今回はミンツバーグ氏の「マネジャーの実像」を要約していきたいと思います。
「戦略サファリ」や「マネジャーの仕事」などが有名な経営学の大家ですが、実は精読したことはなく初めてミンツバーグ氏の本にトライしてみました。
タイトルの通り、神格化されがちなマネジャーの仕事内容・実務をとにかく詳細にまとめた本です。
29名のトップマネジメント・ミドルマネジメント・現場中間管理職の徹底的な密着取材(公的機関・民間企業・非営利組織等対象はバラバラです)を基に実態に近しい形でマネジャーというものを捉えようと拘った論文です。
分量が膨大なので今回もポーターの時のように二回に分けて要約します。
「マネジャーの実像」
■ジャンル:経営学・マネジメント理論
■読破難易度:中~高 本格的な論文なのでこのジャンルに明るくないと読みづらいと思います。実際の実務やマネジャー像を描きながら読み解くことで頭の中が整理され理論も入ってくるので何らかのマネジメントに関与する立場を経験してから読むことを強く推奨します。
■対象者:中間管理職に従事する方全般・自分の仕事を棚卸して整理したい方・マネジメントの興味関心について知りたい方
※僕はマネジメントレイヤーの最下層にいる身分ですが、経験や階層を積んだらもう一度読み直してみようと強く思う本です。少し古い本であり、あまり本屋では見かけないので中古本やAmazonを調べるのを推奨します。
【概要】※分量が果てしない為二部構成で要約します、今回は第1~4章迄
・マネジメントとは専門的な行為ではなく実践の集合知により形成されるもの
・遂行にはアート(ビジョン・創造的発想)・サイエンス(分析・体系的データ)・クラフト(経験・現実に即した学習)の3要素をバランスよく持ち合わせていないと成果が出ないという特質があるという議論の大前提があります。
著者の傾向としてサイエンス偏重を疎み、クラフトを好みます。
※マネジャーとは「組織の全体・もしくは組織内の明確に区分できる一部分に対して責任をもつ人物」(この本での定義)
≪マネジメント理論に置ける過去の理論の否定≫※実像に合わないということで神話と現実形式で比較するのが第二章
【神話】マネジャーは内省に基づいて体系だった計画を立てる
【現実】マネジャーはいつも時間に追われていて、様々な活動を短時間ずつ互いに関連性のない業務を細切れに行っていて、頻繁に自分自身で物事を行っている
※下流のマネジメント程、仕事の中断をされうる機会は多くなるという。
⇒一つ当たりの仕事の幅が小さく大量の物事を決断・処理する必要があるという実務の特質
⇒関わる人のレイヤーの未熟さによる計画性のない事象の発生確率が増える
【神話】マネジャーは正式なシステムを通じて既に集約済みの情報を入手して活用する
【現実】マネジャーは非公式のコミュニケーション手段を好む傾向が強い、なかでも電話や打ち合わせなどの口頭のコミュニケーションと電子メールによるコミュニケーションに頼っている。
【神話】マネジメントは主として「上司」と「部下」の上下関係に関わるものである
【現実】マネジメントとは組織階層のタテの関係だけでなく、対等な人物同士のヨコの関係に関わるものである
【神話】マネジャーは自分の時間・活動・所属部署をぬかりなくコントロールしている
【現実】マネジャーは指揮者でもなければ、マリオネットでもない。状況をすべてコントロール出来るわけではなくが見えない形で状況をコントロールしている場合が多い。具体的には自分が果たすべき職務を新たに作り出すことにより既存の職務を利用したり望む結果を生み出す行動の時間を強制的に確保したりしてコントロールしようとする。
⇒矢継ぎ早に発生する仕事の川をうまく渡り、何とか自分のなし得たい方向に大局を持っていこうとする存在であるということですね。
≪マネジャー特有の行動性質≫
■非公式な文書化されない情報を好む
■行動志向の強さ(現場に赴き、一次情報の収集を仕事の優先度上位に据える)
■対面コミュニケーションを好む
≪マネジメントのモデル≫※人間の次元・情報の次元・行動の次元の3つの次元で考えることが出来る
■情報の次元…周囲の世界全体とコミュニケーションを取ること・情報を通じて組織をコントロールすること
■人間の次元…組織外とのかかわり・組織内のメンバーを導くこと
■行動の次元…組織外との取引を形成・組織内の物事を実行すること
≪情報の次元で果たすマネジメントの役割≫
■コミュニケーションをとること…①モニタリング活動(情報収集)②情報中枢の役割(情報を整理・活用する)③情報拡散活動④スポークスパーソン活動⑤言語以外の情報処理(第五感を突き動かす文書化されえない情報)
