きで端的に要点を伝える」「図示化・定量化してぱっとわかるようにする」などがあり、プロダクト開発チームの会議は都度面倒でも議事録をとり、「ネクストアクション・議題・論点を明確にする」・「誰が何をいつまでに行うなどを記載、合意形成し続ける」ことが要となります。

・PMとしてのリーダーシップを構築・加速させ続ける為に、「面倒な仕事を引き受けてハイレイヤーの仕事にアクセスする環境を構築」したり、「自分の知見やアウトプットをシェアしていくことで情報が流れてくる仕組みを作る」など意図して仕事の流れやシステムを設計しないといけないものです。

・顧客体験価値の全てに責任を持つPMは基本的にデザイナーと良好な関係を構築し、ユーザーインタビュー・リサーチなどの業務の一部に深く入り込んでいく必要があります。顧客価値とビジネス価値の両輪を実現するように遣り繰りするのがPMとデザイナーのコラボレーションにおいて大事で、デザインの視点を軽視したり個人の好みに依存したり、職務期待を理解していない・軽視するような言動は避けないといけません。「データや顧客インサイトを一緒に眺めてユーザーストーリーの解像度を高めるプロセスを意図的に協働する」など、効果的な関係構築・問題解決のステップのベストプラクティスはある程度存在します。また、デザイナーとの関わり方は解決策の依頼というより、「課題設定」「解くべきお題」「実現したいユーザーストーリー」などのレイヤーで渡すというのが効果的な方法になります。

・エンジニアとPMのコラボレーションにおいては基本的には「エンジニアをパートナーとして扱う」・「技術的な制約を理解し尊重する」・「エンジニアの同意なしにスケジュールの具体的な日付を決めない(コーディング・テストをするにしてもエンジニアリングチームでかなりのユースケースを想定するなど不確定な調査・検証プロセスを踏むから)」などの原理原則が存在します。

 

■ピープルマネジメントスキル

・PM組織のピープルマネジメントについては「ピープルマネージャーになりたいかどうか」がPMのキャリアを考える上での判断ポイントとなります。能力開発・人材見立て・チームビルディングなど特有のスキルがつきまとうからです。「PMとしての専門性・影響範囲を広げること」「ピープルマネージャーになること」トレードオフになるケースもあり、「本当に自分はピープルマネージャーになりたいのか?」という問いは大切なものになります。ピープルマネージャーは大きな権限・影響力を持つと同時に、「感情の生き物である人間」という資源を管理・アクセスするので構造的に精神的に疲弊する性質のある仕事が避けて通れないとされます。

・ピープルマネージャーはその性質上、秘密保持事項が多くなり、納得できない方針変更を遂行する必要が増えるなど「素直になりきれない」・「孤独になりやすい」構造を持つとされます。そして、資源制約・人材育成というミッションの性質上、自分より下手にやる仕事を他人に任せて失敗許容すること含めて遂行するという管理が必要になる難しさがあります。ピープルマネージャーとしてワークするには、ベースの処理能力・システム構築・戦略作成~推進などのスキルを極限まで高めることが大事で、それに加えて権限移譲・適切なコーチングなどがポイントになるとされます。厳しい判断やチームに短期的な損失を与えるような意思決定・伝達も避けて通れないというのが難しさを形成します。自分の言動が会社オフィシャルの見解であるというシグナルを与えうるということも慎重に考慮して仕事をこなしていく必要が増えます。

・組織を形成することもピープルマネージャーの仕事であり、組織をミッションベースなのか機能別なのかどんな目的・狙いで設計するのかということについて、マネジメントは必ず思案をしないといけなくなるフェーズが来ます。その際は「急所・論点やゴール・上位戦略を参照してどのような意思決定プロセスや指示命令系統を構築することがアウトカムに近づくか」という視点で組織を設計・合意形成することがポイントになるとされます。プロダクトマネジメントにおいては各論と全体最適との視点を行き来することになるので、ユーザーストーリーやプロダクトビジョン・ロードマップなどの鳥観図のようなものを作り、常にアップデート・合意形成の道しるべにするという仕事を仕立てるスキルが高度に求められます。

 

