雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪経済学における諸定義≫

 

今回はマルサス「経済学における諸定義」を要約していきます。人口論で有名な古典派経済学の代表的な理論家であるマルサス往年の作品です。アダム・スミスが古典派経済学の理論を構築してから後続研究が進み、専門分化していく過程で経済学に関する基本概念を表現する用語の定義・解釈が人によりバラバラである過渡期にある現状を憂いて、「代表的な著作・学者を引き合いに意味を正していきながら古典派経済学を編み直す」という壮大な構想の内容です。また、経済学を政治学・哲学などの社会科学同等の付加価値を持つ学問化するのであるというマルサス氏の強い気概も感じられる本です。

 

「経済学における諸定義」

経済学における諸定義 (岩波文庫 34‐107‐4) (改訳) マルサス/著 玉野井芳郎/訳 岩波文庫の本 - 最安値・価格比較 ...

■ジャンル:経済学

■読破難易度:中~高(基本的な経済学の理論の枠組みが理解出来ていないと、何も面白くないと思われます。教科書や代表的な経済学者の著作を読んだ上で読むことをオススメします。)

■対象者:・古典派経済学体系化プロセスに興味関心のある方

     ・近代世界における社会科学発展のダイナミックさを体感したい方

     ・古典派経済学者の思想に関する理解を深めたい方

 

≪参考文献≫

人口論

■要約≪人口論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

国富論

■要約≪国富論 第一編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第二編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第三編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第四編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第五編前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第五編後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■経済学および課税の原理

■要約≪経済学および課税の原理(上)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪経済学および課税の原理(下)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■経済学に関するマルサスの見解

・「経済学は数学的な側面があるという定説があるが、マルサス的には政治学倫理学のような思想の側面が強い」という見解を本書では展開します。「国民の富の性質と原因を明確に説明できること」が本書記述の動機・大目的であるとして経済学分野における用語の統一を図ろうというのが具体的な狙いです。

 

■当代における経済学における諸定義の乱立具合について

・本書ではフランスエコノミスト全般・アダム・スミス・セー・リカード・ミル・マカロックなど代表的な古典派経済学者の著作に言及し、経済学を構成する基礎的な概念・用語の曖昧さについて言及・論証していきます。具体的には効用・価値・富の区分「商品と労働の関係性」・「利用価値と交換価値の違い」・「需給の変数のかかり方」・「財・サービス間の交換比率」などに関して学者・学派により絶妙に解釈・言葉の定義が異なる矛盾を指摘し、基本的には古典派経済学の祖であるアダム・スミスの考え方に叶うように編み直すということがなされます。

 

■経済学における価値の尺度について

「財・サービスそのものの価値」と「商品市場価格を同義に扱うべき」という古典派経済学の一般的な見解に対してマルサスは挑戦的な見解をする営みが本書ではなされています。資本は労働を支配する権利を有しており、資本所有者が労働を支配するのでピラミッドの頂点に君臨するというのは「労働が商品と代替関係にある」という前提に成り立つ理論であり、商品が支配する労働量とは市場相場価格であり、有効需要であるという見解を示します。その一方で商品価格は需給バランスの影響を受けながらも、生産費用により自ずと規定されるという性質をもつことにも着目し、商品は「支配する労働の総量」により価値が規定されるとされたり、市場の需給バランスによるとされたり様々な解釈が成立するという見解が続いていきます。

 

■本書で定義の統一を試みた経済学における重要概念・用語について

:人間に必要、有用、快適な物質的対象物であってそれを専有したり生産する為に一定の人間の努力を必要とするもの。

効用:人間に寄与することが出来、また恩恵を与えることのできる性質。一対象物の効用はこうした寄与と恩恵との必要性および真の重要性に比例すると考えられてきた。すべての富はかならず有用なものである。けれども有用なもの全てが富とは限らない。

価値:使用価値と交換価値の2つの意味があり、使用価値は効用と同義になる。交換価値は交換上の関係であり、対象物の評価に依存する。価値が富と大別されるのは物質的対象物に限定されることと希少性・生産難易度に依存する点だ。

富の諸源泉:本質的には土地・労働・資本の3つであり、コアは土地と労働。

資本:資財(蓄積された富)の中で富の生産・分配・利潤を目的として留保、使用される部分を指す。

・本書では古典派経済学の様々なアプローチや考え方を統合していくことに取り組んでおり、その功績や視座視界は後のケインズマルクスの経済学発展に大きく影響をもたらしたとされています。

 

【所感】

・ややマニアックな内容の本でしたがアダム・スミスリカード・ミルの著作を読んでいた自分にとっては当時の時代背景・マルサス氏の課題意識も感じられ非常にワクワクする内容でした。本書で用語・概念の定義を統一化する中で下記資本主義経済における普遍的な結論を導きだしていることに凄みを感じました。労働生産性を高めて賃金を獲得し、資本を蓄積していくこと」労働者の立場から見た資本主義経済の原理原則であり、「如何に労働を節約するか・資本集約型産業を構築するか・利潤から資本を蓄積・投資していくか」資本家の立場から見た資本主義経済の原理原則であるというものです。

・様々な理論や見解を比較・統合していくという帰納法的なアプローチを好むマルサス氏ならではの著作に思えて、人口論とは違った奥深さが垣間見えた内容でした。アプローチ・論証プロセスそのものは社会学の大家マックス・ウェーバーを彷彿させるものでしたね。歴史的偉人に薫陶をうけるように学問の基礎基本を読み解いていくというプロセスは非常にカロリーがかかりますが、定期的に自分の思考にストレッチさせるための負課をかけるのに最適な内容と再認識し定期的に社会科学分野の古典は読み続けていきたい所です。

 

以上となります!

