雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪国富論 第五編後編≫

今回はアダムスミスの国富論要約シリーズ第六弾となります。

長きに渡った国富論要約も今回で最終回となります。

第五編第二章(社会の一般収入あるいは公共収入の財源について)を取り扱います。租税や公債に関する理論を体系化したパートです。アダムスミスが理想とした「政治経済学」の完成系とも言えるエッセンスが詰まっております。

 

 

※一編の要約は下記。

■要約≪国富論 第一編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

※二編の要約は下記。

■要約≪国富論 第二編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

※三編の要約は下記。

■要約≪国富論 第三編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

※四編の要約は下記。

■要約≪国富論 第四編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

※五編の要約は下記。

■要約≪国富論 第五編前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

国富論Ⅲ」

■ジャンル:経済学・史学

■読破難易度:中(経済学の概念を0から体系化した本なので、前知識がなくても読み進めれば原理や概念は理解することが出来ると思います。)

■対象者:・ミクロ経済学・政治経済学に興味関心のある方

    ・人類の発展の歴史に興味関心のある方

    ・資本主義の仕組みに興味関心のある方

 

【要約】

■主権者・国家の財源について

・主権者並びに国家の財源は公債(借金)か資本(土地のような固定資本)の2種類のみです。資本を貸し出し、賃料利子を得ることで生計を立てているのが基本です。尚、「国家の財源を最大限活用し、経済活動全体に介入するべき」という思想がケインズ経済学マクロ経済学)のベースとなっております。

 

■租税について

・一般市民から税を徴収し、その財源を基に公共サービス(インフラ・国防・教育など)を提供することで治安維持をし、民間産業と役割分担をしていくというのが租税の

最もな理由です。租税はその性質上、究極的にはその「払い手の一般市民に貢献しやすいロジックに基づき策定され、支払い時期や方法も実践されるべき」と本書では述べられています。代表的な租税として地代消費税贅沢品にかける高率な税などが挙げられています。

 

■土地に纏わる租税について

土地は古典的な資本であり、「労働にレバレッジをかけるだけでなく土地を改良することでそこで豊かな農業活動が可能になったり、産業活動(主に製造業)が可能になるので、非常に価値が高い」と古典派経済学では見なされています。建物料敷地地代など様々な名目のもとに租税をすることが出来る(資本へのアクセス料と解釈できる為)故に、その取り扱いには国の方針が色濃く出ると本書では述べられています。

 

■労働に賃金に掛かる税について

・労働賃金は労働に対する需要食料価格(労働供給者は食っていく為に労働市場に参入するので)により規定されます。賃金は資本の余剰利潤を財源に支払われる為、労働生産性を高めて、余剰利潤を高めることで資本所有者と労働者のインセンティブは双方強化されることになります。

 

■消費税について

・「市場価格の中に一定の税率を含んで流通させることで一般消費者全てにその消費額に応じて租税負担をさせる」という消費税の仕組みは最も合理的であると本書では述べられています。酒や宝石など一部の人の嗜好品に対しては「高額な税負担を強いることで、社会全体の所得再分配を狙う」という考え方はこの時代から実践されていたようです。一方で、「資本に直接高額の税率を課することは資本の国外移転を助長するので望ましくない」という現代の金融商品場の論理がこの頃には確立している点も注目ポイントです。

 

■公債について

・国の借金という形で歴史を通じて手を変え、品を変え公債は世界各国で発行されて来ました。特に戦争が発生すると国は一時的に大量の資金を必要とする為、乱発傾向にあなります。故に、「平時に貯蓄を十分に確保していない国は戦争をするたびに貧しくなるというジレンマを抱えていた」と本書では指摘されています。

・「公債が膨れ上がる=財政赤字の拡大=将来の租税負担増加」という負のスパイラルは当時のヨーロッパ諸国でも発生していた事象のようで、財政を健全化志向することが社会全体の利益になるという主張がなされています。(現代のように、国間において金融市場で競争力学が働くようになると上記主張はより重みを帯びてきます。)

※アダムスミスの基本思想として「資本の非効率な状態は社会全体の生産活動を大きく阻害する」という考え方があります。

 

 

【所感】

・本書を読んで、租税に関する理論は既にこの当時に完成形に近しいものが論じられていたことが驚きです。財政学公共経済学の教科書をしっかり学んで再考してみたいなと感じました。

・本書の舞台となるイギリスは島国・豊富な天然資源という外部環境に恵まれただけでなく、アメリカを植民地に抱えていた為、「労働と資本を最大限活用して生産活動を行い、物質的に豊かになる」という資本主義の原理原則を実践しやすい格好の環境が揃っていたことがわかります。だから産業革命しかり、世界の覇権を占めるような経済活動を長期に渡り実践できたのだろうと感じました。一方で、同条件が揃っていながら衰退の道を辿ったスペインポルトガル(※いずれも南米を植民地に抱えていたが、専制政治の温床となるに過ぎなかった)との対比を見ると宗教的な資本主義へのフィット感(※詳しくはプロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神に記載有)というものは考えずにはいられないなと再認識した次第です。

 

以上となります!