今回はリカードの代表著作「経済学および課税の原理」を要約していきます。リカードはアダム・スミスと並んで古典派経済学の大家として名を馳せ、「国富論」の理論を昇華させ、比較生産費説など現代に通じる経済理論を体系化した偉人です。
本書は上下巻で構成され、経済学原理パートと課税原理パートの二部構成になっています。上巻はアダム・スミスの「国富論」の内容をおさらいする形で古典派経済学の基礎理論をまとめあげ、その後に課税理論に関する見解を展開していく内容となっております。
■経済学および課税の原理(上)
■ジャンル:経済学
■読破難易度:低~中(比較的平易な言葉で書かれており分量も250ページ程度です。国富論を読破した後に読めば非常に読みやすいと思います。)
■対象者:・古典派経済学の理論について理解を深めたい方
・課税原理・固定資本の原理原則について興味関心のある方
・公共セクターに関わるか方全般
【要約】
※アダム・スミスの「国富論」の理論を応用・昇華していく仕立てになっているので下記も参考にしてください。
※一編の要約は下記。
■要約≪国富論 第一編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
※二編の要約は下記。
■要約≪国富論 第二編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
※三編の要約は下記。
■要約≪国富論 第三編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
※四編の要約は下記。
■要約≪国富論 第四編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
※五編前半の要約は下記。
■要約≪国富論 第五編前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
※五編後半の要約は下記。
■要約≪国富論 第五編後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■資本主義経済学について
・労働・機械・資本の3つを投入物として生み出される地代(資本の取分)・利潤・賃金(労働の取分)の3つの生産物があります。この6つのやり繰りについての理論を体系化したのが古典派経済学であり、資本主義の根本原理です。
■商品価格について
・製品にしろサービスにしろその財を生み出す為には固定資本や労働が投下されます。商品価格は投下労働量により規定され、商品市場価格(市場取引される際の財の価格であり、自然な商品価格(≒原価)とは異なります)とは構成ロジックが若干異なります。その為、商品市場価格と商品価格の差分を生む為に、労賃を低くすること(低習熟度の人材でも製品やサービスが生産できるような体制を構築すること)や機械などの固定資本に生産させる割合を増やすことは試行され、その企業努力の賜物として利潤があるとリカードは説きます。
※なので、「労働集約型産業のサービス業というのはリカードの展開する理論的には商品構成要素が労働「量」で密になるので、そもそもイケてない」ということになります。資本集約型産業の製造業偏重になるのは、高度サービス産業を提供する知識労働者階級が形成される20世紀後半まで、自明の理として展開されることになります。
■資本の蓄積について
・「余剰利潤を原資として固定資本に投下していき、固定資本に利潤を生み出す割合を増やし続けること」が古典派経済学が推奨する原理原則です。「不動産や株式所有などの割合を増やし、労働による収入依存を減らしていきましょう」というよくある資産形成の謳い文句はこうした古典派経済学の理論から生み出されており、理論に忠実な妥当解と言えます。
・尚、古典派経済学が展開された時代のような低生産性の時代ではこの「資本の蓄積行為が出来るのは資本家階級だけであり、格差が拡大するのみで生産活動が加速することにより、労働搾取が拡大するので悪である」という問題提起をしたのがマルクスです。産業社会が形成され、企業の労働生産性が圧倒的に向上し、労働者が資本所有(株式や不動産)を容易に出来るような環境が整備されていき、問題が解消されていったのが20世紀半ば以降の世界各国での経済発展から見える妥当解です。
※そこに至るまでの労使対立や経営学を始めとした企業努力を支える理論の発展があって現代のような体制があるので、歴史に感謝をせざるを得なくなります。