■要約≪ローマ人の物語8≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。8は「ユリウス・カエサル ルビコン以前」の上巻です。ローマを共和政から帝政へ移行させていく方向に大きく動かしたユリウス・カエサルの生涯を紐解いていくのが8の目的です。8はその上中下巻の上巻にあたり、ユリウス・カエサル生い立ち~青年後期にあたる紀元前100~61年までを扱います。

 

ローマ人の物語8」

ロ-マ人の物語 8 / 塩野 七生【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常によみやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとわかりやすくなります。)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方

     ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

 

ローマ人の物語3~5(ハンニバル戦記)は下記

■要約≪ローマ人の物語3≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪ローマ人の物語4≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 ■要約≪ローマ人の物語5≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

ローマ人の物語6~7(勝者の混迷)は下記≫

■要約≪ローマ人の物語6≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪ローマ人の物語7≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■幼少期(紀元前100~94年)

ユリウス・カエサルスブッラと呼ばれる平民が主に住む地区にて生まれ育ち37歳まで定住しました。ユリウス・カエサルはその前後の時代の偉人と違い、名門の家系に所属していないのが特徴であり、ローマ初期にあったユリウス系の系譜であることはあったくらいの人材です。カエサルには姉と妹がいて、母親からありったけの愛を受けて育ったので常に未来をみる非常にポジティブな人材に育ったとされます。

 

■少年期(紀元前93~84年)

・古代共和政ローマでは良家は家庭教師をつけて子供を教育するのが一般的で、カエサルは家に使える奴隷と一緒に家庭教師・読み書きは教養深い学者の家系である母親から直接手ほどきを受けて育ちました。この時代の初等教育を構成する科目はラテン語ギリシア語・修辞学・弁証学・数学・歴史・地理でした。専門分化したギリシア人の家庭教師に手ほどきを受けるというのが具体的な流れです。

カエサルの人格形成期のローマは同盟者戦役を経てユリウス法が成立し、マリウス・スッラ・キンナなどが勢力争いをしており、ローマ内部でクーデターが絶えない時代でした。カエサルは政略争いに巻き込まれ、望まない執政官キンナの娘との政略結婚を17歳の若さで遂げます。

 

■青年前期(紀元前83~70年)

・当代の時代の覇権を握る執政官スッラコルネリウス一門でありながら貧しい生い立ちをしたが貴族的な振る舞いと言動の明確さが多くの人を魅了するリーダーでした。スッラはマリウスキンナ率いる平民路線の政治勢力を討伐するために、マリウスに親族を殺されたクラッススポンペイウスを引き連れてオリエント遠征以後王都襲撃をして元老院体制を再興するということをやってのけました。スッラは王都制圧後、「民衆派掃討作戦」を決行し、解放奴隷をコルネリウス一門の身分を付与して役割遂行にあてがうというやり方で進めました。カエサルもこの掃討作戦の名簿にいましたが、親族がいないということも考慮しキンナの娘との離婚を強制されるという程度で済みましたが、カエサルはこれを拒んだため追撃にあい、小アジアで軍役に従事しその後はロートス島へ逃避といった具合で機が熟するのを待つ青年時代を過ごします。ロードス島はヘレニズム時代に学問で栄え、ローマ帝国とは早くから海軍を供与して同盟を結びました。いろいろな政変を経て、27歳でカエサルは神祗官になりローマ帝国本土に復帰しました。クラッススポンペイウスが政治権力に台頭する中で、カエサル会計検査官になり政治権力の基礎固めに勤しんでいました。

 

■青年後期(紀元前69~61年)

カエサル元老院議員にようやくなった頃、ローマ帝国ではポンペイウスが絶対指揮権を行使して地中海を制圧し、小アジアのミトリダテス王討伐の任を行うなどしてローマ帝国のトップに君臨する体制を着実に構築している状態でした。カエサルは歴史的偉人の中でも非常に遅咲きであり、37歳で厳しい選挙戦を経て最高神祗官になり政治権力の中枢にアクセスできる基盤を構築するといった具合でした。カエサルは物凄い借金を抱える癖のある人材でしたが、当時最もお金持ちとして名をはせたクラッススが下支えしていたので特段問題化することなく、出世の契機となるスペイン属領統治の任を40歳にして行い始めるという所で8は終了します。

 

【所感】

ローマ人の物語6・7の出来事をカエサルサイドから読み直すという構成になっており、より理解が深まりました。本書著者の塩野七生氏がカエサルという歴史的偉人を極めて特別視して評価・記述しているのがわかる内容になっており、遅咲きながらその優れた才能の片鱗や考え方をこれでもかと言わんばかりに描写しているのが特徴的です。

・生い立ちに関する言及の周辺知識として記述されているローマ社会の一般的な教育体制や土地区分などは身分階級や法秩序が強固なローマの特徴が際立つ内容に思えました。基礎的な学問と身体能力向上に関する時間を豊富に費やし青年期以降の自己実現・問題解決のポテンシャルを最大化するという狙いは近現代の教育体制やその狙いとあまり変わらないものだなと感じました。

 

以上となります!

≪下期総集編≫2023年度に読んで面白かった本8冊

 

今回は半年に1度まとめている「読んで面白かった本シリーズ」です。

この半年は自分の仕事のスタイルやスキルセットを大きくアップデートしていく危機感に迫られ、守破離の守の徹底に勤しみました。主にプロダクトマネジメントUXデザインに関する教科書的な立ち位置の本を読み漁り、Udemyで当該分野の講義を聞き「PM・UXデザインっぽい」仕事で実践して土地勘を掴むことの繰り返しでした。学べば学ぶほど自分が井の中の蛙であったことを知ると共に、「決まったフレーム・お作法・考え方を遵守していけば大きく外すことはない」ということも理解し、自分が積み上げてきた営業・組織マネジメントの経験もバカにならないなと思い返すことも多かったです。

 

※直近のまとめ記事は下記。

≪上期総集編≫2023年度に読んで面白かった本8冊 - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪目次≫

・プロダクトマネージャーのしごと

プロダクトマネジメント

プロダクトマネジメントの教科書

・UXデザインの教科書

ユーザビリティエンジニアリング

・バリュー・プロポジション・デザイン

・自省録

・ローマ人盛衰原因論

 

「プロダクトマネージャーのしごと」

O'Reilly Japan Blog - 9月新刊情報『プロダクトマネージャーのしごと 第2版』

≪要約≫

■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)

オライリージャパンシリーズの2023年10月に発売された本で、発売直後大きく話題になった本です。プロダクトマネージャーの具体的な実務・場面を引き合いに求められるスキル・職業倫理・具体的な解決策をわかりやすく解説している本です。ステークホルダーマネジメントの難しさとドキュメンテーション・UXデザインの重要性など過去の自分のしくじりを思い返しながら、背筋を正すような示唆にも富んでおりこの半期何度も読み返した記憶があります。

・プロダクトマネージャーというと開発組織の役割に思えて遠い世界に感じる方も多いかもしれませんが、担う役割や必要なスキル・経験・スタンスなどは事業開発を始めとした非定型業務全般に従事する方にオススメ出来る内容だなと感じた次第です。

 

プロダクトマネジメント

 

≪要約≫

■要約≪プロダクトマネジメント≫ - 雑感 (hatenablog.com)

ビルドトラップと呼ばれるプロダクトマネジメントにおいて絶対に避けなければならない状態に着目して架空企業のプロダクトマネージャーのストーリーを追体験しながら法則を学ぶという仕立てのPM定番本です。ビルドトラップと組織がアウトカムではなくアウトプットで成功を計測しようとして行き詰っている状況実際に生み出された価値ではなく、機能の開発とリリースに集中してしまっている状況の2つを具体的に指します。

