雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪国の競争優位(上)≫

今回はマイケル・ポーター「国の競争優位」を要約していきます。

「競争の戦略」「競争優位の戦略」と並んでポーターの代表的な著作となっており、前述2冊の考察で用いた分析手法(5フォース・バリューチェーンなど)を産業・国家レベルに応用して国毎の競争優位の源泉を明らかにしようと論じた本です。

1980年代までの世界各国の傾向を基に考察しているので、事例は少し時代錯誤感がありますが現代にも通じる考察が多く知的好奇心をそそられる内容です。

 

「国の競争優位(上)」

■ジャンル:経営学(産業組織論)・経済学(公共経済学)

■読破難易度:中(産業組織論または世界史の知見があるととても読みやすいと思います)

■対象者:・政策立案・産業振興に興味関心のある方

     ・多国籍企業の競争優位の源泉に興味関心のある方

     ・20世紀の産業発展の歴史に興味関心のある方

 


国の競争優位 上/M.E.ポーター/土岐坤【3000円以上送料無料】

【要約】

この本は上下巻の2部構成になっています。

上巻は国の競争優位を構成する4つのダイヤモンドというフレームワークの提唱とフレームワークを用いた国別の研究(アメリカ・スイス・スウェーデン・ドイツ)を守備範囲としています。下巻は国別の研究後編と公共政策や多国籍企業の企業戦略についての提言へ広がっていきます。

 

 

■国の競争優位を構成する4つのダイヤモンド

「企業の戦略、構造および競合企業間競争」・「需要条件」・「要素条件」・「関連・支援産業」この4つが国の優位の決定要因であるとされます。

要素条件とは資源(天然資源・研究機関の充実度・大学教育社会保障の充実など含む)がどれだけ豊富にあるかということを示します。産業発展は知識労働者の量と質の充実に比例するので、「大学教育及び実学教育がどれだけ充実しているかが国レベルの特定産業の発展に寄与するであろう」というのがポーターの主張です。

需要条件とはその名の通り、国内におけるある産業への需要の度合い(≒市場規模)と言えます。「高度な水準を求める買手が国内にあれば必然的に国内供給企業は技術開発・投資を積極的に行わざるを得なくなり、それが世界規模でみると競合優位性に繋がるであろう」ということです。

企業の戦略、構造及び競合企業間競争はその名の通り、国内で適切な程度の競争がなされ、企業努力により製品やサービスの磨きこみがなされているかということを指します。需要条件に少し近いですが、国によっては特定産業をカルテル的な形で一部独占的な地位にあることを奨励するケースもあります。その場合は国際競争優位を持つレベルにその産業は磨きこまれないので、分岐されます。

関連・支援産業は要素条件に近い考え方で、特定産業を補強する形での関連する産業が豊富に形成されているかということを指します。これは製造業的な考え方で、例えば「川上産業が特定のクラスターで発達している場合、その川下産業や支援財が充実しているかが川上産業の発展に相関する」といった具合のことを指します。

※全体的に1980年代までの産業発展の歴史をベースに本書は組み立てられているので製造業偏重であることは前提となります。

 

■サービス業における国の競争優位

・製造業は容易に輸出出来ること・BtoB向けであるということで大規模に市場拡大することが可能で、戦略論の中心に据え置かれて来ました。サービス業は20世紀後半に急激に発達した産業であり、基本的に国内市場向けとなります。(旅客サービスなど一部を除く)サービス業が発展したのは経営の高度化により知識労働者が増え、特定のバリューチェーン(例えば財務に特化した外部支援をするサービスがサービスとして成立する)に特化した形で市場が成立するようになったことが大きいです。

・サービス業はその性質上、基本的に労働集約型であり(人力でサービスを生み出す側面が強い為)、経営を支援するサービスなどは容易に国際化が出来たので(外国に赴いてサービス提供をすれば良いですね。例:コンサルティング・会計など)急激に拡大していった側面があります。

・インフラの発達(物流・鉄道/飛行機など・電話・メール・PC)によりこの動きは加速し、ポーターが国の競争優位を論じた後の1990年代~現代は完全にサービス業主流の時代に変容していきました。

※製造業は企業戦略論や財務コントロールレバレッジを効かせますが、サービス業はサービス提供が人力中心の為、戦略論は勿論組織マネジメントにより、サービス構成要素の人のパフォーマンスを最大化させる動きに競争優位の源泉がもたらされるようになりました。なので、21世紀になり急激にリーダーシップやマネジメントを重視する動きが増えたということが言えますね。

 

 

