雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪完訳統治二論 前編≫

 

今回はジョン・ロック「統治二論」の前編を要約していきます。別名、市民政府二論です。本書は二部構成となっており、前編は当時の政治学の根幹を成していた王権神授説聖書を引き合いに出して、否定していくパートです。尚、公民の教科書に記述されるような自然権革命権に関する論が展開されるのは後編パートです。政治学の古典として長らく君臨する名著をいつかは自分なりに読み解こうと決めており、聖書の知識がついてきたのでこのタイミングで読んでみようと思い立ちました。

 

■完訳統治二論

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■ジャンル:政治学

■読破難易度:低~中(平易な文章で書いてあるので読みやすいです。ただし、ロックは神学者でもあるので、論は宗教的な見解に立つことも多く聖書(ミニマム創世記はかじっておきたいです。)の知識があったほうが理解が格段に進みます。)

■対象者:・政治学の基礎を身に着けたい方

    ・人類の権利獲得論争について理解を深めたい方

    ・統治・支配の在り方に関心のある方

 

【要約】

■前編の位置づけについて

・前編は「王は神の子孫であり、神から授かりし統治権を基に支配する権利を当然の者として持ち合わせている」という王権神授説旧約聖書の解釈を通じてとことん否定していくパートになります。これを250ページ程、手を変え品を変え展開していきます。それだけ当時としては衝撃的な見解であったので慎重に論を展開する必要があったと言えます。尚、後編で展開される抵抗権(革命権)を始めとした人権に関する解釈を根源としてアメリカ独立宣言フランス革命など歴史的な出来事が推進されていきます。

 

■問題提起

宗教王制など一部の機関に権力を偏在させ、絶対的な力で統治する手法は古代~中世まで世界各国で採用されてきた統治手法です。「絶対権力を是認する行為は人類の大半が隷属状態にあることを是認するということであり、それはおかしい」という問題提起から本書は始まります。

・上記展開は本書後編で、「人類の総意により権威を委任しているに過ぎない」という社会契約説に近しい見地へ昇華していきます。

 

■王権神授説の根拠について

旧約聖書創世記ではアダムを創造し子孫を王の系譜として指定をしました。これを引き合いに、神の子孫である現在の王家は支配する権力を獲得したとするのが王権神授説です。

・ロックは「アダムが生まれながらに自然の権利として統治権を有していたという形で解釈するのは間違っている」と問題提起をします。また、仮に統治権を有していたとしてそれが相続と同じように自動的に子孫に引き継がれるとする王権神授説の論調は乱暴であるとも批難します。

※人間は生まれながらに自由であるというのがロックの神学的見解です。

 

■自然状態から階層組織に至るまで

・神は人間を自分の疑似的な姿として創造し、被造物への支配権(食糧や家畜として活用すること)を与えたとされています。元来はこうしたシンプルな構造だったのですが、定住生活をする中で貨幣食料生産システムなどにより欲望や私有財産定量化されるようになり、否応なしに階層構造が形成されてしまいました。

・古来は宗教人種土地所有(神から授かりし土地を所有する人は尊いというのが封建制の基盤にある思想)によるもので近世以降はそれが私有財産による所に変容していったことを歴史は教えてくれます。

 

■父たる地位と所有権について

・聖書の世界では男尊女卑であり、長子が家族において最大権力を持つとされます。この考え方は家父長制を始めとする統治観に長らく影響を与えており、父たる地位と所有権は君主支配の主張の源泉になるとされて来ました。

・一方で、ロックは神からアダムにもたらされた「自然の支配権と私的支配権を混同して解釈する」王権神授説に対して警笛を鳴らします。聖書を拡大解釈して絶対的権力・権威を正当化するなという論調が手を変え品を変え繰り返し展開されます。

 

■統治体制と権力の行使について

「相続や私有財産などを支配の理由の源泉にする」というやり方は封建制を始めとした制度で実践されてきて資本主義という制度にとって代わりました。対外戦争講和の実践は古来より最高権力の象徴とされてきました。なので、思想信条の自由や人種の相違による争いだけではなく、力関係の証明としての戦争や侵略はたくさん存在したということが歴史の実態です。

 

 

【所感】

・ロックは神学者であり、神学的見地から自分の政治に関する理論を慎重に慎重に展開していくのが非常に印象に残りました。とても平易な言葉で一つのテーマを掘り下げていくのでサクサク読むことが出来ました。

・王権神授説のような絶対的な権力に服従することを正当化する論がまかり通ったのはその社会特有の構造(低生産性・多くの社会市民が今よりも愚鈍である)条件が揃っていたからと言えるのではないかと思いました。科学革命産業革命宗教改革など革命の土台があり、ロックの死後世界各国で人権革命は展開され、一気に人類は300年あまりで飛躍的な発展を遂げたのだと理解しました。

・一貫して本書に垣間見えるロックの哲学は下記です。

神の作品として存在する人間はその社会システムを維持し、自然に敬意を表しながら共存共栄していくべき」

・なので、本来の権利を取り戻し人間が人間らしくある為の世界を説くにあたり結果として政治を論証することになったということなのでしょう。似たようなジャンルを取り扱ったマックスウェーバー「職業としての政治」が知識の下敷きとしてあったので、権力の暴力性等はよく理解出来ました。

・本書も含め、宗教や哲学・経済学など古典的な人文科学・社会科学に関する基礎知識がないと表面的な理論を読み解くことですら頓挫するというのがあるなと感じました。複数の学問の造詣を深めることで知識が有機的に結合し、理解が一気に深まるというこのプロセスは大変ですが、とても考えが広がり刺激に満ちたものです。これこそがリベラルアーツかとようやく気付いた次第でした。

 

以上となります!