雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪コーポレートファイナンス 戦略と実践≫


今回はコーポレートファイナンス戦略と実践」を要約していきたいと思います。
大学時代は経済学部に所属していたため、ファイナンスについては一度勉強したことがあるのですが、理論や公式を学んだだけで、企業活動にどのように影響してくるのかについて理解は出来ていませんでした。
株式市場や投資家といった外部環境を考慮し、企業がどのように経営資源である「金」を活用していくのかについてこのタイミングで理解を深めたいと思いこの本を選びました。

 

コーポレートファイナンス 戦略と実践」

コーポレートファイナンス 戦略と実践 | 田中 慎一, 保田 隆明 |本 ...

■読破難易度:中※読み物形式なので、学術的なファイナンスの本に比べるとかなり読みやすいです。会計と統計に関する基本的な知識があるとベターです。
■ジャンル:金融
■対象者:・企業金融について興味関心のある方
     ・株式市場や投資家の行動メカニズムについて理解を深めたい方
     ・財務と事業戦略がどのように結びつくのかについて興味関心のある方

【要約】
・企業が株式市場に対してどのように向き合うべきかということについて論じた本です。


・株式市場においてステークホルダー(競合企業・投資家等)とのコミュニケーションツールとして現在価値等の公式・IR等が存在します。

ファイナンスの目的は「事業や会社を定量化することで、株式市場における妥当性の高い意思決定を可能にする」ことです。上記側面を持つ為、会社をあらゆる角度で記述・可視化する会計学と未来予測の為の分析ツールとしての統計学の知見を掛け合わせた学問領域と言えます。※今回の要約は個別公式については記述しても意味がないので割愛します。

・日本では高度経済成長期を支えた日本的経営の下では、銀行が企業の資金調達の担い手として腕を振るってきた歴史が強いです。バブル崩壊・民間企業の国際競争化進展などの外部影響を受け、株式市場からも資金調達をしていくことが求められるようになり、主に21世紀になってから急激にファイナンスが発達した側面を持ちます。


・近年ではVCクラウドファンディングなど新興企業が容易に資金調達をすることができる土壌が日本にも形成されてきて、ようやく国際的に戦える土壌が育ったと本書では記述されています。(LINEやメルカリなどの急激に拡大したIT企業が日本からも誕生したのはこうした企業資金調達市場の整備・発展も寄与しているとのこと。)

 

ステークホルダーのリスク選好性
・企業の主な資金調達経路としては債権(銀行など)・株式(投資家など)が存在します。企業の返済義務があるのは債権であり、株式に比べて貸したお金が戻ってくる可能性が高い(≒リスクが相対的に少ない)です。その分、リスクを追う株式購買者の投資家が多くのリターン(株価上昇・配当)を求めるのは必然と言えます。「ローリスク・ローリターン」・「ハイリスク・ハイリターン」の原則です。

 

■会社の状態を図る指標
会計学的に会社は4つの角度から良し悪しを図るとされます。収益性(例:営業利益率)・生産性(例:在庫回転率)・安定性(例:自己資本比率)・成長性(例:ROA)の4つであり、会計学の世界では収益性・安定性などを重んじます。ファイナンスの世界では「資金をどれだけ効果的に活用し、未来に利益を生めるか」を重視する為、成長性に関わる指標を重視します。
※ここに財務三表を活用しながら、企業の過去について明らかにする「アカウンティング」と企業の未来を出来るだけ精緻に予測しようと定量化する「ファイナンス」の違い
があります。

 

■現在価値
・未来どれだけの利益を生みだすかを明らかにするために、現在という時間軸で評価をするのが現在価値の概念です。ファイナンスの世界では今日の100円>1年後の100円という考え方の基本原則があります。ここから派生して、手元にあるお金を重視する考え方があり、財務三表ではCFを最も重視するのがファイナンスの世界観です。※企業のIR資料を眺めると如何に注視しているかは一目瞭然です。
・DCF法等のような専門的な公式により企業の将来的な価値・事業価値を産出することが出来るようになります。これが整備されることで、個別株がどれだけ魅力的かどうかがわかり株式市場での売買取引が促進され、M&A等の意思決定も可能になります。※数式詳細は割愛しますが、市場平均や収益性・成長性等の観点から洗い出したベンチマーク指標を用いて、「平均を超えるかどうか」ということを重視するのがファイナンス的な意思決定の特徴です。

 

■株主をどのように惹きつけ続けるか
・リスクを追う株主へのリターンとしてあるのはキャピタルゲイン(株式購買当初からの上がり幅)とインカムゲイン(配当)の2つです。長期保有を促進することで資金調達の安定性を担保するのは企業として当然の行為ですので、この2つを目的に企業は株主向けに様々な施策を取るということになります。代表的なのは「自社株買いによる公開中株式の魅力度上昇」・「配当」・「新規株主誘因の為のIR」の3つがあるとされます。
・自社の事業戦略・成長戦略を描き、適切な投資家から株式購買意欲を募るということがIRの目的であり、日本でもかなり整備されてきましたがアメリカなどに比べるとまだまだとのことです。


ベンチャー企業の資金調達
・倒産リスク・目先の事業展望が不透明という点から銀行からの資金調達が極めて難しいのがベンチャー企業です。こうしたベンチャー企業の資金調達需要を整備するものとして、近年ようやく整備されてきたのが「VC」クラウドファンディングです。
・VCは創業初期の企業に入り込み資金調達をすることで、資金提供先企業の上場時における株式割合の多くを占め、利益を得ることを最終目的として資金調達をします。VCに頼り成長戦略を描かないといけない側面がある為、必然的にベンチャー企業は上場を目指しに行くという構造があります。これだけではさすがに厳しいので、イデアに対して小口での資金調達を募るクラウドファンディングが整備されてきて、日本においても新興産業が発達する土壌が整ったとされます。今では銀行も融資をするかどうかの判断に「クラウドファンディングでの調達経験」を要望するくらいメジャーなものになっています。


【所感】
グロービスシリーズのファイナンス及びアカウンティングにて周辺知識をインプットした上で読むととても理解が深まるのでおすすめです。
・大学時代は会計学統計学の知見を用いて定量化している学問という認識しかなかったのですが、これがどのように企業の行動や実務に影響を
及ぼすのかという観点で体系的に理解できたのは良かったです。経営陣及び本社スタッフ(≒コーポレート部門)がどのようなことを気にして、日々意思決定しているのか
ということについて応用できる話が多く、個人的にはとても学びが深かったです。※突き詰めると経営資源の調達に関わる人(ヒトモノカネ)全般に言える考え方とも言えます。
ファイナンスを学ぶことで相対比較としての銀行(債権)の重要性や統計学会計学の学問的意義を確かめることが出来たのも読んでいてよかった点です。
・株式市場とどのように向き合うかということはこれからの時代を生きる上での教養としても知っておくべき事象だと思っていたので、いいタイミングで読めた本でした。

 

以上となります!