雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

≪下期総集編≫2021年度に読んで面白かった本7冊

今回は定期的にまとめている「読んで面白かった本シリーズ」です。

今期の上半期は経営学(産業組織論・ファイナンス・会計)の本を中心に読んでいましたが、下半期は産業組織論の起源に興味関心を持ち、周辺領域の本を読み漁っていました。結果として、岩波文庫の社会科学分野の本を中心に読んでいました。

 

※2021年度上半期の要約は下記。

≪上期総集編≫2021年度に読んで役に立った本9冊 - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪目次

GMとともに

・国の競争優位(上)(下)

・エンジニアリング組織論への招待

国富論

・経済発展の理論(上)(下)

・職業としての政治

共産党宣言

 

 

GMとともに」

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■要約≪GMとともに≫ - 雑感 (hatenablog.com)

・自動車メーカーGMを偉大な企業に成しえた経営者アフレッドP.スローンの自叙伝です。スローンは「本社と事業部の役割分担」「財務コントロールなど今となっては組織論・経営管理の王道とされる考え方をいち早く実践して、偉大な成果を成し遂げた功績があり、先見性に感服します。

・自動車という事業の考察をする第一部と販売・研究開発・生産・管理など機能別の職能/組織への考察をする第二部で構成されています。製造業に関わりのある人は勿論、大企業の経営は何ぞやということに関心のある人には学びのある内容かなと思います。

 

「国の競争優位(上)(下)」

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■要約≪国の競争優位(上)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国の競争優位(下)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

マイケル・ポーター「競争の戦略」「競争優位の戦略」の2冊で体系化した5フォース・バリューチェーン等の経営理論を活用し、「国毎に特定産業が強い・弱いという傾向が出るのはどのような影響因子があるのか?」ということを明らかにした本です。

「企業の戦略、構造および競合企業間競争」「需要条件」「要素条件」「関連・支援産業」で構成される4つのダイヤモンドというフレームを用いて、本書はアメリカ・スイス・スウェーデン・ドイツ・日本・イタリア・韓国・イギリスの国別の傾向及び産業別の解説がなされています。

・事業を国際的に展開する企業に勤務している方は勿論、公共経済学やマクロ経済学に関心のある人にとっても面白く読める本だと思います。マクロ経済学と産業組織論の橋渡しとなるような内容です。

 

「エンジニアリング組織論への招待」

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■要約≪エンジニアリング組織論への招待≫ - 雑感 (hatenablog.com)

・タイトルだけ見ると技術者向けの本かなと勘違いしそうになりますが、内容は「不確実性の高い場面においてどのように課題を解決していくべきか」という取り組み方・思考プロセス・チームビルディングについてまとめられている本です。

エンジニアリングとは不確実性を取り除いていく行為である」これが本書の大前提で、プロジェクトマネジメントのお作法・メンタリング技法・アジャイル開発などが具体的なトピックスです。

・プロジェクトマネジメントの経験値・スキルが圧倒的に乏しい自分にとって、「不確実性の高いものに勇気をもって首を突っ込み明らかにしようと身を粉にすることは価値が高い」と気づかせてくれた本です。

 

国富論

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■要約≪国富論 第一編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第二編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

「神の見えざる手」で有名なアダム・スミスの代表作です。

・経済学を学問として体系化し、「政府が市場へ適度に介入すること、国全体の富を最大化するべき」という政治経済学を提唱した学者です。物質的に豊かになることを希求している時代背景も相まって、当時もっとも資本投資先として最も効率的(≒生産性が高い)と見なされた農業を産業として重視する姿勢や貨幣価値に関する考察はとても面白いです。高校で世界史を学んだ方・大学で経済学を学んだ方・イギリスという国について関心のある方にとっては貪るように読める面白い本だと思います。

 

「経済発展の理論(上)(下)」

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■要約≪経済発展の理論(上)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪経済発展の理論(下)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

景気循環理論で有名なシュンペーターの代表作です。

イノベーションの原理を解明し、古典派経済学が前提とした需給曲線の均衡を否定し(買手売手双方の努力により、継続的にイノベーションが発生し、その度に需給曲線の均衡は崩壊するという理屈)、後にケインズ経済学と呼ばれる学問分野の成立に大きく寄与した本です。

イノベーションは企業活動の根幹をなす」という示唆は後年のドラッカーの思想や「イノベーションのジレンマ」など有名著作に受け継がれています。他にも利子の源泉・信用創造のメカニズムなど貨幣機能に着目した金融理論は読みごたえがあります。

 

「職業としての政治」

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■要約≪職業としての政治≫ - 雑感 (hatenablog.com)

・「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」で有名なマックス・ウェーバーの著作です。議会制民主主義の発展と共に、政治活動を仕事にする政党政治が台頭した社会情勢を背景に、「職業としての政治活動をする際にはどのようなことが起こるのか」ということをまとめた本です。

・「政治とは本質的に権力を追求する行為である」ウェーバーは規定します。暴力的な力を持つ権力に近づき、権力を活用する立場にある政治に従事する人には高度な倫理観が求められるというのが本書の基本的な思想です。

「社内政治」という言葉があるように現代の組織社会で生きていく上では政治活動は避けて通ることは出来ない事象だと思っています。しっかりメカニズムを理解した上で、この手の話には向き合っていきたいという個人的な関心にハマった本です。

 

 

 

共産党宣言

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■要約≪共産党宣言≫ - 雑感 (hatenablog.com)

マルクス・エンゲルスによる共同著作です。タイトルくらいは聞いたことがあるという人が多いのではないでしょうか。19~20世紀の人間の権利に関する問題提起から始まり、共産主義とは何ぞやというエッセンスが詰め込まれた本です。

・「人類の歴史は階級闘争の歴史である」という衝撃的な問題提起から本書は始まります。即ち、人種身分宗教など形の差はあれども「支配する人と支配される人」の構図による闘争を手を変え、品を変え繰り返してきたことが人類の歴史であるということを指摘しています。

共産主義は批判的に見られることも多いですが、現代の高度な産業社会が形成されたのは共産主義を実践しようと20世紀に各国が試行錯誤したり、批判的に考察してきた歴史・先人の努力があってこそだと自分は思うので、敬意を表したいと考えます。マルクスの経済学・哲学草稿よりも読みやすいので、共産主義社会主義の入門書としてどうぞ。

 

【所感】

・エンジニアリング組織論への招待は別として、全般的に日々自分が直面している課題の解決策を示してくれるような類の本ではないです。「社会がどのような影響因子で構成されているか」という点に対して解像度を上げたいという近年の個人的な課題意識にはぴったりの本達でした。経済学部出身なので、経済学の古典的著作はもう少し読み進めて、自分なりの見解を深めていきたいなと思った次第です。

・改めて振り返ると、自分が日々従事する仕事に対する即効性の高い回答が得られる本はそこまで読まなくなったのは思考範囲が進化したのかもしれません。(実践知を高めないともはや進化しないという段階に直面している仕事が多いからだと思っています。)

 

以上となります!