雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪国の競争優位(下)≫

今回は前回に引き続き、「国の競争優位」の要約をしていきます。

下巻パートは上巻に引き続き国別の分析(日本・韓国・イタリア・イギリス・アメリカ)を行い、その上で企業戦略・政府の産業振興への提言、最後に国別の課題表出・解決策の提言という構成になっています。

 

※上巻のまとめは下記。

■要約≪国の競争優位(上)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

「国の競争優位(下)」

f:id:ty25148248:20211219151452j:plain




国の競争優位 下/M.E.ポーター/土岐坤【3000円以上送料無料】

【要約】

■国の競争優位を構成する4つのダイヤモンド※再掲

「企業の戦略、構造および競合企業間競争」・「需要条件」・「要素条件」・「関連・支援産業」この4つが国の優位の決定要因であるとされます。要素条件は天然資源や研究機関の充実度・教育体制などのイメージです。関連・支援産業はある産業と親和性の高い産業群がどれだけ自国で広範囲に広がっているかを示します。

 

■国別の考察

≪日本≫

政府主導の日本的経営+財閥傾斜が日本復興の理由であるという論調が一般的には強いですが、それだけでは弱いというのがポーターの指摘です。「天然資源に乏しく、土地も慢性的に不足する」という制約条件の下で日本が国際的な競争優位を占めるに至ったのは戦略的な理由があったとされます。

貿易生産における競争優位の磨きこみが第一の日本の特徴です。島国であり、海外需要を取り込まずに発展は出来ないという中で、国内で磨いた製造業を世界との貿易を徹底することで発展させてきたというのがお家芸です。「特定産業に傾斜をかけ、資本は銀行が支援し、株式の相互保有により事業運営に専念できる体制」を官民共同で行ってきた歴史を誇ります。また、豊富な労働人口をテコにモノづくり(特に機械自動車電子部品半導体など)を発展させてきたことも特徴で、日本的経営と親和性が高く、拍車をかけた側面がありました。製造業中心に「標準化」・「オートメーション化」・「大量生産化」という3つの戦略方針を徹底してきた経営の秀逸さも当時の日本の国際的競争優位構築を牽引しました。

 

≪イタリア≫

・日本・ドイツ同様敗戦から立ち直った歴史を持ち、家族経営・中小企業比率が圧倒的というのがイタリアの特徴です。エネルギーや原材料が不足しており、食料は輸入に頼りまくっているのが実情で、繊維セラミックワインなどが強い国であり、基本的に輸出ベースで売上を形成しているのがこの国の特徴です。

・デザインや芸術などの人文学系の歴史的造詣の深い国であるため、消費財に対する買手の目線は非常に高く、需要条件として非常に競争力が高いといえます。また、中小企業比率が高い為、企業の垂直統合戦略選好性は非常に低く、地域全体で需要を満たすバリューチェーンのようなものを形成していることが多いです。

・一方で、消費財偏重で、軒並み多数乱戦業界であるため、産業の発展と共に収益性が乏しい産業で戦わざるを得ない」局面にあることは問題であるという見方をポーターは採用してもいます。

 

≪韓国≫

アパレル繊維輸送機器最終消費財などが強いのが特徴で、天然資源(食材のみ、金属などは希少)も豊富に存在します。※圧倒的な財閥系列の権威も特徴です。一方で、機械産業などはさっぱりであり、得意不得意がはっきりしているのが韓国の特徴です。

儒教文化が強く、北朝鮮との競争は常にあり、かつ豊富な労働力をテコに戦ってきた歴史を持ちます。教育に関する投資意欲が非常に高く、知識労働者を育成するメカニズムが整っており、政府が支援の元海外の有名大学に留学を支援するほどです。

 

≪イギリス≫

産業革命発端の国であり、世界でいち早く企業社会が浸透しましたが、20世紀にいち早く衰退の道をたどったのもイギリスです。豊富な天然資源をテコに、貿易業を古来から磨いてきた歴史を誇り、加えて植民地支配により資源関連ビジネスが世界でも随一という特徴を持ちます。アメリカにも言えますが、プロテスタント国であり、勤勉に労働をすることが社会全体に浸透しやすかったというアドバンテージは経済発展に大きく寄与したと言えます。

消費財サービス(コンサルや専門支援産業を生みだしたのは大体イギリスです)が強いというのが特徴で、エリート思考も強い為、人文科学や純粋科学を志向する人が多くエンジニアリングや社会科学など実社会の課題を解決しに行く学問をあまり好まない文化基盤が産業の発展に悪影響をもたらしているというのがポーターの主張です。

 

■経済発展の4段階

天然資源や教育などによる要素技術の推進資本投資により要素技術にレバレッジをかけて産業レベルにまで発展させようという投資による推進段階業界や製品のライフサイクル進展により延命化する為の技術革新・新市場開発・新製品開発が積極化するイノベーションによる推進段階成長余力を失い富を再分配し、保身的になる富による推進段階という四段階を経るとされます。

 

 

■政府の産業振興における役割

・企業がグローバル化をする中で、多国籍企業の本社所在地をどれだけ自国に誘致できるか」・「産業クラスターをどれだけ強固に持てるか」ということが国の競争優位の源泉に直結するというのがポーターの思想です。「国際的な競争優位を持続させる為には個社企業の努力だけに委ねるのは無理があり、必ず、自国もそのリーダー企業や業界の競争優位をグレードアップさせるために企業誘致や保護貿易・税制など何らかの政策を発動して守るべき」というのが具体的な提言です。

・また、生産性の低い産業を外部移転し、生産性の高いないしは国が抱える産業クラスターにおいて重要な産業の輸出シェアを取れる状態(≒国際的競争優位が担保されている)を目指すのも政府の役割とされます。あくまで民間産業主体で、政府は支援者であるべき(特に税制や金融施策・貿易関連などの仕組みづくりに専念せよという思想)ということが述べられています。

 

 

 

 

【所感】

・1990年頃に著された本である為、各国への提言はさすがに古さを感じましたが実社会の予言となっているような考察(イギリスや日本のパートは特に)も見られ、さすがポーター先生と思わざるを得ない内容でした。本書は競争の戦略・競争優位の戦略で構築した理論・フレームワークを応用して産業や国の競争優位を論じたというスケールの大きな内容で、ミクロ経済・マクロ経済・公共経済学の橋渡し的な内容になっています。マクロ経済・公共経済は勿論、世界史や宗教に関しても関心を持つような内容で自分の中で最も学んでみたいなと広範囲について思ったのが率直な読後感としてあります。

・一方で、この本の内容は製造業偏重(ポーター理論全体に言えることですが)であり、企業経営(主に組織マネジメントのスコープがすっぽり抜けている)の実務に当てはめると不十分感もぬぐえない内容です。まして、世界全体で一定物質的に豊かになった現代においては単純成長を追求することが難しくなっており、経済発展の白地がある大前提に物を考えることは出来ないのが我々現代人が置かれている環境だと思います。(資本主義の限界が全世界的に叫ばれていることからも自明かと。)なので、物事を考える土台として本書含めポーター理論は変わらず有効ですが、これらを実社会の課題に即して応用し課題に取り組む真摯な姿勢が本書を読み、活用する人に求められるということだと思いました。※理論を振りかざしてアナリスト的に現状を分析・論じようとしても何も社会は良くならないので。

 

以上となります!