今回は前回に続き、ポーターの競争の戦略Ⅱ部をまとめていこうと思います。
Ⅱ部は業界環境のタイプ別の競争戦略についてまとめられています。Ⅰ部の理論を実際の企業分析に応用しようという体系立てて記載されているので、3C分析や顧客・業界動向を推し量るのには勿論、自分が関わるビジネスの該当フェーズを読み込むと競合各社や役員・部長クラスの方がどんなことを考えていて興味関心があるんだろうというのがヒントが生まれるかもしれないなと思って読んでいました。
「競争の戦略」
【要約】
●9 多数乱戦業界の競争戦略
小売り・サービス・木材・金属加工・広告制作等が代表例
※製造業は技術の特異性・先行投資が必要であるためこの構図になりにくくその為に競争が緩やかで安定的な業界が多い
≪多数乱戦の要因≫
■参入障壁がない
■規模の経済・経験曲線が効かない(労働集約型や単純作業は必然的にこうなる、ニッチ化することで簡単に一定までのマーケットシェアは確保できるのが特徴)
■高い輸送費(サービス業などは現地でないとサービス提供できない、だから地場でやる業者が多数乱立する)
■買い手又は売手が物凄く強い
■人に依存するビジネスモデル(高い輸送費にも言えるが美容院やコンサルなどがこの一例)
■市場のサイズが大きい(大企業が資本を大量に投下して参入する旨味がない等)
■撤退障壁■地域の条例■政府の独占禁止圧
≪業界構造への対応策≫
・業界の構造を経営から切り離す(地場経営がKSFとなる事業の場合、フランチャイズ化することにより全国展開しながら苦手分野を補うということをするのがわかりやすい)
・標準化した製品で市場を制圧する(差別化要因を上から一気につぶして塗り替えるという思想)
※多数乱立の業界構造で負が生まれている場合、多くは業界のどの会社も有効な経営資源・ノウハウを有していないか魅力がない市場で強い会社が参入して制圧していない、が為に不合理がまかり通るというケースがある。
・強力な本社統制に基づいた分権制度
・設備の標準化・付加価値を高める
・製品種類や製品セグメントを専門化・顧客を選択する・地域を選択する・川上に向かい垂直統合する
≪戦略上の落とし穴≫
・圧倒的支配を目指す落とし穴(規模の経済が効かない、どこかで専門化することで収益を回収できる規模まで行ったらその後はスケールしないほうが望ましいのがこの業界のトラップ)
・行き過ぎた中央集権化(人手によるサービス・地域密着が肝である製品が多いからこそこのスタイルは適応しない。労働集約・高い輸送費・人に依存するモデルがネックに。人材の調達は容易になるがスケールはひどく難しいということ。)
・競合も同じように利益目標や間接費のKPIがあると置く落とし穴…個人経営等の場合は低い基準で満足したりそもそも利益追求を是としていないケースもあり前提が異なることも認識しておくべき。
≪多数乱戦業界の戦略策定手順≫
■業界の構造はどうか・業者はそれぞれどのような立場にいるか
■多数乱戦の現任は何か
■多数乱戦業界を変えられるか
■変えて利益が得られるか・それをする旨味があるかどうか
■多数乱戦が避けられない場合、どう対処するのが最善か
●10 先端業界の競争戦略
≪構造の共通特徴≫
■技術の将来性が定かでない■戦略が不透明■スピンオフ企業がたくさん生まれる
■初めての買い手ばかり
■業者が認識する時間視野が狭く短絡的な意思決定が散見される
≪業界の発展を妨げる問題≫
■原料や部品の入手が滞る■原料価格が高騰する■産業基盤が出来ていない
■製品や技術の規格化が進まない
■未成熟であるが故に業界の業者で見解が大きく異なり消費者が困惑する
■金融業界のイメージが悪く、業者の資金繰りに苦労する
■製品の品質にばらつきがある(数件に1件の劣悪な案件が過剰に扱われ、購買を控えられる印象操作に繋がる)
■脅威を受ける業界の抵抗が強烈であり、スケールしない(これは当該業者の撤退障壁形成にもなる)
≪戦略の選択≫