・「HOWやスピードが先行してしまう自身の癖が仇となる」ということを強く認識し、「Why・Whatに立ち返る(ブラさない)」という癖付けを矯正するきっかけになった本です。ビジョン・課題設定・アウトカムを何時如何なる時も念頭において、コミュニケーションする・意思決定するということを強く学ばされた本です。

 

プロダクトマネジメントの教科書」

≪要約≫

■要約≪プロダクトマネジメントの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪プロダクトマネジメントの教科書 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

・「世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本」の続編でプロダクトマネジメントのキャリア・スキル・ノウハウなどを体系的にまとめた本です。今年の1月末に出版されたばかりの最新の本です。タイトルの通り、教科書のごとくプロダクト関連職種に纏わるスキル・スタンス・キャリアなど全てを網羅的に記述している内容です。

・500ページの超大作で読むのは骨が折れますが、様々なPMへのインタビューでキャリアの変遷・スキルスタンスの要諦などを多数の事例から学ぶことが出来、読み物として面白いです。モデル開発や企画関連業務を多数行う中で、国際水準に照らした自分の現在地やあるべき品質の確認をすることが出来て仕事の棚卸になった感覚が強いです。

 

「UXデザインの教科書」

≪要約≫

■要約≪UXデザインの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪UXデザインの教科書 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

・サービス開発・プロダクトマネジメントを学んでいく中で自ずとUXデザインの重要性を認識し、UXデザインの定番本の本書に辿り着きました。人間中心設計を筆頭に、UX体系化された理論や考え方・フレームワークを網羅的に学ぶことが出来、本書を読みながら体験価値やマーケティング施策を考える上で役立つ指針を体得できたのは大きな収穫でした。

・見込み顧客へのインタビュー・行動観察・ジャーニーマップ作成など自身の営業や組織マネジメントの経験で培ってきたものを転用できる内容も多いことがわかり、UXデザインが非常に馴染みあるものとして自分の中で腹落ちできたのは良かったです。「もう少し早く理論の枠組みを体得していればサービス/事業開発、仮説検証業務などをもっと効果的・効率的にやれたんだろうな」と過去の自分を思い返すこともありましたが、過ぎた時間はどうしようもないので今後のアウトカムで挽回したい所です。

 

ユーザビリティエンジニアリング」

≪要約≫

■要約≪ユーザビリティエンジニアリング≫ - 雑感 (hatenablog.com)

・UXデザインの最重要概念であるユーザビリティにフォーカスして、具体的な理論・フレームなどを体系的にまとめた本です。「ユーザーストーリーマッピングと悩みましたが、「顧客の文脈・心理・行動を最大限尊重する」・「事実と解釈を分けて仮説検証していく」などより学びが多い印象でした。サービス開発や仮説検証を高速で回していく業務に従事する方全般にオススメしたい内容です。

※参考※

■要約≪ユーザーストーリーマッピング≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

「バリュー・プロポジション・デザイン」

≪要約≫

■要約≪バリュー・プロポジション・デザイン≫ - 雑感 (hatenablog.com)

リーンキャンバスを構成する「バリュー・プロポジション」にフォーカスしてプロダクト・事業開発をしていく為に抑えるべきポイントや望ましい手順を体系的に記述した本です。顧客のペイン・ゲイン・顧客セグメントこそが事業開発においては何より大切であり、その為には「顧客に対する解像度をMAXまで高めること」、「競合優位性・差別化・代替可能性などを総合的に考慮した筋の良いソリューション選定」を抑えることがミソであるということが書かれており非常に納得させられる内容でした。

 

「自省録」

≪要約≫

■要約≪自省録≫ - 雑感 (hatenablog.com)

ローマ帝国五賢帝の一人であるマルクス・アウレリウスが内省を深める為に、自身が心棒としたストア派哲学のエッセンスを書き留めた内容の本です。「理性的であること」・「宇宙の法則に忠実に慎み深く生きること」・「公共善に務めること」など非常にストイックなストア派哲学らしい内容になっており、身が引き締まる内容でした。岩波文庫の青は読みにくい本も多い中で本書は非常に明快で読みやすいので、初学者にもオススメ出来る本です。

 

「ローマ人盛衰原因論

≪要約≫

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

・「法の精神」で有名なモンテスキューの著作で氏の歴史研究に裏打ちされた充実の内容です。「古代に一大帝国を築き上げたローマはなぜ滅びたのか」をローマ帝国の歴史をなぞりながら紐解き、間接的にフランス絶対主義を批判するという壮大な仕立てで政治や歴史に興味関心のある方であれば誰でもワクワクするような内容です。

・本書で論じられる内容は国や組織の栄枯盛衰に普遍的に通じる教訓因子の相互作用現象なども見てとれるなと感じ、非常に考えさせられる内容でした。

 

まとめは以上となります。

今後についてですが、プロダクト関連職種に関する基本を押さえるインプットに引き続き努めながら、「歴史や古典に薫陶を受ける」という従来の読書スタイルもバランスを取りながら戻していこうと思った次第です。

 

■要約≪プロダクトマネジメントの教科書 後編≫

 

今回はゲイル・マクダウェルとジャッキー・バヴァロ共著のプロダクトマネジメントの教科書」を要約していきます。「世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本」の続編でプロダクトマネジメントのキャリア・スキル・ノウハウなどを体系的にまとめた本です。タイトルの通り教科書のように網羅的に膨大な記述がなされており、本書は2回に分けて要約します。後編の今回は本書のF)リーダーシップスキル・G)ピープルマネジメントスキル・H)キャリア・I)プロダクトリーダーQ&A・J)追加情報をまとめています。

 

プロダクトマネジメントの教科書」

Amazon.co.jp: プロダクトマネジメントの教科書 PMの仕事を極める ― スキル、フレームワーク、プラクティス (Compass ...

