雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪道徳感情論(前編)≫

今回はアダム・スミス氏著の「道徳感情論」を要約していきます。「国富論」で有名な氏のもう一つの代表作であり、タイトルの通り人間が抱く道徳感情に関して論じた哲学分野の本となります。キリスト教的な人間観と国富論で論を展開されるような合理的かつ論理的な描写が混ざった氏独特の表現・論展開がポイントです。本書は600ページ超の超大作となり、2回に分けて要約します。前編の今回は第一編~第三編を要約します。

 

「道徳感情論」

預言者失格?アダム・スミス | 高橋医院

■ジャンル:哲学

■読破難易度:中(文章量が多く、1文1文が長く独特の読みづらさがあるので、一部抵抗がある人もいるかもしれません。主題と主張は明快で繰り返し主張されるため、論旨はとらえやすいです。)

■対象者:・アダム・スミスの思想について深く理解したい方

     ・人間の集団心理や他人に対して抱く感情のメカニズムを理解したい方

     ・人間らしさについて考えを深めたい方

 

≪参考文献≫

国富論

■要約≪国富論 第一編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第二編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第三編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第四編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第五編前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第五編後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■行為の適合性

他人の運命に関心を持ち、他人の幸福を願う共感性が人間が持ち合わせる道徳心の正体とされます。高潔で慈悲深いことや相手を慮り、嫌なことを回避する想像力を指します。人間の想像力は自分が感じる・経験する範囲に閉じ、この範囲こそが個人が持ち合わせる想像力や共感性の度合いということになります。それ故に同一視や一体感という行為が可能になり、これは人間特有の性質と言えます。

・悲惨な人物の不幸に対して痛みを感じるのは人間に共感性があるからであり、物語を好む人間の倫理観・社会性の賜物です。感情表現や視点のレパートリーをどれだけ持ち合わせているかが人間の想像力を図る指標と言えます。理性や哲学は喜怒哀楽に対して明確な意味や秩序をもたらす道標として機能します。小説や芸術・歴史は自分が経験できない他人の価値観や視点を追体験する意味があります。想像力は幻想にもなりえて、類推や学習能力にも転換しうるとされます。

・アダム・スミスは大変な事態があっても自分の惨事を感情として露呈せず抑制する人に最大の賞賛を誇るべきと主張を展開します。喜びよりも悲しみが抑制できる度合いが優れており、観察者と当事者の温度差を顕著にするものだからです。悲惨や堕落を嘆くのは人間として愚かであるが、その誘因はダムのようにせき止めることが難しいもの、だからこそできる人は尊厳を得るということです。この社会規範が人前で泣くことを恥じる文化を醸成するものであり、意味を消費するために小説や映画・演劇が存在するとされます。勝利感は嫉妬を引き起こすものであり、喜びや幸福は他者へ伝播することが利害がないとして抑制されがちです。悲しみや怒りは共感を以て想像することが難しいのは人間の想像力や共感性の限界から致し方ないものであるとされます。

・英知と徳による賞賛であるべきものが社会の実態は高い地位や富による所になりやすい現実があるとされます。それ故に功名心と競争原理は社会において大きな原動力となります。よって、隣人の名声や相対評価で成果が決まる中~下流階級においては道徳規範がうまく機能する訳がないと現実を炙り出します。上流階級は上流階級でこびへつらいや身分などの要素が強くなり、それ故に、道徳規範が効果的に作用しないとされます。富者や地位が高い人の志向性や振る舞いが称賛され流行になるのは馬鹿らしいものの真理であり、徳や正義が社会を動かすとは限らないとされます。功名心は俗世的な振る舞いを助長します。その一方で、手段のために犯した愚かな振る舞いは自他ともに後まで覚えているもの。徳や正義を社会で徹するのはあまりにも難しいともされます。

 

■人間特有の社会心理・正義感

・褒賞や罰則と喜怒哀楽の感情は概ね相関関係になるとされます。それ故に、信賞必罰は社会規範の維持や抑制に機能するシステムとみなすことができるという論が展開されます。人間は行動の動機や一貫性に強く共感や喜怒哀楽が突き動かされるものです。感謝と愛から来る共感性による情動は人間特有の心理であり、復讐や怒り・憤りといった感情は増副作用を持つものです。

・適切な動機と有益な行為は社会から賞賛されやすい構図にあります。恩知らずな自己中心性というのは責任感覚の欠如や余裕がない時に起こりうるものとされ、憤りは防御の感情であり、正義と偽り亡き者を保護するためにあるとされます。正義には社会規範の維持という力学故に必然的に暴力性が宿りやすいとされます。

 

■感情と行為に関する人間の判断の基礎、および義務感

・人間は共感性という性質を持つために、組織化や協業すること・他人の感情を想像することが可能になるとされます。想像力がないとは動物的な振る舞いということです。自分自身がどう見えるかを気にするのは他人に与える影響やそれが社会で集団生活をしていく上において影響が出るということです。賞賛や見え方・印象に支配されるのは人間の性質上仕方がなく、徳を磨く・美意識をもって律するというのは相当に難しいのが現実と氏は指摘します。自分の満足基準を独立して自分の中に内包する・長い時間軸で善し悪しを判断するという営みであり、よほど物質的に充足した前提で高潔な精神をあろうとする人の営みといえるとされます。集団浅慮は同質性の集団において見られがちで、既存の延長線に未来があるという強い前提の上に発生してしまうとされます。友好的である、組織目的に即した振る舞いをするということが如何に道徳的に素晴らしいかということも意味します。

他人の賞賛や名誉は持続せず、流動的で無責任でありこれに支配されるのは消耗であり、自分の美意識や成果基準で捉えるというほうがよほど長続きするし、満足度が高いとされます。しかし、この領域に到達するのは欲望に打ち克ち自分に自信を持つという意味において相当に大変と指摘します。名誉や恐怖・屈辱といった感情は道徳規範により望ましい行為を規定するとともに、そこに縛られる人間を作り出します。美意識や徳・正義と集団の価値観や評価は比例せず、そこのどちらをどう判断するかというのは人間が社会に生きるにおける永遠のテーマであり、これが物質的に豊かになった現代社会でも悩ましい問題なのです。

 

【所感】

・「徳や道徳はあれども功名心や集団心理からその観念を完遂することは難しいよね」という人間を極めて現実的に直視しながら社会性や集団心理を炙り出していくアダム・スミス氏の実直な論調は非常に読み応えがあります。正直、自分の人生経験レベルでは完璧に氏が言わんとしている主張を理解できているとは言い難く難しかった内容も多かったです。共感性や想像力が人間が他の動物から逸脱して社会性を発揮する所以であるというのは非常に納得感があり、言語の発達らと並んで人間が人間たらしめる要素なのだろうと深く理解できました。

・本書で論述されている思考を人間の経済的な動機にフォーカスして論を深めた結果、国富論が誕生したのは非常に納得であり、おそらく氏も政治経済を論じる中で結果的に経済学の古典的な理論を体系化したのだろう(「国富論」にはイギリスの社会情勢分析の側面もあるので)ということが良く理解できました。

 

以上となります!

■要約≪AIエージェント 人類と協働する機械≫

今回は広木大地氏著の「AIエージェント 人類と協働する機械」について要約していきます。「エンジニアリング組織論への招待」の著者として有名な氏の最新著作で、AIエージェントという技術の性質・影響力をテクノロジーの歴史と対比しながら体系的に論じ、我々が担う仕事の価値・プロセスの変化と出口の知識創造プロセスの重要性をSECIモデルを通じて論じるという構成の内容です。AI関連本は大量に世の中にありますが、氏の論調は非常に知に足のついたものとなっており特定の方向に扇動・決めつけするのではない点が心地よい内容となっています。

 

「AIエージェント 人類と協働する機械」

■ジャンル:開発管理

■読破難易度:中(読みやすいですが、プログラミングの根本的な考え方や用語が理解できないと読みづらいかもしれません)

■対象者:・AIと仕事の関係性について理解を深めたい方

     ・BPR・プロダクトマネジメントに関わる方

     ・未来を描く役割を担う方全般

 

≪参考文献≫

■エンジニアリング組織論への招待

■要約≪エンジニアリング組織論への招待≫ - 雑感

■人月の神話

■要約≪人月の神話≫ - 雑感

■知識創造企業

■要約≪知識創造企業≫ - 雑感

 

【要約】

■AIエージェントがもたらす労働への影響

・特定のロジックに基づき自立的に判断・情報収集・行動をするAIエージェントは定常作業の外出し(例:要約・情報収集・コーディング)をもたらし、ホワイトカラーの低付加価値業務(作業と多くの人が表現する類の労働)を完璧に置換しうるポテンシャルを持つようになりました。画像認識や非言語を認識かつ高速に安価で情報処理する技術が発達したことで、AIエージェントは一気に技術として有望なソリューションとして進化したのがここ数年の変遷です。

