雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪海の都の物語4≫

今回は塩野七生氏著の「海の都の物語」を要約します。ヴェネツィア共和国建国~滅亡までの1000年余りの建国史を扱った内容で氏の代表作の1つです。本書は6巻構成で4巻は宿敵トルコ・聖地巡礼パック旅行といったヴェネツィアを語る上で欠かせない15世紀の情勢を記述しています。ビザンチン帝国亡き後の大国として台頭したオスマン帝国のもたらした地中海交易・海軍偏重のヴェネツィアへのダメージやイェルサレムへの聖地巡礼パック旅行という国家事業の様など色合いが際立つ内容となっています。

 

「海の都の物語4」

海の都の物語 4 / 塩野 七生【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:中(平易な言葉で記述されておりますが、ややマニアックな内容が多く世界史の基礎知識がないと置いてきぼりになる場面もあるかもしれません。)

■対象者:・ヴェネツィア共和国の歴史について興味関心のある方

       ・地中海世界について理解を深めたい方

       ・制約条件下での統治の凄みを体感したい方

 

≪参考文献≫

■ローマ亡き後の地中海世界

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界1≫ - 雑感

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界2≫ - 雑感

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界3≫ - 雑感

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界4≫ - 雑感

 

【要約】

■宿敵トルコ

・オスマン帝国は1293年に誕生し、小アジア周辺から領土を広げて帝国の地位に上り詰めました。大量の傭兵により構成される陸軍国家であり、スルタンがスレイマン1世の時に最盛期を迎えます。スレイマン1世の時代にオスマン帝国は西へ進軍し、ビザンチン帝国領を攻め入ることとなります。当時は東側はモンゴル勢力が圧倒的であり、南には後に滅ぼすことになるマムルーク朝(シリア・エジプト)がいる構図でした。

・オスマン帝国はトラキア地方・ブルガリア・マケドニアと次々に領土を獲得し、1436年にはビザンチン帝国の首都コンスタンティノープルを陥落させるにまで至ります。黒海交易・地中海交易の主要拠点であるコンスタンティノープルとアレクサンドリアが生命線であったヴェネツィア共和国にとってはこれは大ダメージでした。ヴェネツィア共和国はオスマン帝国と友好通商条約を結ぶなどして、対策を講じますがスルタンがマホメッド二世の治世に状況は一転します。オスマン帝国は更なる西への領土拡大を狙い、ハンガリー王国領とヴェネツィアのネグロポンテ・クレタ島を攻め入ろうとして交戦状態になります。

・ヴェネツィア共和国は海軍ではオスマン帝国を圧倒することができましたが、陸上での大量の兵力を用いた総力戦の前には部が悪く、ネグロポンテを手放すこととなります。コルフ島・クレタ島を守り抜く条約を秘密裏に度重なる交渉をすることでヴェネツィア共和国はなんとか守り戦線は保たれることとなります。以後260年余り、世界に君主制国家・大国の時代にシフトする中で、外交術などを駆使してなんとかしのぐ時代をヴェネツィア共和国は続けていくこととなります。

 

■聖地巡礼パック旅行

・十字軍国家亡き後もヨーロッパ世界にとってキリスト教の教義は生活の一部であり、重要でした。イスラム勢力の手に落ちたイェルサレムなどの聖地巡礼をするパック旅行をヴェネツィア共和国は国の事業として推進することで、新たな商業の柱を15世紀に確立します。ヴェネツィアからコルフ島・クレタ島・ロードス島・キプロス島を経て、ヤッファ~イェルサレムへ向かう数カ月に及ぶ船旅(一部陸路あり)の観光ツアーでした。宿泊先の斡旋や旅先での買い出しの連れ添い、道中のキリスト教関連施設の観光・商業の促進などを得意の海運・海軍の力をもってヨーロッパ世界をリードするという具合でした。これは大人気を博して、旅行記などが世界では多数出版される時代になりました。

 

【所感】

・「ローマ亡き後の地中海世界」でオスマン帝国の台頭・ヨーロッパ世界への脅威は十分理解していましたが、交易と海軍に特化したヴェネツィアには甚大な影響を及ぼした・苦しめられたということが見て取れました。東地中海交易を封鎖され、苦手な陸軍の大軍で攻め込まれるという技をされると脆いというヴェネツィア共和国らしさが露呈した内容でもあると感じました。そんな中でもやり繰りをしながらヨーロッパ世界の防衛ラインになるだけでなく、海軍・交易・外交などの力で経済大国であり続けるのは流石の様と感じました。

・聖地巡礼パック旅行は十字軍以後の地中海世界の都市の特色が克明に描写されており、読み物として面白かったです。また、これをビジネスチャンスにして国の中心産業に仕立てる野心と強み特化のヴェネツィアの国家運営は圧巻だなと感じました。個人的には国内の政治や治安・経済が安定しているからこその成しえる技だなと感じ、資本主義や民主主義の強さと成立条件を物語っているように感じました。

 

以上となります!

■要約≪イリアス(下)≫

今回はホメロス氏著の「イリアス」を要約します。ギリシア神話を扱ったギリシア叙事詩の古典作品であり、あらゆる物語作品に影響を与えています。体系だった文字が未発達の紀元前8世紀頃に本書は構想され、口頭伝達により時代を超えて継承されてきました。イリアスは上下巻構成となっており、下巻の今回は第十三~第二十四歌までを取り扱います。

 

「イリアス(下)」

ホメロス イリアス (下)

■ジャンル:歴史

■読破難易度:中(登場人物が多く、設定が複雑であるため前提理解になれるまでは非常に読みづらいです。物語の骨子そのものは非常にシンプルです。)

■対象者:・ギリシア叙事詩の古典を理解したい方

                  ・ギリシア神話・世界史の理解を深めたい方

     ・物語作品の起源を理解したい方

 

【要約】

■トロイア軍優勢局面・パトロクロスの死

・王アガメムノン・オデュッセウス・ディオメデス等の奮闘により、勇将アキレウス不在の中でもアカイア軍は健闘しましたが、トロイア軍の勇将ヘクトルの本格参戦によりパワーバランスは崩れていきます。全能の神ゼウスの虚を突いて、ポセイダオンがアカイア軍の援軍に駆けつけ。両アイアスを激励するなどして建て直しを図ります。

・トロイア軍に戦局が傾いたことを踏まえ、ヘレとアプロディテと眠りの神が協力し、ゼウスを眠らせその隙にポセイダオンがアカイア軍を支援するという具合の神々による後方支援によりアカイア軍は持ち直します。一方、ゼウスが眠りから覚めヘクトルが本格的に武力を発揮する中でパワーバランスはまた崩れていきます。

・そんな中でアキレウスの親友パトロクロスは一念発起し、アキレウスの武具を借りてトロイア軍戦線に参戦するという事態に発展します。パトロクロスは圧倒的な攻撃力でトロイア軍をなぎ倒していきますが、ゼウスの子サルベドンに手をかけたことが災いし、アポロンに攻撃を封じ込まれヘクトルにより打ち取られてしまいます。そんな局面でもアキレウスは参戦しません。戦いの戦果として得た絶世の美女を王アガメムノンに奪われた理不尽さに怒っているようでした。

 

■アキレウスの戦線復帰・ヘクトルの死

・パトロクロス亡き後のアカイア軍の主軸はアレスの加護を受けたメネラオスになっており、戦いの最中でアキレウスの武具をヘクトルに奪われてしまいます。そんな中で、アキレウスは親友パトロクロスが死亡し、自身の武具が無くなったことに気付き強い怒りを覚えます。アキレウスは母であり神のテティスの保護も受けながらトロイア戦線への本格参戦を決意します。

・テティスはへパイストスに武具作成を命じて、新たなアキレウス用の武具を作ります。アキレウスは武具を受け取り、戦線にいる王アガメムノンとも和解をして、親友パトロクロスを弔う戦いという大義名分を以てトロイア軍の勇将ヘクトルを討ち取ろうと動きます。