■ジャンル:開発管理・IT・経営

■読破難易度:中(プロダクトマネジメントに関する全てを取り扱い、非常に緻密な記述がなされているので読むのに時間がかかります。既にPM業務に理解がある人が整理を深める為に読むことを目的とされています。)

■対象者:・プロダクトマネージャー・事業責任者を志す方全般

     ・プロダクトマネジメントの理論の歴史・要点を抑えたい方

     ・プロダクトマネジメントのキャリアやスキルの個別論点に興味がある方

※前編の要約は下記※

■要約≪プロダクトマネジメントの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■プロダクトマネージャーのしごと

■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■バリュー・プロポジション・デザイン

■要約≪バリュー・プロポジション・デザイン≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

■リーダーシップスキル

「自分の才能は努力と根性により時間をかけて後天的に伸ばすことが出来る」というグロースマインドセットをPM自身は勿論、プロダクト開発チームの組織文化に根付かせるようにコトをマネジメントしていくのが絶対に欠かせない感覚となります。具体的には知的謙虚さ継続的な組織学習不確実性への対峙を厭わないメンタリティを指し、これらを最も体現する代表者として強いオーナーシップでコトに対峙し信頼残高を継続的に獲得していくことがミソです。

「組織図上の指示命令系統にないエンジニアやデザイナーに働きかけることが求められる」のがPMであり、信頼関係構築の為に意図的にコミュニケーションの場を設ける、利害関係を尊重するなどの細かな仕立てるスキルがリーダーシップを発揮する上での絶対条件となります。性質故に意思決定の際はトレードオフや目的を明確にすること」「相反する意見がある場合は上司含めてエスカレする形式にすること」が望ましいステップであるとされ、軋轢はコトの意思決定をするという線引きや過去に積み上げた信頼残高を参照するのがセオリーとされます。

・説得・合意形成が重要な業務であるPMにおいて「相手の文脈・価値観に働きかけるようにシナリオややりたきことを伝える」という独特の情報編集能力が求められます。具体的なお作法としては「箇条書きで端的に要点を伝える」「図示化・定量化してぱっとわかるようにする」などがあり、プロダクト開発チームの会議は都度面倒でも議事録をとり、「ネクストアクション・議題・論点を明確にする」・「誰が何をいつまでに行うなどを記載、合意形成し続ける」ことが要となります。

・PMとしてのリーダーシップを構築・加速させ続ける為に、「面倒な仕事を引き受けてハイレイヤーの仕事にアクセスする環境を構築」したり、「自分の知見やアウトプットをシェアしていくことで情報が流れてくる仕組みを作る」など意図して仕事の流れやシステムを設計しないといけないものです。

・顧客体験価値の全てに責任を持つPMは基本的にデザイナーと良好な関係を構築し、ユーザーインタビュー・リサーチなどの業務の一部に深く入り込んでいく必要があります。顧客価値とビジネス価値の両輪を実現するように遣り繰りするのがPMとデザイナーのコラボレーションにおいて大事で、デザインの視点を軽視したり個人の好みに依存したり、職務期待を理解していない・軽視するような言動は避けないといけません。「データや顧客インサイトを一緒に眺めてユーザーストーリーの解像度を高めるプロセスを意図的に協働する」など、効果的な関係構築・問題解決のステップのベストプラクティスはある程度存在します。また、デザイナーとの関わり方は解決策の依頼というより、「課題設定」「解くべきお題」「実現したいユーザーストーリー」などのレイヤーで渡すというのが効果的な方法になります。

・エンジニアとPMのコラボレーションにおいては基本的には「エンジニアをパートナーとして扱う」・「技術的な制約を理解し尊重する」・「エンジニアの同意なしにスケジュールの具体的な日付を決めない(コーディング・テストをするにしてもエンジニアリングチームでかなりのユースケースを想定するなど不確定な調査・検証プロセスを踏むから)」などの原理原則が存在します。

 

■ピープルマネジメントスキル

・PM組織のピープルマネジメントについては「ピープルマネージャーになりたいかどうか」がPMのキャリアを考える上での判断ポイントとなります。能力開発・人材見立て・チームビルディングなど特有のスキルがつきまとうからです。「PMとしての専門性・影響範囲を広げること」「ピープルマネージャーになること」トレードオフになるケースもあり、「本当に自分はピープルマネージャーになりたいのか?」という問いは大切なものになります。ピープルマネージャーは大きな権限・影響力を持つと同時に、「感情の生き物である人間」という資源を管理・アクセスするので構造的に精神的に疲弊する性質のある仕事が避けて通れないとされます。

・ピープルマネージャーはその性質上、秘密保持事項が多くなり、納得できない方針変更を遂行する必要が増えるなど「素直になりきれない」・「孤独になりやすい」構造を持つとされます。そして、資源制約・人材育成というミッションの性質上、自分より下手にやる仕事を他人に任せて失敗許容すること含めて遂行するという管理が必要になる難しさがあります。ピープルマネージャーとしてワークするには、ベースの処理能力・システム構築・戦略作成~推進などのスキルを極限まで高めることが大事で、それに加えて権限移譲・適切なコーチングなどがポイントになるとされます。厳しい判断やチームに短期的な損失を与えるような意思決定・伝達も避けて通れないというのが難しさを形成します。自分の言動が会社オフィシャルの見解であるというシグナルを与えうるということも慎重に考慮して仕事をこなしていく必要が増えます。

・組織を形成することもピープルマネージャーの仕事であり、組織をミッションベースなのか機能別なのかどんな目的・狙いで設計するのかということについて、マネジメントは必ず思案をしないといけなくなるフェーズが来ます。その際は「急所・論点やゴール・上位戦略を参照してどのような意思決定プロセスや指示命令系統を構築することがアウトカムに近づくか」という視点で組織を設計・合意形成することがポイントになるとされます。プロダクトマネジメントにおいては各論と全体最適との視点を行き来することになるので、ユーザーストーリーやプロダクトビジョン・ロードマップなどの鳥観図のようなものを作り、常にアップデート・合意形成の道しるべにするという仕事を仕立てるスキルが高度に求められます。

 

■キャリア

・社内昇進・転職・PM外職種へピボットと様々な方向にシフトするPM人材のキャリアについてまとめられています。スキル経験プロダクトで担うスコープの広さ・深さなどでキャリアのラベルが付くケースが一般的です。「プロダクト単独なのか・マルチプロダクトなのか」、「機能改善なのかプロダクト戦略や組織まで担うのか」などが具体的なPMとしてのキャリアステップの先に担う仕事の役割です。その一方で、PMそのものが十分に上級役職であるので、シニアPMまで昇進した上で役割を変えるかどうかは好みの問題が強くなってくるとされます。

・PMのレベルはAPM→PM1→PM2→シニアPM→プリンシプルPM~ここから管理職~→PMリード→PMディレクター→プロダクト責任者(CPO)」となります。プロダクトマネジメントにおける影響度は「どれだけのインパクトのある改善か」・「その改善をどれだけのユーザーが体験しているか」という2軸で評価することが基本とされます。