・AIエージェントはLLM自ら作業プロセスとツールの利用を動的に管理・制御します。代表的なAIエージェントの例はカスタマーサポートの対応を過去の判例やロジックを基に自律的に問題を診断・解決策を提示するものです。また、表現のニュアンスなど命題や方向を明示することでAIが自立的にプログラミングをする世界がもたらされ、これはバイブコーディングと呼ばれます。

・何を問題と定義するかや課題の仕入れ・独特の切り口・人間関係の構築・営業活動などが相対的にAIエージェントの浸透で重要な世界になるということを意味します。仕事は奪われるのではなく、高度化するのです。

 

■テクノロジーと労働の歴史

・人類の歴史が証明するのは技術革新と共に労働は置換と新しい産業への移転をもたらしてきたということです。生産性向上と雇用創出が同時になされます。自動車の発明と共に馬車関連の仕事はなくなり、代わりにガソリンスタンドや石油関連産業が台頭しました。自動車産業ではT型フォード浸透6年で生産性は3倍になり、車の単価は半分になり市場は増え、総雇用数は倍増しました。コンピューターとオートメーションにより電話交換手・タイプスト・エレベーターガールがなくなり、システムエンジニアやアナリストの仕事が発生しました。日本は60年間で第一次産業から第二次産業・第三次産業へ雇用が移転したのです。農業の生産性は50年余りで化学肥料や灌漑技術・農業機械などの発明で向上し、その結果農業従事者は減りサービス業に労働移転しました。こうした営みを繰り返して人類は物質的に豊かになり続けています。ソフトウェア産業に閉じると文字の発明・半導体技術・通信技術の発達が大きな技術革新のトリガーになっていることは明らかです。

 

■知識創造プロセス

・AIエージェントはホワイトカラーの労働そのものの生産性向上や置換だけでなく、これまで人間ならではと見なされてきた知識創造プロセスにも大きく影響を与えているというのが特徴です。暗黙知と形式知を行き来するSECIモデル(共同化・表出化・内面化・連結化)モデル全てにAIエージェントが活用できるということが革命です。大量の情報を取集・分析・編集することで形式知を生み出すことに有効なのは言うまでもないですが、暗黙知を導出する・繋げることにも有効になりうるという非言語を認識できる精度にAIエージェントの認知が発達したことがポイントです。

・プロトタイプを作る・情報を構造化するといったことは人間以外も担えるようになり、結果として共同体験によるインサイト導出や問いを基にした対話や探索を通じた非構造化・非言語化の暗黙知を如何に導出するかが人間の手腕(価値の源泉)になるということも意味します。

・それに伴い、付加価値の高い知識・知能もこれまで重んじられてきた結晶性知能ではなく流動性知能(変化対応・推論・パターン認識・創造的思考)になるということを意味します。つまり、都度学ぶ・変化し続けるしかないということです。

 

【所感】

・AIエージェントがどう凄く、労働にどのような影響を与えるかがポジショントークなく構造的に記述されている入門書として非常に良い本であると再認識しました。個人的には知識創造プロセスの部分の導出が比較的目新しい内容が多く、なるほどと考えさせられるものが多かったです。

・一方で、人間の多くは変化適応・学習に難しく定常業務を経験から学習していく(自分で構造化や問いを立てるではなく)・同じことを繰り返していきたいという選好性を持ち合わせており(特に労働分野においては)、組織構造やインセンティブの概念からも理想論に向けて現状を打破していくのは特有の難しさがあるよなと感じました。その意味において、知識創造や問いを設定する「側」を担うかは志向性や適性を選び、重要性が増すとは言え万人が担う世界ではないのだろうとも現実的に感じました。好奇心や学習する組織・構造俯瞰は後天的に身につくスキル・状態であると思っており、狙って実践することは大事だよなと思います。

 

以上となります!

 

 

 

■要約≪産業人の未来≫

今回はドラッカー氏著の「産業人の未来」を要約します。ドラッカー初期の作品の一つで、商業社会から産業社会に世界がシフトした中でのあるべきシステムの姿という政治・経済分野に跨る評論を展開する作品です。啓蒙主義・フランス革命・ファシズム・社会主義など近代国家の潮流を形成したイデオロギーやアメリカ・ヨーロッパ各国の統治体制に関する言及が目立つ内容です。第二次世界大戦末期にありながら、戦後経済のあり様を非常に解像度高く分析・予言している内容は圧巻です。

 

「産業人の未来」

ドラッカー名著集10 産業人の未来

■ジャンル:政治学・経済学

■読破難易度:中(ヨーロッパ史や政治経済の思想を理解していないと置いてきぼりになる所があります。)

■対象者:・ドラッカーの思想に興味関心のある方

     ・産業社会が世界の潮流を形成するプロセスに興味関心のある方

     ・政治・経済・経営に関して教養を深めたい方

 

≪参考文献≫

■GMとともに

■要約≪GMとともに≫ - 雑感

■国際政治 権力と平和

■要約≪国際政治 権力と平和(上)≫ - 雑感

■要約≪国際政治 権力と平和(中)≫ - 雑感

■要約≪国際政治 権力と平和(下)≫ - 雑感

■経営者の役割

■要約≪経営者の役割≫ - 雑感

 

【要約】

■ドラッカーの本書執筆の背景・課題意識

・民主主義・自由主義一辺倒の物質的に豊かな社会を目指す路線(帝国主義含む)へのアンチテーゼとして20世紀初頭にファシズムらの全体主義や共産主義主導の計画経済などが世界的に流行します。ドイツがファシズム・フランスがフランス革命と近代国家の潮流を形成する思想の震源地であったのは歴史的必然性があるという論をドラッカーは展開します。思想・信条・言論の自由が結果的に暴力的な支配や格差を招くという資本主義経済・自由主義の負の側面への反逆として共産主義やドイツ・ナチスの躍進は捉えられています。

・ドラッカーは産業組織が形成され、カリスマ的支配や宗教・武力による支配が難しくなった産業社会特有の統治システムを構築する必要性を強く説きます。ドラッカーは人間をどう見立てるかが政治システムや哲学に影響し、それ故に文明により統治システムが違うという論を展開します。

 

■19世紀の商業社会

・商業社会の進化系として産業社会があり、19世紀の商業社会は賃金労働者や資本主義経済が浸透していく過渡期でした。中産階級・ブルジョワジーが台頭し、産業家・工場労働者などかつてでは存在しない階級が台頭しました。フランスは産業社会に脱皮できておらず、いまだにブルジョワジーや貴族階級が商業社会を見るように世界を見ているという痛烈な批判が展開されます。職業軍人や地主・金融資本家などの高給取り以外に企業経営者・産業資本家という20世紀特有の社会に即した役割とその影響力を織り込んだ統治システム・イデオロギーが大事ということを説きます。つまり、資本主義が高度化して知識労働者・産業組織・金融資本家が誕生し、かつてない社会への影響力を発揮したのが20世紀で、二度の世界大戦により軍需を起点に民間産業は一気に拡大したということです。

 

■産業社会発達の影響

大量生産工場と株式会社は産業社会特有の構造です。工場や会社は村や町・市場や荘園の発展形として存在し、独占なども産業社会特有の現象と言えます。株式会社は政治組織の性質を持つようになり、商業社会には想定しない影響力を持つようになりました。それにより、知識労働者や経営管理という新たな職能が生まれました。共産主義やファシズムは「自由主義・資本主義が新たな断絶や格差を生み出したから悪であり国が統制すべし」という形で19世紀の近代国家へのアンチテーゼで発達しました。宗教から財産へ人を支配する力学がかわり、産業資本の国有化や国際競争が模索されたのが20世紀初頭の国際世界です。大量生産、資本によるレバレッジから国有化は理に適うものの、利潤追求や競争インセンティブないと改善に至らないのが皮肉です。

・機械や経営技術の発達により、未熟練労働者の増加と生産性向上の結果、労働者の交渉力は低下しました。新たな支配構造が形成されただけという怒りが共産主義やファシズムを招きました。キャリアラダーや創意工夫の余地・自尊心の担保が経営の論点になったのは自明です。加えて、社会保障や失業が国の論点になり、その結果として起きた労働組合・農地改革運動は産業社会への移行期における社会運動として必然と言えます。労働組合による地位向上・社会保障の拡大や経営学・理論の発達による利益や生産性の拡大は産業社会の必然的な論点として発達しました。

 

■自由な社会と自由な政府

・自由は決して楽しいものではなく、責任や意思決定が伴う残酷さを持つものでもあります。責任ある自由よりも受身な奴隷であることや硬直的であることを本来好むのが人間というのはキリスト教の時代から見られる考え方です。完全無欠や絶対真理の存在があるのであれば、本来それに服従するのが人類の結論であり、そうでないから合議や役割分担をして社会の規範を決めて社会を形成するのが人間なのです。一方が完全に正しい・絶対とは言い切れないから自由があるのであり、自由とは懐疑的な営みです。責任や義務の伴わない自由は空虚なものであり、無法地帯と何ら変わらない、この意味を履き違える人があまりにも多いとドラッカーは警笛を鳴らします。人間は不完全であるから政府や司法を必要とし、役割分担をするものです。行政が肥大化して絶対的な権力を持たないように法に依る支配や立法機関・司法機関への権限・統制機能を有するものといった社会システムの分析をドラッカーは論として展開します。