■業界の秩序を作る(ルール・規格の作成などをして業界を啓もうしないことには業界が拡大せず自社の収益も増えない為。)
■業界発展⇒自社利益の順番で考える(業界が投資対象に値すると市場に評価されないことには満足のいく市場サイズまで生長しない、そして大企業であれば自社の成長利益を満たす水準に業界全体を育て上げないことには成功したとは言えなくなる。)
■原材料業者や流通業者を味方に取り込む(バリューチェーンを整備しないことには長期的な発展は無しえない)
※業界を発展させて自社利益を拡大させるには一定の間隔で競合ともうまく付き合う道を選択しないといけないのがこの業界の特徴、業者を徹底的につぶそうとして余計に資源を消耗するというのは新規産業のパイオニアが起こしがちな決断。
⇒イノベーションのジレンマの理論等と合流する部分もあるので興味を持った方は是非。
●11 成熟期へ移行する業界の競争戦略
≪成熟期移行の特有現象≫
■成長が鈍化するとシェア競争は激化する…市場が拡大しないから競合からパイを奪うしかなくなる・この行為はひどく消耗する
■売り込む先には買いなれた顧客が増える…買い手の目は超えておりブランド選好性が醸成されている
■競争の重点がコストとサービスになる
■設備能力と人員過剰にならないように増強するのが難しい
■製造・流通・マーケティング・研究・販売等すべてのやり方が変わる
■新製品や新用途が表れにくくなる
■国際競争化が進む…この中で競争はさらに激化して、利益率は逓減する
・コストリーダーシップ・差別化・集中のどれかを採用しないと採算が成り立たないのも基本的な特徴。
⇒この段階で多くの業者は旨味を見いだせないので撤退していく
・多品種小ロット生産か大量生産で規模の経済を取るかいずれかの選択を取らないことにはビジネスの発展が難しいのがこのフェーズの業界。前者は無駄を抱えることになりかねないし、顧客への販売方法を一部思考停止している可能性もある。
≪成熟期移行業界に対峙する上でのマネジメントの肝≫
※成長期と異なり倦怠感・昇進ポストの少なさなどからES低下につながるリスクが大きい
■業績目標を引き下げる■社内の規律を厳しく
■以前ほど昇進が期待できない
■分権化から再び中央集権化へ
※ものによっては職能別組織へ回帰することも選択肢に浮上する
・安易に多角化の道に走らない、厳しく現実を直視して内部の統制などに力を割く行為も必要悪となるのがこの事業フェーズ
●12 衰退業界の競争戦略
≪衰退期の競争を左右する構造要因≫
■需要の不確実性…確実に斜陽なのか一時的なものかにより競争業者の行動は変わる
■衰退の早さとパターン…この構造によりシェアを守ろうと激しい競争が起こる場合もあれば、緩やかに業者が撤退していく場合もある
■残った需要領域の性質…これが代替品に置き換えられ得るものであると悲惨だが、独自の市場を保有する場合は競争は緩やかになる。存在する条件は代替品がない・買手の価格交渉力が低いという条件が必要で参考例は葉巻の商品用途。
≪衰退要因≫
■ニーズの変化(社会的な好みの変化)
■人口の変化(この場合は緩やかで需要予測も出来るため、一定の収益を確保することは物理的には可能である)
■代替品の到来(収益性・機能性等の観点で)
・撤退障壁は固定費のかさみ・技術の転用不可能性(工場設備などはスクラップにするしかないケースも一部存在する)があり、かつ撤退が決まると雇用の消失・従業員の生産性低下・顧客の取引中止(代替品へ乗り換える時間が必要なので)が起きて、刈り取り戦略をうまく実行できないことも多く骨が折れるのも要因だという。
・また撤退することで垂直統合している場合、関連する工程のビジネスにも影響を及ぼす、そして取引先・金融機関からの信用度低下にもつながるというリスクがある。
≪衰退期に企業が取ることの出来る戦略≫
■リーダーシップ戦略(シェアを獲得してリーダーシップを握る)…このタイミングであることを活かして攻勢をかけてマーケットシェアを最大化にし、利益を刈り取る⇒適切なタイミングで撤退出来るように自社がコントロールできるポジションを作るというもの。
