雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪国家(下)≫

 

今回はプラトン著の「国家」下巻を要約していきます。

下巻は「哲人統治」を理想とした国の統治の在り方・魂の在り方としての「正義」について説いています。上巻の内容を踏襲しながら、具体・実践的な話に広がっていきます。

 

※上巻の要約はこちら。

ty25148248.hatenablog.com

 

 

「国家(下)」

国家 下 (岩波文庫) | プラトン, 藤沢 令夫 | 哲学・思想 | Kindle ...

■ジャンル:政治学・哲学

■読破難易度:中~高(世界史や倫理に興味関心があるとかなり読みやすいと思います)

■対象者:・正義や国家のあるべき姿に興味関心のある方

    ・人間とは?という問いに興味関心がある方

    ・自分の振舞いについて内省する機会を持ちたい方

 

【要約】

■哲人統治

「自分の価値基準に忠実に動くことが出来、好き嫌いを含めて受け入れる価値観を持つ人」が哲学者であるとソクラテスは言います。そして、他者の為に行動をすることを厭わず芸術や戯曲を愛し、神を崇拝する価値観こそが国の守護者が備えるべき価値観であるともされます。こうした「自分の中に哲学を持った人が統治者の資質があり、哲人統治こそが理想である」というのがソクラテスの一貫した主張です。

「他人の為に身を粉にしながら、自分としての正義を持ち合わせていないといけない」という非常に難しいバランス感覚が求められるのが君主です。※被支配者は支配者の前提の基にしか生活が成り立たないという側面があります。なので、支配者が歩み寄らなくても必然的に被支配者は依存関係にあるというのが真理です。

 

■国の守護者に施すべき教育

体育音楽文芸(美徳を理解する器を作るために必要)ということは元々論じられてきました。

・哲人統治が理想であり、それを体現・実行する国の守護者にも相応の教育を施し、リテラシーを形成する必要があります。その為、「数学や言語は早期から重要視して教育すべき」ソクラテスは説きます。何かを論じたり説明・思考するための骨格であり、取得に年月を要する為です。※どの国でも言語・数学は早期から段階を踏んで教育され、かつ重要視されていますね。

・何かを論じて説明することは知的能力の向上であり、幾何学は目に見えないものを論じる素地をつくったとして偉大であるとソクラテスは説きます。

※こうした叡智を追求することを美徳とする価値観が古来に確立された為、学問は発達し、現代のような知識労働者社会を形成していると思うととても偉大な功績と言えるでしょう。

 

■学問の構造

身近な物事の仕組みや成り立ちについて説明する自然科学人が形成する社会の仕組みについて説明する社会科学、それらの上位概念として「人」の在り方を規定・追求する哲学という構造があるとソクラテスは説きます。

※所謂、頭脳明晰な人ほど数学や哲学など学問の根本的なものを追求していくのはこうした学問構造を本質的に見抜いているからなのでしょう。

 

■統治体制

・自分の中にゆるぎない哲学を持つ統治者により、社会全体の幸福を追求する哲人統治が理想であるが、そうはなかなかならないのが現実です。その際によくある統治体制として寡頭制国家民主制国家僭主独裁国家の三種類が統治体制としてあるとしてそれぞれの特徴・弊害を論じています。

寡頭制国家とは金持ちがその権威に物を言わせて統治をする体制を指します。法を自分たちに都合よく解釈して富と金持ちを重んじ、貧困や徳がある人を軽んじる統治体制になるリスクがあります。全体の福利の為に仕組みを考え、実行するのが統治者の本来の役目でありながら、一部の人に利益が集中してしまうという構図になります。災害や戦争などの有事に私財を擲ってでも、統治者が課題を解決するべき際も寡頭制国家では統治者にそうした動機が発生せず、本質的には統治者の資質がないと言わざるを得ないです。※俗物的であり、愚かであるとソクラテスは厳しく批難しますが、歴史にはこうした国家はたくさん登場するため、人間の欲深さの象徴とも言えるのでしょう。

民主制国家とはここでは直接民主制のようなものを指しています。ソクラテスは一見理想に見えて、実現可能性に乏しく、弊害も多いと指摘します。即ち、国の統治者が責任を追う範囲の課題に対して思考したり、対処する資質のない人を意思決定プロセスに巻き込むことになる為、結果的には非合理的になる可能性が高いというリスクを指摘しています。また、自由や権利を理想として追求した結果、無政府状態になるリスクが高いことも指摘されます。

社会保障を始めとした今今の課題解決が政策の論点の中心に据え置かれることは持続的ではないということでしょう。

僭主独裁国家はこうした統治体制に関する思考錯誤の結果、「一部の人に権利を集約して、独裁国家のようにふるまうことが現実的な妥当解になる」という思想のもとになされる独裁政治を指します。これは後世のヨーロッパにおける王制政治などに発展していく考え方になりました。

 

■正義の報酬

「人間が生きている時間は地球の歴史の中でも本当にごくわずかな時間であり、目先のことに囚われることは本質的に愚かである」ソクラテスは説きます。魂は体がなくなっても残る不変なものであり、魂を良くすることこそが人生の目的であると主張します。「不正は短期的には利益があるように見えて現世においては処罰の対象になるし、長期的に魂を損ねることになるので百害あって一利なし」という立場がソクラテスです。

「正義はそれ自体が魂をより良いものにする、それこそが最大の報酬である」という立場にソクラテスは立ちます。即ち、「天国・地獄・来世等の生死に関する価値観を持ち合わせていると現世の短期的な利益などはどうでもよくなり、自分が立派に生きて正義を全うできるかということが人生の中心に据え置かれる」ということを言わんとしています。

 

 

【所感】

・国の統治者に纏わる話は現代にも通じる資質に関わる話で、とても読みやすく面白かったです。

・全体的な内容は、高校時代に学んだ世界史・倫理・政治経済等の学問に関わるもので、改めて読み返し、色んな観点から考察するとこれだけ見えるものは違うのかと認識させられました。時間を経て消化できるように一旦、高校生くらいのタイミングで知識を取得するという教育プログラムはとても理にかなっているのかなと思いました。

・死後の世界や精神世界に理想を見出すという価値観は後のキリスト教を始めとする宗教観にもつながる話で、西洋的なものの考え方だなと感じました。(無神論・無信教者の自分にとってはとても新鮮な考え方でした。)東洋の仏教・儒学なども学んでみると比較出来て面白いのかもしれないと感じました。

・「不可侵で不変な精神世界に自己実現・自分なりの物差しを持つことで目先の良し悪しに翻弄されることなく、ご機嫌に過ごすことが出来るよ」というのがこの本から学ぶべき教訓であると思っています。偉人たちが思考した書物を読み、体得することで少しずつ自分なりの見解・世界観を持っていきたいなと感じる次第です。

・「良き社会市民としての役目を全うするために、自分なりの見解をあらゆる分野にもてるようになりたい」というのがここ最近の自分自身のテーマ感であり、一企業の組織人として役目を全うすることも勿論ですが分別ある大人で有り続けたいなと思っています。なので、こうした根源的な問いを投げかける本は時間をおいてまた読むことで少しずつ自分のものにしていきたいなと思います。

 

以上となります!