・PMのセカンドキャリアは千差万別で代表的なものはGM・VC・エンジェル投資家・CEO・CXO・プロダクトコーチンです。GMは部門横断的であり、ビジネスサイドの統括もするPMよりもよりミニCEOっぽさの出る役割となります。プロダクトの成功だけでなく、収益にも責任を持つというロールを目指す場合は事業責任者→GMというのが一般的なステップのようです。VCは資金調達をしてその元手でスタートアップへ投資し取締役に就任しながらIPOやバイアウト目指して企業運営にコミットしていくビジネスモデルです。VCは「未来がつくられていく過程にいること」「アイデアの流れの中に身を置くのが好きなこと」などが要件として求められ、「プロダクトを自分の手で作りたい人」や「ステークホルダーマネジメントが苦手な人」・「フィードバックや学習ループをしっかり回したい人」には不向きとされます。エンジェル投資家もVC同様で、プロダクトマネジメントにおける「プロダクトのコアを定め、市場と顧客のリサーチをしてソリューションを定めMVPをリリースしてPMF→グロースしていくというフェーズにおける知見を応用して投資でバリューを出す為に付加価値を出す」というストーリーでPMからのピボット先で多いです。CEOCXOを目指すというのもよくあるPMからのピボット先であり、これはプロダクト全体を統括する・戦略的な役割を発揮する・チームリーダーシップを発揮して非連続の成長や変革を牽引するというPMロールを高めていく役割です。PMという役割そのものが習熟するのが難しいことに着眼してコーチやコンサルティングの道で生きていくというのも存在し、これはワークライフバランスやバラエティを重んじる際に有効な選択肢となります。

 

■プロダクトリーダーQ&A

・10個の事例を学びながらPMのなり方とその出口戦略について学ぶ構成となっております。PMになるには「コンピューターサイエンスとビジネスの大学での専攻を有して、関連企業のインターンシップで成果を出してAPMになるケース」PMっぽい仕事からの社内異動非PM職種×テック企業→小さな企業のPMMBA採用などのパターンがあるようです。また、特定業界への専門性や既存プロダクトのコアユーザーからのピボット起業→買収された会社でのPMなどもよくあるルートであり、副専攻とタイミングを活かしてなるケースがほとんどであることがわかります。

・PMキャリアの積み上げの典型例は大手ITプロダクトを経由してCEOや起業のような形でピボットしていくものです。また、PMっぽい仕事を流れで掴み、スキルや経験化していくケースでPMへなることが多いことも本書では記述されています。PMワークをしていく中で「顧客価値とビジネス価値の両立非連続の成長ストーリーを描くためにマーケティングMBAを学ぶ必要に迫られる」というケースが多いのはあるあるなようで、知的好奇心や課題解決・タフに物事を対処していくスタンスなどがモノを言うことが伺えます。

 

■追加情報

・PMは企業フェーズ・ビジネスモデル・業界などにより様々な強みが活きるポジションがあり、かつビジネスなのかUXなのかエンジニアリングなのかなど専門畑の伸び方も違うといった総合格闘技的な振る舞いが出来る役割であることが魅力です。PMの多くはプロダクトに対して愛が溢れており、コンシューマー向けのPMを目指す人が最も多いようです。

・コンシューマー向けPMはエンゲージメントを高めることが役割目的であるケースが大半であり、DAU/MAU滞在時間などがKPIとして追いかけることになるのが一般的です。マーケティングチャネル・UXデザインなどがプロダクトの成功に寄与するケースが多く、「データを見ながらパイの大きいユースケース・顧客セグメントに関する開発アジェンダを解いていく」というプロセスを踏むことが基本的となります。声の大きい一部のユーザーに惑わされない、プロダクトの世界線を大切にするなどが求められる職業倫理です。

・BtoBのPMは地味だが顧客価値とビジネス収益が連動することを体感できる貴重なポジションでぜひ経験するべきとして本書では推奨されます。プロダクト開発チームにおいてはセールスと連携しながら、PMがエンジニアリングやデザインに対して顧客インサイトを情報伝達していくロールを担うことが多いです。BtoBのPMは収益に関して指標を追い求める傾向が多く、ARR・新規販売件数・アクティブプレミアムユーザー・継続率・解約率などをKPIマネジメントしているケースが多いです。そして、マーケット構造把握・競合分析・優位性の構築・エンドユーザー、購買者双方の利害を理解することなどが具体的に必要な要件として浮かび上がるケースが多いです。

・eコマースやマーケットプレイス(プラットフォーム型)・ゲームなどそのプロダクト特有の性質を考慮した必要なスキルセット・開発優先順位などは様々存在します。トレンドやテクノロジーについて常にキャッチアップし続けることと副専攻を自学自習で学んで基礎基盤を強固にすることなどが求められるのがPMの好みが別れる要素でもあります。

 

【所感】

・前半はPMのコトマネジメントの側面を中心に取り扱いましたが、後編の今回はヒト組織マネジメントやキャリアに関する側面が多い内容でした。10名のPMに関するインタビューパートが非常に充実しており、PMワーク・なり方の絶対解はなく千差万別、ただし必要なソフトうスキル・スタンスはある程度共通項があるというのがよくわかりました。

・UXデザインやマーケティングなど自分自身が元来なじみのある職能をテコにPMっぽいワークの面積を広げていくことが必要であると再認識し、事業責任を果たしていく上ではPMロールをしっかり取り込んでいくことが大切だなと考えた次第でした。気が付いたらPMになっていたという本書記述のケースは非常に共感ができるもので、関連分野に関して勝手に学び、小さく実験していくというここ1年で身に付いたスタンスが極めて重要なことを再確認できたのは良かったです。もっと顧客体験価値の向上とビジネスアウトカム最大化にコミットしたいなと身が引き締まる思いで本書を読みました。定期的に棚卸を兼ねて読み直したいと思える名著です。

■要約≪ティム・クック アップルをさらなる高みへと押し上げた天才≫

 

今回は「ティム・クック アップルをさらなる高みへと押し上げた天才」を要約していきます。スティーブ・ジョブズの後を引き継ぎ、アップル社を偉大な企業へ牽引したティム・クックについて生い立ち~約7年間のCEO時代までの変遷・ターニングポイントをまとめた本です。GoogleAmazonFacebookの経営者および経営マネジメントに関する本はいずれも読んだことがあるのですが、アップルだけ知識に乏しく巨大IT産業を牽引する企業の思想に明るくなりたいと考えこのタイミングで読みました。

 

「ティム・クック アップルをさらなる高みへと押し上げた天才」

Books Kinokuniya: ティム・クック-アップルをさらなる高みへと押し上げた天才 / リ−アンダ−・ケイニ— 堤沙織 ...

