雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪企業戦略論(上)≫

 

今回は、ジェイB・バーニーの「企業戦略論」三部作を要約していきます。

海外MBAの経営戦略のテキストにも指定されている本であり、2000年前後に著された本ながら既にこの分野の決定版ともいわれるような本です。

ポーターの「競争の戦略」・「競争優位の戦略」と相互補完の関係にある本といわれており、ポーターの書物よりも実務的でかつ内容を基に読者が内省して実務応用することを意図して作られた本ともいえます。

上・中・下巻の三部構成であり、上巻は基本編ということで中下巻にわたり検証される全社戦略・事業戦略を説明する理論の下敷き的な役割と言えます。※裏を返すと、基本編を読めば最も重要な要点は掴めるともいえます。

 

尚、ポーターシリーズの要約は下記です。

「競争の戦略」

ty25148248.hatenablog.com

「競争優位の戦略」

ty25148248.hatenablog.com

 

 

「企業戦略論(上)」

企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続 | ジェイ・B・バーニー ...

■ジャンル:経営戦略

■読破難易度:中(一部数式が出てくるものの、基本的には平易な記述がなされており実務利用を意図して著されているのでとても読みやすいです。内容自体は他の本にも記述されているものも多く、恐らくこの本をうまく活用するように意図して初めて意味があるという風に構成されているのだと思います。)

■対象:競争原理について興味関心がある方・企業分析のスキルを体得したい方・事業や経営戦略に対して興味関心のある方

 

【要約】

■戦略という概念の定義

・戦略の定義を「如何に競争に成功するかということに対しての一企業が持つ理論」と置いて本書は理論が説かれます。この本は主に競争原理や競争優位について論証されますが、競争優位が出来ているとは「特定市場において個社がとる選択肢が独自性を帯びており、他の企業が何らかの要因で出来ないという状態になっていること」を指します。

・一方で他の企業も同じようなまたは同程度の付加価値を持つ戦略が実行されている市場の状態は優位や劣位が生まれていないので、「競争均衡」にあるとされます。

 

■業界構造はどのように決まるか

業界構造(Structure)・企業行動(Conduct)・パファーマンスの3要素により企業の競争の力学は生じるとされます。もう少し噛み砕くと、「参入障壁撤退障壁の有無」・「価格の差が製品毎に生まれるかどうか」・「競争を志向するかどうか」・「平均利益率」・「業界のKSF」などの違いにより大大まかな業界構造は決まるという主張の基に分析がなされます。

 

■脅威の分析

・市場参入企業個社毎の脅威は新規参入の脅威・競合の脅威・代替品の脅威・購買者の脅威・供給者の脅威の5つに分類されると説かれます。※個別要因に関する論証は割愛します。

・5フォース分析の一番の価値は戦略立案の際に考慮するステークホルダーをより広く見ることで戦略を複眼的に練り上げるということを補助している所とされます。

 

■機会の分析

・業界は大分類として「市場分散型業界」「新興業界」「成熟業界」「衰退業界」「国際業界」の5つ、その派生形として「ネットワーク型業界」「超競争業界」「コアなし業界」の3つがあるとされます。

・上記分類は業界構造や参入業者の数・参入障壁の有無などにより、業界の競争圧力はおのずと決まり、利益率や平均な収益性も業界によりけりとされます。

 

■企業の強みと弱みに関する分析

・同じ業界に所属していても平均的な収益しか上げられない企業もいれば、圧倒的な付加価値を生みだす企業も存在します。その差は保有する経営資源やケイパビリティ(企業が持つ資源の力の総量的なニュアンスです)によりけり」という立場から論証がなされます。

「企業は生産資源の集合体であり、個別企業ごとにそれらの生産資源は異なっている」という前提があります。経営資源の種類は大分類で「財務資本」・「物的資本」・「人的資本」・「組織資本」、具体的には「ケイパビリティ」・「コアコンピタンス」・「組織内部のプロセス」・「情報」・「ナレッジ」とされます。

バリューチェーン分析により競争優位の源泉にあるケイパビリティは何かを特定するのが、一般的な企業分析です。付加価値を創出する源泉になりうる重要な機能は6つといわれており、「技術開発※生産財に多い」「製品デザイン」「製造※生産財に多い」「マーケティング(営業含む)」「流通※消費財に多い」・「アフターサービス※コンシューマーサービス企業に多い」です。

 

■個別企業の優位性を分析する観点

「経済価値に関する問い」「希少性に関する問い」「模倣困難性に関する問い」「組織に関する問い」の4つの観点が重要とされます。

・経済価値に関する問い…企業が保有する資源・ケイパビリティを活用することにより外部環境を機会と捉えて付加価値の高い営みを出すことが出来るか?という観点

希少性に関する問い市場は競争の力学が働いて成立する為、当たり前であるが特有の経営資源やケイパビリティがどれだけ希少性を持つかに効力は相関します。

模倣困難性に関する問い経営資源やケイパビリティの秀逸さが競合企業に真似できない源泉を辿る場合、持続的な競争優位になります。市場の対応策としては代替か直接模倣をするかのいずれかです。

組織に関する問い…戦略と組織はセットであり、戦略を実行するものとして組織は存在するし組織がうまく機能するかはマネジメントによりけりです。

 

 

【所感】

・実務応用を意識した構成になっており、書かれている内容を内省することで自らの血肉としてくれという著者のメッセージがひしひしと伝わる本です。

・個人的には各パートにおいて、理論の効用と詳細を説きながらも個別理論の限界をしっかり説いている謙虚さと真摯な姿勢が非常に尊敬できる部分です。「そんなに現実は難しくない、内容をうまく噛み砕いて実務応用するのは君たちです」と言わんばかりの内容で長期間にわたり支持されるだけの本だなと感じました。

・企業と業界に関する分析フレームワークは法人営業をする上での実務相関性は勿論、自分たちの対峙する製品や事業が経営観点でどのような意味合いを持つかを考えるきっかけになるので、とても大切だなと改めて感じます。自分が貢献すべき価値や目指す方向性も何となく見えてくるように思えます。

 

以上となります!