雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪企業とは何か≫

 

今回はドラッカーの「企業とは何か」を要約していきます。

1946年に著された本であり、主にアメリカ経済・GMケーススタディーを題材にして、分権制(事業部制組織)の効用民間企業が社会に果たす役割について言及した本です。

「戦時経済から平時経済へ移行する中で、民間企業が産業を形成し雇用を生み出していかないといけない」ということをあらゆる角度から熱をもってドラッカーが説いており思わず世界史や経済学を学び直したくなるような内容になっています。

この本の内容をより高度化・発展させたのが「現代の経営」や「マネジメント」になります。※個人的には現代の経営のほうが実務応用性は高いように感じました。

 

■企業とは何か

ドラッカー名著集11 企業とは何か | P F ドラッカー, 上田 惇生 ...

■ジャンル:経営学

■読破難易度:中(古典派経済学等の理論やアメリカの歴史に明るいとより面白く読むことが出来ると思います)

■対象者:企業が果たす社会的役割について関心のある方・分権制の歴史について興味関心のある方・マネジメントや知識労働者の役割・価値について興味関心のある方

 

【要約】

・本書はGMケーススタディーを通じて、民間企業が果たす社会への役割及び知識労働者の台頭に伴う分権制の有用性を説いた本です。他のドラッカーの著作に比べて、社会への提言が多くなっており少し毛色が異なります。

・印象に残った部分を抜粋して要約していきます。

 

■企業の有用性

・目的の遂行の為に人間を組織化した機能体が企業であり、間組織の高度な組織化マネジメントシステムの発展によるレバレッジが効くことから企業は組織化することが有効であるということをドラッカーは説きます。

・優れた組織の要件としては凡人をもって秀でた成果を出し、その人が成長していく仕組みになることだと定義します。属人的な仕事の進め方をどんどん脱却、システム化して低賃金化し、本来その仕事についていた人を高度な仕事に従事させるようにイノベーションを起こしていくことを続けることで企業や産業は発展するとします。

・組織は「個々人の弱みは組織の仕組みで帳消しにし、強みを成果に還元するように人をマネジメントしていくことが出来るので有効である」としています。

■分権制のメリット

「意思決定が早い」「経営人材の育成に適したメカニズム※意思決定の実践経験を積める人の総量が他の組織構造に比べて相対的に増える」「民主的な実力主義が実現される」・「事業部の力関係が明確化する」の4つだとされます。事業部間の競争原理を働かせ、人材育成の効果をもたらすことで知識労働者を活性化することが分権制の本質的な価値であるとドラッカーは言いきります。

・そして、分権制がうまく成り立つ為には本社経営陣及び本社スタッフと事業部経営陣の適度な力関係・役割分担が不可欠であると説いております。本社経営陣は「全社視点での資源配分や成長戦略」を描き、事業部経営陣は「事業にフォーカスして事業の成長戦略を描くことと全社から投資対象になるような青写真を描く」という役割を持ちます。

■分権制を持続的に行うための人材育成

スペシャリスト」「マネジメントを担うリーダーの育成」それぞれを偏らせることなく全社・事業部ベースそれぞれで行うことが分権制の組織面の競争優位担保に必要としており、その為には多様な機会の追求と公正な評価システムが必須であるとドラッカーは説きます。※この論調は現代でも色褪せない普遍的なものかと思います。してや、知識労働者の増加及び無形商材・サービスの発展による人材マネジメントが組織の競争力に起因する現代では、強い組織の必須条件といえるでしょう。

自己実現としての労働

・生きる為だけの労働が終焉し、自己実現等の意味合いを持つようになった労働の価値は変容していると説きます。その中でも、仕事の満足度を示すのは「仕事の単純さやプロセスではなく、その人が仕事をどの様に重要視して認識するかの違い」であるとします。

■企業が社会へ果たす役割

自己実現の場としての労働は勿論、雇用の創出を通じて社会の発展に寄与することです。特に重要なのは生産財の生産を円滑にし、企業間取引(BtoB)を活性化することが雇用や景気に大きな影響を与えるとします。消費財の生産は消費刺激などの感情面に大きな影響を与えるだけであり、最も大事なのは生産財の生産であるとしています。

 

【所感】

・時代を感じる記述であり、どのように現代の企業論や産業が発展していったのかということの理解を深める意味でも面白い本でした。

・戦時経済から平時経済へ発展していく中で雇用やGDPが衰退することなく、社会が発展していったのはこうした民間企業の発展及び組織マネジメントの理論が大成したからなのだなと知ることが出来、非常に感慨深い内容でした。

・一方でジョブローテーション・規模の経済など旧来の前提をベースにした説明も多かった為、それが現代のビジネスではどのように効果をもたらすのか・通用しないのかといったことも理解した上で読み解いていかないとこの本の内容の実務応用性は低いなと思いました。情報の非対称性や会社に長く勤めあげキャリア形成をしていくという価値観が前提になっている論理なので、現代の商環境や人材マネジメントの課題やトレンドを度外視した内容にならざるを得ないからです。

・大事なのは理論の歴史や原点を知り、現代の潮流を自分なりに意味づけすることだと思うので、記述されている内容をどの様に咀嚼するかは読者に委ねられているなと思いました。

 

 

以上となります!