 

■ジャンル:IT・経営

■読破難易度:低(専門知識不要で読み物として読めます)

■対象者:・アップルの経営の歴史に興味関心のある方

     ・生産工学に関して興味関心のある方

     ・UXデザインに関して興味関心のある方

 

【要約】

■ティム・クックの生い立ち

・ティム・クックはアメリカ南部の田舎で生まれ育った敬虔なクリスチャンです。数学を始めとした定量で分析できる指標を持つ科目全般にて秀でた成績を収める優等生的な育ち方をしたのが特徴です。真面目でやさしいだけでなく、チームで何かを行うということに秀でる人物性を人格形成期から発揮していました。クックが育った時代・地域は人種差別が根深く残っており、惨劇が定期的に発生する事態に見舞われました。マイノリティに対する無知・恐怖・憎悪に対して強い問題意識があり、CEO就任後は自身が同性愛者であることを公言したり財団への寄付を行うなどしているのがクックの特徴です。キング牧師ケネディ大統領にインスパイアされて人格形成がなされているようです。

・ティム・クックは大学時代に生産工学を学んでいます。生産工学は「資源の最適配分」という命題に対する解を深める学問としてウォルマートCEOを始めとする多くのビジネスリーダーを輩出する専攻です。生産工学はモノづくりの現場におけるあらゆる最適化を志向する学問であるため、自ずと副専攻がプログラミングに行きつくのでした。クックは新卒でIBMに入社し、当時国際競争優位を構築していた源泉である生産方式を学びました。IBMはPC生産において自動車業界におけるJIT方式自動化の導入・実現を通じてオペレーショナルエクセレンスを実現していました。

IBMで働く傍らでMBAを取得し、経営・リーダーシップ・プログラミング・オペレーションの深い造詣を得ました。合計12年間IBMで働き、工場部門で頭角を現し最後は本社スタッフ業務を行うというキャリアパスを歩み、インテリジェント・エレクトロニクス(IEという小さなコンピューター関連企業のCOOに転職、GEへ自社を売却後はサプライヤーの大手PCメーカーコンパックに転職し、オペレーション分野で優れた実績(ODMの導入に成功)を残し当時のアップルCEOであるスティーブ・ジョブズにスカウトされて1998年にアップルに入社しました。

 

■アップル入社~CEO就任まで(1998年~2011年)

・ティム・クックは本来おとなしく、分析的に物を観る人材であったがスティーブ・ジョブズの熱意とオーラに圧倒され直感的にアップルで働くことに気持ちが傾いたのでした。

・ティム・クックはJIT生産方式ODMの知見に優れており、アップル社が製品の生産と流通全般を競争優位になるレベルまで引き上げることがミッションでした。入社直後、まずは事業や生産に関する重要KPIを軒並み眺め、キーマンとインタビューをして「どんな資源が使えるか」・「解くべきお題は何か」を把握するのに専念しました。7カ月の改革でティム・クックはアップル社の在庫LTを1/5に減らすことに成功し、それはサプライチェーンマネジメント・資源調達・生産管理など様々な理論・技法を総動員して成しえたことでした。その後、サプライヤーの絞り込みOS化を徹底し、コストや生産性効率を抜本的に変える交渉や設計を推進しました。加えて、受発注管理・生産計画予測を精緻に行う為にSAP社ERPを導入するなど仕組みで問題を解決できるように施していきました。こうした効率化が功を奏し、当時OEMメーカーとして最大手に君臨していたデルに肉薄するまでに生産効率は改善していきました。

・その後、ティム・クックは2002年にセールスとオペレーションの責任者になり、2004年にハードウェア部門責任者、2005年にCOOと破竹の速度で出世していきました。ティム・クックのマネジメントスタイルは怒号などはないが細かく事実把握、問いをたてる厳しいスタイルであったようです。これは問い詰めるというより、問題をどれだけ把握しているかを尋ねるという意味が強かったようです。ティム・クックは健康に気をつけながらも基本は猛烈に働き準備や事実把握に重きを置く高い倫理観の持ち主でした。

 

■CEO時代

スティーブ・ジョブズからバトンを引き継ぎ2011年にCEOに就任すると、ティム・クックは顧客体験を最大化することをコアとして、ハードウェア・ソフトウェア・サービスの境目がどうでもよくなるくらいに、既存のやり方に固執せずプロダクト価値を研ぎ澄ませていくことを要とする経営方針を打ち出しました。徐々にスティーブ・ジョブズ路線からの逸脱を意味する「慈善活動の奨励」・「コアユーザーの形成」・「サステナビリティへの配慮」など先進的な経営方針を打ち出していくこととなります。それに加えて、SCMの一環として製造工程に関するアウトソーサーには労働者への配慮と高い品質を両立することを強く求める方針を打ち出しました。

・ティム・クックが経営上優れていた点はアップルのコアな部分を理解し、顧客が何を求めているか、その為に何を維持し何を変えるかということを明確に設定・構造俯瞰していた点と圧倒的なデリバリースキルで絵にかいた餅を具現化するスキルの2点であったとされます。UI/UXデザインを競争優位の源泉とする方針は変えず、倫理・プライバシー・セキュリティ・DEIの分野においても国際基準となるレベルの品質・方針を打ち出し企業の社会的責任を果たしながら企業価値向上を実現していく形にアップル社は変貌しました。

 

【所感】

・ティム・クックがスティーブ・ジョブズとは対照的な生い立ち、経営ポリシーをもっていることがこれでもかとわかるような特徴際立つ内容でした。オペレーションに圧倒的な強みを持ち、ビジネスをグロースさせ自身が大事にするポリシーに則り、アップル社の影響力を持って倫理プライバシーセキュリティDEIなどの分野で優れた功績を残し、企業の社会的責任を果たすのであるという強い意志が感じられる内容でした。

・ハードウェア企業ならではのダイナミックさと事業運営の難しさやUXデザインを競争優位の源泉まで磨きこむことに執着するアップル社のDNAの力強さなどが特徴的でした。一連のストーリーは「プロダクトを通じて、顧客価値を提供して社会を変えていく」とはこういうことかと考えさせられる内容でした。

 

以上となります!

