雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪企業戦略論(中)≫

 

今回は、ジェイB・バーニーの「企業戦略論」三部作の中編を要約していきます。

上巻はVRIOの概念(競争優位が成立する戦略の条件「価値」「希少性」「模倣困難性」「組織」の4要素)やケイパビリティに代表されるリソース・ベースト・ビューのような本書全体の思想をまとめた基本編になっており、中巻は「事業戦略」に関してフォーカスしたパートになります。

ポーターの「競争の戦略」を掘り下げた内容になっており、三部作全体の中で一番実務応用性が高いと思われるパートです。

 

上巻及びポーターの要約まとめは下記です。

「競争の戦略」

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「競争優位の戦略」

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「企業戦略論(中)」

企業戦略論【中】事業戦略編 競争優位の構築と持続 | ジェイ・B ...

■ジャンル:経営戦略

■読破難易度:中(一部数式が出てくるものの、基本的には平易な記述がなされており実務利用を意図して著されているのでとても読みやすいです。内容自体は他の本にも記述されているものも多く、恐らくこの本をうまく活用するように意図して初めて意味があるという風に構成されているのだと思います。)

■対象:競争原理について興味関心がある方・企業分析のスキルを体得したい方・事業や経営戦略に対して興味関心のある方

 

 

【要約】

垂直統合「コスト・リーダーシップ」「製品差別化」「柔軟性」「暗黙的談合」の代表的な事業戦略について掘り下げて妥当性をVRIOのモデルに即して検証していく形式となっております。ちなみに、下巻はこうした事業の相互関係に着目した全社戦略(戦略的提携・多角化戦略・合併買収・国際化)を説いています。

 

垂直統合

・ビジネスの流れ全体のある部分を自社で完結させることで、規模の経済・差別化の力学を働かせることで競争優位を志向しようとするのが垂直統合です。製販管の連携なども垂直統合の考え方です。バリューチェーンのどの範囲を自社でカバーするか」垂直統合の戦略志向性に繋がります。

垂直統合の価値は自社の競争優位の源泉になる情報を独占的に保有し、持続させることが可能になる点と本書では説かれます。その為、業界のKSFと親和性が高く、自社が他社に比べて強みを発揮できる機能において発揮するのが定石的です。

・「どの資源を自社で持ち、どの資源を外注するかといった所が企業の差異になる」ということを意味し、戦略を持続的に機能させるためには適切な組織体系も同時に検証しないといけないとされます。

・定石的にはCEOと各機能のCOOにより意見交換をして意思決定をする「U型組織」が最適とされており、現場推進・人材活用という観点はどの行動を評価するかといった制度設計・指標設計等の問題も重要になるとされます。

 

■コスト・リーダーシップ

規模の経済・経験曲線に代表される効果を発揮し、市場平均よりもコストを抑えることで競争優位を構築するという思想です。

※古来の製造業は規模の経済を追求して生産設備を増強したもので、化学や石油・製紙などのプロセス製造業界と呼ばれるような化合させる工程を踏む業界に親和性が高いとされて来ました。

・コスト・リーダーシップの成立条件としては「業界全体の生産量は市場流通価格を決めるファクターになりうるかどうか」という問いに応えられる業界かとされます。即ち、安いこと自体が競争力学に好意的に反応する性質をもつかということを指します。

・コスト・リーダーシップを支える組織設計としては専門化・分業制等が該当し機能別組織を追求していく形となります。言い古された話しではありますが、従事する人の仕事は非常に形式的で怠惰を生む源泉になりかねないので適切なマネジメントを行うことが難しいことは懸案事項になります。一方で、外部環境の変化が小さい時などに成立する条件なので、人に期待しないマネジメントやワークを是としない従業員が幸せを見出すという側面もあると説かれます。

 

■製品差別化

製品・サービス上の認知上の価値を増強することで購買行動をもたらしに行く戦略です。基本的に「顧客がどのように認知するか」がトリガーとなる為、顧客起点で物を考え、顧客の見え方をしっかり追求する動きが基盤となります。

※裏を返すと実際に凄さがあろうとも顧客がその価値を認識しないものは差別化戦略としては機能しないですし、錯覚を起こすことが出来ればそれは戦略として成り立ちます。

・上記側面から製品差別化は消費財などの場合において、消費者認識のブランディングマーケティングのスコープで物を考えることが急所になりやすいという特徴を持ちます。対照的に生産財の場合においては、営業がどのように顧客に付加価値を追求するのかという所で論証されます。