■キャリア

・社内昇進・転職・PM外職種へピボットと様々な方向にシフトするPM人材のキャリアについてまとめられています。スキル経験プロダクトで担うスコープの広さ・深さなどでキャリアのラベルが付くケースが一般的です。「プロダクト単独なのか・マルチプロダクトなのか」、「機能改善なのかプロダクト戦略や組織まで担うのか」などが具体的なPMとしてのキャリアステップの先に担う仕事の役割です。その一方で、PMそのものが十分に上級役職であるので、シニアPMまで昇進した上で役割を変えるかどうかは好みの問題が強くなってくるとされます。

・PMのレベルはAPM→PM1→PM2→シニアPM→プリンシプルPM~ここから管理職~→PMリード→PMディレクター→プロダクト責任者(CPO)」となります。プロダクトマネジメントにおける影響度は「どれだけのインパクトのある改善か」・「その改善をどれだけのユーザーが体験しているか」という2軸で評価することが基本とされます。

・PMのセカンドキャリアは千差万別で代表的なものはGM・VC・エンジェル投資家・CEO・CXO・プロダクトコーチンです。GMは部門横断的であり、ビジネスサイドの統括もするPMよりもよりミニCEOっぽさの出る役割となります。プロダクトの成功だけでなく、収益にも責任を持つというロールを目指す場合は事業責任者→GMというのが一般的なステップのようです。VCは資金調達をしてその元手でスタートアップへ投資し取締役に就任しながらIPOやバイアウト目指して企業運営にコミットしていくビジネスモデルです。VCは「未来がつくられていく過程にいること」「アイデアの流れの中に身を置くのが好きなこと」などが要件として求められ、「プロダクトを自分の手で作りたい人」や「ステークホルダーマネジメントが苦手な人」・「フィードバックや学習ループをしっかり回したい人」には不向きとされます。エンジェル投資家もVC同様で、プロダクトマネジメントにおける「プロダクトのコアを定め、市場と顧客のリサーチをしてソリューションを定めMVPをリリースしてPMF→グロースしていくというフェーズにおける知見を応用して投資でバリューを出す為に付加価値を出す」というストーリーでPMからのピボット先で多いです。CEOCXOを目指すというのもよくあるPMからのピボット先であり、これはプロダクト全体を統括する・戦略的な役割を発揮する・チームリーダーシップを発揮して非連続の成長や変革を牽引するというPMロールを高めていく役割です。PMという役割そのものが習熟するのが難しいことに着眼してコーチやコンサルティングの道で生きていくというのも存在し、これはワークライフバランスやバラエティを重んじる際に有効な選択肢となります。

 

■プロダクトリーダーQ&A

・10個の事例を学びながらPMのなり方とその出口戦略について学ぶ構成となっております。PMになるには「コンピューターサイエンスとビジネスの大学での専攻を有して、関連企業のインターンシップで成果を出してAPMになるケース」PMっぽい仕事からの社内異動非PM職種×テック企業→小さな企業のPMMBA採用などのパターンがあるようです。また、特定業界への専門性や既存プロダクトのコアユーザーからのピボット起業→買収された会社でのPMなどもよくあるルートであり、副専攻とタイミングを活かしてなるケースがほとんどであることがわかります。

・PMキャリアの積み上げの典型例は大手ITプロダクトを経由してCEOや起業のような形でピボットしていくものです。また、PMっぽい仕事を流れで掴み、スキルや経験化していくケースでPMへなることが多いことも本書では記述されています。PMワークをしていく中で「顧客価値とビジネス価値の両立非連続の成長ストーリーを描くためにマーケティングMBAを学ぶ必要に迫られる」というケースが多いのはあるあるなようで、知的好奇心や課題解決・タフに物事を対処していくスタンスなどがモノを言うことが伺えます。

 

■追加情報

・PMは企業フェーズ・ビジネスモデル・業界などにより様々な強みが活きるポジションがあり、かつビジネスなのかUXなのかエンジニアリングなのかなど専門畑の伸び方も違うといった総合格闘技的な振る舞いが出来る役割であることが魅力です。PMの多くはプロダクトに対して愛が溢れており、コンシューマー向けのPMを目指す人が最も多いようです。