 

【所感】

・ドラッカーが社会評論をする過程で企業組織やマネジメントに着目して論の専門性を高めていったのだろうという変遷がわかり、個人的には非常に面白い内容でした。社会科学やヨーロッパ史に関する言及が多く、一定の前知識がないと読めない内容ですが頑張って読み解く価値のある内容です。そして、本書はドラッカーが32歳の時に記述されたというのが衝撃的でした。

・商業社会→産業社会の移行の構造・構成要素を捉え、世界大戦による需要創出が基礎となり、その後のあるべき社会の統治論は自由主義か共産主義かそれ以外か?という問題提起をする先見性は冷戦などの結論を知っている現代人として非常に強烈で考えさせられます。人間の集合体である組織や社会を論じる・分析するには政治・経済・歴史・哲学などの複数分野の造詣が必要であり、学びは有機的に結合して熟成されていくものであるということが本書を通じて感じました。キリスト教やヨーロッパ史の歴史は勿論、哲学や政治学についても明るいドラッカーの論調(ルソーやロック・アリストテレスなどのマニアックな論が引用されます)は流石であると同時に非常に難解でした。

・こうした書物は日常の生活では目に見えて活きることは全くないものの自分の世界を見る眼鏡や美意識を鍛えるものとしては大変良く、完全に趣味の範囲にはなりますが良き社会市民として審美眼を鍛えるために定期的に摂取・格闘するというのをこれからも続けたい限りです。個人的には言及されている内容や原著を触れており一通りついていくことができたので個人的な成長を感じると共にドラッカーの凄みを再認識させられました。

 

以上となります!

■要約≪十字軍物語4≫

今回は塩野七生氏の「十字軍物語」を要約します。「ローマ人の物語」・「ギリシア人の物語」と並んで歴史小説三部作の一つであり、4巻構成です。キリスト教の聖地イェルサレム奪還に向けてカトリック教会が掲げた大義名分を掲げた連合軍構想に集いし軍が十字軍です。4は第六次~第八次十字軍を経てアッコン攻城戦の末に十字軍国家が陥落・聖堂騎士団が壊滅に追いやられるまでの期間を描きます。神聖ローマ皇帝フリードリッヒ2世による巧みな外交の末の休戦協定と聖戦を全うするも退廃を繰り返すフランス王ルイ9世の対比が印象的です。

 

「十字軍物語4」

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:中(周辺地域の力勢力や歴史的変遷を理解できるとより深く楽しむことのできる作品です。内容自体は平易な言葉で書かれている為、読むことは容易です。)

■対象者:・十字軍の歴史について興味関心のある方

     ・中世の世界について理解を深めたい方

     ・キリスト教・イスラム教・中東地域について理解を深めたい方

 

※十字軍物語1・2の要約は下記※

■要約≪十字軍物語1≫ - 雑感

■要約≪十字軍物語2≫ - 雑感

 

≪参考文献≫

ローマ人の物語1・43

■要約≪ローマ人の物語1≫ - 雑感

■要約≪ローマ人の物語43≫ - 雑感

 

■ギリシア人の物語1・4

■要約≪ギリシア人の物語1≫ - 雑感

■要約≪ギリシア人の物語4≫ - 雑感

 

【要約】

■皇帝フリードリッヒと第六次十字軍

・神聖ローマ皇帝フリードリッヒ2世は赤ひげと呼ばれた神聖ローマ皇帝フリードリッヒ1世の孫であり、母親からシチリア・ノルマン王朝を引き継ぎました。フリードリッヒは4歳で孤児になったことが影響し、フリードリッヒ2世はアラビア語・ギリシア語・ラテン語・ドイツ語・フランス語・イタリア語を話せました。1220年26歳の時にフリードリッヒ2世は神聖ローマ皇帝に即位します。ローマ法王からの度重なる十字軍要請に対し、交渉で解決を試みようと秘密裏にイスラム勢力と接触をしてフリードリッヒは行動を開始します。

・十字軍を組成してなかなか行動をしないということでローマ法王のグレゴリウス9世はフリードリッヒ2世を破門にします。それでも、第六次十字軍はチュートン騎士団らを率いた海上での出撃という形で断行されます。海軍を自前で完備していたということがフリードリッヒ軍の強みで、シチリア・キプロス島経由で海上で進軍し、アッコンに着陸します。フリードリッヒ2世とファラディン(イスラム勢力の親玉であるアル・カミールの通訳)によるチェスをしながらの交渉が展開されます。1年係りで交渉・講和は実現に至り、イェルサレムは1/3だけイスラム地区を作り、十字軍陣営に返還されることが決まりました。海上都市全域がキリスト教勢力の都市になり、捕虜は解放され聖地巡礼者は保護されることとなり、10年間講和は有効という形の内容となります。

・フリードリッヒ2世は講和締結後、8カ月十字軍国家に滞在してネットワーク化や城塞建設を推し進め、キプロス島経由で帰還します。兵力を損なわず、交渉だけで聖都イェルサレムを奪還しましたがそのプロセスやローマ教会に対する態度が良くないとされた第六回十字軍であった。1230年にチュートン騎士団長のヘルマンが間を取り持ち、ローマ法王との関係性を回復し破門を解除されます。十字軍国家の平和は1248年の第七回十字軍でルイ9世が捕虜になるまで続きます。

 

■フランス王ルイと第七次・八次十字軍

・第七次・八次十字軍を指揮することになるルイ9世は12歳でフランス王に即位します。ルイ9世は母親の英才教育による経験なカトリックであり、祖父は第三回十字軍に参戦したフィリップ2世でした。第七次十字軍は1244年にイスラム教徒がイェルサレムを占領したことにより、ローマ法王庁が呼びかけたことで始まります。

・第七次十字軍はエジプトを攻略することとなりますが、フランスには常用の海軍がなく、兵力調達に時間を有してしまいます。ルイ9世はジェノヴァに海軍を委ね、王妃や弟などを連れた2万5000もの大軍でエジプトの港ダミエッタに上陸します。ルイ9世率いる十字軍はダミエッタは早々に攻略を完了するも、カイロに進軍するでなく現地のキリスト教化を推し進め、休戦協定も否決するという教義に忠実な対応で展開されます。

・聖堂騎士団を率いてマンスーラへ進軍する過程でイスラム陣営の奇襲に合います。交渉が決裂し撤退する最中で騎士団を失ったことで、統率が失われていた十字軍陣営は

下級兵士がイスラム勢力に対して降参をしてしまいます。これを機に軍勢がドミノ倒しになり、王自ら含む大量の軍勢がエジプトにてイスラム勢力の捕虜になるという事案に発展してしまいます。

・ルイ9世に同行していた王妃が掛け合いなんとか釈放金の半額近くの金を集め、ルイ9世と側近の解放に成功します。ルイ9世は聖堂騎士団に資金援助を頼むなどして捕虜を少しずつ解消し、3年係りで十字軍を復興させました。ルイ9世率いる第七次十字軍は1254年までアッコンに滞在し、その後ヨーロッパへ帰還します。25000名ほどで始まった第七次十字軍は6000名程度の兵力まで激減し、イェルサレム周辺にいた宗教騎士団(病院騎士団・聖堂騎士団・チュートン騎士団)の勢力や騎士階級そのものを大幅に弱体化しました。

・1270年にルイ9世は56歳になりながら、懲りずに第八次十字軍を決行しチュニジアに旅立ちます。特段戦略もなく大軍で砂漠に降り立ち交渉をしながら進軍していたため、食糧欠乏や疫病に苦しむ羽目になり、2カ月滞在の末に撤退することとなります。ルイ9世を始めとした数々の王・王子・王妃が死亡し第八次十字軍は終了します。

 

■アッコン攻城戦・十字軍国家解散

・イスラム陣営はモンゴル帝国との戦いの最中で、マメルーク朝に入れ替わっており、彼らのジハード(聖戦)の意義は中東からのキリスト教陣営殲滅に変わっていました。モンゴル軍や第八次十字軍を対処した後のマメルーク朝は十字軍国家殲滅のために中心都市であるアッコンを攻略することに着眼します。

・アッコン攻城戦は聖堂騎士団・病院騎士団・チュートン騎士団らの勢力に加え、イギリスの聖トーマス騎士団・癩病の人で構成された聖ラザロ騎士団といった勢力が十字軍陣営の主力となります。マメルーク軍は投石機を用いて城塞を攻撃し、数の暴力で押し込んでいきます。1か月の攻城戦を経て塔は次々に陥落し、騎士団は果敢に戦うものの最終的には大半が戦死もしくはキプロス島へ脱出となり、アッコンはイスラム陣営の手に落ちます。聖堂騎士団と聖ラザロ騎士団は全滅になります。