・製品差別化をなす根源の代表は7つです。

「製品の特徴」

「機能間のリンテージ」

「タイミング」

「地理的ロケーション」

「製品の品ぞろえ」

「他企業とのリンク」

「評判」

とされます。

・そして製品差別化はあくまで他社比較・顧客の認知形成に効果を依存するので、常に競合分析・相対分析を必要とされる戦略とされます。実行する上の組織設計において考慮すべき要素は「機能部門間コラボレーション」「制度的コントロール「過去とのつながり」「市場見通しへのコミットメント」の4つとされます。

 

■コスト・リーダーシップ戦略と製品差別化戦略の関係性

・2つの事業戦略は矛盾する要素を持つ為、二律背反になるとされます。製品や市場規模・顧客価値の定義・製品ライフサイクルによりどの戦略を取るのが望ましいかは異なり、組織風土により戦略志向性も変わる為です。大まかにいうと「高価格で差別化された製品で低シェアでも収益性を重視」するか、「低価格で面を取りに行くことで規模の経済やシェアを重視する」かの二択に分岐するとされます。

 

■柔軟性

・環境変化著しい業界においては、垂直統合や製品差別化に代表されるような「決め打ち」をせず、柔軟に環境変化出来る組織体系を構築していること自体が競争優位になるとみる見方も出来ます。柔軟性はこのような概念で競争優位を説いたものです。

※尚、柔軟性の章でメインで論じられるリアルオプション分析は要約しても数式の羅列になり何も意味をなさないので、割愛します。

 

■暗黙的談合

競争せず協力関係を見出し優位性を構築するという手段もあり暗黙的談合はこのカテゴリーです。協力戦略には大別して「談合戦略」「戦略的提携」の2つがあります。※アライアンスを組むみたいなのもこのカテゴリーに入ります。会社統合せず、パートナーシップ提携にとどまるのは戦略的柔軟性を確保する為です。

・成立するかどうかはゲーム理論に代表される構造が働きます。詳細は割愛します。

需要の天井が決まっている業界においては複数社で暗黙的談合をしたほうがコストは控えめになることは自明なので、暗黙的談合は起きやすいとされます。

・暗黙的談合が存在する前提条件としては「参入企業が少数であり、マーケットシグナルが働きうる業界構造であること」が条件になります。参入障壁があり、既存企業が影響力を相互に持つみたいな恵まれた環境じゃないと起こりえません。製造業や官公庁向け案件に多く、非常に安定性があるが仕事は非常に定型的というものが現実です。

・実行において重要なのは「組織効率の維持」と「組織の自己規律」の2つといわれます。競争圧力が減る為、内部の人材はひどく官僚的になり戦略遂行におけるクオリティも高く保つインセンティブが働きません。その為、人材に期待する前提のマネジメントが出来ず政治的な振る舞いや人材に求める水準の低下等、負の側面も大きいと言われます。

・暗黙的談合の最も難しい所は「その談合を守り続ける自己規律を関係各社が持ち続けないといけない所」にあるとされています。そうしないことには競争優位は持続せず、綻びがでると競争優位の前提に存在した非常に弱い組織のケイパビリティがどんどん負の側面として成果物に反映されていきます。

 

 

【所感】

・一つ一つの戦略の目新しさはないですが、どんな場面において有効か・適切な組織設計は何かを含めて論証されているので具体的な企業や業界に照らして思考することで、非常に面白く読めます。

・言うは易く行うは難しが事業戦略だと思っていて、実際は社内政治に代表される組織力学が働くのでそのまま当てはめるのは不可能とされます。ただ、論述されている要素のエッセンスをベストプラクティスとして自分の思考体系に入れて少しでも応用出来るようにしていくことには非常に意味があり、かつトップマネジメントが何を懸案して意思決定しているのかということを少しだけ知れるような内容なので非常に面白く読めました。

・如何に自分事として実務に応用出来るようにアウトプットしていくかを考えるのは読者に委ねるというタイプの本だと思います。マイケル・ポーターの競争の戦略を読んだ後に読むととても解像度があがり面白く読むのでおすすめです!

 

以上となります!