今回はケインズの「雇用、利子および貨幣の一般理論」を要約していきます。
上下巻構成で今回は上巻を扱います。ケインズはマクロ経済学(≒ケインズ経済学)の創始者であり、アメリカのニューディール政策を始めとした20世紀半ば頃までの世界各国の経済政策に大きな影響を与えた人物です。景気循環理論で有名なシュンペーターと並び、古典派経済学を編み直し新たな経済理論を構築した歴史的功績のある学者です。
「雇用、利子および貨幣の一般理論(上)」
■ジャンル:経済学
■読破難易度:中~高(経済理論の基礎がない中で読もうとすると置いてきぼりになる可能性が高いです。マクロ経済学の教科書を簡単でもいいので、一巡した上で読むことをオススメします。)
■対象者:・ケインズ経済学の思想を根幹から理解したい方
・金融政策・財政政策の有効性に興味関心のある方
・資本市場に対峙する方全般
【要約】
・本書は「一般理論」と表記があるようにケインズが古典派経済学の理論を下敷きに新たな経済理論を構築しようと論述した内容になっています。古典派経済学は需給曲線を中心に企業間・産業間の競争を中心に論が展開されていきますが、ケインズ経済学(≒マクロ経済学)は経済全体の可否をスコープに、雇用・消費・投資の相互作用について着目し、論を編みなおす仕立てとなっています。
■ケインズ経済学の基本概念
・「雇用量」が社会全体の経済動向を規定するとされます。雇用量が生産活動と消費活動に作用し、経済を回していく根幹を成す概念であるからです。
・「雇用量(有効需要)を刺激する為に金融政策・財政政策・消費/投資誘致の政策を組み立てていくことで、政府が市場経済に介入するべき」というのが基本概念です。なので、「政府が公共事業投資を行い、市場全体の雇用需要を喚起する」という政策などが有効であるということになります。
・古典派経済学と異なり、政府が経済活動に介入することで健全化していくべきという大きな政府志向であることがケインズ経済学です。(※対照的に、古典派経済学は極力政府が市場に介入せず、究極は国防だけ努める夜警国家のような小さな政府を志向しました。)
■所得・貯蓄・投資の関係性について
・所得を源泉として経済主体は消費・貯蓄・投資に配分していきます。ケインズ経済学的には「貯蓄を極力減らし、消費や投資に回すように仕組みを整備するべき」とされます。
・消費はそこで満たさせる効用に限りがある為、出来るだけ投資に誘因を働かせるべきとされます。また、こうした所得の配分は心理的作用が大きい為、社会保障や税制などの制度を組み合わせて消費者の背中を一押しするような仕組みを構築しないといけないとされます。具体的には公定歩合(金融利子引き上げにより投資の旨味をもたらす)・補助金制度・固定資産税/所得税の運用などに影響します。
・「社会全体の投資を潤沢に保つことで、社会全体の雇用量を最大化(有効需要)し、生産活動・消費活動を加速させていくべき」というのがケインズ経済学の根幹を成す思想です。その際に着目しなくてはいけないのは資本の限界効率です。投資が増えれば増えるほど、単位当たりの効用(≒旨み)が少なくなる為、それに比例する形で利子率も変動していきます。
・資本投資は「生産活動に大きなレバレッジをもたらし、投資者には生産活動の利潤にアクセスする相応の権利がある」為、報酬として金融利子が存在するのは合理的です。ただし、この投資に関しても思考停止で是と出来る完璧な理論ではなく、貨幣の時間的価値や名目/実質価値を判断軸に入れないといけないとケインズは指摘します。
・即ち、投資・生産・消費のサイクルを回していくことは貨幣価値高騰リスクを常に孕む(インフレリスク)ということを本書では指摘されています。これは「大きな政府」路線を歩んだ結果、各国で起きた経済不況・財政赤字や肥大化した公共セクターの失敗などからも明らかです。
・上記から言えることは古典派経済学(≒ミクロ経済学)・ケインズ経済学(≒マクロ経済学)どちらの概念も尊重するべきで、一部の理論だけ偏重で盲信することはあってはならないということです。メカニズムを理解し、各々の持ち場(民間セクター/公共セクター・資本供給者/労働者)で学びを実践していくべきということが言えるのでしょう。
【所感】
・古典派経済学の概念や用語を洗い出し、現実の経済活動や不足論点を加味して理論を再構築(本書のタイトル通り「一般理論」化します)するので、古典派経済学の書物を読んだ後に読むと理解が深まると思います。個人的にはリカードの「経済学及び課税の原理」がベストです。また、図解をせず数式を展開し理論を抽象化するパートも長いので、マクロ経済学の教科書などで基本概念を理解した上で本書を読むと置いてきぼりにならずに読み進められるのでいいと思います。
・雇用量をボトルネックとして、影響する消費や投資に働きかける為の公共事業投資・公開市場操作・補助金奨励金制度の有用性や金融利子・名目/実質価値の概念などに言及していくシンプルかつ一貫した論の展開がとても心地よかったです。財政出動や金利政策などに対して懐疑的な自分でしたが、経済全体に働きかけるとなると有効であるということがよく理解出来、公共経済学・財政学のスコープである個別論点についても理解を深める場を設けたいと思いました。
・本書のスコープは非常に広く、個別経済主体の成功ではなく社会全体の発展・健全化を意識した内容になっています。こうした視野視界のアンテナを持つようになると必然的に産業全体や公共セクターに働きかけをするという役割の重要性・面白さを認識するに至るよなと感じました。民間セクターにいる自分ですが、ミクロ経済学・経営学的な論点だけで物をみていた過去の自分の視野の狭さ・浅はかさを痛感するに至った次第でした。
以上となります!
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