・万能の神ゼウスは神々にトロイア戦争の介入を許しました。アカイア軍にはヘレ・ポセイダオン・アテネ、トロイア軍にはアポロン・アレス・アルテミスが支援をする形となります。アキレウスの参戦により戦局は一気にアカイア軍に傾き、ヘクトルとアキレウスが一騎打ちするにまで進みます。アキレウスは親友パトロクロスを失った怒りに燃えており、ヘクトルはアポロンの支援も受けながらなんとかアキレウスの猛攻をしのぎます。

・アポロンがアキレウスをアテネがヘクトルを騙すという神々の戦いもありながら、長期戦を迎え最終的にアカイア軍の勇将アキレウスがトロイア軍の勇将ヘクトルを討ち取ることに成功します。遺体を母国に持ち帰り供養するというのがこの時代のマナーであったようで、パトロクロス・ヘクトルの遺体をそれぞれ母国に持ち帰るための交渉や思惑が錯綜します。アキレウスはヘクトルが憎たらしく、遺体を八つ裂きにしようと動きますが、アポロンの介入により防がれます。最終的にはヘクトルの父親であるプリアモス王が多額の身代金をもって、アキレウスから遺体を引き取ります。テティスの助言によりゼウスの進言をもって頑なな立場であったアキレウスの心を動かし、トロイア陣営への遺体引き渡しが実現します。

・アカイア軍はパトロクロスの供養の名目で葬送競技が行われました。これはオリンピックの原型となるような陸上競技が複数行われ、最終的に王アガメムノンをアキレウスが優勝させるという形で幕を閉じ、アキレウスとアガメムノンは完全に和解します。

 

【所感】

・上巻と異なり、登場人物や場面設定の解像度があがっているために非常に面白く読み解くことが出来ました。個人的には様々な神々がそれぞれの思いや個性をもっており、全能ではない形で描写されている様が印象的です。一神教や絶対的権力という神のイメージはキリスト教以後の世界のスタンダードであり、それ以前のギリシア神話などは多神教で様々な神がいて、神は万能でもなければ人間とも共存しているということです。これがギリシア世界の神秘さや共和政の土台になったのは自然と言えるでしょう。

・オリンピックの原型となるような競技描写の場面があったり、様々なファンタジーや物語のモチーフになっているような設定が随所に見られ面白い場面が多かったです。ゲームやSF/ファンタジー小説などを構想する人はこうした古典教養に勤しむことが必要なのだなという新たな発見にもなりました。

・人間世界の大事な価値観や概念は太古から変わらないということが叙事詩イリアスからも伺え、歴史の奥深さや人間社会の本質を考えさせられる内容でした。続編のオデュッセウスとセットでホメロスの古典作品は構成されているため、このままオデュッセウスも読解しようと思います。

 

以上となります!

■要約≪経営行動(前編)≫

今回はハーバード・A・サイモン氏著の「経営行動」を要約していきます。本書は経営組織における意思決定過程の研究をした内容となっており、1947年に初版が発行され度重なる修正やコメンタリーが繰り返され重版してきた経営学の古典です。「限定された合理性」という組織の意思決定に付きまとう命題への研究です。氏はノーベル経済学賞を受賞しており、経済学では組織や企業の意思決定を解明できない、それ故に経営学・組織行動論が必要であるという潮流を確固たるものにした実績を持ちます。長編の本書は前編後編で要約を試みようと考えており、前編の今回は第一章~第六章までを取り扱います。

 

「経営行動」

【最新刊】経営行動 経営組織における意思決定過程の研究 - ハーバート・A・サイモン - 無料漫画・試し読み!電子書籍通販 ebookjapan

■ジャンル:経営学・組織論

■読破難易度:中(前知識は不要ですが、抽象的な表現や概念が多く登場します。これはサイモン氏の書籍全般に言える傾向です。)

■対象者:・限定された合理性に興味関心のある方

     ・組織の意思決定プロセスの理解を深めたい方

     ・経営・組織マネジメントに従事する方全般

 

≪参考文献≫

■システムの科学

■要約≪システムの科学≫ - 雑感

■組織の経済学

■要約≪組織の経済学 Ⅰ部~Ⅲ部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪組織の経済学 Ⅳ部~Ⅴ部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪組織の経済学 Ⅵ部~Ⅶ部≫ - 雑感

■市場と企業組織

■要約≪市場と企業組織≫ - 雑感

■経営者の役割

■要約≪経営者の役割≫ - 雑感

 

【要約】

■意思決定と経営組織

・指示命令系統の厳格さと専門分化はパターン化した問題処理において効果的・効率的であるもので、組織を作ることの恩恵の最たる例です。組織は目標や目的により行動のパターンを作り、結合することでレバレッジをかける・生産性を高めるためにあります。組織の意思決定には取捨選択や優先順位の概念がつきまとい、それが目的や価値基準・戦略等により統一・収斂されることが効果的に機能する前提です。

・経営者の意思決定のパターンは長期的に個人の行動や価値基準の体系を形成する影響力を発揮するものであり、意思決定や責任の所在を集約化して問題を単純化・反復作用がはまるようにしていくことが階層組織の効果です。尚、本書で記述されるような経営学の発達は経済学のモデルでは企業や組織の意思決定を説明しきれないが故に発達しました。というのも企業を生産関数と費用関数という2つの要素で構成されたシンプルなものとみなすのが経済学の前提ですが、そこに組織の存在や限定された合理性による意思決定(情報の非対称性・完全に合理では動かない個人や組織の根本的な性質)がはたらくことでメカニズムを説明できないケースが多々存在し、それ故に心理学や社会学的なアプローチが分析・解明に必要ということで経営学や行動経済学は発達しました。

 

■意思決定における事実と価値

・ある命題が正しいかどうかは経験や事実により比較されないといけないです。目的が変われば意思決定の評価も変わります。判断が伴う行動というのは責任を伴うものであり、戦略性や熟達度が避けて通れないものです。組織の意思決定は目的に即して倫理的な前提のもとになされるものです。意思決定には倫理的要素と事実的要素の2つの側面が併存します。何に価値を置くかというのは組織のコンテキストであり、それは目的は勿論何に重きを置いて意思決定してきたかという経営の歴史の積み上げでもありあす。政治の分野においても立法と行政管理者で意思決定の範囲やテーマは異なるというのが組織の意思決定に付きまとう倫理的・事実的性質を物語ります。

・事実・倫理観・価値(何に重きを置くか)の反応が組織により違うものであり、これを効果的に取捨選択・反応するようにすることも経営の役割です。資源交渉・配分の決定やコンテキストの設定・外部との調整・内部との統合をしながら時に孤独になりながらもゴールを描いて逆算して非連続な成長や変化を生みだしていくことが経営です。

 

■経営行動における合理性

・ある行動がもたらす結果への知識が意思決定の範囲や質を高めます。だからこそ、経験や歴史・複眼での壁打ちというのは組織の意思決定において重要な機能となります。協働の為の調整・定期的な目的や指示命令系統・価値基準の確認をしないことには組織は持続的に機能しないです。そのテコを作り働かせることで、個人でできない成果創出をするのが組織マネジメントであり、経営です。

・合理性はその目的や価値基準・制約条件をどこに置くかにより全然変わり、特定集団内における合理的なものを指します。協業や検証に意味を見出し投資獲得や変革デザインをするというのがリーダーシップの妙なのです。知識とは代替的選択肢がもたらす行動の結果を予測する道標としての機能です。相互作用や個人の行動・志向性の集合体として組織の意思決定のメカニズムは解明できます。集団における個人の行動には利己性や競争心も含まれ、部分最適や優先順位の価値基準の相違などによるコンフリクトが起こります。

 

■経営決定の心理学

・意思決定というのはその場面における代替的選択肢が膨大にあり、時間や資源の制約があり、吟味するための情報が不足している中でするものです。どこまでいっても相対比較・部分的な合理(感情感覚的)になる宿命にあります。そのコンテキストやフィールドを選ぶことや交渉することが組織の意思決定の質を高めるための営みであり、経営の根幹を成すのです。選択の結果に対する知識と予測が統制には必要で、多くはそれが部分的・断片的になるので、完全合理な意思決定など起こりえないのです。原因と結果には複数の変数が絡み合うものであり、完全に相関するということはなく行為の結果予測というのは困難です。選択肢の洗い出しや結果予測にはどこまでいっても断片的なものがあり、それが人間の意思決定の合理性の限界と言えます。人間は情報収集・資源交渉・学習設計により意思決定の質を高めるための努力をするものです。

