雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪アート・オブ・プロジェクトマネジメント 後編≫

 

今回はScott Berkun氏の「アート・オブ・プロジェクトマネジメント」を要約していきます。マイクロソフト社で多くのプロジェクトマネジメントを成功に導いてきた氏の経験に裏打ちされたプロジェクトマネジメントにおける急所を体系的にまとめた本です。本書は三部構成となっており、Ⅰ部はプロジェクトマネジメントにおける計画・Ⅱ部はプロジェクトマネジメントを行うに必要なスキル・Ⅲ部はマネジメントの技法を解説しております。後編の今回はⅡ部のPMスキル・Ⅲ部のマネジメントの技法に関する要約を行います。

 

「アート・オブ・プロジェクトマネジメント」

O'Reilly Japan - アート・オブ・プロジェクトマネジメント

■ジャンル:開発管理

■読破難易度:中(主にソフトウェア関連のプロジェクトワークを想定していますが、サービスや製品のプロジェクトマネジメントにおいても示唆に富んだ内容になっております。実践経験があると自分自身の実務の棚卸と合わせて学べてオススメです。)

■対象者:・プロジェクトマネジメントのベストプラクティスを理解したい方

     ・非定型業務に従事する方全般

     ・コトマネジメントにおける手順・思考法を体得したい方

 

※前編の要約は下記※

■要約≪アート・オブ・プロジェクトマネジメント 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■エンジニアリング組織論への招待

■要約≪エンジニアリング組織論への招待≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■仕様書の記述

・仕様書はプロジェクトにおける下記3つの目標を達成するべきとされます。

「正しいものの構築を保証する」

「プロジェクトの計画フェーズを締めくくるマイルストーンを提供する」

「プロジェクトの過程で踏み込んだレビューや各個人からのフィードバックを可能にする」

・仕様書はビジョンドキュメントと同様にコミュニケーションの1形態です。仕様書は「何を目的とするプロジェクトで、スコープはどこにあるか」・「期間・予算はいくらか」といったレビューを受けることや共通認識を促進するための要素を盛り込んだ簡素なものであることが求められます。要求・機能・技術の3つの角度から仕様書は記述されるのが基本的です。仕様書記述の工程に創造性は必要なく、正しく簡潔に情報を記述すること多義のないように表現することが求められます。「いつ・誰が・どのようにやるか」の記述や「何をもって良し悪しを測るか」の基準設定など言語化しないといけない仕様書の項目は多岐に渡ります。

・仕様書の作成・レビュープロセスにおいては重要な人材だけ招聘して事前に提出された資料を読み込むというステップを踏むことが大切であるとされます。仕様書に対するリアクションやキャッチアップの様でステークホルダーにおけるプロジェクトそのものの重要度合いが図れるので、レビュー内容によってはレビュー範囲を狭める・変更することも可能になります。シニアステークホルダーとのコミュニケーションにおいてはタスクの依存関係や不確実性のあたりを示しておき、どの方向に開発するかどの範囲なら遅延や未達を許容できるかといった基準をステークホルダーで認識合わせする・言語化するといったプロセスを踏むことが重要になります。

 

■意思決定

・プロジェクトにおける意思決定には下記2つの観点を考慮することが求められます。

「この意思決定がどの期間・どの範囲に影響を及ぼすのか?」

「リスクや不確実性はどのようなものが存在し、それぞれ打ち手を施すことでなくすことはできないのか?」

・意思決定の透明性や重要度を保つ為に、要求定義やスコープなどコアの概念をまとめた文書・仕様書に忠実に判断していく複数の判断軸で取捨選択するというプロセスを徹底することが大切とされます。また、常に「何もしない」という選択肢を考慮することが盲点になりがちですが欠かせない視点とされます。不確実性や資源制約の中では「時間が解決する」・「今決断することでは最適解に辿り着けない」という要素が絡むからです。

・意思決定の精度を高めるには事後にレビューを客観的に振り返る場を設けることがポイントであり、「その意思決定は核となる問題を解決することに寄与したのか?」という問いを立てて振り返ることが大切とされます。

 

■プロジェクトチームのコト推進の妨げになるもの

・前提として、プロジェクトチーム内のコミュニケーションの質と有効性を管理することは成果物にコミットする上でPMが避けて通れないものとなります。その上で、コミュニケーション能力とは自分および他人のメンタルモデルを理解して適切な情報伝達を出来るスキルと表現されます。「仕事の進め方(プロセス)の強要・固定化」や「打ち合わせ」・「電子メール」などメンバーを不快にさせるものは日常に潜んでおり、細部のやり取りや進め方を等閑にせず、秩序と自由裁量を両立できないように資源に働きかける・仕事のリズムを整え続けるなどのスタンス・リソース投下がPMワークには欠かせないとされます。

 

■プロジェクトマネジメントにおけるマネジメントの技法

明確な優先順位付け資源配分プロセスにおける不確実性を解き論点を炙り出しチームをチアアップしていくのがPMの実行力を構成する要素です。「目的や判断基準・ビジョンなどを言語化して文書に落とす」ということを通じて、デリバリーの遅延や方向性のずれを防ぐ働きかけをし続けることが大切です。タスクマネジメント工程ではPMはクリティカルパスを解像度高く把握しておくことが納期やコストを管理する上で必須になります。コンフリクトや問題から逃げず、時には手段を選ばずやれることを全てやりきるというスタンスを全うすることが絶対感覚とされます。

・プロジェクト中盤の実行フェーズにおいてPMはプロジェクトの品質や成果を測る指標を定点で観測して変化を捉える危機を未然に予測するなどのスタンスとリソース投下が推奨されます。プロジェクトチーム向けの会話としては「日々のタスクがプロジェクト目標やビジネスゴールにどのようにヒットするのか?」の問いに対する解の言語化や「我々は要求やシナリオを満たすものを推し進めているか?」という批判的視点などで対峙することが大切とされます。

・プロジェクト終盤においてPMは要所で期日を守り、期限に間に合わせることにリソースを割いていくことが推奨されます。具体的には各工程のゴール目標終了基準を明確に言語化・合意形成することが大事です。万が一、プロジェクトが遅延する際は成功基準の定義スコープの確認優先順位付けの再調整などをプロジェクトチーム内・シニアステークホルダーと行い、コトと人をマネジメントしていくのが重要になります。尚、工数見積もりは過去実績によって悲観的に見立てるのが成果にコミットする上で欠かせないスタンスであり、「人に期待することと計画を楽観的にするのは似て非なるものである」とされます。

 

【所感】

・要所要所はソフトウェアプロダクト開発を想定した記述になっており、エンジニアリングの世界における価値観や考え方に即した内容もありましたが、全般的に非常に納得のスキルとスタンスに関する記述でした。プロジェクトマネジメントとピープルマネジメントにおける人とコトのマネジメントの優先順位は似て非なるものであるというのが読みながら感じた感触であり、自分が行う仕事においては両方を包含するケース・片方だけなど様々ありますがその都度、「プロジェクト成果(戦略推進・ビジネスアウトカム)・人材育成(スキル開発・成長機会)などの中で何を優先するのか?」という問いに対して考えを深めていくというプロセスを踏むことは欠かしてはならないなと考えさせられる内容でした。

・全般的に自分自身が複数のプロジェクトワークを様々な役割を通じてこなす中で、うまく言語化出来ていなかった内容に対して正当な理論立てや内省を深めるような示唆を与える内容に感じました。その為、一定のプロジェクトワークやコトマネジメントの経験を積むに至ってから本書を読み、理論と実践の知見を統合していくと非常に読みやすいのではないかと感じました。

 

以上となります!