・コンシューマー向けPMはエンゲージメントを高めることが役割目的であるケースが大半であり、DAU/MAU滞在時間などがKPIとして追いかけることになるのが一般的です。マーケティングチャネル・UXデザインなどがプロダクトの成功に寄与するケースが多く、「データを見ながらパイの大きいユースケース・顧客セグメントに関する開発アジェンダを解いていく」というプロセスを踏むことが基本的となります。声の大きい一部のユーザーに惑わされない、プロダクトの世界線を大切にするなどが求められる職業倫理です。

・BtoBのPMは地味だが顧客価値とビジネス収益が連動することを体感できる貴重なポジションでぜひ経験するべきとして本書では推奨されます。プロダクト開発チームにおいてはセールスと連携しながら、PMがエンジニアリングやデザインに対して顧客インサイトを情報伝達していくロールを担うことが多いです。BtoBのPMは収益に関して指標を追い求める傾向が多く、ARR・新規販売件数・アクティブプレミアムユーザー・継続率・解約率などをKPIマネジメントしているケースが多いです。そして、マーケット構造把握・競合分析・優位性の構築・エンドユーザー、購買者双方の利害を理解することなどが具体的に必要な要件として浮かび上がるケースが多いです。

・eコマースやマーケットプレイス(プラットフォーム型)・ゲームなどそのプロダクト特有の性質を考慮した必要なスキルセット・開発優先順位などは様々存在します。トレンドやテクノロジーについて常にキャッチアップし続けることと副専攻を自学自習で学んで基礎基盤を強固にすることなどが求められるのがPMの好みが別れる要素でもあります。

 

【所感】

・前半はPMのコトマネジメントの側面を中心に取り扱いましたが、後編の今回はヒト組織マネジメントやキャリアに関する側面が多い内容でした。10名のPMに関するインタビューパートが非常に充実しており、PMワーク・なり方の絶対解はなく千差万別、ただし必要なソフトうスキル・スタンスはある程度共通項があるというのがよくわかりました。

・UXデザインやマーケティングなど自分自身が元来なじみのある職能をテコにPMっぽいワークの面積を広げていくことが必要であると再認識し、事業責任を果たしていく上ではPMロールをしっかり取り込んでいくことが大切だなと考えた次第でした。気が付いたらPMになっていたという本書記述のケースは非常に共感ができるもので、関連分野に関して勝手に学び、小さく実験していくというここ1年で身に付いたスタンスが極めて重要なことを再確認できたのは良かったです。もっと顧客体験価値の向上とビジネスアウトカム最大化にコミットしたいなと身が引き締まる思いで本書を読みました。定期的に棚卸を兼ねて読み直したいと思える名著です。

■要約≪ティム・クック アップルをさらなる高みへと押し上げた天才≫

 

今回は「ティム・クック アップルをさらなる高みへと押し上げた天才」を要約していきます。スティーブ・ジョブズの後を引き継ぎ、アップル社を偉大な企業へ牽引したティム・クックについて生い立ち~約7年間のCEO時代までの変遷・ターニングポイントをまとめた本です。GoogleAmazonFacebookの経営者および経営マネジメントに関する本はいずれも読んだことがあるのですが、アップルだけ知識に乏しく巨大IT産業を牽引する企業の思想に明るくなりたいと考えこのタイミングで読みました。

 

「ティム・クック アップルをさらなる高みへと押し上げた天才」

Books Kinokuniya: ティム・クック-アップルをさらなる高みへと押し上げた天才 / リ−アンダ−・ケイニ— 堤沙織 ...

 

■ジャンル:IT・経営

■読破難易度:低(専門知識不要で読み物として読めます)

■対象者:・アップルの経営の歴史に興味関心のある方

     ・生産工学に関して興味関心のある方

     ・UXデザインに関して興味関心のある方

 

【要約】

■ティム・クックの生い立ち

・ティム・クックはアメリカ南部の田舎で生まれ育った敬虔なクリスチャンです。数学を始めとした定量で分析できる指標を持つ科目全般にて秀でた成績を収める優等生的な育ち方をしたのが特徴です。真面目でやさしいだけでなく、チームで何かを行うということに秀でる人物性を人格形成期から発揮していました。クックが育った時代・地域は人種差別が根深く残っており、惨劇が定期的に発生する事態に見舞われました。マイノリティに対する無知・恐怖・憎悪に対して強い問題意識があり、CEO就任後は自身が同性愛者であることを公言したり財団への寄付を行うなどしているのがクックの特徴です。キング牧師ケネディ大統領にインスパイアされて人格形成がなされているようです。