 

【所感】

・著者のサイモンは組織の意思決定過程を分析する傍らで認知心理学やコンピューターサイエンスにも関心を向け、行動経済学やシステムの科学といった分野においても功績を残しています。限定された合理性と組織の二重人格という組織論の中心命題を提唱したことが主な功績であり、結果として組織構造や権限が個人や組織の意思決定や風土に大きく影響することを示唆しているのが凄みであると思います。

・組織の作用や企業の意思決定プロセスの解明を通じて、組織設計や経営者の役割・マネジメントとリーダーシップの違いといった中心命題に通じる示唆がたくさん詰まった内容であると感じました。目的や目標により組織を統率する・専門化し反復作用をすることで組織の問題解決能力を高める・誘因や帰属意識・報酬によるロイヤリティ醸成などの派生テーマに通じる内容も多く、新規性というよりも観測事象や既存の他理論を別角度からも理解を深める読後感が印象的でした。

・個人的にはラインマネジメントから経営者への脱皮がテーマの中で、経営とは何か・組織はなぜ存在し設計することで何を目指すのかといった問いに対する示唆をもらえたように思えて非常に考えさせられる内容でした。本書は非常に抽象的かつ小難しい記述をするため読むのが大変ですが、定期的に読み返して自分との対話・問いかけに活かしたいと思いました。

 

以上となります!

■要約≪海の都の物語3≫

今回は塩野七生氏著の「海の都の物語」を要約します。ヴェネツィア共和国建国~滅亡までの1000年余りの建国史を扱った内容で氏の代表作の1つです。本書は6巻構成で3巻はヴェネツィアと同じく中世ヨーロッパの都市国家の雄としてしのぎを削ったジェノヴァとの競争の歴史や表舞台に出てこないヴェネツィアの女たちについて論じた内容となっています。ビザンチン帝国やイスラム圏・西ヨーロッパとの交易の結節点として独特な文化形態やパワーバランスを高度に維持し続けたヴェネツィアの異質さが際立つ内容です。

 

「海の都の物語3」

海の都の物語(3)ー塩野七生 - 新白堊スポーツ(since2004.9.18)~盛岡一高応援ページ

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:中(平易な言葉で記述されておりますが、ややマニアックな内容が多く世界史の基礎知識がないと置いてきぼりになる場面もあるかもしれません。)

■対象者:・ヴェネツィア共和国の歴史について興味関心のある方

       ・地中海世界について理解を深めたい方

       ・制約条件下での統治の凄みを体感したい方

 

≪参考文献≫

■ローマ亡き後の地中海世界

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界1≫ - 雑感

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界2≫ - 雑感

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界3≫ - 雑感

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界4≫ - 雑感

 

【要約】

■ライバル、ジェノヴァ

・現イタリアの海上の軍用の船につける旗にはヴェネツィア・ジェノヴァ・ピサ・アマルフィの4つの都市国家の紋がついています。この4つの都市国家はローマ帝国亡き後の西ヨーロッパ世界の中心にあり、9世紀から15世紀頃まで主に地中海交易や海軍の力で影響力を発揮しました。オスマン帝国の台頭と大西洋や喜望峰を通る航路の発達・イギリス・フランス・オランダ・アメリカなどの北ヨーロッパでの資本主義経済の発達により、世界システムの周辺地域に追いやられ衰退するまではヴェネツィアなどの都市国家が牽引する地中海交易は圧巻でした。

・ヴェネツィア・ジェノヴァ・ピサ・アマルフィの4つの都市国家は内陸地ではないことにより耕作に恵まれなかったことに加え、海沿いで経済や安全保障の観点から必要に迫られて海上交易や海軍の技術を発達させる中で台頭しました。アマルフィは10世紀に最盛期を迎え、ナポリにとって海軍的な役割を果たし、後世には聖ヨハネ騎士団(ロードス騎士団・マルタ騎士団)を創設しました。

・アマルフィはアラビア人との交易により羅針盤をヨーロッパ世界に持ち込む革新的な功績を残しましたが、宗教騎士団の制約により十字軍の時代に交易や軍事面で繁栄を享受できなかったことが災いし、衰退の道を辿ります。ピサは第三次以降の十字軍に海軍を供与することで繁栄することとなり、アラビア文字をヨーロッパ世界に持ち込んだ功績があります。ピサは皇帝派の都市であったこともあり、皇帝フリードリッヒ二世亡き後に周辺の都市は法王派が中心の中で政治的に孤立を深めるようになり、衰退の道を辿りました。

・結果として、都市国家として長く繁栄したのはジェノヴァとヴェネツィアであり、2つの都市国家は政治的経済的にライバル関係にあり定期的に戦争で衝突をしました。ジェノヴァの政治形態は4つの名家がつば競り合いをしながら常に政権が変わるような動きをとる寡頭政治でした。このことが災いし、ジェノヴァは政局が安定しないために結果的に個人主義的な動きや階級間の闘争が発生していき国力衰退の道を辿ります。ジェノヴァとヴェネツィアは休戦を繰り返しながら戦争を繰り返し、125年に渡って戦争状態でした。長期的な戦争・交渉の末にヴェネツィアはネグロポンテ・クレタ・レパント・アテネなどの島々を購入して地中海経済圏を構築しました。一方のジェノヴァは内政が安定しないことが災いし、フランス王家・スペイン王家に支配を委ね最終的にイタリアに統一させられ滅亡しました。ヴェネツィアは社会を組織する能力が優れていたので、土地の不利がありながらも、交易や海軍・金融に特化しながら政治形態を機能させて長期安定繁栄をしました。

 

■ヴェネツィアの女たち

・ヴェネツィアの共和政のシステムは長く存在しましたが、それは絶妙な均衡を保ったからであり、女性が政治の舞台に出てこないのも特徴的でした。ヴェネツィアの政治体制は任期が短く一人一人の権力が非常に弱い状態が保たれることでクリーンさを保つことができ、その結果暗殺や汚職もほぼ構造的に発生しえなかった。

・ヴェネツィアの貴族階級は商業や海軍に従事し、40歳頃になると政治に従事するようになり共和国国会・元老院議会などを務めると非常に多忙になりました。海外に駐在することも貴族階級が担いました。そうなると、社交の場を取り仕切るのは必然的に婦人になり、その意味において女性は政治には参与しなくても情報通であり身だしなみに気を付ける品格が必要でした。それ故に高度な装飾や流行文化が発達しました。

・ヴェネツィアは東西の交易拠点であったこともあり、北ヨーロッパから金髪文化・ビザンチン帝国はオリエント風の文化の影響を受けたミックスなカルチャーを形成していました。ヴェネツィアは女性は総じて教養が低く、既婚女性しかロクに外に出ることが出来ないという特殊な文化形態でもありました。結果的に政治舞台に出てきたり強い権力を持つ女性が台頭しないという形でヴェネツィアの統治は長期的に安定推移します。

 

【所感】

・ヴェネツィア共和国の特異性が様々な角度から浮き彫りになる内容で非常に面白く読むことが出来ました。2巻が政治経済のシステムに注目した内容になっていたのに対し、3巻は地政学・階級間のバランス的なアプローチでのヴェネツィア共和国の解明をするのに加えて表舞台に出てこない女性および社会の日常を描くことにより、なぜこの特殊な国風やシステムが1000年余りも機能したかということがわかる構成となっています。

・キリスト教勢力の影響が非常に強い中世ヨーロッパとは思えないくらいに開放的で文化文明の境目としてのユニークさやバランスが際立つヴェネツィア共和国のカルチャーが非常に色濃く出る章であったように感じます。個人的には資源制約がある中で選択と集中や工夫の積み重ねにより、独自の強みや国・組織としての強いケイパビリティを長期的に形成したシステムとしての凄みを考えさせられる内容であり、大変印象に残りました。

 

以上となります!