・戦後はチュートン騎士団はドイツ、聖トーマス騎士団はイギリスへ帰国し病院騎士団はロードス島に引っ越しロードス騎士団になります。ロードス騎士団は医療サービスの提供とヴェネツィア共和国向けの海上交易支援・イスラム教勢力の海賊対峙という目的を持つようになります。以後、ロードス騎士団はマルタ騎士団と名乗り、オスマン帝国の脅威となります。アイデンティティの確立に苦しんだのは純粋な戦闘要員であった聖堂騎士団でした。フランスに帰還するも十字軍の失敗の結果の責任を負わされフィリップ4世の策略もあり、聖堂騎士団陣営は異端裁判所にて尋問の末に処罰されてしまいます。聖堂騎士団への濡れ衣を救うことが出来たのはローマ法王庁のみでしたが、ローマ法王のクレメンス五世はアヴィニョン捕囚となっており、フランスにいたため身動きが取れなくなっていました。その結果、1312年にはローマ法王名義での聖堂騎士団壊滅の決議がなされました。

・一方の十字軍に与したイタリアの海上都市国家(ピサ・ジェノヴァ・ヴェネツィア)はイスラム勢力と通商協定を結び分散的に交易をすることで経済と海軍で繁栄するという方針転換に成功し、地中海交易繁栄の時代に突入することとなります。地中海交易はイギリス・オランダ・アメリカらの近代世界の資本主義経済を牽引する大国の台頭により衰退するまでの期間、世界経済の中枢を占める動きとなります。

 

【所感】

・フリードリッヒ2世とルイ9世の評価はキリスト教国家・信者であるかにより大きく異なるように思えます。非常に現実的で合理的なフリードリッヒと宗教に忠実で見たいともう現実しかみないルイ、いずれも人間的であり統治や社会の本質を見るような象徴的な出来事に感じました。十字軍物語は様々な思惑や利害関係が浮き彫りになる描写が多く、考えさせられる内容が多かったです。

・アッコン攻城戦からの宗教騎士団陣営の結末は非常に悲しいというか時代背景を浮き彫りにしたもののように感じました。異端裁判所の恐怖とフランス王家という絶対的なヨーロッパ世界の覇権を握る権力による力での統治などルネサンス・宗教改革以前ならではの時代背景の象徴ともとれる出来事です。個人的には中世ヨーロッパ史は暗黒期ということでライトに記述されることが多い時代なので、大変勉強になりました。

 

以上となります!

■要約≪社会契約論≫

今回はルソー氏著の「社会契約論」を要約します。近代政治の古典と名高く、日本でも中江兆民が翻訳を持ち込んだことで自由民権運動の指針になりました。近代的民主主義の基礎を築き、フランス革命や直接民主制の火種となったことの影響力は絶大です。本書は聖書・資本論らと同じくらい社会に影響を与えた本で、民主主義やフランス革命に影響を与えました。国家は自由と平等を得るために人民たちが結んだ契約の集合体という考え方を指します。

 

「社会契約論」

社会契約論 (岩波文庫 青 623-3) | J.J. ルソー, 武夫, 桑原, 貞次郎, 前川 |本 | 通販 | Amazon

■ジャンル:政治学

■読破難易度:中

■対象者:・社会契約論について理解を深めたい方

     ・近代国家の歴史や政治学について興味関心がある方

     ・組織や人間の協働メカニズムに興味関心がある方

 

≪参考文献≫

■統治二論

■要約≪完訳統治二論 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪完訳統治二論 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■権利のための闘争

■要約≪権利のための闘争≫ - 雑感

■法の精神

■要約≪法の精神 第一部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪法の精神 第二部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪法の精神 第三部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪法の精神 第四部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪法の精神 第五部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪法の精神 第六部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■国家の役割・権利

・国は法律と国防・教育・医療などの社会インフラの提供により、快適・安全な生活を国民に提供する代わりに統治する権利を有し、国民も納税・労働を使役することで共同体を成立させるという相互依存の関係に成り立ち、絶対的な前提にあるものではない(夜警国家的な思想)とルソーは主張します。法による統治・支配は社会システムとして優秀であり、あらゆる取引行為を規定し、抑制する作用を持ちます。自由や財産・名誉を一方的に侵害する行為は強盗的なものであり、いかなる状態でも本来は許される代物ではないと強く主張します。戦争状態であろうとも一方が他方を奴隷のように扱うことは理性的におかしいのです。

 

■社会契約

人間は個人ではできないことを協働することで実現しようとし、その目的や原理原則を契約により定めて運用するものとされます。組織がそうであるように、国の統治も本来的に似た構造を取ります。人民は万人の万人による闘争状態は不毛であるから、司法や行政・立法などを委任するのであり、それは人民の委任・契約による所で絶対的で前提になるものではないとされます。

・道徳性・公共性そのものが社会が成立する前提条件であり、人間は専門分化・役割分担することが効果的な生き物であり、統治もそうした契約により委任する行為の一つであり、隷属性・支配性・絶対性を持つものではありません。合議や闘争の権利・自由意志を前提にしたものが社会契約なのです。

主権とは一般意志の行使であり、あくまで代表機関・代理人です。首長はその政治機構の実行の代理人に過ぎず、絶対的な権威として支配することを正当化は出来ないとルソーは強く主張を展開します。法律は統治に関する様々な意思決定を簡略化・統制するために生まれたシステムであり、三権分立のような相互抑制機能がないと国家権力は長期的に暴発する宿命にあると指摘します。

 

■法による支配

・立法・行政・司法が機能する政治システムは高度な社会であり、軍事や宗教などの絶対的な権威に服従する形式を強いることで、統治をする形式人類の歴史の大半を占めました。王政世襲により統治を正当化するのが中世までの世界の統治システムの基本であり、共和政や議会制民主主義は相当に条件が揃わないと成立しないとされます。

・立法・司法・行政は分離するべきであり、私有財産制度などのシステムがないとそもそも法律や権利は成立しないです。人間の俗物さや欲深さから民主政は完全な政治形態にはなり得ず、神のみで構成される国家であれば民主政が良いとされます。身分制度はシステムの硬直化を招くものの、システムとしては一定の論理が成り立つということになります。あらゆる統治形式を論じるに際して、支配は被支配者の合意があっての前提であることを忘れてはならないとも重ねてルソーは警笛を鳴らします。

 

【所感】

・本書はロックの「統治二論」・モンテスキューの「法の精神」と並ぶ政治学の古典であることは認識しており、統治二論・法の精神は既に読んでいたのでどこかで読みたいと考えており、ようやく読むことが出来ました。ホッブズの「リヴァイアサン」も長作ですが時間を見つけて読んでみたいと思います。

・本書では議会制民主主義・民主政・専制・宗教による支配・ローマ帝国の統治のメカニズム・共和政・三権分立の意義などモンテスキューの法の精神と似たような形で、ヨーロッパの歴史を紐解き、各種政治システムの特徴と善し悪しを論じながら論が展開されます。ややマニアックだったので詳細各論の要約は割愛しています。

・社会科学の古典は実用性は皆無ですが、人間社会への洞察力や構造的なものの理解を深めたり抽象的な思考を養うには非常に素晴らしいものばかりで定期的に新しい古典に触れたり過去に読んだものを読み返していくことを改めてしたいなと思いました。人間社会や組織に影響を与えていく役割を全うしようとするとこうした古典に美意識や道標のヒントが隠されているなと再認識しました。

 

以上となります!

■要約≪十字軍物語3≫

今回は塩野七生氏の「十字軍物語」を要約します。「ローマ人の物語」・「ギリシア人の物語」と並んで歴史小説三部作の一つであり、4巻構成です。キリスト教の聖地イェルサレム奪還に向けてカトリック教会が掲げた大義名分を掲げた連合軍構想に集いし軍が十字軍です。3は第三次~第五次十字軍の時代を描いており、リチャード1世の獅子奮迅の活躍やヴェネツィア共和国の巧みな交渉の結果のラテン帝国の誕生など第一次・第二次十字軍とは毛色の異なる様相を呈します。

 

「十字軍物語3」

十字軍物語 第3巻/塩野七生 : bookfanプレミアム - 通販 - Yahoo!ショッピング

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:中(周辺地域の力勢力や歴史的変遷を理解できるとより深く楽しむことのできる作品です。内容自体は平易な言葉で書かれている為、読むことは容易です。)

■対象者:・十字軍の歴史について興味関心のある方

     ・中世の世界について理解を深めたい方

     ・キリスト教・イスラム教・中東地域について理解を深めたい方

 

※十字軍物語1・2の要約は下記※

■要約≪十字軍物語1≫ - 雑感

■要約≪十字軍物語2≫ - 雑感

 

≪参考文献≫

ローマ人の物語1・43

■要約≪ローマ人の物語1≫ - 雑感

■要約≪ローマ人の物語43≫ - 雑感

 

■ギリシア人の物語1・4

■要約≪ギリシア人の物語1≫ - 雑感

■要約≪ギリシア人の物語4≫ - 雑感

 

