雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪組織の経済学 Ⅳ部~Ⅴ部≫

今回は「組織の経済学」要約その2となります。

2回目の今回は4部~5部を扱います。

4部は「効率的なインセンティブの提供:契約と所有」について、5部は「雇用:契約・報酬・キャリア」をテーマとしています。企業の内部労働市場の原理を最大限活用し、事業としての成果を上げることと資本投資採算性(株主還元の観点から)を両立する為にはどんな方策があるか?を論証しています。

※過去の要約はこちら。

■要約≪組織の経済学 Ⅰ部~Ⅲ部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

「組織の経済学」

■ジャンル:経済学・経営学

■読破難易度:中~高(ミクロ経済学・経営政策などの基本的な理論を理解している前提で論証が進むので、背景知識がない人は少し時間がかかるかもしれません。バーニー氏の「企業戦略論」などを読んでから読むとわかりやすいと思います。)

■対象者:・市場取引・内部組織どちらが優れているかについて興味関心のある方

    ・ゲーム理論行動経済学がどのように企業経営に応用されているか知りたい方

    ・組織内部特有の人間の行動に興味関心のある方

 

【要約】

インセンティブ契約

・望ましい行動に対して報酬を付与することで従業員のモラル・ハザードのリスクを軽減することを狙うインセンティブ契約は株主と経営者に関わるエージェンシー問題対策として有効であるとされます。具体的には業績連動の報酬望ましい行動を評価する人事制度設計などが挙げられます。

・制度運用に関しては指標の重要度や確からしさをボード陣がしっかり検証した上で運用されるべきであり、また従業員は金銭的報酬だけでなく、仕事を通じて得られる遣り甲斐・帰属意識・名誉欲等の意味報酬も含めて行動をするという前提に立ち、制度設計・運用していくことが重要となります。

※現場組織運営において定量・定性両指標を用いて運営することが多いのは上記側面から来ています。

 

私有財産制度

・資産を所有するということはルールの範囲内において、その資本の残余コントロール権を有しているといえます。資産の所有権を有する人がその資本の活用用途や活用主を決めることが出来、それには契約という形でのルールが定められます。

・資本主義経済において、資本生産手段であり、価値貯蔵手段であります。労働資本にレバレッジをかける尊い価値を持ち、誰しもが供給できる為、資本労働を効果的な行為に変化させるということで価値を持つとされます。

※東欧諸国・アジア諸国共産主義制度と異なり、私有財産を認可し、経済主体が個別努力をして資本と労働をやり繰りし生産活動を最大化するインセンティブが働く資本主義経済は尊いというアングロサクソン系の価値観満載の考えがここでは展開されます。

私有財産制度が認められない所には企業努力や市場のメカニズムが働く余地はありません。そうなると、わざわざ企業は内部組織を肥大化させて、個別最適化した取引を志向しようとすることは出来ない/しない状態になります。

 

■雇用政策と人的資源のマネジメント

・先進諸国では労働所得国民所得の2/3を占めます。そうした労働者階級の台頭によりサービス産業が形成されていきました。資本市場の成功の為に各企業の管理職階級が「人的資源をうまくメンテナンスして最大成果になるように資源管理すること」は社会的責任でもあると言えます。

・現代のように高度化した産業が形成され、知識労働者階級が台頭した時代においては需給バランス以上に賃金を構成する要素が増えました。例えば、内部組織においてある職能の限定的な価値が市場平均よりも高く評価されるなどです。なので、企業は労働市場との対話・マーケットシグナルとして企業文化の形成や人材資源のメンテナンスを運営方針に入れないとうまく成果を上げることが出来なくなったと言えます。

「企業文化を構築する」というマネジメント手法は組織の誘因になるだけでなく、労働市場向けにスクリーニングをしているとも見て取れます。

 

■内部労働市場

・企業は内部組織において職階を設け(例:ブルーワーカー・ホワイトワーカー/一般労働者・管理職)人材を管理・活用することを志向します。この職階には待遇の公平性もなければ向き不向きに伴う効率性もないです。職階を用いた昇進インセンティブを働かせることは内部労働市場への定着及び活性化の観点で有効なマネジメント手法たりえるのです。