■要約≪海の都の物語2≫

今回は塩野七生氏著の「海の都の物語」を要約します。ヴェネツィア共和国建国~滅亡までの1000年余りの建国史を扱った内容で氏の代表作の1つです。本書は6巻構成で2巻は第四次十字軍を経てラテン帝国圏の交易網や東地中海の経済を席巻するに至った時代のヴェネツィア共和国の政治経済のシステムについて論じます。限られた資源と国力の中での選択と集中や共和政を維持するに至る力学などの考察が非常に興味深い内容です。

 

「海の都の物語2」

海の都の物語 2 / 塩野 七生【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:中(平易な言葉で記述されておりますが、ややマニアックな内容が多く世界史の基礎知識がないと置いてきぼりになる場面もあるかもしれません。)

■対象者:・ヴェネツィア共和国の歴史について興味関心のある方

       ・地中海世界について理解を深めたい方

       ・制約条件下での統治の凄みを体感したい方

 

≪参考文献≫

■ローマ亡き後の地中海世界

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界1≫ - 雑感

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界2≫ - 雑感

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界3≫ - 雑感

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界4≫ - 雑感

 

【要約】

■ヴェニスの商人

・ラテン帝国がビザンチン帝国に復権するまでの期間、地中海世界においてヴェネツィアは最大の覇権を握ります。その後、アッコン陥落により十字軍国家が崩壊した時代にはピサやジェノヴァの台頭もありヴェネツィア共和国の商業は苦しい時代を迎えます。ヴェネツィアの商人はコンスタンティノープル・アッコン・アレクサンドリアなどを交易拠点として商人・船乗りを務めました。海軍・外交・商業に徹底することで胡椒や木材の取引(アッコン・アレクサンドリア・ヴェネツィア間で)や手形・貨幣・金融技術などを必要に迫られ発達させました。

・ヴェネツィアは中継交易で栄えました。主に取り扱う交易品は塩・木材・香辛料・毛織物などであり、イスラム圏やアジアでの交易にも精力的でした。マムルーク朝が攻め入りアッコンが陥落し十字軍国家がなくなったことで、中東・エジプトアレクサンドリアでの交易拠点がなくなり、イスラム圏との交易もなくなることでヴェネツィアの商業は大ダメージを受けます。

・ヴェネツィアの商業は同時代の海上都市国家のライバルであるジェノヴァとは様々な違いがありました。ジェノヴァは大型船を建造して西地中海や大西洋の交易に勤しみましたが、ヴェネツィアはガレー船を用いて東地中海での小規模な交易を徹底したとされます。また、発達した産業にも違いがあり、ジェノヴァは保険制度や銀行、ヴェネツィアはあくまで商人が主導で銀行も後方支援が中心であったので、商社的な商売機能が高度に発達してきました。その影響もあり、ヴェネツィアは簿記を大幅に普及させ、活用するためのアラビア数字もヨーロッパ世界にもたらしたとされます。

 

■政治の技術

・14世紀のヨーロッパ世界ではコミューンから中央集権型の国家への変化の潮流があり、ジェノヴァとの百年戦争が起きるなどヴェネツィア共和国には苦しい時代が続きました。そんな時代でも共和政を維持し続ける異質さを保ったのがヴェネツィアの長期的な繁栄の要因とされます。ヴェネツィアはキリスト教圏ですが、政治経済的にはビザンチン帝国の傘下にあったので、風土的には東欧寄りでした。

・ピエトロ・グラデニーゴという38歳の国家元首の時にヴェネツィア共和国は共和政路線を決定的にすることとなります。前の元首が死んだ際に、市民大集会はヤコポ・ティエポロを国家元首に選出して、共和国国会と緊張関係に到達しました。ヤコポ・ティエポロは緊張を恐れてヴェネツィアから逃亡し、共和国国会はピエトロ・グラデニーゴを選出しました。ヨーロッパ各国が君主制に移行する中で、ヤコポ・ティエポロは軍人として輝かしいキャリアを持ち、父も祖父も国家元首を務めていたことが君主制の危機のシグナルとなりました。

・宗教や世襲などの絶対的な権力が台頭しないように、明確に選挙による人材の選出や共和政を徹底するということに対して極めて気を払い、国家を企業経営のようにしたのがヴェネツィアの共和国として長く存在した所以です。実質的に有力家系の人による寡頭政治に近い状態になっていたヴェネツィアの統治形態にメスを入れる改革法案を成立させたのがピエトロ・グラデニーゴでした。また、ヴェネツィアには不動産・金融・交易などにより生計を立てる貴族階級が一定数存在しました。政治的な意思決定の質を保ち、政治に従事する人材育成を充実させるために世襲制と終身制にすることで共和国国会が機能するようにする絶妙なバランスを維持することで共和政を効果的に機能させたのです。

 

【所感】

・2巻はヴェネツィア共和国が小国ながらヨーロッパ世界において大きな影響力を長期に渡り発揮した所以を存分に紐解いた巻でした。政治・経済・外交などにおける絶妙なバランス感覚と常に制約条件下で現実を直視し、最適解を模索するヴェネツィア共和国のひたむきさが際立つ内容だと感じました。中世において東地中海に面し、ビザンチン帝国/ラテン帝国の傘下にありながら、西ヨーロッパの一員であり海軍・商業・金融と特定分野で圧倒的に秀でた優位性を持ち、宗教や階級論争から自由であり続ける国風を維持したこと長期的が繁栄の要因であったということがよくわかりました。

・フィレンツェやジェノヴァとの比較、君主制や宗教による統治にならず貴族階級・平民階級が併存しながら共和政を維持し続けたことがヴェネツィア共和国の転換期であったのではないかと感じます。良き企業経営をする企業の環境要因に通じる記述が目立つ箇所が多く、アナロジーとして大変学びになることが多かったです。また、自分が世界史にあまり明るくないことも相まって、フィレンツェなど都市国家の理解をもう少し深めたら、更に面白く読み解けるのだろうと新たな発見になりました。

 

以上となります!

■要約≪ピクサー流創造するちから≫

今回はエド・キャットムル氏著の「ピクサー流創造するちから」を要約します。氏はピクサー・アニメーション・スタジオの共同創設者であり、ピクサー・アニメーションとディズニー・アニメーションの社長です。ピクサーの経営の歴史を紐解き、創造的な組織をどう作り維持するかを説いた内容となっております。ピクサーがルーカスフィルムから部門独立し、スティーブ・ジョブズが株式の過半数を所有し彼の庇護を受けながらトイ・ストーリーらの画期的な作品を連発していく経営の裏側を紐解いております。

 

「ピクサー流創造するちから」

ピクサー流 創造するちから - EdCatmull/AmyWallace - 電子書籍・無料漫画ならブックライブ

■ジャンル:組織マネジメント

■読破難易度:低(経営者の経営の歴史を独白する仕立てとなっており、非常に読みやすいです。身近な作品も取り扱うため読み物としても面白いです。)

■対象者:・創造的な組織づくりに興味関心のある方

            ・企業経営の歴史の理解を深めたい方

            ・人材育成や企業経営に従事する方

 

≪参考文献≫

■デザイン思考が世界を変える

■要約≪デザイン思考が世界を変える≫ - 雑感

■組織を変える5つの対話

■要約≪組織を変える5つの対話≫ - 雑感

■リーダーの作法 ささいなことをていねいに

■要約≪リーダーの作法 ささいなことをていねいに≫ - 雑感

 

【要約】

■ピクサー・アニメーションの経営要諦

・ピクサーは「トイ・ストーリー」・「モンスターズインク」・「レミーのおいしいレストラン」らを手掛けてきたグラフィックアニメーション会社であり、2006年にディズニー・アニメーションの傘下に入りながらも独自色を担保しながら創造性ある経営を続けてきました。ピクサーは創業当初から完全コンピューターでつくる映画という野心的なビジョンを掲げ、「トイ・ストーリー」シリーズを手がけました。結果的にディズニー・ピクサー双方のカルチャーや意思決定基準を尊重しながらシナジーを生むという複雑な経営を実現し、ディズニー・アニメーションのV字回復に貢献したとされます。ピクサーは率直なフィードバックや創造力・体験を重んじるカルチャーをいついかなる時も徹してきた経営ポリシーがありました。

