雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪職業としての政治≫

 

今回は前回に引き続き、マックス・ウェーバーの著作を要約していきます。

「職業としての政治」という職業人として政治を行う人に求められる倫理観・振る舞いを説いた本です。「職業としての学問」と同様、第一次世界大戦直後の混乱を極めるドイツにおいて青年に向けて行った講演内容の抜粋となっています。随所に社会学的な側面や宗教・歴史的背景に着眼した考察が見受けられ、マルクスと比較される偉大な著作です。

 

「職業としての政治」

職業としての政治 (岩波文庫) | マックス ヴェーバー, Weber,Max, 圭平 ...

■ジャンル:政治学

■読破難易度:低~中(講演内容を抜粋しているので読みやすいです。しっかり読もうとすると宗教や世界史の知識が必要になります。)

■対象者:・プロフェッショナルに求められる倫理観に興味関心のある方全般

     ・政治というもののメカニズムに関心のある方

     ・権力と支配構造に関心のある方

 


職業としての政治 (岩波文庫 白209-7) [ マックス・ヴェーバー ]

【要約】

政党政治議会制民主主義の拡大と共に、副業・一時的な振る舞いとして古来から存在した「政治」という行為を職業として生計を立てることが可能になってきた時代の変化を受け、政治が持つ脅威と権力に着目してあるべき職業人の振舞いを説いた本です。

・「職業としての学問」にも言えることですが、マックス・ウェーバーが論を展開した時代というのは第一次世界大戦によりドイツが敗戦をし、社会全体が混乱を極め「指導者」のような絶対的権威を持ち、人民を正しい方向に導く人が神格化された時代でした。(宗教・学問いずれも現世の苦しみを解消できないという失望感に苛まれた一般市民が社会主義共産主義を掲げる指導者に傾倒していくのはこうした背景が挙げられます。

 

■政治の本質

「政治とは本質的に権力を追求する行為である」ウェーバーは規定します。暴力的な力を持つ権力に近づき、権力を活用する立場にある政治に従事する人には高度な倫理観が求められるというのが本書の基本的な思想です。

・旧来にもカリスマ制・家父長制等の何らかの権威に基づく支配の正当性というのは認められてきましたが、国家や政治が持つ権力の支配関係というのは組織化された支配講師力と言えます。

 

■政治を行うに足る高度な倫理観

・上記、権力を追求するという政治的行為はそれ自体が目的であると同時に、暴力へアクセするという意味も持ちます。人間の虚栄心と隣接する行為であり、欲に溺れるリスクと隣り合わせな中で、「目的意識を強く持ち、暴力的な権威を持って強い責任感で葛藤を抱えながらも自分の信念を持ちやりきる」という高度な倫理観が政治を全うするには必要とされます。

「権力の為に権力を行使・追求する」という政治の本質は人間のナルシストな側面を助長・刺激するものであり、こうした誘惑がある中で目的に忠実にあるというのはある種の拷問的な行為であり適性を選ぶものと言えます。(政治を実行しようとすると、ステークホルダーもこうした政治のメカニズムに溺れるリスクを加味・想定して動かないといけないのでひどく混乱するものです。

ウェーバーは政治に求められる倫理観を「心情倫理」と「責任倫理」の2種類で定義します。心情倫理とは動機の正しさが重要であって結果は二の次という立場に立つ倫理観で、責任倫理行為の結果を誰かに転嫁せず結果が全てという立場に立つ倫理観を指します。そして、この2種類の倫理は常に矛盾するので、実行することは極めて難しいとウェーバーは主張します。

 

■政治の適性

・上記、権力と支配の構図や高度な倫理観から、政治という行為を全うする(しかも職業人としてこれで生計を立てるとなると極めて難しい)に足る器の人というのは非常に少ないことが言えます。その中で一番重要な資質はどのような困難に直面してもあきらめず、粘り強く、「それにも関わらず!」という気持ちを強く持ち信念に忠実にあれる人であるというのがウェーバーの結論です。

 

 

【所感】

政治学・宗教学・社会学などは高校の社会科目の範疇レベルしかない為、まだまだ理解が足りないなと痛感したのが読後感として大きいです。ただ、当時の社会情勢や思想が所々に垣間見える点は非常に面白かったです。

・政治を全うするという行為がこれほど難しいのかという実感を得られたことは教養としてとても良かったですね。言い換えると階層組織において、権力と支配にどのように向き合うかというテーマとも言える内容ですので。

本書の内容は抽象化すると
権力(暴力)の持つ麻薬的側面(手段であるが、陶酔してしまう危険を孕む)
持つものが持たざるものへどのように対峙するか
ということにおける教訓と言い換えることが出来、タイトルこそ「職業としての政治」ですが、他人と何らかのかかわりを持ち社会で生きていく人全般に通じる内容と言えるのかもしれないと感じました。

・本書ではあまり触れられませんが、マックス・ウェーバーは宗教と経済・社会システムの関係性を説く論調が強い思想家であり、同じ時代の偉人としてあるマルクスと真逆の立場にあります。(経済及び社会構造が精神を規定するという唯物史観中心の理論体系がマルクスの特徴です。)特にヨーロッパ社会は宗教・戦争・階級闘争の歴史ですので、こうした側面に触れて社会を考察せざるを得ないというのは自明のことだと思っていて、相対比較として日本は極めて特殊な国・歴史を持つなと再認識させられます。

・国際競争化・単純成長を追い求めることが限界に来た現代において、社会の潮流を知る意味でこうした歴史や宗教・倫理観についても造詣を深めたいなという最近の自分の課題意識にぴったりはまる内容の本で面白かったです。

 

以上となります!