雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪法の精神 第四部≫

今回はモンテスキュー「法の精神」を要約その4となります。

ここまでで「法の精神(中)」が終了となります。第四部は「商業行為と政体及び法律の関係」について言及していくパートになります。

※参考 過去の要約※

■要約≪法の精神 第一部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪法の精神 第二部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪法の精神 第三部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■法の精神(中)

■ジャンル:政治学

■読破難易度:低~中(明快な文体なのでとても読みやすいです。ただし、古代ローマギリシアの歴史の引用が多い為、周辺知識が足りないと部分部分で置いてきぼりになるかもしれません。)

■対象者:・世界の統治体制の歴史について興味関心のある方

     ・政治と法律の関係性について興味関心のある方

     ・立法・行政・司法の役割について理解を深めたい方

 

【要約】

■商業行為に対する各国の解釈が法律や政体にもたらす影響について

・オランダ・イギリス・フランスなどの経済政策を列挙し、「法律という切り口からあらゆる産業や学問の思想に対して政体により差が見られる」ということを歴史を紐解き明らかにしようとしています。尚、モンテスキュー保護貿易や関税のような商業的行為は愚かであり、非合理である」として自由放任主義的な経済思想を持っている人であることが本書の記述から読み取れます。

 

■商業社会の台頭により発展する概念について

・商業社会の成立により、まずは銀行が発達し金銀貨幣だけではなく手形債券株式などの金融商品が誕生していきます。その次に、金融のやり繰りの方法論について体系化したファイナンス理論が発展していくという歴史的変遷が本書では指摘されます。

・また商業社会の拡大により、民事裁判に関わる取り決めをまとめた民法も発展していきます。商業の原理原則は自由競争でありながら、経済主体にとっては「持続的かつ独占的な利益の享受」を志向することになります。こうした対立構造を是正し、経済全体の健全化を目指す意味合いで、所得再分配補助金税制などの政府の経済政策や民事裁判の重要性が増していきます。

 

奢侈による商業の発展とその政体への影響について

・奢侈が横行するということは共和制の崩壊を意味しており、私有財産制がない時代特有の政体が共和制・直接民主主義です。資本主義制・私有財産制以後にその負を打ち消す方法として理想論で模索されたのが共産主義です。

・商業はその産業の性質上、貿易治安私有財産などが認められた所でしか成立しない極めて特殊な条件の産業と言えます。貨幣の発明により、貨幣を通じて製品やサービスを流通させることで、物質的に豊かな社会を形成する加速装置のような役割を果たしたことが貨幣の産業的意義です。

 

■貨幣の浸透による経済行為の変化

物々交換は取引の基本です。しかし、物々交換は面積がかさばり取引速度のスピードに欠けるという欠点があり、これを容易にする為に貨幣という媒介財が発明されました。破壊したり摩滅しないようにする為に貨幣は金属を用いることが主流です。

・尚、金銭貨幣が存在しない土地や時代においては家畜土地を担保にすることが通例でした。貨幣の価値が乱高下したり、取引相手においても経済が確立していない社会においては金銀貨幣物々交換による取引をせざるを得ません。貨幣経済が高度に浸透した社会において政府紙幣という概念が発明されました。政府貨幣は貨幣流通量最大化に大きく寄与しましたが、これは経済基盤が世界で整ったことや信用取引が出来るという前提の条件つきの行為です。

・中世くらいの時代までは金銀鉱山の発見貿易により他の大陸からの金銀流通経路の確立などにより、為替レート・貨幣価値が変動するという事象がしばしば発生しました。これは「貨幣流通量が増加し、貨幣価値が下落しインフレ⇒経済活動が最大化⇒貨幣価値が上昇し戻るという循環運動を長期的にしている」ということだとシュンペーターにより後々解明されます。

 

市場経済の効用が証明された時代における専制政治の非効率性について

「経済活動の効用が証明された時代において専制政治というのはあまり効率的でない」ということをモンテスキューは示唆しています。市場経済が開放されていない政体専制政治では経済活動の動きが資本主義国よりも弱く、「国以外に経済活動を加速させるインセンティブを持つ経済主体が存在しない」という状態に苦慮します。現代でも一部の国では軍事エネルギー産業偏重の産業構造になっていることからも本書での示唆は慧眼に富んでいることが伺えます。

 

■住民の数(人口)における法律について

ギリシア・ローマの歴史を紐解き、結婚相続権財産権など人口増減に関わるインセンティブを形成する法律の作用及び歴史について明らかにしようとされます。

ギリシアは地方それぞれに政府法律が完備されており、合議により理にかなった運営がなされていた為、治安が安定しており、人口も安定的に増加したとされています。そんなギリシアではアリストテレスプラトン「適切な政体を維持するための人口数には天井があるという見解を示し、慣習や法律に働きかけることで制御するべき」という見解を示していました。

・人口はその文明のパワーを規定するわかりやすい指標ですが、その運用に関しては政府主導のもと、一定の規則性をもたないと崩壊の道を辿るとされます。古代ローマはその代表格であり、結婚制度を活用して人口を抑制したり増加させていました。ローマは宗教軍事が政体に強い影響を与える文明であり、五賢帝の時代ですら最適な法律の運用がなされていたのかは疑問が残るという趣旨の見解をモンテスキューは述べています。

 

【所感】

モンテスキューが商業の歴史について記述した時代というのは農業製造業商業などをベースとした古典派経済学により、物質的に豊かな社会を形成する方法論が確立しつつある時代です。そんな中で、精神的に豊かであり不可侵の自由を享受するには教育投資を受けてを身につけないといけないということが明らかになりつつある時代であったということが随所に見て取れます。

「政治と経済は密接に紐づいている」という点や、「世界の歴史を比較検討することで様々な制度や仕組みの理解度が増す」ということを実を持って知ることが出来る内容でした。市場の競争原理や私有財産制は極力奨励しながら綻びがある点は政府の市場介入や法律の整備が必要であるという考え方の重要性も改めて再認識させられました。

 

以上となります!

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