・豊かな環境を整備し、創造性を刺激し、阻害要因に目を光らせるのがマネジメントの最大の仕事であると本書では記述されます。創造的な文化と経営哲学を言語化して如何に浸透させ続けるかということにピクサーの経営は魂を込めているとされます。不確実性や不安定さへの対処・率直さ・目に見えないものへの対峙などがもっとも経営として手を入れるべきテーマなのです。

・物語がきちんとしていれば美術的な技巧はその後になるということがピクサーの根底にある考え方です。ルーカスフィルムの業績が芳しくないタイミングでコンピューターグラフィック部門は売却を余儀なくされており、アップルのマッキントッシュ部門を解雇になったスティーブ・ジョブズが経営に乗り出そうと接触をしました。当時のスティーブはスパーリングのように問いかけをしながら論点を明確にするというコトに向き合うスタイルのコミュニケーションでした。1986年にスティーブ・ジョブズが株式の70%を保有する形で、ピクサー・アニメーションはルーカスフィルムから分離独立する形で誕生しました。

 

■ピクサーらしさ

・CGで映画を作るという新奇性とストーリーテリングが想像力をもたらすという強烈なコンセプトがピクサーの一貫したポリシーです。また、良いアイデアが全ての起点であり、その為に良い相互作用を設計する・偶発的な機会を作るということが経営におけるポリシーともされています。

・クリエイティブにはそれぞれのプライドやアイデンティティ・目に見えない力関係がある中で率直なフィードバックをするのは相当な心理的安全と目的意識が揃っていないと成しえないです。その一方、で集団浅慮に陥るのは最も回避しないといけない意思決定でもあり、コミュニケーション設計や風土形成はマネジメントが成果最大化観点で整える内容となります。提案や助言をしてストーリーテリングを吟味することはあっても、意思決定のラインと裁量は明確に線引きするというのが創造性と率直な文化の両立に欠かせず、この線引きの意思決定と保つ努力がポイントとされます。人ではなく、問題をみてアイデアをブラッシュアップするというグランドルールを徹することに尽き、その方針を狂気的にやりこむというのが創業以来のピクサーのカルチャーです。

・人の知覚は築いたメンタルモデルによりゆがめられ、正しく現実を直視することは多くの人には難しいという前提でマネジメントすることが大事と著者は主張します。複眼でフィードバックして市場や顧客の声を反映する意思決定が如何に大切で難しいかということです。模倣ではなく現地調査で掴んだ本物の感覚を創造に反映させることをピクサーは重んじます。短編映画を技術の表出や長編映画の作成経験の土台にすること、芸術性に投資をすることのメッセージとしてピクサーは活用しました。人間は反省や自己分析をするということを拒み、刹那的なことになりがちです。しっかりと振り返りの機会と対話を設けてメタ認知を促したり、基準や改善要望を示すということが必要になります。反省会という機会そのものが一定の組織学習のシグナルになるだけでなく、どのように振り返りをするかの示しや抽象化・応用かを促すということなのです。

 

【所感】

・アップルCEOティム・クック氏の伝記本で描かれたスティーブ・ジョブズ像とは違ったピクサー・アニメーションでのスティーブ・ジョブズの振る舞いやピクサーでの経験が彼にもたらした影響が生々しく描かれており非常に面白かったです。終章まるまる1章を割いてスティーブ・ジョブズについて触れるほど経営者のエド・キャットムル氏にとっても印象深かったことが伺えます。

・情熱や拘りにベットしたり、偶発的な交流・問いを基にした対話など細部の設計・運用と創造性に価値を信じる強いリーダーシップの発揮による弛まない努力の積み重ねの故に、創造的な組織文化やアウトプットはもたらされるということが改めてよく理解できました。物凄くエネルギーのかかることですし、日常の些細な様々な出来事の重力の中で中長期的に影響をもたらす文化や機会設計に魂を込めるというのは経営者やリーダーシップの強い腹決めが必要であると感じました。個人的には機会設計や人材育成などは打率が悪くても仕掛けを施し、期待し続ける事でしか実現できないと思っていますし、究極的には誰をバスに乗せるかや何にフォーカスするかの取捨選択の腹決めもある(全ての条件下で本書の取組をやっても意味があるとは限らない理由がある)とも感じました。ある種孤独でも未来を描き、ゴールから逆算しギリギリを攻めたり流れに抗い大事な信念やアウトプットを示していくということ、これが経営であるということも再認識・考えさせられる内容でした。

 

以上となります!

■要約≪ティール組織≫

今回はフレデリック・ラルー氏著の「ティール組織」を要約します。日本でも一時期大ブームを引き起こした著作で、組織の進化を発達心理学的アプローチから論じ新たな進化型組織(ティール組織)の在り様を複数の組織の研究・調査から提言するという構成になっています。組織論に関する本は一通り読んできた中で、食わず嫌いのように読んでこなかった本でありこのタイミングで読んでみようと思い立ち読みました。

 

「ティール組織」

Amazon.co.jp: ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現【無料試し読み版】 電子書籍: フレデリック・ラルー ...

■ジャンル:経営学・組織論

■読破難易度:中(様々な組織の事例を基に1から丁寧に論を構成するため前知識は不要です。一方、抽象的な観念・概念が多くイメージがつきにくい箇所もあります)

■対象者:・ティール組織の理論に興味関心のある方

     ・組織開発・マネジメントに従事する方全般

     ・新たな組織の在り方について理解を深めたい方

 

≪参考文献≫

■U理論

■要約≪U理論≫ - 雑感

 

【要約】

■組織の発達段階

・本書で提唱するティール組織は現代の組織形態の究極の発展形・進化系として論じられます。具体的には神秘的組織(数百の部族集団の時代)→衝動型組織(力による支配)→順応型組織(部族から国家・教会・軍隊などの官僚制組織)→達成型組織(科学偏重の予測と統制の組織。実力主義や階層組織・多国籍企業が特徴)→多元型組織(多様性と平等と文化を重視するコミュニティ型組織)→ティール組織(存在目的を重視する慣行・自主経営・全体性)という具合です。現代の組織の多くは順応型組織~達成型組織~多元型組織の間にあるとして、本書では対比的に論じられます。

 

■ティール組織の要諦(自主経営・全体性)

・達成型組織は組織を機械と例え、多元型組織は組織を家族と例えサーバントリーダーを欲するがティール(進化型)組織は生命体の様に表現します。ティール組織は組織の使命や価値基準を明確にして全ての意思決定をそこに中枢沿えるということをし、結果的に自立的に分散型組織が形成されるというイメージになるります。

・本当の自分であり続けられるかと組織目的に忠実に協働ができるかがティール組織・自主経営組織に馴染む必須条件となります。強烈にカルチャーやバリューによるマネジメント・意思決定を徹することでしか権限移譲や学習する組織・高いエンゲージメントの組織は作れないものです。

・組織の存在目的や使命を中心に据えて運営することがティール組織が最大限の成果を出す理由とされます。視覚化・継続的な対話・インスピレーションを刺激する偶発的な機会などがティール組織を活性化するとされます。大集団での対話・偶発的な機会・内省促進などにより自己経営を促進するということです。戦略立案承認プロセスなどの階層組織の是を否定して、壁打ち必須とはしながら自己裁量でやるというのがティール組織のポイントです。

・信頼性のあるマネジメントがティール組織には不可欠で、そのためにはボウリングやバーベキューなどのイベントだけでなく、自分のヒストリーや事業のバリューなどのストーリーテリング・対話をする機会に投資をすることが必要になります。定期的な問いを基にした対話によるエンゲージメントや学習設計は組織が秀でた成果や創造性を発揮する上において不可欠であり、かなりのタイムラグと短期的には何も成果にならないことをどう織り込むかということになってくるのです。ティール組織においてはリフレクションと社内外からの率直なフィードバックを起点に組織目的の充足度合いを精査・点検をするという力学をかけ続けるものです。

 

 

