今回はアダム・スミス氏著の「道徳感情論」を要約していきます。「国富論」で有名な氏のもう一つの代表作であり、タイトルの通り人間が抱く道徳感情に関して論じた哲学分野の本となります。キリスト教的な人間観と国富論で論を展開されるような合理的かつ論理的な描写が混ざった氏独特の表現・論展開がポイントです。本書は600ページ超の超大作となり、2回に分けて要約します。前編の今回は第一編~第三編を要約します。
「道徳感情論」

■ジャンル:哲学
■読破難易度:中(文章量が多く、1文1文が長く独特の読みづらさがあるので、一部抵抗がある人もいるかもしれません。主題と主張は明快で繰り返し主張されるため、論旨はとらえやすいです。)
■対象者:・アダム・スミスの思想について深く理解したい方
・人間の集団心理や他人に対して抱く感情のメカニズムを理解したい方
・人間らしさについて考えを深めたい方
≪参考文献≫
■国富論
■要約≪国富論 第一編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪国富論 第二編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪国富論 第三編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪国富論 第四編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪国富論 第五編前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪国富論 第五編後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
【要約】
■行為の適合性
・他人の運命に関心を持ち、他人の幸福を願う共感性が人間が持ち合わせる道徳心の正体とされます。高潔で慈悲深いことや相手を慮り、嫌なことを回避する想像力を指します。人間の想像力は自分が感じる・経験する範囲に閉じ、この範囲こそが個人が持ち合わせる想像力や共感性の度合いということになります。それ故に同一視や一体感という行為が可能になり、これは人間特有の性質と言えます。
・悲惨な人物の不幸に対して痛みを感じるのは人間に共感性があるからであり、物語を好む人間の倫理観・社会性の賜物です。感情表現や視点のレパートリーをどれだけ持ち合わせているかが人間の想像力を図る指標と言えます。理性や哲学は喜怒哀楽に対して明確な意味や秩序をもたらす道標として機能します。小説や芸術・歴史は自分が経験できない他人の価値観や視点を追体験する意味があります。想像力は幻想にもなりえて、類推や学習能力にも転換しうるとされます。
・アダム・スミスは大変な事態があっても自分の惨事を感情として露呈せず抑制する人に最大の賞賛を誇るべきと主張を展開します。喜びよりも悲しみが抑制できる度合いが優れており、観察者と当事者の温度差を顕著にするものだからです。悲惨や堕落を嘆くのは人間として愚かであるが、その誘因はダムのようにせき止めることが難しいもの、だからこそできる人は尊厳を得るということです。この社会規範が人前で泣くことを恥じる文化を醸成するものであり、意味を消費するために小説や映画・演劇が存在するとされます。勝利感は嫉妬を引き起こすものであり、喜びや幸福は他者へ伝播することが利害がないとして抑制されがちです。悲しみや怒りは共感を以て想像することが難しいのは人間の想像力や共感性の限界から致し方ないものであるとされます。
・英知と徳による賞賛であるべきものが社会の実態は高い地位や富による所になりやすい現実があるとされます。それ故に功名心と競争原理は社会において大きな原動力となります。よって、隣人の名声や相対評価で成果が決まる中~下流階級においては道徳規範がうまく機能する訳がないと現実を炙り出します。上流階級は上流階級でこびへつらいや身分などの要素が強くなり、それ故に、道徳規範が効果的に作用しないとされます。富者や地位が高い人の志向性や振る舞いが称賛され流行になるのは馬鹿らしいものの真理であり、徳や正義が社会を動かすとは限らないとされます。功名心は俗世的な振る舞いを助長します。その一方で、手段のために犯した愚かな振る舞いは自他ともに後まで覚えているもの。徳や正義を社会で徹するのはあまりにも難しいともされます。
■人間特有の社会心理・正義感
・褒賞や罰則と喜怒哀楽の感情は概ね相関関係になるとされます。それ故に、信賞必罰は社会規範の維持や抑制に機能するシステムとみなすことができるという論が展開されます。人間は行動の動機や一貫性に強く共感や喜怒哀楽が突き動かされるものです。感謝と愛から来る共感性による情動は人間特有の心理であり、復讐や怒り・憤りといった感情は増副作用を持つものです。
・適切な動機と有益な行為は社会から賞賛されやすい構図にあります。恩知らずな自己中心性というのは責任感覚の欠如や余裕がない時に起こりうるものとされ、憤りは防御の感情であり、正義と偽り亡き者を保護するためにあるとされます。正義には社会規範の維持という力学故に必然的に暴力性が宿りやすいとされます。
■感情と行為に関する人間の判断の基礎、および義務感
・人間は共感性という性質を持つために、組織化や協業すること・他人の感情を想像することが可能になるとされます。想像力がないとは動物的な振る舞いということです。自分自身がどう見えるかを気にするのは他人に与える影響やそれが社会で集団生活をしていく上において影響が出るということです。賞賛や見え方・印象に支配されるのは人間の性質上仕方がなく、徳を磨く・美意識をもって律するというのは相当に難しいのが現実と氏は指摘します。自分の満足基準を独立して自分の中に内包する・長い時間軸で善し悪しを判断するという営みであり、よほど物質的に充足した前提で高潔な精神をあろうとする人の営みといえるとされます。集団浅慮は同質性の集団において見られがちで、既存の延長線に未来があるという強い前提の上に発生してしまうとされます。友好的である、組織目的に即した振る舞いをするということが如何に道徳的に素晴らしいかということも意味します。
・他人の賞賛や名誉は持続せず、流動的で無責任でありこれに支配されるのは消耗であり、自分の美意識や成果基準で捉えるというほうがよほど長続きするし、満足度が高いとされます。しかし、この領域に到達するのは欲望に打ち克ち自分に自信を持つという意味において相当に大変と指摘します。名誉や恐怖・屈辱といった感情は道徳規範により望ましい行為を規定するとともに、そこに縛られる人間を作り出します。美意識や徳・正義と集団の価値観や評価は比例せず、そこのどちらをどう判断するかというのは人間が社会に生きるにおける永遠のテーマであり、これが物質的に豊かになった現代社会でも悩ましい問題なのです。
【所感】
・「徳や道徳はあれども功名心や集団心理からその観念を完遂することは難しいよね」という人間を極めて現実的に直視しながら社会性や集団心理を炙り出していくアダム・スミス氏の実直な論調は非常に読み応えがあります。正直、自分の人生経験レベルでは完璧に氏が言わんとしている主張を理解できているとは言い難く難しかった内容も多かったです。共感性や想像力が人間が他の動物から逸脱して社会性を発揮する所以であるというのは非常に納得感があり、言語の発達らと並んで人間が人間たらしめる要素なのだろうと深く理解できました。
・本書で論述されている思考を人間の経済的な動機にフォーカスして論を深めた結果、国富論が誕生したのは非常に納得であり、おそらく氏も政治経済を論じる中で結果的に経済学の古典的な理論を体系化したのだろう(「国富論」にはイギリスの社会情勢分析の側面もあるので)ということが良く理解できました。
以上となります!




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