雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪教育に関する考察≫

 

今回はロックの「教育に関する考察」を要約していきます。

「統治二論」で有名なジョン・ロックエドワード・クラーク宛に送った書簡をテーマ毎に再編集し論文化した作品です。「紳士教育に必要な知識・教育プログラム・伴走者(主に親と家庭教師)の振舞い/スタンス」を体系立てて記述しています。子供教育の本として歴史的威厳がある本書ですが、人材育成全般に通じる教訓じみた内容となっているのがポイントです。

 

「教育に関する考察」

教育に関する考察 に対する画像結果

■ジャンル:教育・哲学

■読破難易度:低(背景知識不要で読むことができ、平易な言葉遣いなのでとても読みやすいです。)

■対象者

・古典的な教育理論に興味関心のある方

・人材育成・マネジメントに関わる方全般

ジョン・ロックの思想に興味関心のある方

 

≪参考文献≫

■統治二論(ジョン・ロックが王権神授説を否定し、国民の権利や立法・司法機関の役割について論じた氏の代表作)

■要約≪完訳統治二論 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪完訳統治二論 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

・本書は24の章で構成される紳士教育の体系化を志向した書簡集です。知識やスキルの詰込みではなく、人間社会で求められる役割を遂行し、自分の人生を自己裁量の基に置くために早期から習熟・修得させるべき知識・スキルなどを体系立てて順序立てて論じています。教育を実践する人に求められる距離感・スタンスなどを当時の慣習と対比する形で氏の主張と共に記述されています。

 

■習慣化の重要性

「理性で感情を柔軟にコントロールし、定型化した行動が出来るように支援すること」は子育ておよびマネジメント初期に最大工数を割くべきことと評されます。社交性節制といった振る舞いは初期段階で教育・矯正し習慣化しないと後々大きな負債になるとされます。不品行悪習は「なぜそれがまずいのか」を先に教えて未然に防ぐようにしていかないと、学習効率が悪くその不足の故に人間社会で生活をする上で大幅な損失を被ることになると指摘します。

・「判断力の欠ける対象に対して教育束縛は必要悪として不可欠」とロックは見立てています。「正しさ」を知らない人を放逐してもまともに行動は出来ないですし、非効率なのは明らかであるからです。「厳格さと自由意志どちらを尊重するのか」という問題はそのバランスとフェーズによるさじ加減次第であり、伴走者(親や家庭教師など)の采配次第とされます。

 

■賞罰の位置づけ

子供の意志柔軟性は最大限尊重するべきとされます。なぜなら、「自由意志の基に課題解決」をしていくことでしか自尊心や社会生活での成果(金銭報酬/意味報酬)を獲得することはできないからです。その為、自我自己統制がなされるまでは「闇雲な賞罰は控えて穏やかにするべき」というのが基本原則となります。快楽を追求し、苦痛を避けるというのは当然の行為で、子供が必ず通る道です。その為、「苦痛や困難は支援者が伴走し乗り越える」というプロセスを踏むことが重要とされます。その為、内省支援や需要は精神的な問題解決に不可避のテーマと言えます。

恐怖体罰は条件反射・思考停止などの防衛本能を招くものであり、感情に任せてやっていいものではないとされます。基本的に、抑圧マネジメントは対象がよほどの自己管理や課題解決能力がないと意味をなさない手法であり、対峙する場面と対象の強み・関心毎をうまく結合・意味づけしていくことの積み重ねに尽きるとされます。改善を促す際は体罰ではなく、冷たくあしらい自己認知を促すなどやり方は様々あります。

 

■作法について

・周囲の尊敬を阻害するケースを除いては「子供の幼稚さは自由放任でやらせて、自由意志を育み適切なタイミングで矯正出来るようにしておくべき」とされます。反復練習スキル取得プロセスをゲーム化するのは子供の教育において重要な仕立となります。規則や罰を多くしたくなるのは親として必然ですが、子供は覚えられないですし意図的に無視する悪行を定着させるリスクがあるから、良くないとされます。

・「何が得意で何が出来ず後天的に身につけてもらうことが出来るものか」を検証していくことは育成の基本とされます。動作志向を洞察することは基本のキです。気取りは気をつけないと陥る認知的不協和であり、「上品であろうとして露出する下品な振る舞い」です。上品さは他者への関心、貢献から自然と生み出されます。実際に持ち合わせていないものを虚勢でカバーしようとすると、気取りは生まれるとされます。至らなさを受入れ、遠回りすることが上品さの第一歩です。

 

■子供の気質とわがままについて

・子供は自由を好むもので、それは権力と支配力への愛着とも言えます。「自分の欲望をかなえたい」という考えは早期から発芽するものであり、すぐ泣くという行為もその典型例です。子供の「気まぐれの欲求」「自然の欲求」をわけて捉えるということをすることが親には求められます。欲望を抱いた時に、その欲望を頭ごなしに否定するのではなく「なぜほしいのか」を言語化・説明できるようにして振舞うということをしていくことが子供の教育においては不可欠とされます。「欲望に停止を命じ、沈黙させることを覚えさせる(理性的にある)」ということを習熟させるプロセスとしての対話は非常に重要です。

 

■徳について

・「真正面から物事に対峙し課題解決をする」という成功体験を積み重ねていくことが教育において大事とされます。ヨーロッパ社会において、「神は自然界をつくった存在」として認知されて、モノの理を早期にインプットされることが一般的です。その道徳教育のツールとして哲学宗教が存在します。

・人間社会において相応の役割を果たしながら自己実現をする為の紳士教育として体系だった学問教育をロックは推奨します。「様々な文明の情報源にアクセスし、コミュニケーションを通じて人に働きかけをすることを可能にする」という意味で論理学言語学を全ての基盤と氏は定義します。その土台の上に、「実社会の法則を論じたり課題解決の示唆をもたらす知識の集合体」として自然科学社会科学を学ぶべき、この順番が大切と論じます。

 

【所感】

・経験知による俗人的な教育慣習に対してメスを入れ、「理性に基づき体系だった教育指針を構築すること」を信じたロックの意志が随所に垣間見える内容でした。自分を律するということは「相応の思慮や経験が必要であり、その習熟の為には長い投資期間があるということ」を理解しないといけないという非常に含蓄ある教訓があるのも印象的でした。

・個人的なテーマとして「物事を認識・判断する時間軸とスコープを広く持つこと」を設定しているのですが、その最たる身近に潜むテーマ感の内容であり読みながら自分を顧みる非常に面白い本でした。まずは自分が分別と思慮に富んだ社会市民となり、自分の役割・持ち場で果たせる貢献を模索していくということに忠実にあろうと思った次第でした。

 

以上となります!