雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪共産党宣言≫

今回はマルクス・エンゲルスの代表著作共産党宣言を要約していきます。

所謂、共産主義に関する原典ともされ、19~20世紀の社会システムに大きな影響を与えた思想が記されています。経済学や経営学の理解を深める中で、資本主義の原理や歴史に興味を持つようになり、相対する形で存在する共産主義について理解を深めたいと思うようになったのがこの本を読むきっかけでした。

 

 

共産党宣言

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■ジャンル:政治学・経済学

■読破難易度:低(80ページ程の書物であり、非常に平易な言葉で記述がなされているのでとても読みやすいです。宗教がヨーロッパに与えてきた影響や封建制・人権革命(特に清教徒革命・フランス革命)に明るいとかなり面白く読めると思います。)

■対象者:・共産主義について理解を深めたい方全般

     ・20世紀の社会の思想システムについて興味関心のある方

     ・資本主義の仕組みについて理解を深めたい方

 


共産党宣言改版 (岩波文庫) [ カルル・ハインリヒ・マルクス ]

【要約】

「人類の歴史は階級闘争の歴史である」という衝撃的な問題提起から本書は始まります。即ち、人種身分宗教など形の差はあれども「支配する人と支配される人」の構図による闘争を手を変え、品を変え繰り返してきたことが人類の歴史であるということを指摘します。そして、資本主義という社会システムは多くの国の封建制を崩壊させ、あらゆる価値尺度に商業的な概念をもたらした(金や資本さえあれば支配階級になれるということです)最も愚かなシステムであると痛烈に批判します。

・資本主義はその仕組みの都合上、資本家(生産手段や財を持つもの)が労働者に対して支配的な地位に立つことが出来、労働者は賃金という生活をする為の最低限の取分しか保証されず、企業余剰の多くは資本家の取分になり労働者は資本家に搾取されているという現状を痛烈に批判します。これでは、王制や封建制による支配と何ら変わらない、むしろ悪化している、なのでこの「狂った社会をぶち壊し、真に平等な社会を実現せよ」という共産主義の概要に帰結します。

※当時は多くの人がプロレタリア階級(労働者)だったので、人類の大半が搾取をされているという課題提起に共感する人は多かったが故に浸透したとされます。同時期に議会制民主主義・政党政治など権利の平等化が叫ばれていることも上記課題感が社会全体で強かったことの象徴と言えるでしょう。

共産主義では私有財産を否定しています。これは乱暴に言うと、「既存の資本主義経済社会でもブルジョア階級(資本家)の一部に富が偏在しており、多くのプロレタリア階級には生活を生き延びるくらいの取分しか存在しないので、多くの人にとって私有財産はあってないようなもの。なので、いっそのことなくしてしまいすべて国有化せよ(危険因子を取り除け)」ということを言わんとしています。なので、計画経済や国家による資本の独占・社会インフラの整備などの権限移譲を託していくことが具体的な方針として存在します。

※計画経済は「イノベーションにより需給曲線の均衡が常に崩壊する為、成立しない」というシュンペーターの課題提起を度外視しており、中央集権化は結果として独裁の温床となったというのが歴史の悲劇です

 

 

【所感】

中国ロシアなどがこの共産主義社会主義を中心に据え置いた国家を志向し実践したのは20世紀の歴史を見れば明らかでしょう。現在もうまく形を残して存続しているのはキューバくらいで、この思想には人間の行動経済学的な側面や経済学の原理を度外視していた論理的綻びがあったことは歴史を見ると否めません。

共産主義は社会の理想の思想体系になり得ませんでしたが、結果として、ケインズ経済学(特に財政学・公共経済学)の発展を促進し、思想が咀嚼される過程で労働者の権利・待遇が大幅に改善されたので、後世に与えた影響は甚大と言えると思います。日本にも大正期以降共産主義の思想が持ち寄られ、数十年に渡り社会に影響を与えていきました。あまり、背景知識がないので深堀は避けますが、本書でいうブルジョア階級が大半を占める東大において安田講堂事件が発生したのは滑稽というか皮肉でしかないのではないか?と本書を読んで思った所でした。

マルクスエンゲルスの著作や資本主義に関する理解を深めることで社会の仕組みを自分なりにもう少し言語化出来るようになるとそれはとても面白いだろうなと思ったのが読んだ感想として一番大きいです。こうして失敗や反省を繰り返し、人類は少しずつ進化・発展しているという弁証法的な立場に立ちたいなと思った次第です。

 

以上となります!