■ティール組織を創造するための要諦

・経営トップが組織構造を順応型や達成型で見立てている場合、部分的な組織をティール組織でマネジメントしても危険であるとみて潰したり評価をしないため実現に至りません。信頼によるマネジメント・自主経営等を経営者自身が行うことが全ての起点とされます。規則や原則で組織を統制することを好むのは人間の社会的かつ根源的な性質であり、高い倫理観と目的意識がないとティール組織は成立しません。まして、目標数値や階層組織によるマネジメントには相応の理由と有効性があるのです。ティール組織実現にはCEOの自分自身へのヒーロー性と死別する覚悟が必要なのです。存在目的に耳を傾け、全体性に重きを置くという率先垂範ぶりがティール組織実現の絶対条件です。

・アメとムチによるマネジメントは階層組織・達成型組織において素早く簡単に統率するための手段として有効であり優秀です。階層組織やミドルマネジメント・本社スタッフは達成型組織固有の機能であり、ティール組織になるにはこのメカニズムを如何に変化させるかにかかりますがこれが非常に難しいとされます。ある種の既存組織の中枢・必要とされる役割や個人の自己否定・超越を伴うからです。

 

【所感】

・組織の形態には善し悪しがあるのではなく、あくまで発達段階であるという切り口は非常に印象的であると共にしっくりくる内容でした。そして、達成型組織は力や恐怖・競争によるスピード感と実行力に優れているのは間違いないです。目的・目標や役割を明確にロックして、決められたレールを走りきる・改善しながら目の届く範囲で貢献をしたいという欲望は多くの人間の根源的なニーズであり、それ故に忌み嫌われながらも資本主義に特化した現代の組織形態は一定理にかなったり、支持されているのだろうと自分の中で整理が出来ました。

・現代の多くの組織は多元型組織への脱皮に向けて取り組んでいるというフェーズがリアルな現在地であると思いますが、これも相当な共感性や想像力・好奇心や受けとめ範囲の広さが構成員に求められるものであり、究極的には個人の発達・成長も前提にあるのだろうと感じました。外部環境が変化する中で明らかに達成型組織の力学に限界があるというのは自分も組織をマネジメントする端くれとして認識しているので、非常に考えさせられる考察が多かったです。

・本書で提唱されているティール組織を扱ったホラクラシーはなかなか日本企業では定着しませんでしたが、一時的な小集団や部分的には実行できる考え方であると思え、加えてこの組織形態を目指して改善・発信し続けることでしか進化・成長はないのかなという真理を物語るようにも思えました。

 

以上となります!

■要約≪イリアス(上)≫

今回はホメロス氏著の「イリアス」を要約します。ギリシア神話を扱ったギリシア叙事詩の古典作品であり、あらゆる物語作品に影響を与えています。体系だった文字が未発達の紀元前8世紀頃に本書は構想され、口頭伝達により時代を超えて継承されてきました。イリアスは上下巻構成となっており、上巻の今回は第一~第十二歌までを取り扱います。

 

「イリアス(上)」

ホメロス イリアス 上 (岩波文庫 赤 102-1)

■ジャンル:歴史

■読破難易度:中(登場人物が多く、設定が複雑であるため前提理解になれるまでは非常に読みづらいです。物語の骨子そのものは非常にシンプルです。)

■対象者:・ギリシア叙事詩の古典を理解したい方

                  ・ギリシア神話・世界史の理解を深めたい方

     ・物語作品の起源を理解したい方

 

【要約】

■舞台設定

・本作品は小アジアのトロイアを舞台に行われたトロイア戦争(ギリシア連合アカイア軍VSトロイア軍)の末期を取り扱った内容となります。ギリシア神話の一端を成す作品であり、全能の神ゼウス・ヘラや戦いの神アレス・アテネなどが人間の戦いを見守り、時に介入するという具合に話は展開していきます。人間の主要人物としてはギリシア軍の勇将アキレウス・王アガメムノン・軍将オデュッセウス・ディオメデス、トロイア軍は大将ヘクトルらが参戦します。ギリシア地域には氏名のようなものが存在しないため、「○○の子××よ」という名乗りが頻繁に登場するのが叙事詩の特徴的な記述形式です。

 

■トロイア戦争

・トロイア戦争末期の舞台においてギリシア軍は王アガメムノンの強欲さや人質を盾にとる行為に勇将アキレウスが激昂し、離反する所から始まります。ギリシア軍のメネラオスとトロイア軍のアレクサンドロス(パリス※ヘクトルの弟)は決闘し、メネラオスが勝利します。こうした戦いの最中にもアテネやアレスなどの神がどちらかの陣営に味方して武力をブーストさせるという構図が続きます。

・神も一枚岩ではありません。全能の神ゼウスがトロイア軍に肩入れする現状にゼウスの妻ヘラが怒ります。ギリシア軍(アカイア軍)にアテネ、トロイア軍にアレスが味方する中で戦が展開されます。人間の戦は一種の神々の代理戦争的な性質を持ち合わせていました。女神アテネはアカイア軍のディオメデスを庇護して間接的にアレスを攻撃します。アレスは様々な神の中でも暴力的な所があり、ゼウス神を恨むなどの性格が垣間見えます。

・戦いはトロイア軍が優勢のまま進みますが、ギリシア軍のアイアスとトロイア軍の大将ヘクトルが一騎打ちを行いつつも、アテネとアポロンの結託により一時休戦協定が持ちかけられることとなります。

・アカイア軍の王アガメムノンは敗勢ということで自暴自棄気味になり、周りからの提言で勇将アキレウスとの仲を戻して戦線復帰することを構想します。アガメムノンはポイニクス・アイアス・オデュッセウスを派遣してアキレウスを仲間陣営に取り戻そうとするも説得は失敗します。敗戦濃厚な情勢を立て直すべく、王アガメムノンはディオメデスとオデュッセウスを敵情視察のために派遣します。トロイア軍のヘクトルも同じことを考え、ドロンを敵情視察に派遣するものの途中でアカイア軍につかまり殺されてしまいます。一方のアカイア軍は敵陣に潜り込むことに成功しトロイア軍の陣営に来援していたトラケ王レソスを殺し、名馬を奪い帰還するという形で戦力ダウンに成功します。

・王アガメムノン自らが奮戦することでトロイア戦争のパワーバランスはアカイア軍が盛り返していくこととなります。一方、その戦いの最中でアガメムノンはダメージを受け戦線を離脱することとなり、アカイア軍のメイン勢力はオデュッセウス・ディオメデスになります。トロイア軍は引き続き大将ヘクトルが檄を飛ばして中心を指揮する構図です。

・トロイア軍は本格的にアルゴス・アカイア軍(ギリシア陣営)を攻めるために壁を攻略する進軍を進め、ヘクトル主導でアイアスが守る拠点を攻めていくこととなります。ヘクトルは防壁を突破するために戦車から降りて隊を組んで歩兵形式でアカイア軍に攻め入ります。アカイア軍の防衛のメインはアイアスが務めており、ゼウスが時折介入して重要人物の致命傷にならないようにするなどのケアがされながら物語は展開します。

 

【所感】

・紀元前8世紀の内容でここまで長編で語り継がれているということの凄みを非常に感じさせられました。文字や書物作成技術が未発達な中でここまで伝承されたのは先人の努力の賜物であると共に、この物語の卓越さ・創造力豊かな所が人を惹きつけたからなのだろうと感じさせられました。ギリシア神話にあまり明るくなく、設定や用語などの前提に戸惑うこともありましたが、慣れてくると非常に創造性豊かで口頭伝達とした際には表現や抑揚などの個人の芸術点的な要素もある作品なのだろうということが浮き彫りになりました。

・本書は神は万能ではないということや戦いの意味や使命を大事にする・友愛や義理の精神を大事にするといった人間社会の根源的な価値観が凝縮されている内容で、だからこそ長きに渡り支持され、あらゆる物語の起源になっているのだろうと感じました。

 

以上となります!