・ティム・クックは大学時代に生産工学を学んでいます。生産工学は「資源の最適配分」という命題に対する解を深める学問としてウォルマートCEOを始めとする多くのビジネスリーダーを輩出する専攻です。生産工学はモノづくりの現場におけるあらゆる最適化を志向する学問であるため、自ずと副専攻がプログラミングに行きつくのでした。クックは新卒でIBMに入社し、当時国際競争優位を構築していた源泉である生産方式を学びました。IBMはPC生産において自動車業界におけるJIT方式自動化の導入・実現を通じてオペレーショナルエクセレンスを実現していました。

IBMで働く傍らでMBAを取得し、経営・リーダーシップ・プログラミング・オペレーションの深い造詣を得ました。合計12年間IBMで働き、工場部門で頭角を現し最後は本社スタッフ業務を行うというキャリアパスを歩み、インテリジェント・エレクトロニクス(IEという小さなコンピューター関連企業のCOOに転職、GEへ自社を売却後はサプライヤーの大手PCメーカーコンパックに転職し、オペレーション分野で優れた実績(ODMの導入に成功)を残し当時のアップルCEOであるスティーブ・ジョブズにスカウトされて1998年にアップルに入社しました。

 

■アップル入社~CEO就任まで(1998年~2011年)

・ティム・クックは本来おとなしく、分析的に物を観る人材であったがスティーブ・ジョブズの熱意とオーラに圧倒され直感的にアップルで働くことに気持ちが傾いたのでした。

・ティム・クックはJIT生産方式ODMの知見に優れており、アップル社が製品の生産と流通全般を競争優位になるレベルまで引き上げることがミッションでした。入社直後、まずは事業や生産に関する重要KPIを軒並み眺め、キーマンとインタビューをして「どんな資源が使えるか」・「解くべきお題は何か」を把握するのに専念しました。7カ月の改革でティム・クックはアップル社の在庫LTを1/5に減らすことに成功し、それはサプライチェーンマネジメント・資源調達・生産管理など様々な理論・技法を総動員して成しえたことでした。その後、サプライヤーの絞り込みOS化を徹底し、コストや生産性効率を抜本的に変える交渉や設計を推進しました。加えて、受発注管理・生産計画予測を精緻に行う為にSAP社ERPを導入するなど仕組みで問題を解決できるように施していきました。こうした効率化が功を奏し、当時OEMメーカーとして最大手に君臨していたデルに肉薄するまでに生産効率は改善していきました。

・その後、ティム・クックは2002年にセールスとオペレーションの責任者になり、2004年にハードウェア部門責任者、2005年にCOOと破竹の速度で出世していきました。ティム・クックのマネジメントスタイルは怒号などはないが細かく事実把握、問いをたてる厳しいスタイルであったようです。これは問い詰めるというより、問題をどれだけ把握しているかを尋ねるという意味が強かったようです。ティム・クックは健康に気をつけながらも基本は猛烈に働き準備や事実把握に重きを置く高い倫理観の持ち主でした。

 

■CEO時代

スティーブ・ジョブズからバトンを引き継ぎ2011年にCEOに就任すると、ティム・クックは顧客体験を最大化することをコアとして、ハードウェア・ソフトウェア・サービスの境目がどうでもよくなるくらいに、既存のやり方に固執せずプロダクト価値を研ぎ澄ませていくことを要とする経営方針を打ち出しました。徐々にスティーブ・ジョブズ路線からの逸脱を意味する「慈善活動の奨励」・「コアユーザーの形成」・「サステナビリティへの配慮」など先進的な経営方針を打ち出していくこととなります。それに加えて、SCMの一環として製造工程に関するアウトソーサーには労働者への配慮と高い品質を両立することを強く求める方針を打ち出しました。

・ティム・クックが経営上優れていた点はアップルのコアな部分を理解し、顧客が何を求めているか、その為に何を維持し何を変えるかということを明確に設定・構造俯瞰していた点と圧倒的なデリバリースキルで絵にかいた餅を具現化するスキルの2点であったとされます。UI/UXデザインを競争優位の源泉とする方針は変えず、倫理・プライバシー・セキュリティ・DEIの分野においても国際基準となるレベルの品質・方針を打ち出し企業の社会的責任を果たしながら企業価値向上を実現していく形にアップル社は変貌しました。

