雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪武士道≫

今回は新渡戸稲造氏の「武士道」を要約していきます。

翻訳本が世界的にベストセラーになっており、日本特有の武士道の精神について体系化した本です。日本には宗教教育がなく、それに代わる形で存在する道徳教育の価値基準が武家社会で形成された「武士道」と呼べる精神だとされます。東洋と西洋の文化的交流というのがこの本が著された時代の象徴的なテーマであり、その後も日本では川端康成太宰治芥川龍之介などが文学作品を通じて取り組み、西洋ではドストエフスキーなどが取り組んだとされています。

 

「武士道」

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■ジャンル:哲学

■読破難易度:低~中(160頁程の短編であり、読むこと自体にはそこまで時間がかからないと思われます。一方で仏教・神教・キリスト教・日本史等に精通すればするほど、解釈の幅が広がるという読者に委ねる姿勢の本とも呼べます。)

 

【要約】

■道徳体系としての武士道

「日本は最後まで封建制の形を残した独特の国である」マルクス資本論で論じたほど、日本には特有の精神が存在するとされます。武士道という武士により培われた平安時代以降の価値観は西洋社会でいう騎士道と似て非なる特殊な精神体系として存在し、それが日本の封建制を支え、道徳教育にもなったとされます。

・現世での利潤追求を否定し、「善く生きる」という現世での生き様を重んじるのが武士道特有の精神です。高潔な魂の存在を前提にしており、「現世で醜態をさらして生き永らえるくらいであれば美しく死にゆくべき」という価値観を持っております。切腹に代表される自殺や侘び寂びの精神等が象徴的なものと言えるでしょう。

士農工商という言葉に見られるように武士中心の社会では商業により儲けを得ることを蔑視する傾向があります。こうした価値観があったからこそ、「武士が物質的に豊かになり、封建制の前提が崩壊する」ということがなかったことは武士中心の社会の長期的な平穏を支えたといえるのでしょう。

 

■日本人特有の精神

「実利」よりも「名誉・規律に忠実にあれ」という自己実現を重視する価値観は武士道の精神の特徴と言えます。よりも虚栄心世俗的称賛を美徳とするという精神論的なものは良くも悪くも日本人特有の精神なのでしょう。

 

■礼

・「他人に敬意を表する」・「社交的態度として礼儀を重んじる」というのは日本特有の価値観です。西洋社会が流行により行動が流動的になる中で、日本人が独自の美学を持ち一貫性を持つのは美しく誇らしいものである新渡戸稲造は評しています。茶の湯の作法など日本の伝統芸能によくみられるように、日本には独自の規律を守ることを美徳とするという独特の価値観があるのだと評されています。

 

■武士の教育及び訓練

・武士はとにかく品性を保つことを重視しており、知性知識は二の次という習慣がありました。「善く生きる」というのが人生のテーマであったのです。※随所に仏教的な価値観が見えます。

・宗教や神学は僧侶に任せ、哲学はせいぜい日々の行動の模範として時に政治に導入されるくらいであったというのが学問諸派の位置づけでした。武士は行動を重んじます。武士道は質素倹約を重んじ、時に貧困を積極的に受け入れるという特徴があり、だからこそ封建制が合理的な理由で長期的に存続したといえるのでしょう。

 

■男尊女卑に関する誤解

・武士(≒生物学的に適性が多いのは男性である)中心の社会を形成するために役割分担を徹底した結果、「家庭を守る女性」・「武士を全うする男性」という構図が出来上がり、結果として男尊女卑のように日本社会は見えたのだ新渡戸稲造は評します。

※武士道は自己犠牲を前提とした精神であり、封建社会に成立した限定的な精神と言えるのかもしれないです。

 

 

【所感】

・日本史大好きな自分としてはとても面白い内容でした。西洋社会と比較して、他の宗教にも言及しながらメカニズムを明らかにしていく構成になっている為、結果としてキリスト教や仏教の理解も深まる内容になっておりとても面白かったです。

・個人的にはこの武士道の精神由来の道徳教育が日本社会に長らく浸透した結果、禁欲の精神が長期的に浸透し、その結果資本主義労働にフィットしたのではないかと考えています。だから、西洋由来の資本主義経済において、日本だけが後発ながら経済大国として成長していけたのではないかと歴史的な結果を解釈しました。原因は他にもありますが、この手の話は教義に忠実であろうと徹底した禁欲的な態度を取るプロテスタント諸国が結果として資本主義を促進させたというマックスウェーバーが提唱した説に通じるものがあるのではないかと感じました。※詳しくは「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」の要約をご確認ください。

■要約≪プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神≫ - 雑感 (hatenablog.com)

以上となります!