■要約≪海の都の物語1≫

今回は塩野七生氏著の「海の都の物語」を要約します。ヴェネツィア共和国建国~滅亡までの1000年余りの建国史を扱った内容で氏の代表作の1つです。本書は6巻構成で1巻は建国~第四次十字軍(1202~1204年)までの時代を取り扱います。ローマ帝国亡き後に様々な帝国や都市国家が成立する中で、独自路線で長期的に反映し一時期は東地中海世界を海軍と交易で圧倒的にリードする存在にまでなったヴェネツィア共和国の特異性が垣間見えます。

 

「海の都の物語1」

【中古】海の都の物語ヴェネツィア共和国の一千年1(新潮文庫)

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:中(平易な言葉で記述されておりますが、ややマニアックな内容が多く世界史の基礎知識がないと置いてきぼりになる場面もあるかもしれません。)

■対象者:・ヴェネツィア共和国の歴史について興味関心のある方

       ・地中海世界について理解を深めたい方

       ・制約条件下での統治の凄みを体感したい方

 

≪参考文献≫

■ローマ亡き後の地中海世界

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界1≫ - 雑感

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界2≫ - 雑感

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界3≫ - 雑感

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界4≫ - 雑感

 

【要約】

■ヴェネツィア誕生

・紀元452年にヴェネツィア共和国は誕生しました。ヴェネツィアはアッティラ率いるフン族の脅威を受けて市民が亡命するような形で集団避難した干潟を母体としています。ヴェネツィア共和国は東ローマ帝国領土を引き継いだビザンチン帝国の属国として船で輸送を役割として重宝されて発展します。ヴェネツィア共和国は紀元697年より終身名誉職である元首を選挙で選出し、合議をベースとしながら最高意思決定機関を元首にする統治体制を採用するようになります。

・ヴェネツィア共和国は国の成立経緯故に合理的で現実を直視する思考を好み、海運・海軍・商業に特化して発展しました。住居は教区を設定し、教会・司祭をトップとして1つの区は1500人単位で構成されて統治されました。12世紀に区は大規模再編されて、カナレッジョ区・カステッロ区・聖マルコ区・聖ポーロ区・聖クローチェ区・ドロソドゥーロ区の6つになって現在に至ります。

 

■海上交易で発展を遂げるヴェネツィア共和国

・ヴェネツィア共和国は地中海世界では独自路線で発展を遂げます。イスラム教徒の海賊をも交易対象として交易・海運を通じて豊かになる道を歩んでいきます。紀元991年ヴェネツィア元首ピエトロ・オルセオロ二世が元首に即位した時代に地中海世界の交易権を大規模に拡大することに成功します。神聖ローマ帝国とビザンチン帝国が覇権を争う時勢において、ヴェネツィア共和国はアドリア海の海賊対峙とビザンチン帝国西部の防衛機能を担うという大義名分のもとに、自由に海軍を活用・造船する権利を獲得します。結果的にアドリア海東部の海上都市を実質的にヴェネツィアの同盟都市に巻き込むことに成功し、塩・魚・奴隷・木材・香辛料などの品目を用いた交易を西ヨーロッパ各国・イスラム圏・ビザンチン帝国らと行うことで経済的に発展を遂げます。

・自由と独立を守り抜き現実を直視した圧倒的な合理主義を徹底したのがヴェネツィア共和国でした。ヴェネツィア共和国はカトリックが多かったのですが、政治的に形式上はビザンチン帝国の傘下という体をとりました。ヴェネツィア共和国は法王派と皇帝派という中世ヨーロッパの闘争の調停人として度々登場しました。

・ヴェネツィア共和国は南イタリア・シチリアを征服したノルマン人のコンスタンティノープル遠征を撃退したことで、1081年以降ビザンチン帝国圏における完全免税の特権を手に入れることに成功し、地中海や黒海周辺の交易をする拠点や貿易網を確立します。12世紀の十字軍の時代になると海軍の強さを活かしてピサやジェノヴァを差し置いて貢献し、通商の自由を獲得し、アドリア海から東地中海へ交易覇権を広げます。

 

■第四次十字軍

・ヴェネツィア共和国の地中海世界における力はビザンチン帝国討伐になる第四次十字軍を機に一気に変化します。第四次十字軍はフランスの貴族主導でイスラム勢力の主要拠点であるエジプトのカイロを海軍で攻めるという構想のもと始動しました。フランスには自前の海軍がないということで、海軍大国となりつつあったヴェネツィア共和国への十字軍協力要請が入ります。ヴェネツィア共和国元首エンリコ・ダンドロは狡猾に十字軍と交渉を進めます。まず、十字軍への兵力と船供給の見返りに十字軍が獲得した領土の半分をヴェネツィア共和国が獲得するとする契約を結び大量の艦隊造船費用を十字軍に負担してもらうことを勝ち取ります。十字軍陣営は多額の費用負担を強いられ、払えない分の費用補填として、十字軍の軍勢を活用してヴェネツィア共和国がハンガリー王国に攻められていた海上都市ザーラを奪還させるために十字軍兵力を貸与することを交渉しました。この海上都市ザーラ奪還作戦を巡り、十字軍はローマ法王の逆鱗に触れて破門を言い渡されてしまいます。

・冬の時期に差し掛かり航海を控えていたタイミングでビザンチン帝国の皇太子アレクシスが十字軍を頼りに亡命してきました。アレクシスはコンスタンティノープルを奪還することに十字軍の兵力を貸与することでギリシア正教会をローマ・カトリック教会に統合するという無茶苦茶な条件を提示してきました。ヴェネツィア共和国元首エンリコ・ダンドロはこの構想が実現すればコンスタンティノープルを貿易圏に出来るメリットがあるため(当時はエジプトのアレクサンドリアと並んで重要な貿易都市)、十字軍の根本思想・目的には反するものの提案に賛成しました。

・フランス中心の十字軍陸軍とヴェネツィア海軍の混成でコンスタンティノープルを攻めることとなり、海軍の効果的な働きによりビザンチン皇帝は失脚することとなり、皇帝アレクシス四世がビザンチン皇帝に即位します。しかし、懸賞金は手に入らず、ギリシア人やフランス人の衝突により第二次コンスタンティノープル攻城戦へ発展しました。その後、コンスタンティノープルは崩壊し、十字軍陣営による壮絶な略奪が繰り広げられ、ビザンチン帝国はラテン陣営の息の根がかかった国家という意味でラテン帝国に名称を変更することとなりました。この戦いを機にヴェネツィア共和国はラテン帝国の領土の3/8を保有することとなり、皇帝の意思決定を支える要職にも据え置かれることとなりました。

 

【所感】

・ヴェネツィア共和国の制約条件下でやり繰りをして選択と集中・合理的な判断を徹底する国家統治の様は非常に示唆に富んでおります。漁夫の利を掴むのがうまく、海運・海軍・貿易など集中特化して大国と交渉・持ちつ持たれつの関係を保ちかつ共和政を維持し続けるという絶妙なバランスを維持した点に凄みを感じました。合理的かつ現実を直視したマネジメント上手な集団であり、時にはキリスト教のタブーに反することもいとわないなどの徹底ぶりが面白かったです。

・これだけ条件に恵まれず言い訳をしようと思えばいくらでも諦めることができたり、どこかの属国に成り下がることも出来た中でやり繰りをし続けた野心的な精神がヴェネツィア共和国全体には見え隠れしました。何を目指すのか・なぜやるのかといった基本的な問いに対して徹底して集中するということはビジネスパーソンや統治の歴史に大きな示唆を与えるように感じました。

 

以上となります!

