雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪経済発展の理論(上)≫

 

今回はシュンペーター「経済発展の理論」を要約していきます。

ケインズと共に現代の経済学(主にマクロ経済学)の基盤を作った経済学者と呼ばれ、景気循環の理論などが有名です。この本はシュンペーターの代表作で上下巻構成になっています。

 

■経済発展の理論(上)

経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転 ...

■ジャンル:経済学

■読破難易度:中~高(ミクロ経済や金融に関する前提知識があると読みやすいと思います。)

■対象者:・イノベーションに関して興味関心のある方

     ・マクロ経済の理論について興味関心のある方

     ・金融理論について理解を深めたい方

 


経済発展の理論 上(シュムペーター) 企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究 (岩波文庫 白147-1) [ シュムペーター ]

【要約】

オーストリアの経済学者シュンペーターの代表的な著作で1910年代に著された本です。上巻は経済の循環(主にイノベーションの原理・動的な市場経済側面への考察)・信用・資本という概念の深堀が中心です。下巻は上巻で述べられた概念をベースに企業利潤や景気循環論等に発展していきます。

 

シュンペーターが提唱する経済原理

「資本を生産手段として、モノ(≒財)を生み出し、貨幣という価値貯蔵手段を媒介として市場取引をすることで、経済を回すことで世の中は物質的に豊かになり経済は発展する」これが古典派経済学から続く資本主義経済の基本的な思想です。古典派経済学では「市場の原理が働き、適切な需給バランスに着地し、均衡状態がなされる」という前提が取られましたが、シュンペーターはそうではないということを提唱します。即ち、「企業活動の中で新製品開発・新規事業などの現代でいう所のイノベーションがなされることにより、常にその均衡が崩されるので、経済システムは動的である」という主張です。

・また、労働土地というシンプルな生産要素をベースに理論を構築した古典派経済学とは異なり、金融資産(資本市場)企業内部の組織メカニズム(階層化することで、経済学の原理以外の論理が市場売買に影響をもたらすという考察をしています。)など変数を多くみて物事を考察するべきという見解を述べていることもシュンペーター特有の理論です。※後々の金融理論や経済学が経営学に派生していく先駆けとも言える思想がここに垣間見えます。

 

■経済発展を支える貨幣の信用創造機能

・労働や土地などの用役を投下することで財を生み出し、財の対価として貨幣を獲得していくことで企業及び経済は発展していきます。その市場取引を促進する貨幣は「財貨流通手段であるだけでなく、価値を貯蔵し転用するという金融の概念を成立させる力を持っていた」と言えます。これが尊いというのがシュンペーターの主張です。

・金貨・銀貨だけではなく、紙幣・手形・小切手などの手段で金融が出来るようにした銀行は経済発展の担い手であると言えます。この時に、「将来生み出す成果をベースに投資・融資をすることが出来るようになった」のが企業の設備投資を促進し、経済発展を高速化させた役目を果たしておりとても重要な価値であると言えます。

※現代では当たり前になっているファイナンスや金融の理論はこの「信用」という機能が働くが故に成立します。

 

■資本の経済における位置づけ・役割

資本企業の購買力を規定します。資本は生産手段であると共に、市場取引をする際の尺度になる為、資本の融通を効かせることや資本の投資対効果を高めることは個社は勿論、経済全体にとっても有意義であるということが言えます。※このあたりはケインズ経済学の有効需要の創出などにも合流する概念だと思われます。

経営学では資本を運用する労働者及び資本家と労働者の関係についてばかり着目して述べられますが、そもそもの社会システムから何を要望されているのか・何が筋が良いのかということは経済学が説明をしていると言えます。

 

 

 

【所感】

 

・上巻はシュンペーターの記述が非常に回りくどく、読みづらいです。古典派経済学を始めとしたこれまでの経済学が提唱してきた概念や望ましいとされる考えを提唱する為に多くの事象に言及して記述しているが故と言えます。

・僕は経済学部出身なのですが、経営学系の授業を多めに受講していた為、基本的な経済学の原理の知識が少し弱く、関連書物を読みなおさないといけないなと反省したのが読後感としてあります。アダムスミスやリカード等の古典派経済学の理論をおさらいして読み返したら物凄く面白いのだろうなと感じました。

経営学は個別具体のわかりやすい事象や汎用性の高い理論を提唱するため、とても実感がわくということもあり、大学時代から慣れ親しんで学んできましたが、そもそもの社会のシステムを作ってきたのは経済学であり、歴史や現代の仕組みを知るにはこうした経済学の古典的な著作を自分なりに読み解き血肉にしていくことで、自分なりに見解を持てるようにしたいと思っていたので、かなり読みづらいですがとてもテーマ感に即した本だなと思っています。

・金融資産や貨幣の信用創造機能などの抽象的な概念はとても応用性のある理論で、その原理に触れることが出来たのは大きな収穫出会ったなと思います。ファイナンスやコーポレート・ガバナンス・企業経営と労働者の関係などにも波及していく考えであり、知的好奇心をそそられる内容でした。

以上となります!