 

【所感】

・ティム・クックがスティーブ・ジョブズとは対照的な生い立ち、経営ポリシーをもっていることがこれでもかとわかるような特徴際立つ内容でした。オペレーションに圧倒的な強みを持ち、ビジネスをグロースさせ自身が大事にするポリシーに則り、アップル社の影響力を持って倫理プライバシーセキュリティDEIなどの分野で優れた功績を残し、企業の社会的責任を果たすのであるという強い意志が感じられる内容でした。

・ハードウェア企業ならではのダイナミックさと事業運営の難しさやUXデザインを競争優位の源泉まで磨きこむことに執着するアップル社のDNAの力強さなどが特徴的でした。一連のストーリーは「プロダクトを通じて、顧客価値を提供して社会を変えていく」とはこういうことかと考えさせられる内容でした。

 

以上となります!

■要約≪ローマ人の物語7≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。7は「勝者の混迷」の下巻であり、紀元前110~紀元前63年の混沌とした時代を描きます。前半は共和政ローマ末期を牽引したガイウス・マリウスルキウス・コルネリウス・スッラの執政官としての振る舞いに関する記述がなされ、後半は後に第一回三頭政治を取り仕切ることになるグナエウス・ポンペイウスローマ帝国領土東方拡大の様が記述されています。

 

ローマ人の物語7

ロ-マ人の物語 7 / 塩野 七生【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常によみやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとわかりやすくなります。)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方

     ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

 

ローマ人の物語3~5(ハンニバル戦記)は下記

■要約≪ローマ人の物語3≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪ローマ人の物語4≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 ■要約≪ローマ人の物語5≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

ローマ人の物語6(勝者の混迷)は下記≫

■要約≪ローマ人の物語6≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

マリウスとスッラの時代(紀元前110~78年)

・同盟者戦役終結後のローマ帝国小アジアポントス王国ミトリダテス六世の脅威に悩まされ、度々執政官が出兵して平定を強いられていました。国内では「平民階級と貴族階級(元老院)どちらの利害を優先するか」という論点があり、マリウスとスッラは対立関係にあるなど混沌を極めていました。当時の執政官は民衆派の執政官キンナと元老院重視の執政官スッラが対立しており、スッラが戦争に出かけていることを良しとして民衆派を扇動して執政官キンナはスッラおよび軍隊を国外追放する法律を制定しました。スッラはポントス王ミトリダテスを抑圧する為に、ギリシア都市の要所アテネを手持ちの陸軍と援軍要請をした海軍で攻略しました。

・スッラはミトリダテス率いるポントス王国軍に連戦連勝を収めた後に、小アジアにおけるローマ帝国の統治基盤をじっくり築いた上で執政官キンナ率いるローマ本軍を打ち取りに行くように反撃を開始します。掃討を徹底する為に、この戦いの最中で民衆派関連の人材はとにかく根絶やしにされる動きが採られました。公職追放・財産略奪・殺戮などで徹底的に処せられ、この一連の動乱で富と名声を構築したのがクラッススでした。ポンペイウスはアフリカ遠征をして反対勢力討伐に励んでおり、後の基盤を構築している時代でした。

・スッラは合法的に無期限の独裁官へ就任しました。スッラはスッラ派から執政官を2名任用して紀元前81年に独裁体制の基盤を確固たるものにしました。スッラはローマ市民法をユリウス法に則り、反対勢力の動きを見せたエトルリアなどの一部の都市から没収し、解放奴隷にも権利を認める執政官キンナ時代の法案を廃止するなどして足固めの整備をし、福祉問題においてはガイウス・グラックス時代の小麦法と呼ばれる後の救貧法に近い社会保障制度を廃案にしました。民衆勢力の芽を紡ぎ、国家財政健全化を急ぎました。

