今回はモンテスキューの「法の精神」を要約その2となります。
第二部の要約で、ここまでで法の精神(上)が終了します。第二部は各国の歴史を紐解き、国防・公民の権利・政治的自由・租税制度などについて言及していくパートとなります。
※参考 第一部の要約※
■要約≪法の精神 第一部≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■法の精神(上)
■ジャンル:政治学
■読破難易度:低~中(明快な文体なのでとても読みやすいです。ただし、古代ローマやギリシアの歴史の引用が多い為、周辺知識が足りないと部分部分で置いてきぼりになるかもしれません。)
■対象者:・世界の統治体制の歴史について興味関心のある方
・政治と法律の関係性につちえ興味関心のある方
・立法・行政・司法の役割について理解を深めたい方
【要約】
■国防に関わる法律について
・「戦争をする権利」があるとは「何かを征服する権利」があるということを意味し、出来る限りは司法取引を通じて行うべきですが、やむを得ない事情で暴力(戦争)に解決を委ねてしまうということが発生し、必要悪として戦争はつきものとモンテスキューは評します。
※基本的には戦争は財政赤字を招き、国内経済を停滞させる(労働供給を生産活動から奪うため)ため、望ましくないとされますが、周辺諸国にとっては戦時需要を生み、大きな利益を生むものであり解釈が難しいとされます。
■政治的自由に関わる法律について
・専制・君主制・民主制いずれの政体であるかにより政治活動の自由というのは大まかに決定するとされます。国民の権利を守り、監視する機能として政治機能は3つに分散させ、均衡を保つべき(立法機能・行政機能・司法機能)という三権分立論がここで登場します。専制などでは3つの機能が一つの機関に集中しており(本書の時代ではトルコ・ロシア・イタリアなど)暴力による抑止力が政体を維持する為に不可欠であったとされます。
・立法機能は「国民の代表者が参画し、機能自体が期間限定的であるべき」とされます。目的を持たず永続的に存在してしまうとその権力に群がる行為が横行し、政治的腐敗の温床になってしまうからとされます。
・執行機能は君主に近しい所(議会制民主主義の場合は与党)にあるべきとされます。軍隊は三権から離れた所に位置するべきともされ、立法や司法に密接してしまうと暴力による支配が成立し、国民の自由や権利を大きく阻害するリスクが生まれます。
・司法機能を「独立した権力を持つ機関として政治に影響を与える存在たるべき」としたのはローマが最初です。民事裁判と刑事裁判で意思決定に参画する人を分けて、多数決による採決という現代に通じる考えが古代ローマの国家では既に体系化していたのです。
■公民の政治活動に関わる法律について
・政体を阻害しない範囲において公民の政治活動の自由が認められるとされるのが世界各国の統治の歴史からも明らかです。特にヨーロッパ諸国は統治システムに宗教を盛り込んでいた為、宗教規律を逸脱する行為や勢力を取り締まる合理的な理由を法律に定めることが多かったとされます。
・法律の目的は治安維持と取引コスト最小化な訳ですが、「何を罰して何を称賛するかはその国の文化及び価値観(≒宗教・民族意識)が現れる」ということを理解することが大切と様々な国の政体を比較検証してモンテスキューは明らかにしようとします。
※例えば、古代の東西ローマ帝国は教皇による宗教統治・皇帝の絶対的権威による統治という二重の基盤で国家の治安を制定しようと仕組み化していました。専制政治のような政体は特に中東やイスラム社会で発達した制度ですが、変数の少ない時代においては治安を維持するための必要悪の統治手法として存在したということが明らかです。
・モンテスキューは公民の政治的自由に関して「思想だけで罰するのはあってはならず、思想の形として表れた行動を罰するべき」というスタンスを本書で表明します。
■租税制度と国家統治の関係
・租税制度を制定して人民から徴収した金を源泉として、国防や公共サービスを提供することで国民へ治安と要素技術(教育・社会保障など)を提供することが国家の役目とされます。
・租税制度はその性質上、経済活動に外部不経済をもたらす可能性が高いので、「誰に・何に対して租税するか」は慎重に決めて運用しないといけないということが述べられています。※これは古典派経済学の学者リカードの「経済学及び課税の原理」でも似たような論が展開されています。
・税金について「消費税・所得税・固定資産税は性質上合理的である」という立場を本書でモンテスキューは採用します。そして、この時代から租税は「誰がどの程度支払ったかどうかを可視化するシステムを構築する難しさがある」と指摘されています。この問題における消費税については「商品価格に転嫁されることで解決される」とリカードは結論付けています。
【所感】
・法の精神は上・中・下の三部作ですが、有名な三権分立論が言及される唯一のパートです。モンテスキューは歴史家・法律家としての側面が強いということが言えます。古代ギリシアやローマ・中東地域の政体・法律を詳細に調べて、一般化出来る法則を示していくという形式で論が進んでいきとても読みやすかったのが印象的でした。
・法律と政治は密接に繋がっており、政府の活動を紐解いていくと租税など経済に関わる事象もスコープになります。本書で言及される租税制度などは経済学のテーマですが、国家を主語に検証するとこのような見解になるということが浮き彫りになる内容になっており、別角度からある分野を検証するというのはとても面白いなと感じました。
・モンテスキューの引用が多かった古代ギリシア・ローマ文明に関しては純粋に知識不足の側面があると感じてしまい、知識を身に着けて再度時間をおいて読んでみると更に面白く読めるのだろうなと感じた次第でした。尚、二部の論の展開の仕方は比較検討⇒一般化が多く、マックスウェーバーの本を読んでいるような感覚でした。
以上となります!
定期的に本を要約して投稿しています。面白いと思って頂いた方は「読者になる」を押していただけると嬉しいです。