【要約】

■リチャード1世と第三次十字軍

・第三次十字軍はローマ法王クレメンス1世の呼びかけにより組成されます。イギリスからはリチャード1世・フランスからはフィリップ2世・神聖ローマ帝国からはフリードリッヒ1世という王自ら軍を率いて出撃するという華やかな十字軍が組成されます。聖都イェルサレム奪還に向けて、海上都市をキリスト教陣営の手に戻し、ヴェネツィア・ピサ・ジェノヴァらの海軍勢力・海上交易を活かすこと、並びにシリア-エジプト間のイスラム陣営の物流網を絶つことが重要と考え、十字軍は展開されます。

・十字軍は手始めに海上都市ティロスを防衛し、アッコン奪還作戦へシフトします。サラディン率いるイスラム陣営はジハード(聖戦)の大義によりシーア派・スンニ派の対立を超えた軍を組成していましたが、守勢のこの時期にはそうした大義は余り効力を発揮せず、苦戦を強いられます。一方の十字軍陣営はというと、神聖ローマ帝国のフリードリッヒ1世が溺死するという事件により、帝国軍の大半が解散をしたことで一気に兵力を低下させてしまい、フランスのフィリップ2世・イギリスのリチャード1世が合流するまで長期化を余儀なくされます。

・リチャード1世が南下をする中でビザンチン帝国領であったキプロス島を攻略し、供給網を整備し、十字軍陣営に本格参戦する中で潮目は変わります。リチャード1世の圧倒的なリーダーシップと采配が功を奏し、早々にアッコンを奪還すると十字軍陣営はピサやジェノヴァの海上船と連携しながら南下し、次々に海上都市を十字軍陣営に取り戻していくことに成功します。十字軍とサラディン率いるイスラム陣営はアルスーフの戦闘で激突し、病院騎士団・聖堂騎士団が守りを展開しながらリチャード1世自らフロントに出る獅子奮迅の動きをするという動きを展開し、結果的に十字軍陣営が大勝利に終わります。リチャード1世率いる十字軍陣営はアルスーフ・ヤッファと主要海上都市を抑え、エジプトとの連結点である海上都市アスカロンを攻撃する中で有利な状態でサラディン率いるイスラム陣営との講和を取り付けます。リチャード1世はイギリス本国で同じ十字軍に参戦していたフランスのフィリップ二世の策略により、国土を脅かされている事態になっていました。こうした背景もあり、早期戦争終結を望まざるを得なかったこともあり、第二次十字軍よりは領土を拡大するも聖都イェルサレムはイスラム陣営のものは変わらずという形で第三次十字軍は終了します。以後、数十年の休戦・平和な状態へ進みます。

 

■ヴェネツィア共和国と第四次十字軍

・第四次十字軍はローマ法王のインノケンティウス三世が呼びかけることで展開されます。過去の十字軍はローマ法王代理が不在であったことや聖都イェルサレムを奪還していないということで満足いくものではないという言い分です。インノケンティウス三世は十字軍を組成するにあたり、フランスやイギリスは国内の戦争に明け暮れ、神聖ローマ帝国はフリードリッヒ1世亡き後皇帝不在の中、十字軍のリーダーにピサやジェノヴァが海上交易を十字軍国家で行っていることで冷や飯を食う羽目になっているヴェネツィア共和国元首のダンドロに目をつけます。

・第四次十字軍はイスラム陣営を弱体化させるために、聖都イェルサレムを直で目指すのではなくエジプトのカイロを攻略してイスラム勢力を激減させることが狙いになりました。ヴェネツィア共和国はヨーロッパ世界において海軍力で圧倒的でありましたが、十字軍の構想に乗る為の費用や条件を交渉で突き付けてきたことでフランスやローマ法王庁は苦戦を強いられます。折り合いをつけるために、キリスト教陣営であるザーラという港を襲撃してヴェネツィア共和国の通商の自由を確保するために駆り出されたり、途中で出会ったビザンチン皇子アレクシスのお願いにより行き先が同じキリスト教陣営(ギリシア正教ではあるが)のビザンチン帝国の首都コンスタンティノープルに変更になるなどグダグダな様相を呈します。

・結果的に第四次十字軍によるコンスタンティノープル攻略戦は10か月かけて行われ、皇帝・皇子アレクシスらが殺され十字軍陣営が勝利します。その結果、ビザンチン帝国の帝位が空位となり、ラテン帝国への名称変更が発生します。フランドル伯のボードワンがラテン帝国の皇帝に選出されます。以後は60年弱の十字軍国家として実質的にヴェネツィア共和国が蔭で支配をする国家が誕生します。

 

■ローマ法王庁と第五次十字軍

・第五次十字軍はローマ法王庁主導にて、海軍をジェノヴァが供給しエジプトの港町を攻めるという構想で進行します。リチャード1世とサラディンによる休戦協定を経て、平和を長期的に享受していた十字軍国家は軍出動のニーズを持ち合わせていない事態になり、ローマ法王庁の宗教的な美意識や海上都市国家の経済的動機に十字軍は支配されるようになります。ローマ法王代理はペラーヨというスペイン生まれの敬虔な修道士が務めることとなります。

・対するイスラム陣営はアラディールが73歳になり世代交代となり、シーア派スンニ派の対立やシリアのダマスカスとエジプトのカイロどちらを中心にする、スルタン・カリフ対立などがある時代に突入していました。十字軍はジェノヴァ率いる海軍筆頭にエジプトのダミエッタという海上都市を攻撃します。十字軍陣営はイスラム陣営がアラディール亡き後の息子たちによる分割統治の仲違いが功を奏し、効果的に進軍を進めますが、イェルサレム王ブリエンヌと法王代理ペラーヨはどちらが十字軍の指揮をとるかをめぐり対立し、統率がとれない状態が続きます。

・イスラム側からエジプトからの十字軍撤退を条件に十字軍側にイェルサレムを返還する交渉が提示されるものの、この好条件をイェルサレムの司教や法王代理ペラーヨがプロセスの宗教的な意義から反対し、ジェノヴァにとってもエジプトの海上交易を手放すは十字軍によるメリットがないと退け交渉は決裂します。2年の戦いの末にエジプトの戦線基地を獲得することに成功するものの、今度はこれを誰が統治するかでイェルサレム王ブリエンヌと法王代理ペラーヨは対立します。なんとか調停は終わり、防衛軍は神聖ローマ皇帝になるフリードリッヒ二世が到着するまでイェルサレム王が代理統治するという形で着地します。この構想を聞いたイスラム陣営のアル・カミールは危機感を覚え、再度十字軍陣営に講和を持ち込むもののペラーヨの反発により否決されたため、ダムを決壊させることでエジプトの戦線基地を自ら破壊するという動きに出ました。結果的に十字軍陣営はエジプトの戦線において食糧不足に陥りじり貧になり、8年の休戦協定を結んでエジプトを引き上げるという形で第五回十字軍は終わります。

 

【所感】

・第三次~第五次いずれの十字軍も関係者の利害関係が交錯する中での駆け引きや華々しい戦いが続くなど読み応えのある内容でした。中世世界の各国のスタンス・力関係や関心事項がよくわかり、世界史専攻ではなかった自分にとって非常に立体的な学びを得ることのできる内容でした。宗教による思想の支配や統率・海上都市など現代では考えにくいパワー・グループがいることは非常に印象的でした。

・本音と建て前はどの時代にも存在し、極めて人間的なやりとりが続いていくのが十字軍物語前提に通じることであり、人間社会の本質は普遍的であるという意味でもあるのかなと読み進めました。リチャード1世は久しぶりの英雄と言わんばかりの気持ちよさを誇り、ヴェネツィア共和国のしたたかさやローマ法王庁やイスラム陣営の頑強さ・非合理性などはまさにという具合でした。

 

以上となります!