■要約≪ローマ人の物語7≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。7は「勝者の混迷」の下巻であり、紀元前110~紀元前63年の混沌とした時代を描きます。前半は共和政ローマ末期を牽引したガイウス・マリウスルキウス・コルネリウス・スッラの執政官としての振る舞いに関する記述がなされ、後半は後に第一回三頭政治を取り仕切ることになるグナエウス・ポンペイウスローマ帝国領土東方拡大の様が記述されています。

 

ローマ人の物語7

ロ-マ人の物語 7 / 塩野 七生【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常によみやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとわかりやすくなります。)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方

     ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

 

ローマ人の物語3~5(ハンニバル戦記)は下記

■要約≪ローマ人の物語3≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪ローマ人の物語4≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 ■要約≪ローマ人の物語5≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

ローマ人の物語6(勝者の混迷)は下記≫

■要約≪ローマ人の物語6≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

マリウスとスッラの時代(紀元前110~78年)

・同盟者戦役終結後のローマ帝国小アジアポントス王国ミトリダテス六世の脅威に悩まされ、度々執政官が出兵して平定を強いられていました。国内では「平民階級と貴族階級(元老院)どちらの利害を優先するか」という論点があり、マリウスとスッラは対立関係にあるなど混沌を極めていました。当時の執政官は民衆派の執政官キンナと元老院重視の執政官スッラが対立しており、スッラが戦争に出かけていることを良しとして民衆派を扇動して執政官キンナはスッラおよび軍隊を国外追放する法律を制定しました。スッラはポントス王ミトリダテスを抑圧する為に、ギリシア都市の要所アテネを手持ちの陸軍と援軍要請をした海軍で攻略しました。

・スッラはミトリダテス率いるポントス王国軍に連戦連勝を収めた後に、小アジアにおけるローマ帝国の統治基盤をじっくり築いた上で執政官キンナ率いるローマ本軍を打ち取りに行くように反撃を開始します。掃討を徹底する為に、この戦いの最中で民衆派関連の人材はとにかく根絶やしにされる動きが採られました。公職追放・財産略奪・殺戮などで徹底的に処せられ、この一連の動乱で富と名声を構築したのがクラッススでした。ポンペイウスはアフリカ遠征をして反対勢力討伐に励んでおり、後の基盤を構築している時代でした。

・スッラは合法的に無期限の独裁官へ就任しました。スッラはスッラ派から執政官を2名任用して紀元前81年に独裁体制の基盤を確固たるものにしました。スッラはローマ市民法をユリウス法に則り、反対勢力の動きを見せたエトルリアなどの一部の都市から没収し、解放奴隷にも権利を認める執政官キンナ時代の法案を廃止するなどして足固めの整備をし、福祉問題においてはガイウス・グラックス時代の小麦法と呼ばれる後の救貧法に近い社会保障制度を廃案にしました。民衆勢力の芽を紡ぎ、国家財政健全化を急ぎました。

・加えて、スッラは元老院の定員を300→600へ大幅に増やし、経済活動で富を持っていた後世の中産階級のようなエクイタス(騎士階級)で埋めて政治の安定基盤を構築しました。司法制度についてはグラックス兄弟以前の、「陪審員元老院限定とする体制」に戻し、会計検査官・法務官・執政官などの定員や年齢制限も明確に設定し、寡頭政治となっていた元老院中心の共和政はしっかり年功序列な秩序に回帰しました。

・この頃のローマ帝国における重要な属州は10個ありました。シチリア島サルデーニャ島・東スペイン・西スペイン(現ポルトガル)・プロバンス地方・マケドニア地方・小アジア・旧カルタゴ領(北アフリカ)・北部イタリア(ガリア)の10個でそれぞれの総督には前法務官前執政官を毎年派遣するという形で統治しました。

・スッラは軍事勢力に関する文民統制を徹底する為に師団の規模に上限を定め、統治する立場は全て元老院承認の基行われるというガバナンスシステムを作り上げました。非常に緻密なシステムを保守的に組み立てていくのがスッラの特徴です。そして、元老院中心の中央集権的なシステムを構築する為に元老院の権力を強化する裏で、平民階級の護民官の権力を弱体化させる法案を成立させました。これらの一連の改革を約2年係りで行いスッラは独裁官の地位を退任します。スッラの改革の基本的な思想は綻びの出た元老院中心とした共和政体制の維持という大目的に集約されました。

 

ポンペイウスの時代(紀元前78~63年)

・スッラが構築した元老院中心の共和政体制はスッラ派の若手有望株であるクラッススポンペイウスに崩されていくという悲劇を辿ります。ポンペイウスはセルトリウス率いる反スッラ体制がローマ帝国領土のスペインで暴れていることを機に、平定活動で武功を上げ年齢の壁を越えて政治権力に台頭していくことを目指しました。クラッススは執政官時代に剣闘士によるスパルタクスの乱を鎮圧した功績を以て、同じく台頭していきます。

ポンペイウスクラッススは紀元前72年に同時に執政官になり、護民官の復活・ホルテンシウス法護民官で定めた法案は元老院の承認なく有効となる)の復活・陪審員制度の改革(元老院議員で独占されていた構成を元老院議員・騎士・平民などで分散させるようにした)などを行い、それぞれの政治基盤の安定化を目指しました。ここで更なる政治権力を獲得したのはポンペイウスで、持ち前の軍事の才能・実力を活かし変わらずローマ帝国の脅威として長らく存在したミトリダテス王率いる小アジア連合軍・地中海海賊の制圧を進めました。またポンペイウスは絶対指揮権の任期を用いて、当時中東地域の3強であったパルティア(ペルシア)・ポントス・アルメニアの均衡を打ち破り、アルメニア王国ポントス王国・近隣のセレウコス朝シリアをローマの属国・同盟傘下に収めることになりました。こうして、エジプトとパルティア王国を除いた広大な土地がローマ帝国の内部に組み込まれました。

法・軍事・身分階級・共和政というシステムの力で広大な帝国をマネジメントすることを可能にしてきたの共和政ローマが大帝国を形成するに至った要因とされます。紀元前63年頃には「オリエントを平定した」ということでポンペイウスローマ帝国で圧倒的な政治的地位に上り詰めるに至ったのでした。

 

 

【所感】

ポエニ戦争を経て、じわじわとローマ帝国が東西に基盤を広げていく過渡期ということで非常に面白く読むことが出来ました。内乱(主に身分階級闘争)と外敵の脅威に常に悩まされながら、共和政という適度な政治均衡を保ち広大な帝国を統治しようとやり繰りする時期であることが随所に伺えました。ポエニ戦争以後、100年がかりでマケドニア王国・ギリシア都市、そして小アジア~中東地域といった具合にじわじわとローマ帝国は東方面へ拡大していったのがわかります。以後、ローマ帝国西方面にスペイン・ガリア(フランス)と統治範囲を広げていくのですが、世界史の教科書で淡白に記述された部分を詳しく読み解いていく内容なので非常に読んでいて面白いです。

・本書を読んでスッラの印象がガラッと変わったのが印象でシステムによる政治統治というものを極めて真面目に考えて最後まで可能性を模索していた人なんだなと感心させられた次第です。独裁政治というのにも何らかの狙いがあるという風に想像力を働かせて考察することが大事なのかもしれないと気付かされました。

 

以上となります!