■拠点確保戦略(特定のセグメントに集中してシェアを守りきる)
■刈り取り戦略
■即時撤退戦略
⇒この選択は早ければ早いほどいい、マーケットシグナルになるし遅れることで拠点確保か刈り取りしかできなくなる。判断材料としては「その業界構造が自社に取ってメリットがあるかどうか」・「残る需要領域が自社に取って強みが活かせるかどうか」の二軸で判断するべきといえる。
●13 グローバル業界の競争戦略
≪グローバル競争が有利になる原因・やる動機≫
■比較優位性…その国自体の他国との優位性を利用する
■規模の経済性…生産・購買・物流・マーケティング等その会社が持つ独自資源・強みを横展開することによるコストカット・シナジーが生むことが出来るということ。
■経験曲線
■製品差別化
≪グローバル競争への障害≫
■経済的障害
・輸送コスト在庫コスト(単価は安くとも間接費で帳消しになるが為にグローバル化しないほうが良い、出来ない業界もある)
・国によるニーズの違い(経済発展度合い・所得・気候等により国ごとにニーズが違う場合、グローバル化せずドメスティックに専門性を高める方が競争優位性が高いという構図が生まれる。)
・流通チャネル
・現地での営業担当・修理部門を必要とする商材
・リードタイムへの顧客要望が高い
・需要が国際的に広がっていない(製品ライフサイクルが成熟していない場合に起きる)
※マーケティング手法は国により大きく異なるケースが多く、自国のノウハウを持ち込んで急速に拡大が難しい、これが足かせとなり経済合理性が出ないが為に国際化しない会社・製品というのは一定存在する。
■制度上の障害
・政府による障害(関税・政府の保護貿易体制・税制)
※参入先の国の政策や人口構成・風土などに大きく市場の方針は左右されうる、その為自国のメソッドをそのまま持ち込むのに加えて競争者分析が国内よりもビジネスの成果に直結するということを示す
【所感】
・正直目新しさはないですが、ここまで網羅的に記述しているのは凄みを感じます。体系的に自分が持っている知識と照合することで頭の整理が劇的に進むので法人営業や企業分析への幅が広がり、現業の面白味は増すだろうなと感じた次第です。
・多数乱戦業界・先端業界の内容は自分が対峙するビジネスのフェーズにやや近しいものを感じたので、日常から感じる負が「構造的に致し方ないこと」である、という所への説明がついた点や何が急所になりうるかの検討が付いたのはとてもよかったなと思います。「自分より上席の方が何を考えているか・関心を持っているか」・「自分なりに仮に方針を考えるとしたら何が大事になるだろうか?」の検討を付ける意味では引き出しが増えた感覚があり、頭でっかち感は否めないとしてもこのタイミングで整理しておいてよかったなと考えています。
・こうした本は実務応用性はそこまで高くはないと思いますが、ビジネスの理解度・幅を広げるという観点や自分自身が対峙するビジネスの戦略理解度・思考の幅を増やす意味では間違いなく相関があるなと考えていて一営業担当としては若干の天井を感じつつある中ではとてもタイムリー・意味があるんだろうなと思った次第です。財務会計・ロジカルシンキング・競争戦略あたりの部分はこの半年間集中的にインプットをしてきているのですが、自分の長い社会人人生の中での教養・思考の幅の観点では大事なポイントだなと思っているのでいい勉強が最近は出来ているなと感じています。(どれだけ理解できているか・即時性があるかは別として基本の足固めをする意味では大切ということです。)
※加えて、僕は収益性や経済合理性・財務起点の思考があまりにも偏り過ぎる性質があるので長い目で物事を見るということの訓練・武器を増やす意味で必要だと認識しています。何を言いたいかというと自分と同じくらいの社会人年次でクライアントビジネスをしている方は、こうした基礎的なジャンルを改めて一回読んでみると同じように気づくことが多いのではないかなーということでした。