■要約≪皇帝フリードリッヒ二世の生涯(下)≫

今回は塩野七生氏著の「皇帝フリードリッヒ二世の生涯」上巻を要約します。フリードリッヒ二世は神聖ローマ帝国の皇帝とシチリア王国の王を務めました。第六回十字軍を率い、中央集権型の法治国家を志向するなどの偉業を重ね当時としては極めて先進的な考えをもったリベラルアーツに満ちた皇帝とされます。下巻は十字軍以後のヨーロッパでの統治劇と度重なるローマ法王との対立、死後のフリードリッヒ帝国の崩壊までを描いた内容となります。

 

「皇帝フリードリッヒ二世の生涯(下)」

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■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低~中(平易な言葉で記述されていますが、中世ヨーロッパの前知識や土地勘がわからないと置いてきぼりになる場面もあるかもしれません)

■対象者:・中世ヨーロッパ社会の理解を深めたい方

     ・ルネサンス・法治国家について興味関心がある方

     ・神聖ローマ皇帝に興味関心がある方

※上巻の要約は下記※

 

 

≪参考文献≫

■十字軍物語4

■要約≪十字軍物語4≫ - 雑感

 

【要約】

■皇帝フリードリッヒ二世とローマ法王の対立劇

・フリードリッヒがロンバルディア戦役を経て北部イタリアを制圧してからも、神聖ローマ皇帝とローマ法王との対立劇は続きます。1239年にローマ法王グレゴリウス九世はキリスト教に従順しないとして神聖ローマ皇帝であり、シチリア王国の王であるフリードリッヒ二世を3回目の破門とします。ローマ法王はコンスタンティヌス大帝の寄進書により、キリスト教の司教の中でも際立つ存在とみなされ、「コンスタンティヌス大帝より西ヨーロッパを支配する権利を付与された」ということを論拠に中世ヨーロッパにおいて大きな影響力を発揮していました。尚、コンスタンティヌス大帝の寄進書は後世によりローマ法王庁のでっち上げであり嘘であったことがわかります。

・フリードリッヒ二世は破門された状態が芳しくないため、ローマを攻め入ろうとします。しかし、そのタイミングでローマ法王グレゴリウス9世が死亡し、次期ローマ法王指名までの22か月の休戦状態に突入します。

 

■間奏曲

・フリードリッヒ二世は正妻がアラゴン王家のコスタンツァであとは政略結婚や愛人ばかりでした。11名の妻と15名の子供がいたとされます。その中にはイェルサレム王女ヨランダや愛人ビアンカなども名を連ねます。フリードリッヒ二世はイェルサレム王女ヨランダやランチア候女ビアンカ・イギリスのヘンリー三世の妹イザベルなどと政略結婚や愛人関係にあり、大量の愛人と7人の息子と8人の娘が生まれました。フリードリッヒ二世は正妻・愛人の区別なく子供の苦労ないように面倒をつくす正直者であり、それは女性にうけたようでした。フリードリッヒ二世の息子の有名どころはハインリッヒ・エンツォ・フェデリーコ・コンラッド(ハインリッヒの後を継ぎドイツ王になる)・リカルド・マンフレディ(ダンテの戯曲に取り上げられる)・エンリコです。娘は軒並み有力者に嫁がせるに成功し、人を巻き込むのに優れていたとされます。

・中世ヨーロッパにおいて封建領主を抑えて中央集権国家を作るという壮大な構想をフリードリッヒ二世は実行しました。聖職者のべラルドと宗教騎士団のヘルマンを従え、封建領主も皇帝の行政官僚にします。フリードリッヒ二世は権限移譲しながらも猛烈な要望と自分自身が物凄く働くというリーダーシップにより関係者を掌握したとされます。封建制や宗教による支配には合理性を欠いており、効果的でなく行政官僚が君主を支え、法で統治するという中央集権型の統治を中世においてフリードリッヒ二世は唯一志向した圧倒的な先進性がありました。

・フリードリッヒ二世は実験・実践から学んだ理論書であるタカ狩りの書を息子のマンフレディ向けに作成したとされます。百科全書のように鳥や獲物を解説するという実践的かつ科学的な態度で記述したとされます。知力・視力・聴力・判断力・自己統制力などのスキルが鷹狩りには必要であり、没入感があることがよかったようでした。

 

■激突再開

・ローマ法王グレゴリウス9世の後任のローマ法王はインノケンティウス四世になります。インノケンティウス四世は攻め入ろうとする皇帝フリードリッヒ二世との会談を拒み、ジェノヴァに逃亡しアルプス山脈を経てリヨンに逃げ込み公会議を開き、フリードリッヒ二世を異端裁判に処することで抵抗しようとしてきました。

・リヨン公会議ではフリードリッヒ二世のギリシア正教に娘を嫁がせた件やサラセン人がシチリア王国にいることなどを引き合いに出し、ローマ・カトリックの教えに反するとして異端認定され、神聖ローマ皇帝の選任をドイツの諸侯で行うこととシチリア王国はローマ法王が支配するものとするという判決が下されました。

・この判決を受け、フリードリッヒ二世は政教分離・地上の支配は皇帝というイエスやフリードリッヒ二世の方針を踏みにじる動きとして、強く抵抗しました。まずはローマ法王の地上での越権行為をヨーロッパ中の国家向けに手紙を書くことで波及させることで各国の反フリードリッヒ路線を抑制することに成功します。その上でピサやローマ周辺の都市国家の皇帝支持を固めることでローマ法王インノケンティウス四世は身の安全からフランスの修道院に亡命する形となります。その上でフリードリッヒ二世にとっての抵抗勢力であるロンバルディア同盟の代表都市であるミラノとパルマを攻め入ります。

・ドイツではフリードリッヒ二世の子息であるコンラッドが法王派に対して攻め入り、北部イタリアはエンリコがリーダーとして皇帝派を率いて攻め入る最中で、皇帝フリードリッヒ二世は体調不良となりローマ法王勢力を攻め落とすことなく56歳で死亡します。

 

■皇帝フリードリッヒ二世亡き後の世界

・フリードリッヒ二世の遺言に従い、親族のコンラッドが神聖ローマ帝国・マンフレディがシチリア王国を統治する形へ移行します。フリードリッヒ二世の死亡を踏まえたローマ法王インノケンティウス四世によるヨーロッパ各国への決起呼びかけにはどの大国もなびきませんでした。フランスは神聖ローマ帝国(ドイツ)・シチリア王国と不可侵協定を結んでおり、イギリス・スペインはフリードリッヒ二世の親族が嫁いでいた為です。

・しかし、エンツォが捕虜になり三男のエンリコが政治舞台から抜けたことでフリードリッヒ二世が築いた君主制統治基盤は脆さを持つようになります。フェデリーコ・コンラッドと子息が相次いで病死し、マンフレディ-一強になる中で、インノケンティウス四世によりマンフレディは破門されてしまいます。ローマ法王が強硬派ウルバン四世になったタイミングでは拍車がかかり、フランス王家をそそのかし不可侵協定を破り攻め入らせるという手段に出ます。フランス王家ルイ9世の弟のシャルル・ダンジューがシチリア王に任命されることで構図は一変します。1266年のベネヴェントの戦闘でマンフレディVS新シチリア王のフランス勢力という構図で雌雄が決し、マンフレディが戦死することでフリードリッヒ二世の帝国は完全に崩壊します。その後もシャルル・ダンジューによりフリードリッヒ二世の家系は徹底的に攻め入られました。スペインアラゴン家王妃のコスタンツァがマンフレディの側近の医師であるジョヴァンニと結託して14年の月日を経てスペイン王家を動かすまではこの勢力図は変わりませんでした。シチリア島にスペイン軍が上陸し、シャルル率いるフランス勢力を討伐してしまいシチリア島だけがコスタンツァが統治する体制に戻るという形で歴史は展開しました。

 

【所感】

・学問を志向し、君主制国家・法による支配など極めて先進的な考えをもっていた皇帝フリードリッヒ二世の異質さが際立ちます。政略結婚や官僚制の充実など戦略的な基盤統治にも優れており、それでいて半ば無神論者的な合理性をもった政治的意思決定などローマ・カトリック教会の影響力が最盛期の時代の出来事とは思えない鮮烈さがありました。ルネサンス以前の時代に神聖ローマ帝国+シチリア王国という大帝国を統治しながらこのような偉業を成しえた皇帝フリードリッヒ二世の振る舞いには異質であることを恐れず自分の考えに忠実にコトを成すということの重要性を勇気づけられます。

・暗黒の中世ヨーロッパと評される時代であっても十字軍国家時代も然り、紐解いていくと非常に後世に影響を与える出来事や考えさせられる論展開などが多数あり歴史を学ぶ面白さを改めて認識させてもらえる内容でした。

 

以上となります!