■組織内をコントロールすること…組織の秩序を維持し、経済合理性・収益性の担保の為に組織を率いるマネジメントの基本的な役割。マネジメントの発信により組織の行動は方向付けられ得るもの、なので時に慎重に行使をしない簡単に組織は崩壊しうる。
≪人間の次元で果たすマネジメントの役割≫
■メンバーのエネルギーを引き出す
■メンバーの成長を後押しする⇒実際にお手本を見せて視覚に訴えて教育するほうが費用対効果は出るという。
■チームを構築・維持する⇒組織をコントロールする役割だけでうまくチームは機能しない、だからこそ人を統率して鼓舞するリーダーシップがマネジメントには求められる。理想論のようにうまく行かない感情の生き物の集合体だからこそ起こりうる。
(特に新任マネジャーが率いる組織はメンバーの大半が未成熟なケースが多く、機能不全に陥ることが多い。)
■組織文化を構築・維持する …意思形成を通じてリーダーシップを発揮する手段・組織の模範的行動や行動指針の発信・形成などの役割を意味する・リーダーの仕事とは経験を解釈することであらゆる物事に意味づけを発揮し、それにより集団を動かしたり文化を形成することにあるという。
<マネジャーが組織外の人と果たす役割>
■人的ネットワークをつくる…外部の信頼を形成することは内部の統率を促進することになるし、文書化されない情報源の獲得(マネジメントが特に好む種類の情報)・人の力をテコに組織全体の成果を最大化する上で選択肢の幅を作る意味でも価値がある
■組織を代表する
■情報発信・説得を行う
■情報を内部に伝達する…外から得た情報を内部にもたらすことによる組織の活性化・なすべき方向への統率などの意味を持つ。
■緩衝装置になる…失敗パターンのマネジャー像は5つ
①ざる型(やすやすと外部影響を組織に浸透させる)②ダム型(外部の影響を自分一人で抱え込みすぎて組織内部が鎖国化したり、外部のニーズをタイムリーに反映できなくなる)③スポンジ型(マネジャー自身で対処しすぎて燃え尽き症候群になること)④ホース型(外部に攻撃的過ぎる)⑤水滴型(外部に対しての圧をかけるのが弱すぎて人を動かせない)
≪行動の次元で果たすマネジメントの役割≫
<組織内で物事を実行する>
■主体的にプロジェクトをマネジメントする役割…現場の情報を収集して戦略の解像度を上げる為・組織のてことなる為
(同時に複数のPJに関わることが多く停滞しがちな部分を自らが介在することで動かすということ)等の副次的効果がある
■起きたトラブルを対処する役割…問題を解くというよりも窮地を乗り切ることがマネジャーに求められる役割のウェイトとしては大きくこの役割は見逃せない。
<対外的な取引を行う>
・特定のテーマに関して「対外的な同盟関係を構築すること」・「その同盟関係・ネットワークを構築して交渉をすること」がマネジャーの役割
【所感】
・タイトルの通り、とても実像を照らした本だと思います。スペシャルなマネジメントではなくあくまで一般的な普通のマネジャーに適応できる話に極力路線を揃えている所に好感を持てます。MBA教育に代表される知識偏重主義を学者でいながら悉く否定している論調は面白いと共に「頭でっかちになるなよ」という警笛にも聞こえて身を引き締める思いですね。。
・第1~6章で構成されている、~3章までを今回は取り扱いましたがマネジャーの語源を改めて思い返す次第でした。何とかしようとする「manage(マネージ)」から来ているという訳が物語るように、日々非常に膨大な量と忌々しさを持つ仕事を抱えながら波にのまれないように物事を進めている様は、所属する皆さんの組織長を思い浮かべても同じなのではないでしょうか、、
・僕はまだまだマネジメントサイドの端くれの端くれ、補助役に過ぎないわけですが既にこの類の仕事の性質・急所というのはおぼろげながら理解していて、著者の言葉を借りるとサイエンス・クラフトに偏重するのが自分の癖だなと思っています。(数字や論理で物事を把握しようとすることに少し意識が飛びすぎたり、現場重視な所等、身近で僕が仕事する様を見ている人はイメージつくと思います笑)といった具合にいろんなマネジメントの実例を学びながら理論・体系化していくので読み進めていく中で勝手に内省されますし、急所はどこにあると著者は言わんとしているのかも掴めてきます。とても読み進めるのが大変ですが名著だと自信を持ってい言える本です!
(対面コミュニケーション重視の姿勢や文書化されない非公式な情報を好む、というのは社内外問わずマネジメントレイヤーの人に共通して見出だすことの出来る行動形式でなるほどなるほどと首がもだげるくらいにうなずきながら読み進めていました、、!!)
以上となります!
後半のまとめはやや抽象化してマネジャーのモデル化を試みたパートの要約になります!!