■要約≪ブルー・オーシャン戦略≫

今回はW・チャン・キム氏とレネ・モボルニュ氏共著の「ブルー・オーシャン戦略」を要約します。ブルー・オーシャン戦略は市場戦略の一つで、既存市場・戦略と地続きながら差別化やコスト優位を追求することで、参入障壁があり競争にまみれることのない市場戦略を取れるというのがブルー・オーシャン戦略のコンセプトです。

 

「ブルー・オーシャン戦略」

[新版]ブルーオーシャン戦略 | decision_reading

■ジャンル:経営学

■読破難易度:低(前知識不要かつ豊富な事例があるので、イメージが付きやすいです。前提となる競争戦略の理解がないと何が凄いのかイメージがしづらいかもしれません。)

■対象者:・製品市場戦略に関して理解を深めたい方

     ・事業戦略の意思決定に関わる方全般

     ・企業経営についての造詣を深めたい方

 

≪参考文献≫

■インサイト中心の成長戦略

■要約≪インサイト中心の成長戦略≫ - 雑感

■企業戦略論(中)

■要約≪企業戦略論(中)≫ - 雑感

■コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント

■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART8≫ - 雑感

 

【要約】

■ブルー・オーシャン戦略とは

・ブルー・オーシャン戦略とは市場の境界の引き直しを通じてコスト優位や差別化を実現し、新市場/新顧客の需要を創造する市場戦略を指します。既存顧客・マーケットと地続きに何らかのコンセプトや要素を選択と集中することで未顧客/非顧客を取り込み、他社を寄せ付けない(競争のない状態)を生み出そうというものです。日本企業におけるブルー・オーシャン戦略の代表例はスタディサプリ・JINS・オフィスグリコ・クックパッド・セブン銀行・ヒートテック・パーク24・ライフネット生命などとされます。

・市場や顧客の動向に関する深い・独特の洞察と何を価値の源泉と見立てる/置くかという2つの一見矛盾した要素がブルー・オーシャン戦略の実現には欠かせません。それ故に、顧客やマーケットへの深い造詣を基に、半ば強引・トップダウン的に推し進め既成事実・成功筋を描くことも求められます。日本市場においても産業社会が成熟して既存の市場がレッド・オーシャンで儲からないということが増えた中で、既存市場から少しずらした新市場創造・開拓が成長戦略になることからブルー・オーシャン戦略は注目を浴びるようになりました。

 

■ブルー・オーシャン戦略導出の急所

・既存の価値曲線とは異なる顧客セグメントや価値を深めることがブルー・オーシャン戦略のポイントで、切り口としては減らす・増やす・取り除く・創造するの4つになるとされます。標準規格をライトにしたり、リッチにすることや別顧客セグメント向けに転用するなどが代表的な動きです。メリハリをつけたサービス提供で顧客セグメントと顧客価値を明確にするというのがブルー・オーシャン戦略の典型的なやり方です。

・ブルー・オーシャン戦略とレッド・オーシャン戦略は紙一重であり、模倣が簡単かどうかや内向きでないかや戦略・コンセプトがシンプルで絞り込みであるかが分岐点です。導出のヒントには業界内の他戦略グループの動向や競合理解・代替産業の価値の源泉を深く知ることなどがあるとされます。

他の戦略グループから顧客価値の源泉を見立て、選択と集中やライトタッチ・深めるをするがブルー・オーシャン戦略の基本です。バリューチェーン全体でみると顧客やステークホルダーはたくさんいて、力点や視点を変えることでブルー・オーシャンが存在しうるとされます。非効率や戦略オプションには何らかの理由があります。顧客セグメントやバリューチェーンの何に着目するかが差分で、プチイノベーションがブルー・オーシャン戦略の基本なのです。

 

■ブルー・オーシャン戦略実行の急所

・戦略をビジュアル化する4ステップは「目を覚ます→自分の目で現実を知る→ビジュアル・ストラテジーの見本市を開く→新戦略をビジュアル化する」になります。マクロ視点やビジネスプロセス全体を構造化する・代替手段・価値の源泉を言語化するという営みがブルー・オーシャン戦略の頭の体操として大事な所です。

買手にとっての効用→価格→コスト→実現への手立てという順番で考えるのが鉄則とされます。バリューチェーン全体において既存の解決策とは違う価値の生み出し方・価値を感じる顧客セグメントがいないと絵にかいた餅になるからです。ブルー・オーシャン戦略はその性質上、市場構造が明確な業界や市場規模が一定ある(セグメントを切ったニッチ集中で採算が成り立つというのが前提にあるため)ということが必須条件になるのが特徴です。顧客の密集する価格帯を見極め、価格受容度を測る・弾力性のポイント(価値の源泉を見極める)という動きが大切です。

・ブルー・オーシャン戦略実行には資源配分や変化抵抗、政治力学など様々な壁がついて回ります。戦略の変更は行動や価値基準の変更を意味し、些細な物事をどう認識するかから力学設計して推進する緻密さが求められます。変革を実践するには悲惨な現状をシニアステークホルダーにも体感してもらうことや不満顧客の対応をしてもらうなどして、変化の必要性を認識してもらうがセオリーです。

 

【所感】

・若干、後付け・机上の空論感は否めないのがブルー・オーシャン戦略ですが、顧客価値や新市場に着目するアプローチ手法・切り口や技術ドリブンじゃないイノベーションにはこういうやり方があるということを非常にわかりやすく体系化したのが本書の凄みかなと感じました。

・個人的にはブルー・オーシャン戦略のコンセプト策定~実行までを具体的なステップや対策を講じて論じており、一種の変革推進的な行為であることを念頭においた論展開が非常に勉強になりました。顧客価値や市場動態を真っすぐ捉え、如何に既成概念にとらわれず当たり前を疑う・壊すということを胆力を以て推し進めるか・取捨選択をするかというシビアな意思決定が改めて大切ということを認識するに至りました。選択と集中・シニアステークホルダーとの合意・連続的な勝負への勝利による継続的な投資機会の獲得をするというしたたかさが必要で、ブルー・オーシャン戦略とは大企業の新規事業開発や変革推進に近しいものなのかもしれないと感じた次第でした。

 

以上となります!

■要約≪新版 企業の人間的側面≫

今回はダグラス・マグレガー氏著の「新版 企業の人間的側面」を要約していきます。マグレガーは20世紀半ばの経営学者の一人で、石油製品販売会社での自身のマネジメント経験や心理学の造詣(ハーバード大やマサチューセッツ工科大学の教授を歴任)を基に、企業統治には従来のX理論(人間は怠慢でありマイクロマネジメントが必要という性悪説)だけでなく、Y理論(創造的な自由意志を持つとする性善説的なもの)の考え方も必要という当時としては斬新な論を展開しました。副題の「統合と自己統制による経営」が物語るように、企業経営の理論が発達する過渡期に書かれた革命的な書で、経営組織や経営原理の授業で度々引用されます。

 

「新版 企業の人間的側面」

Amazon.co.jp: 企業の人間的側面: 統合と自己統制による経営 : ダグラス マグレガー, 高橋 達男: 本

■ジャンル:経営学

■読破難易度:低~中(非常に具体的かつ実践的な事例を基に論じており、前提知識不要で読むことが出来ます。経営学の基礎もしくはビジネス実践経験があると読みやすいです。)

■対象者:・経営学の古典を学びたい方

     ・組織マネジメントに従事する方全般

     ・組織行動学(OB)を体系的に理解したい方

 

≪参考文献≫

■科学的管理法

■要約≪科学的管理法≫ - 雑感

■組織化の社会心理学

■要約≪組織化の社会心理学≫ - 雑感

■経営者になるためのノート

■要約≪経営者になるためのノート≫ - 雑感

 

【要約】

■目標による管理・経営理論の必要性

・ドラッカーやマグレガーが企業経営により成果を上げる(差分が出る)としたのは目標による管理が前提にあります。目標管理のポイントは①アクションに直結する目標設計(計測・改善可能なもの)②目標設定において従業員の参画プロセスを経ること③目標達成に向けて自己統制・分権による自己実現領域を担保することの3つが大事であるとされます。

・経営は特定分野の専門知識に加えて、組織という人的資源を活かして成果を発揮することから社会科学への造詣・人間心理・集団心理への理解が必須とされます。マグレガーはそれ故に、経営者・管理職のパフォーマンスのボラティリティが企業経営のボラティリティに寄与するという論を主張します。経営者は人間を管理するのだから社会科学について自然科学の理論を重要視するビジネスと同じように社会科学も大事だよ・専門家であれということを言わんとします。統制とは人間にあった手段を選ぶことにあります。動機付け・適切な労働環境の構築・ノウハウや資源へのアクセスなどの整備をすることを通じて、勝ち馬に乗せるように秩序を構築することが大事とされます。

 

■人の使い方・動かし方

・企業経営の根幹を成す考え方は軍隊やカトリック教会をモデルとした組織論です。人間の社会性や動機付け観点を加味すると、そうした管理的なものだけでなく個を尊重することによる動機付けや組織成果最大化もあってよいということになります。組織における人間行動の性質を深く理解したマネジメントが大事で、べき論の押し付けが絶対解とは限らないとX理論的な見解の経営学の潮流に対してマグレガーは異を唱えます。組織構造は権限の上下関係を意味します。強制・説得・援助が組織における働きかけの力学の種類としてあります。

 

■X理論とY理論

本来、人間は仕事が嫌いであり、怠惰な生き物で矯正されることをしないと組織成果を最大化できないというのが古典的な考え方であり、マグレガーはX理論と評します。命令されることが好きで責任を回避し、自己決定をしたがらないという見方は人間の発達段階や心理的安全・場面によりけりという側面があります。X理論はマズローの五段階欲求説とリンクするという解釈がされています。部下が言われたことしかやらないのは社会的欲求や自我の欲求が満たされないが故(スキルや経験・物理的制約)というのがマグレガーの論であり、環境に働きかけることにより人間はいくらでも変わりうるという立場をとります。

