雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪銃・病原菌・鉄(上)≫

今回はジャレド・ダイアモンド氏の「銃・病原菌・鉄」を要約していきます。

人類史の謎を紐解く上で重要な要素となった要素を何個かピックアップし、それがなぜ起きたのか?を解明していく内容となっています。前編は文明間の衝突の雌雄を決した三要素の一つ「病原菌」に関する考察・「狩猟民族⇒農耕民族への移行が地域によりタイムラグが生じた要因」についてなどを深堀しています。

似たような内容を扱った「サピエンス全史」を昔読んだことがあったのですが、本書の切り口の方が個人的には読みやすく面白かったなと感じています。

 

 

「銃・病原菌・鉄(上)」

■ジャンル:歴史

■読破難易度:低~中

■対象者:・人類の歴史の起源に興味関心のある方

    ・文明間の衝突に関わる力学に興味関心のある方

    ・先進国・途上国の構図がどのように形成されたのかについて関心のある方

 

【要約】

■文明間の衝突

・人類は歴史を経る過程で、世界各国で文明間の衝突を経て進化をし続けて現在の形になりました。いつの時代も雌雄を決するのは「より優れた文明を構築出来ているか」であり、農耕文字科学技術など要因は違えど構造的には同じ争いを繰り返してきました。尚、東南アジアやオーストラリア大陸の文明が相対的に発達が緩やかであったのは「競争力学が働かず発展するインセンティブが乏しかったから」「文明の発展に欠かせない資源が不足していたから」などが挙げられます。

 

■農耕技術の発達

「狩猟民族⇒農耕民族への移行」というのは人類史の大きな転換点です。

・食糧生産技術の発達は農耕家畜の2つの側面から見ることが出来ます。家畜は動物性たんぱく質の供給源として大きく人類に寄与してきました。世界に広がる動植物の大半は人間の食用に向かないので、自力で食糧生産をするという技術は、養える人を従来の数百倍規模に拡大する偉大な貢献をしたと言えます。

・農耕技術の発達「社会全体における分業」という概念をもたらし、資本の貯蓄分配再活用などの原始的な経済活動の基本体系を作り出した功績があります。

※もう少し抽象化すると、「動植物をうまく飼いならしたり、加工・保有することで様々な技術を手にしたことで社会全体の生産能力は大幅に向上した」ということが言えます。

 

■狩猟民族⇒農耕民族への移行が地域により時間差を伴った理由

植物の栽培化動物の家畜化は人類の大きな発明ですが、世界各地ですんなり実践されていった訳ではありませんでした。農耕の発達はそれが出来る環境条件が整っており、「定住生活が狩猟生活よりも魅力的である」ということが証明されて初めて、世界各地域で実践されていきました。

・食料の貯蓄・保存の概念が発達し人類の生存可能数が大幅に増え、定住することで地域社会を形成していったのが現代への道筋です。余剰食糧の蓄積・貯蔵が可能になったことで社会全体で分業が可能になり、生産活動以外に従事する階級が形成されるようになりました。メソポタミア文明が発達した肥沃な三日月地帯農耕をするのに適した気候ならびに動植物が生息している条件がそろっていた為、早期より実践されました。

※その時代の成功を左右する要素を外部環境として持ち合わせている地域が覇権を占めるというのは歴史の傾向ですね。

 

大陸地形の特徴(アメリカ大陸・アフリカ大陸は縦長・ユーラシア大陸は横長)が人類の発展にどのように影響を与えたのか

ユーラシア大陸農業栽培に適した種族が多く生息しており、気候も安定しているという環境面のアドバンテージが圧倒的にありました。東西に長いユーラシア大陸東西間において気候が一定であるため、移住に向いており、栽培・作物技術の伝播が他の大陸よりも早く進行しました。一方、南北に長いアフリカ大陸・南アメリカ大陸気候があまりにも違う為、移住は向いていない上に、作物などの前提条件も異なる為、技術の継承・伝播に時間を費やすことになりました。加えて、気候が違う為移住に伴う外部との接触で病原菌に文明が死滅に追いやられるリスクが高かったということも言えます。

 

■農耕民族VS狩猟民族

「農耕民族VS狩猟民族」において農耕民族が安定して勝利を収めたのは食料を保存する能力がある為に人口を集中することが出来たからだと言われています。人類は戦いで死んだように見えますが、最も多くの死因は病死です。

・病原菌に対する集団免疫が文明の雌雄を決してきたことは多いです。病原菌は生き残る為に感染能力の高い状態であろうと増殖を試みます。植物が受粉を出来るように外界に応じて進化していった行為に似ています。病原菌は人間の体内に入り込み、その栄養素を摂取して生きる為に増殖・感染を試みる生物です。

・農耕民族は定住をする為、仮にそこで病原菌が増殖したとしても抗体を早期に創ることが出来、集団免疫をどこかのタイミングで獲得することが出来ます。一方、狩猟民族は定住をしないため、抗体を獲得することが出来ず移住先で病原菌に一気にやられるリスクを孕んでいます。病原菌は常に進化をしており、動植物を媒介に増殖します。そして、その脅威を象徴しているのはアメリカ先住民がユーラシア大陸の文明と衝突した際に、銃や鉄器による殺戮以上に、病原菌による死亡が多かったこと」からも明らかと言えるでしょう。

 

【所感】

・「狩猟民族⇒農耕民族への移行という些細なアドバンテージが後世の文明発達にも影響し、地域間格差にそのまま繋がっている」というのが言われてみればなるほどの衝撃的な内容でした。南北問題と呼ばれる現象は歴史を紐解いていくことでこのように端を発したのかと理解が深まりました。

※尚、北米南米の比較は旧宗主国であるイギリススペイン・ポルトガルの労働・資本に対する考え方の違いも影響している為、プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神を読むと別切り口からも読み解けるので面白いです。

・本書で文明の起源として重視される肥沃な三日月地帯が現代も最先端の栄華を誇るかというとイコールではない点からも「時代の成功要因を外部環境・内部環境として持ち合わせている地域が栄華を誇る」という歴史的教訓がここでは学び取れました。

生命科学の学問的発展により、医学が整備され病原菌に対する対策を世界全体で実践できるようになったから、現代のような国際的な人の交流が可能になったと考えると生命科学の人類への功績は計り知れないものがありますね。

 

以上となります!