■国別の考察 

アメリカ≫

アメリカは戦時需要にこたえる形で自国内で重工業が発達し、戦争のダメージをほとんど受けなかった為、他国向けのインフラ関連産業が発達した歴史をもちます。なので、戦後の経営学などの発展はほぼアメリカ発祥でありドラッカー経営学関連の本などが古典的な地位にありますが、アメリカ企業の考察中心なのは時代の要望を反映したものと言えるでしょう。

・土地が豊富にあり、天然資源人口も莫大に抱える上にプロテスタントであり、勤労に働く資本主義経済のルールに適応しやすかったことがあり、アメリカは自然と元々強かった産業を国際的に優位性を持つに至ったという歴史を持ちます。

・多言語や民族が入り混じり、公共セクターが提供する社会保障サービスがぜい弱で有る為に金融産業医療関連産業(保険含む)が高度に発展したのはアメリカらしい特徴を物語ります。また、英語という母語の圧倒的な汎用性の高さが元々国内で磨いた製品やサービスを国際化していきやすかったという所もアメリカという国の競争優位を説明するに至ります。

 

≪スイス≫

・19世紀までは移民傭兵が資源であった天然資源に乏しい国です。天然資源に乏しく人口はわずか600万という制約条件の中で資本主義経済の動きに適応するために、加工業や経営徹底に努め、輸出をメインに組み立てていったのが(国内市場規模が小さすぎる為)スイスの特徴です。

※スイスはプロテスタント国であり、時計(時を刻む・賃金労働の概念)などの労働と関連した精密機器産業が発展したのは資本主義にうまく適合出来たという国全体の要素条件の豊富さもあると個人的には思います。

・自国に資源がない為、バリューチェーンのすべてを自国内で賄おうとしない姿勢が輸出を促進しており、多国籍企業化することで国際競争優位を形成していった歴史的背景が特徴です。※このあたりは日本の高度経済成長に似ているかもしれません。

 

スウェーデン

スウェーデン天然資源が豊富にあり生産財関連の産業が圧倒的に強いことが特徴です。(特に輸送機器や物流機器・鉄などの資源ビジネス全般)川上産業工業化に特化しており、川下産業・消費財が圧倒的に弱いという顕著な傾向を持ちます。(豊富な天然資源をテコにした象徴として圧倒的な水力発電比率が挙げられます。)

共通の言語・宗教・圧倒的な教育水準という要素技術の高さもスウェーデンの国の競争優位の源泉で、これが一体感のある組織運営や手厚い社会保障・平等主義などのスウェーデンの国際的に有名な特徴に繋がります。元々国内市場の規模が小さく、国全体の雇用の30%近くを公共セクターが生み出しているという異質な国であり、人口もあまり多くはない為、早期からのオートメ化対応(低付加価値の仕事に人の手を費やす余力がない)なども特徴として挙げられます。

 

≪ドイツ≫

・二度の敗戦から立ち直っており、資源(天然資源・土地)が不足する劣勢という制約条件の中で産業クラスターを大規模に構成して早期に戦後復興した凄い国です。元来強いのは化学産業機械産業であり、関連産業として自動車産業機械も世界的に競争優位を持つ産業として位置しています。

・要素技術としては大学及び専門技能学校が充実しており、国全体で技術者育成に積極的な国です。その為、豊富な労働者を特定産業に傾斜させることが可能になっており、数十年にわたり化学・自動車等の産業は世界的な地位を占めております。

※買手の品質への意識が非常に高く、国内市場の水準が高い為、技術力のある製品が生み出される仕組みが整っています。

・加えて国全体で勤労意欲が強く(これはプロテスタントの天職概念が色濃く残る故かと)、決まったことを着実にこなしていくことが成功に繋がる製造業ととても親和性が高いということが言えます。弱点は新規産業創出能力が低く、技術偏重であるため消費財や販売促進(特にマーケティング)が国全体で弱いことが挙げられます。

 

【所感】

・企業単位の戦略立案について、関連した書物を集中的に読んでいたので理解が深まっていたタイミングだったのですが、応用範囲を広げて理解を深めたいと思っていたのでこの本は自分の関心毎にとてもヒットした内容でした。マクロ経済や公共経済学に明るくなると更に面白く読めるのだろうなーと思ったのが率直な感想です。

・また、国別の研究を読み解いていくとアメリカ・ヨーロッパ諸国を理解する上では言語や宗教(特にキリスト教)・思想(資本主義・共産主義/社会主義など)などについても明るくないと背景を深く理解することはできないなと思い、こうした分野への知見もより深めていきたいなと感じました。※自分の仕事には全く役に立ちませんが、社会を自分の目で見て考察を述べることが出来るようになることは教養深い社会人の何よりの証明だと信じるからです。(良き社会市民でありたいという個人的な信条ですね。)

・個人的に関心が高い領域の本であったため、とても面白く読めました。

 

以上となります!