・加えて、スッラは元老院の定員を300→600へ大幅に増やし、経済活動で富を持っていた後世の中産階級のようなエクイタス(騎士階級)で埋めて政治の安定基盤を構築しました。司法制度についてはグラックス兄弟以前の、「陪審員元老院限定とする体制」に戻し、会計検査官・法務官・執政官などの定員や年齢制限も明確に設定し、寡頭政治となっていた元老院中心の共和政はしっかり年功序列な秩序に回帰しました。

・この頃のローマ帝国における重要な属州は10個ありました。シチリア島サルデーニャ島・東スペイン・西スペイン(現ポルトガル)・プロバンス地方・マケドニア地方・小アジア・旧カルタゴ領(北アフリカ)・北部イタリア(ガリア)の10個でそれぞれの総督には前法務官前執政官を毎年派遣するという形で統治しました。

・スッラは軍事勢力に関する文民統制を徹底する為に師団の規模に上限を定め、統治する立場は全て元老院承認の基行われるというガバナンスシステムを作り上げました。非常に緻密なシステムを保守的に組み立てていくのがスッラの特徴です。そして、元老院中心の中央集権的なシステムを構築する為に元老院の権力を強化する裏で、平民階級の護民官の権力を弱体化させる法案を成立させました。これらの一連の改革を約2年係りで行いスッラは独裁官の地位を退任します。スッラの改革の基本的な思想は綻びの出た元老院中心とした共和政体制の維持という大目的に集約されました。

 

ポンペイウスの時代(紀元前78~63年)

・スッラが構築した元老院中心の共和政体制はスッラ派の若手有望株であるクラッススポンペイウスに崩されていくという悲劇を辿ります。ポンペイウスはセルトリウス率いる反スッラ体制がローマ帝国領土のスペインで暴れていることを機に、平定活動で武功を上げ年齢の壁を越えて政治権力に台頭していくことを目指しました。クラッススは執政官時代に剣闘士によるスパルタクスの乱を鎮圧した功績を以て、同じく台頭していきます。

ポンペイウスクラッススは紀元前72年に同時に執政官になり、護民官の復活・ホルテンシウス法護民官で定めた法案は元老院の承認なく有効となる)の復活・陪審員制度の改革(元老院議員で独占されていた構成を元老院議員・騎士・平民などで分散させるようにした)などを行い、それぞれの政治基盤の安定化を目指しました。ここで更なる政治権力を獲得したのはポンペイウスで、持ち前の軍事の才能・実力を活かし変わらずローマ帝国の脅威として長らく存在したミトリダテス王率いる小アジア連合軍・地中海海賊の制圧を進めました。またポンペイウスは絶対指揮権の任期を用いて、当時中東地域の3強であったパルティア(ペルシア)・ポントス・アルメニアの均衡を打ち破り、アルメニア王国ポントス王国・近隣のセレウコス朝シリアをローマの属国・同盟傘下に収めることになりました。こうして、エジプトとパルティア王国を除いた広大な土地がローマ帝国の内部に組み込まれました。

法・軍事・身分階級・共和政というシステムの力で広大な帝国をマネジメントすることを可能にしてきたの共和政ローマが大帝国を形成するに至った要因とされます。紀元前63年頃には「オリエントを平定した」ということでポンペイウスローマ帝国で圧倒的な政治的地位に上り詰めるに至ったのでした。

 

 

【所感】

ポエニ戦争を経て、じわじわとローマ帝国が東西に基盤を広げていく過渡期ということで非常に面白く読むことが出来ました。内乱(主に身分階級闘争)と外敵の脅威に常に悩まされながら、共和政という適度な政治均衡を保ち広大な帝国を統治しようとやり繰りする時期であることが随所に伺えました。ポエニ戦争以後、100年がかりでマケドニア王国・ギリシア都市、そして小アジア~中東地域といった具合にじわじわとローマ帝国は東方面へ拡大していったのがわかります。以後、ローマ帝国西方面にスペイン・ガリア(フランス)と統治範囲を広げていくのですが、世界史の教科書で淡白に記述された部分を詳しく読み解いていく内容なので非常に読んでいて面白いです。

・本書を読んでスッラの印象がガラッと変わったのが印象でシステムによる政治統治というものを極めて真面目に考えて最後まで可能性を模索していた人なんだなと感心させられた次第です。独裁政治というのにも何らかの狙いがあるという風に想像力を働かせて考察することが大事なのかもしれないと気付かされました。

 

以上となります!