■利子について
・資本へのアクセス料として利子は存在し、「他人に生産活動の権利を付与する」という名目で地代や金利は合理化されます。この生産手段である資本を所有する人に富が偏在化してしまう構図にあるのは資本主義社会の宿命であるともリカードは評します。「固定資本を最大限活動し、労働にレバレッジをかけて、物質を生産する農業と製造業は素晴らしい産業である」という立場を古典派経済学は採用します。現代のように商業や金融業・サービス業がこれだけ社会に広範に展開され重要な地位を占めるようになるのは高度化した産業社会においてだけであるということが読み解けます。
■貨幣について
・「価値の媒介物である貨幣の価格変動」と「貨幣により購買される商品の価格変動」は似て非なるメカニズムであるとされます。企業努力により増えた利潤を資本家階級に還元するか(≒資本投資により生産活動を促進する)・労働者階級に還元するか(≒賃上げにより、ロイヤルティの醸成や高度技能人材の開発促進など)は古典派経済学以来常に存在する二律背反の命題であるとされます。残念ながら、多くの収益性改善は資本活用によるものであり、資本への投資が最優先されるため、低生産性の社会では労働者は搾取されているように見えてしまうという構図にあるとリカードは指摘します。
※株式市場の発達や産業社会の形成による企業努力が活発化し、労働者の待遇が飛躍的に改善した現代では上記構図はそこまで問題になりませんが、「労働者にとって都合の良い会社・投資家にとって都合の良い会社・経営者にとって都合の良い会社はいずれも異なる」という示唆がこの時代に成されているのは偉大と言えるでしょう。
■租税について
・租税は土地と労働の生産物を原資として徴収されます。言い換えると、その国が保有する資本と収入により賄われるので、「産業活動に介入し優れた租税方法を確立すること」は国家の公共サービスの充実や役割分担の観点で重要であると言えます。古典派経済学の時代では「農業・製造業といった優れた資本投下産業の拡充とそれによる人口の拡大に対して政策を整備していくことで国全体の生産を最大化し、公共サービスを充実させ生活を豊かにしていく」ことが王道であると想定されました。
■租税手法について
・上巻では原生産物に対する租税・地代に対する租税・十分の一税(現代でいう消費税)・地租・金に対する租税・家屋税・利潤に対する税などについて理論が展開されています。現代でいう、固定資産税・消費税・所得税・法人税に該当するものです。大事な原理原則は「出来るだけ公正平等な税負担であること」・「納税者が支払いしやすい方法で納税されること」・「生産や投資を抑制しない塩梅を取ること」とされます。生産活動の根っこを抑える固定資産保有者に課税することは最もですが、重課税は資本の国外移転を助長してしまいますし、所得税・法人税の重負担は消費を抑制したり、商品市場価格に転嫁されたりするので、これらの課税はミックスで運用されないといけないという立場をリカードは強く推奨します。
【所感】
・アダム・スミスの国富論に比べると分量が圧倒的に少ないので取っ付きやすい本だと思います。(本書は上下巻で合計600ページ程度で、国富論は上中下巻で合計1800ページ程度なので、、)
・資本投資で莫大な富を得たリカードらしく、土地という固定資本を重要視する姿勢や各ステークホルダーのインセンティブに着目して理論を展開していく様が垣間見えます。全体を通じて、一部の立場に傾倒せず話が展開されていくので、とても読みやすいです。本書の内容を資本主義国が実践する中で出てきた課題に着目して批判的に検証し、新たな経済理論を構築したマルクス経済学・ケインズ経済学に大きな影響を与えており、リカードの後世にもたらした功績は偉大であると感じます。
・民間セクターと公共セクターは役割分担をして社会の発展の為に寄与していくべきというのは古来より不変な原理原則であると思います。本書のような根っこを形作る理論を自分なりに読み解き検証し、現代を生きる自分の行動に変容しようと試行錯誤していくのが一番学びがありますし、歴史の活かし方なのかなーと感じました。自分は民間セクターに所属する身なので、社会システムを理解し課税原理を個人の振舞いに応用したり、生産活動がどのように世の中に役立つかを理解するという婉曲的な活用方法しか出来ませんが、良き社会市民としてこうしたテーマに思案を巡らせることのできる境地に辿り着くことは何にせよ大事だなと感じます。
以上となります!