・一方の人間は創造的であり、自由裁量により自己実現や能動的足りうるという立場に立つマネジメント観がY理論です。Y理論の前提に立った経営観として、企業目標と個人の目標・動機付けを繋ぐことができると組織成果は最大化しうるという主張に繋がります。金銭的・身体的欲求と同じくらい自己実現欲求・社会性を刺激することが内発的動機付けの観点で大事になります。X理論・Y理論は二元論ではなく、ケースバイケースになるのです。

 

■スタッフとラインの関係

・「人材資源は活用の仕方で差分が出る」という思想を前提にライン・スタッフの役割分担・分権制が存在します。ライン部門は本社スタッフのサービスを受けて高い組織成果や顧客価値を目指し、その一方でスタッフの平社員がラインのミドルマネジメントの意思決定に影響を及ぼすという現実もあります。現場最適・権限移譲をして組織成果と兆しだけコミットする、本社スタッフは専門性からサービス提供・経営者とラインの意思決定の質に貢献するという役割分担が定石として定着しつつあります。中央集権と分権制のどっちが良いかは事業や職能組織置かれた組織状態・ケイパビリティにより千差万別であり、資源は有限であり、活かしようにより幾らでも変わりうるということでもあります。

・スタッフ・グループの重要な役割は戦略策定に関する援助であり、上級管理者の意思決定の質向上に向けた作業環境の整備にあります。2つ目は問題解決にあたっての援助です。本社スタッフはその専門性による依頼に依存しているという側面もあり、エージェンシー理論や本社の権限でラインに影響を与えてくるというものがあると同時に脆さを持つ二面性を持ちます。

 

■管理者の育成

・人材育成上の観点からは直属の上司の行動が組織文化や行動指針を形成するもので望ましいものです。自己防衛本能から管理者が部下の評価や仕事の進め方に制御をかけるケースもあり、客観的に評価・ガバナンスを働かせる仕組み作りは重要な経営テーマです。人事異動計画や人材育成管理に関しては本社スタッフが経営とラインの橋渡しとして専門サービスを提供するのが望ましくなります。管理者育成は管理者本人が成長するしかなく、その環境整備や機会提供・誰にアサインメントするか次第なのです。

・人材育成の基本は座学や理論もありながら、基本は経験から学ぶ能力をどう引き出すか・どう開発するかということが中心です。知識取得や自己啓発を促進する意味づけや機会提供が限界であり、本質的にはその人の資質や志向性次第なのです。経験だけでは学習効率が悪いため、知識や理論として体系だっているものは外付けで学びましょうというのが管理者育成の基本であり、複合的な知識や理論を必要とするものです。

 

【所感】

・1950年代に記述された古い本ですが、現代のマネジメントに通じる示唆に富んだ記述が多く、それだけ本書の理論が普遍的ということが伺えます。味わい深い言葉遣いや論の展開をされており、読みながら非常に考えさせられる内容でした。

・職務要件を定義し、ミッションの基準と目標設定・適切に評価・管理・運用していくことでしか人材資源は活性化しないです。これを計画的・能動的にたら占めて成果を上げるのがマネジメントの役目です。資源交渉・課題の仕入れ・誰をバスに乗せるかの意思決定・選択と集中でしか組織成果の差分は出ないです。持ち味と機会を繋ぐこと・適切なアサインメント・仕事の定義をして活性化することがマネジメントの重要な組織成果差分であり、これはX理論とY理論の両面で設計することが思想として必要です。

・人への期待を諦めない、人は機会により開発されうるがその開発のされ具合は本人の資質や選好性・タイミングに依る所という矛盾が併存するのが組織マネジメントの難しさでしょうか。逆にこの矛盾や不確実性の波を乗り越えての秀でた組織成果しかマネジメントで大業を成すとは難しいということも意味します。個人的には誰をバスに乗せるかということと組織成果にシビアになりながら、資源交渉・課題の仕入れ・選択と集中(尚可が大量にある中で如何にトレードオフをするか・レバレッジを利かせるか)をするこれがマネジメントであり、経営の差分なのだろうと理解を深めるこの頃です。

 

以上となります!

■要約≪十字軍物語2≫

今回は塩野七生氏の「十字軍物語」を要約します。「ローマ人の物語」・「ギリシア人の物語」と並んで歴史小説三部作の一つであり、4巻構成です。キリスト教の聖地イェルサレム奪還に向けてカトリック教会が掲げた大義名分を掲げた連合軍構想に集いし軍が十字軍です。2はイェルサレム王国建国後の十字軍国家の統治劇を描き、イスラムの英雄ヌラディン・サラディンの活躍により十字軍国家陣営のボードワン四世イベリンらの健闘もありながら1187年にジハードを完了し、再度聖地イェルサレムがイスラム陣営のものとなるまでを描きます。

 

「十字軍物語2」

塩野七生 『十字軍物語2』 | 新潮社

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:中(周辺地域の力勢力や歴史的変遷を理解できるとより深く楽しむことのできる作品です。内容自体は平易な言葉で書かれている為、読むことは容易です。)

■対象者:・十字軍の歴史について興味関心のある方

     ・中世の世界について理解を深めたい方

     ・キリスト教・イスラム教・中東地域について理解を深めたい方

 

※十字軍物語1の要約は下記※

■要約≪十字軍物語1≫ - 雑感

 

≪参考文献≫

ローマ人の物語1・43

■要約≪ローマ人の物語1≫ - 雑感

■要約≪ローマ人の物語43≫ - 雑感

 

■ギリシア人の物語1・4

■要約≪ギリシア人の物語1≫ - 雑感

■要約≪ギリシア人の物語4≫ - 雑感

 

【要約】

■守りの時代

・1099~1117年までの間、十字軍国家は第一回十字軍の英雄であるボードワン1世が統治しながら安定的にパレスチナ地方を統治していました。十字軍国家は常に兵力や物資などの資源不足に悩まされており、国防は病院騎士団・聖堂騎士団などの医師・修道士兼異教徒戦線を戦う騎士により支えられました。宗教騎士団は神のために一生を捧げており、異教徒との戦いに命をかける集団となり十字軍を支えました。騎士団の多くの人はフランス人やイタリア人でした。十字軍国家は常にバグダットとカイロからのイスラム教勢力(シーア派・スンニ派)の戦いから防衛することの必要に迫られていました。

 

■イスラム勢力の反撃

・ボードワン1世の統治の時代が終わり、イスラム教勢力はゼンギ率いる軍がエデッサ伯領の攻撃を本格的に開始します。アンティオキア公国やイェルサレム王国がうまく連動することが出来ず、ゼンギ軍の猛攻により1144年にエデッサ伯領はイスラム教徒の手により陥落してしまいます。

・この事態を受け、修道士ベルナールがヨーロッパ世界を扇動する形で、イェルサレム女王メリセンダがローマ法王エウゲニウスに対して助けを求めたことに端を発し、第二回十字軍が組成されます。第二回十字軍の権威付けのために召集されたのはフランス王のルイ七世トゥールーズ伯・シャンパーニ伯・フランドル伯などフランス地域の有力諸侯や神聖ローマ皇帝のコンラッド三世でした。

・第二回十字軍は第一回十字軍と同様に東欧諸国を経て、コンスタンティノープルを経て進軍しました。途中でビザンチン帝国と休戦協定を結んでいた小アジア地域において、神聖ローマ皇帝コンラッド三世率いる十字軍は待ち伏せしていたトルコ軍に完敗を喫してしまいます。フランス軍はアンティオキア公国になんとか到達するものの、ルイ七世・コンラッド三世の兵拠出依頼をアンティオキア公国・トリポリ伯領が断ったことにより、十字軍はイェルサレム王国+3500の第二回十字軍(ヨーロッパからの遠征)という小規模陣営でイスラム教勢力と対峙を余儀なくされました。十字軍はダマスカス攻略を仕掛けるものの、猛暑やイスラム教勢力のゲリラ攻撃に悩まされ戦果を挙げることなく、第二回十字軍は早々に撤退をしてしまいます。

・その頃、イスラム教勢力のヌルディンはシリアにおける統治基盤を得ると共に、慈善事業や統治にも勢を出し結果的にバグダッドのカリフからスルタンを名乗ることを認められ、勢力を拡大させます。イスラム世界ではエジプトのファーティマ朝が崩れ、バグダットのアッバース朝が勢力を増していました。イラクとシリアを統合した広大な土地を支配していたシーア派のスルタンであったヌラディンはエジプトの内乱に駆り出され、これを起点にシーア派とスンニ派を統合できないかということをヌラディンは画策するようになります。

 

■ボードワン四世・サラディンの時代

・イェルサレム王国はグダグダな統治の時代を経て、イェルサレム王アモーラーの息子で癩王と呼ばれたボードワン四世が13歳でイェルサレム王に即位します。十字軍陣営は城塞とテンプル騎士団・病院騎士団という兵力構図でした。一方のイスラム陣営はヌラディン亡き後、息子の権力を無力化し実質的に支配者となっていたサラディンが台頭していました。