・職階によるヒエラルキーを形成することは従業員に対して求める仕事の水準を明示することと、平均以上に頑張ることのインセンティブ(報酬が可視化される)が付与される効果をもちます。そして階層型組織は明確な力関係を示すので、金銭報酬は勿論、意味報酬協業推進(指示命令系統がどうかを一目で明らかにする)という副次的な効果ももたらします。

 

テニュアとアップ・オア・アウト

テニュア(終身雇用保障)を取る企業もあればアップ・オア・アウト(主に専門職例:金融・会計・法律・軍隊・コンサルなどで多い)の雇用慣習を示す場合もあります。

アップ・オア・アウトは高い給料をインセンティブに猛烈に働き成果を出すことを望む(なので、労働集約型ビジネスに適用されるのが大前提)ということを意図した人事施策です。企業の活力を維持する為に有効な施策であるとされますが、その一方で常に外部市場から人材資源を調達する必要がある為、仕事及び待遇で高い魅力をアピールし続ける必要が出てきます。

テニュア更迭リスクを抑え、その本来の活動に専念させる効果をもちます。定量比較の難しい学問の世界などで採用されることの多い雇用施策です。

 

■固定給・出来高

出来高生産ラインの現場社員営業職に適応されることの多い制度です。個人の努力が業績に反映されるもっともらしい報酬制度ですが、生産や販売活動は事業部としての方針で拡縮するので、その煽りを金銭報酬で受けるということで労使対立を生むリスクをもっているのが特徴です。

・日本のメーカーでは技能給と呼ばれる製造業に関わる技術の取得量に対して連動した給与を支払うという方式を採用しています。仕事を階層化出来る産業においては有用であるとされており、何に報酬を付与するのかを明示することで経営側は労働者に対して望ましい行動を示唆・誘導することが出来ます。この統制がある程度働くことが内部組織が市場取引よりも優れる理由とされます。

 

■仕事のデザイン

・仕事に関しては「何に責任をもつのか」を明確にすることが評価・実行双方の観点からも望ましいとされます。そして、仕事をする上での出来を左右するものが可変要素・不変要素の度合いがどれだけあるかで判断していくということも求められます。なので、管理職は極力評価する対象の現場業務周辺知識が明るいほうが望ましいとされます。「職階の高低と自由裁量の度合い」は相関する傾向が強いです。

 

■経営者及び管理者の報酬

・経営者や管理職は資本主義経済において貢献している役割は高いというロジックからアメリカでは労働者の平均賃金以上に上昇しているのが現状です。これは費用対効果があるのか?という投げかけを本書ではされます。

他人の成果に責任を持ち、仕事を設計することで平凡な人を以て非凡な成果が出るように組織や仕事を設計するのが管理職能で、そのレバレッジ機能のある人材を優遇する制度設計をすることで組織の誘因を働かせるというのが意図です。

・報酬体系はストックオプション自社株制度などの業績連動の後払い報酬インセンティブに付与することが有効とされます。企業収益従業員の努力のベクトルを揃える意味合いで有用である為です。

・企業活動に大きく寄与する人に報酬を付与することは事業の成功になることは勿論、株主価値向上に寄与する確率も高まるので三方(企業・従業員・株主)良しということになります。

 

 

【所感】

・Ⅳ~Ⅴ部は企業経営の実務により踏み込んだ側面が強い内容となっており、経営学の本で論証されている内容を別角度からも検証したような感覚を持ちとても面白かったです。

・職階の上位職能を志向していくということは仕事を設計すること・動機付けをすることに加えて株式市場の観点を意識していくことが求められるということを改めて痛感しました。資本出資者の株主還元にかなうように事業を収益性あるものにすると共に、社会的な価値を帯び、将来性があるものとデザインしていくように自分の持ち場で実践していくことからしかないなと感じた次第です。

※個人的には上場企業で勤務し、責任ある立場での仕事を好むと好まざるに関わらず取り組まねばならない人は程度の度合いはあれども持たないといけないスコープの考えかなと思っています。

・自分が従事する職能や組織マネジメントに関しては実践をしていくことで学びを得ていくことが出来ますがファイナンスの観点は自発的に知識や機会を取得していかないとどうしても抜け落ちてしまうなと再認識をした次第でした。

 

以上となります!