・ボードワン四世は自分がライ病で長くないことを認知しており、事後の統治体制を構築する為に腐心しており、サラディンはヌラディン亡き後のシーア派統治地域をどう自分の陣営に取り込むかに時間を割いており、全面決戦は行われず数年の時が流れます。サラディンはクルド人であり、エジプトのカリフ的な立ち位置にあり、ヌラディンが治めていたダマスカスなどのイラン地域のイスラム教勢力を取り込むための平定に時間をを割くこととなります。イスラム教勢力はスンニ派とシーア派・トルコ・アラブ・その他の部族などの入り乱れ統一がなされない宿命にありました。

・1177年、ボードワン四世が16歳の時にサラディンは2万6000の兵力を率いてエジプトのカイロからイェルサレム目掛けて進軍をします。ボードワン四世はわずか500の騎兵と80の聖堂騎士団兵で切り込むモンジザールの戦闘が行われ、奇襲が功を奏しボードワン四世率いる十字軍は圧勝します。1179年ボードワン四世が18歳の時にサラディン率いる軍と再戦します。サラディンとの対決の中で何とかボードワン四世は生き抜くものの、息のかかった将軍級クラスを一気に持っていかれる手痛い攻撃を受けてしまいます。この頃からボードワン四世の病状は悪化しており、銀の仮面をかぶって戦に出ることが多くなり、1183年22歳の時には視力も失い始めていきます。ボードワン四世は6歳のボードワン五世を即位させ、十字軍を新たに結束することを呼びかけるために腹心を西ヨーロッパへ送り込み、24歳にして死亡します。

 

■ジハード・イェルサレム陥落

・サラディンはイスラム教徒を率いて、異教徒を殲滅する聖戦(ジハード)の理念を掲げます。サラディンは異教徒相手の合戦という大義を構築し、戦死者を天国に送られる殉教者と表現してイスラム教徒を鼓舞しました。サラディンはキリスト教側の立場からも十字軍の思想・結束を理解し、聖地イェルサレムに進軍し叩くことが十字軍国家を弱体化する最速の手段と見立て作戦を実行します。サラディン陣営は騎兵12000・歩兵28000の合計4万の大軍でイェルサレムへ進軍します。

ハッティンの戦闘と呼ばれる大規模な戦闘はサラディンが十字軍陣営の行く手を阻み、水にアクセスできないようにする実質的な兵糧攻めを展開し、十字軍陣営はサラディンのような優れたリーダーもいなかったことで拙い戦展開を余儀なくされ、8000の兵力はあっという間に消耗させられてしまいます。

・十字軍陣営はトリポリ伯のレーモン3世や後衛軍を率いていたイベリンだけが生き残りました。イベリンがその後聖都イェルサレム防衛戦の最前線に立ち、サラディン率いるイスラム教勢力と最後まで対峙することとなります。イベリンは60の騎兵と男性市民を武装化することで抵抗し、最終的には身代金交渉でフランク人をほぼ全員イェルサレムから殺されたり奴隷にすることなく脱出させることに成功しあす。1187年、88年の時を経てイェルサレムは再びイスラム教勢力のものとなりました。十字軍陣営はイェルサレムを失い、アンティオキア・トリポリ・ティロスしか領土を持ち合わせなくなりました。本来の十字軍の目的を失ったことにヨーロッパ中はショックを受け、神聖ローマ帝国からはフリードリッヒ一世・フランスからはフィリップ二世・イギリスからはリチャード一世が第三回十字軍に立つこととなります。

 

【所感】

・宗教の力強さ・影響力というものを改めて考えさせられる内容でした。無理筋である十字軍国家構想・それを維持する強烈な力学と共に、イスラム教勢力間の抗争など現代かつ日本では非常に想像しにくい構図・力学がヨーロッパ・中東社会の潮流を形成していたというのは非常に感慨深いものでした。必要に迫られての城塞や海上都市の発達・騎士団の武装化など人間の根源的な性質を垣間見るものも多く、明るい話はあまりないものの非常に味わい深い内容ばかりでした。

・ボードワン四世とサラディンは立場は違えど非常に英雄として描写のしがいのあるリーダーであったことが伺えます。イベリンが最後まで十字軍国家の責任感を持ち、対峙するなどグダグダな時代や無能な人材・兵力も多い中で際立つ人材もいるということが歴史を学ぶ面白さでしょうか。ゲームやアニメのモチーフとなるものが中世時代に多いのも納得だなということを本パートを読んで再認識しました。

 

以上となります!

■要約≪反脆弱性(下)≫

今回はナシーム・ニコラス・タレブ氏著の「反脆弱性」の下巻を要約していきます。「ブラック・スワン」の著で有名な氏の著作で本書は上下巻構成となります。下巻は上巻で提唱した概念を深め応用する事例を中心とした論展開になります。不確実性な世界を生き延びる唯一の考え方ということで、反脆弱性という概念を提唱・論証しています。個人的には超回復に近い概念として反脆弱性を捉えます。

 

「反脆弱性(下)」

反脆弱性[下] 電子書籍版 / ナシーム・ニコラス・タレブ/望月衛/千葉敏生 : ebookjapan ヤフー店 - 通販 - Yahoo ...

■ジャンル:ファイナンス・意思決定論

■読破難易度:中(専門知識は不要ですが、独特の論調故に読みづらさがあります)

■対象者:・不確実性の中での意思決定の精度を高める方法に興味関心のある方

     ・金融理論の理解を深めたい方

     

≪参考文献≫

ブラック・スワン

■要約≪ブラック・スワン(上)≫ - 雑感

■要約≪ブラック・スワン(下)≫ - 雑感

 

【要約】

■理論の落とし穴

合理主義は脆さを増強するという皮肉があるとソクラテスの主張を借用して論が展開されます。啓蒙主義などの万能理論は物差しを形成する強さの裏腹に脆さを招き、ブラック・スワンに飲み込まれるリスクを増強する皮肉があるとされます。それ故に、狙ってオプションやランダム性を常に意思決定において確保することが反脆弱性の作用から重要ということを著者は説きます。

・バーベル戦略は資産やリスクを極端に安全なものと極端にハイリスク・ハイリターンなものに分け、中間を避ける投資・人生戦略であり、安全資産を持たないことで市場の崩壊によるダメージを受けにくくするという考え方です。世の中にはあらゆる現象において分布・分散というものが存在し、これに着眼したリスクマネジメントやオプション性を駆使して成果を得よということを重ねて著者は主張します。

 

■歴史が示す反脆弱性による淘汰作用

・反脆弱的な考え方として、生き残るものは何らかの目的や価値があるとして、新しい物より古いものを評価するというものが存在します。つまり、時間の経過と共にリスクは増強し、脆さは形成されそのブラック・スワン的なものに飲み込まれ淘汰・変容する中で残るものと残らないものがあり、古くから評価されているものはその淘汰作用の濾過を経ているのでそれだけで価値があるということです。著者は技術への過度な傾倒、未来は過去の延長線に地続きにあるという妄信は愚かであると痛烈に批判します。

・反脆弱性の象徴的な例としては五重塔が存在します。五重塔は地震でも衝撃を分散させるから結果的に壊れにくいという最たる事例です。逆に完璧に見える技術・虚構の秩序は脆さがあるのです。同様の考え方で、共産主義や社会主義など当時の潮流を作り、現代では時代遅れとなった古典に触れることも大事とされます。科学やベストセラーは脆さの塊であり、当時注目されたものが5年後にそのまま持続・残っている確率は極端に少ないと痛烈に批判します。

 

■科学の限界

・ランダム性やフィードバックループに抵抗する、静的なものとする行為は自然界の法則的に愚かであるという論理を著者は展開します。具体的には医学のような自然界の法則に対して虚構の秩序を創り出し安定している・絶対的であるという態度そのものが愚かであり、反脆弱性によりその前提はどうやっても崩壊する宿命にあるとされます。寿命の増加は医学の進化ではなく、公衆衛生の改善や軍事的な衝突の回避・法整備によるところが大きく、医原病の存在を軽視してはならないという立場を著者は採用します。

 

【所感】

何かを得るには何かを捨てる・リスクを取らないといけないという真理を手を変え品を変え主張しているのが本書の一貫した方針です。超回復的な反作用を活かし(それが自然界のフィードバックループなのだから)、オプションやランダム性を重視した意思決定や行動をしていくことで望ましい方向にもっていくことはできるということを言わんとしています。逆に完璧や秩序というものは存在せず、虚構の脆さはブラック・スワンのダメージを増強するだけという皮肉をあらゆる分野や事例から論証し、痛烈に批判し続けます。

・「素早く小さく試して失敗し、経験から学んでいく・選択肢のカードを切れるようにしておく」という言われてみれば当たり前の人生の教訓をここまで説得力ある形で展開していく一種の著者の執着心が印象的でした。古典に学び、科学の万能感を忌み嫌うというのは思想の強さが出ますが言わんとすることは直感的に理解できる人は多いのではないかと感じました。

 

以上となります!