■要約≪ローマ人の物語6≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。6は「勝者の混迷」の上巻であり、紀元前133~紀元前78年の混沌とした時代を描きます。ポエニ戦争終結し、マケドニア王国・カルタゴが滅亡しヨーロッパ世界に圧倒的な覇権をもって君臨するローマ帝国の様相を呈した時代は内乱が絶え間ない時期でした。上巻ではグラックス兄弟の改革・ガイウス・マリウスの台頭・同盟者戦役勃発・ルキウス・コルネリウス・スッラの台頭までを描きます。

 

ローマ人の物語6」

ロ-マ人の物語 6 / 塩野 七生【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常によみやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとわかりやすくなります。)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方

     ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

 

ローマ人の物語1~2(ローマは一日にして成らず)は下記≫

■要約≪ローマ人の物語1≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪ローマ人の物語2≫ - 雑感 (hatenablog.com)

ローマ人の物語3~5(ハンニバル戦記)は下記

■要約≪ローマ人の物語3≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪ローマ人の物語4≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 ■要約≪ローマ人の物語5≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

グラックス兄弟の改革と悲劇

ティベリウスグラックスガイウス・グラックスはそれぞれ約1年・2年と短期ながら護民官の役割を以て多くの政治改革を推進しました。当時、ポエニ戦争での臨時体制の影響・権力をそのまま引き継ぐ形で貴族階級中心に構成される元老院が最高の政治権力として君臨し、事実上の寡頭政治が行われる時代に発展していました。元老院議員の息の根がかかった奴隷を通じて商工業を行い、巨額の富を形成するなどが横行し貧富の差は拡大するばかりの局面でした。

ティベリウスグラックスは腐敗していたローマの経済体制にくさびを打つ為に農地法を制定し、土地保有の限度を設定すること借地権名義の活用などを制限することで奴隷や家族を駆使した一部の階級が経済的な利権を独占することを回避することを目指しました。ティベリウスは農地や土地保有に関する貴族階級集約の状態を打破し、雇用創出や治安維持をする為に国庫をたくさん使い、時に元老院の権限にも抵触するようなことをしてでも強引に改革を推し進めようとしましたが、反対勢力に弾圧・殺害される事態に陥りました。

・兄の遺志を引き継ぎ護民官となったガイウス・グラックスは失業対策として農地法による自作農の保有促進公共事業の徹底による有効需要創出を行いました。経済政策として、騎士階級の優遇元老院議員で占められた司法制度に騎士階級を参画させるなどの既存統治制度にメスをいれる改革を行い、経済・政治の安定・発展を意図する国策を施しました。兄ほど急進的ではなかったガイウスは旧カルタゴの植民都市の開発事業を護民官2年目に行おうとしましたが、アフリカ出張で不在の機に元老院の働きかけにより政治的に不利な立場に追いやられ、最終的には殺害されるに至りました。

 

■マリウスとスッラの時代

グラックス兄弟の改革以後にローマを牽引することになるガイウス・マリウスは軍事組織で名を挙げて政治の世界に参画する遅咲きの人材でした。スペイン・アフリカでの戦場で武功を上げ、平民階級出身ながら50歳の時に執政官就任することで偉業が始まります。

・マリウスは軍事の造詣が深いことを活かし、「ローマ軍の士気・兵力が落ちていること」に課題設定をし、従来の徴兵制から志願制・職業軍人を推し進めました。マリウスは職業軍人階級という特設の組織を作ることで失業問題を解決すると共に、土地などの既得権益の財産に抵触するようなことをしなかったので、広く受け入れられる改革に成功しました。この改革は結果として民衆の支配基盤をマリウスにもたらし、攻略していたヌミディア王国も半分を制圧するにまで進展する偉業に寄与しました。ヌミディア王国を完全に孤立させるためには外交的な問題を解くことが必要であり、それはマリウスの臣下であり会計検査官であるルキウス・コルネリウス・スッラが問題を解決・活躍しました。スッラは後年に激しい独裁政治を繰り広げたことで有名ですが、若手時代は貧しい貴族階級出身であり開放的な態度をとることで有名であったようです。スッラはヌミディア王国との外交を巧みにこなし、ヌミディア王国の主犯であるユグルタを捉え、終戦に導きました。尚、スッラの偉業が見られるのは勝者の混迷(下)※ローマ人の物語7※となります。

・この頃、長らく論点化していた「ローマ連合に加盟する都市のローマ市民権を認めるかどうか」問題は大詰めを迎えていました。ローマ市民権は獲得できないのに、徴税は行われる・奴隷になり、ローマ市民権を獲得する裏口が存在するなどカオスな状態であり、同盟都市のメリットがないと不平不満が募る事態が続いていました。同盟都市の権利を尊重する法案を立案した護民官ドゥルーススが殺害されたことを機に暴動が起きる事態になり、紀元前90年頃に同盟者戦役と呼ばれるローマ同盟の反乱が勃発しました。

・ローマ同盟の反乱はスッラが率いた軍が功を奏し、鎮圧に成功しました。戦後にはユリウス法と呼ばれる同盟都市のローマ市民権を獲得する権利を尊重する法が可決されました。これを機にローマ連合は解体され、ローマ都市の地方自治体のような形で組み込まれていく形となりました。

 

【所感】

ポエニ戦争以後、共和政末期に到達する過程ということで世界史の教科書では端的に記述がなされる時代区分を詳細に記述していくので読み物として純粋に面白いです。グラックスの兄弟の改革は有名ですが、こんなにも短期間に多数の改革をなしていたのかと驚きました。また、元老院の動向など帝政へ移行していくに至る因子が垣間見える内容でした。

・ローマに関する歴史研究は法律・政治・軍事などにフォーカスすることが多いですが、本書では社会動向や経済政策等についても言及がありあまり視点が偏ることなく読み解くことが出来るので読み心地がよく感じました。参考文献に記載しているモンテスキュー「ローマ人盛衰原因論は軍事や政治に関する言及に集中しすぎているとの批判もある内容ですので、違った考察・視点が得られるように読みながら思いました。

 

以上となります!

■要約≪ドキュメント トヨタの製品開発≫

 

今回は安達瑛二氏の「ドキュメント トヨタの製品開発」を要約していきます。トヨタ主査制度の戦略・開発・制覇の記録をまとめたものであり、オイルショック直後に「小型上級者市場シェア50%」という野望を掲げ、その実現に向けた約10年の自動車開発~販売の歴史を追った内容となっています。著者自身がトヨタ自動車で製品企画室主査担当を務め、マークⅡチェイサークレスタの開発を手掛けた知見をベースに研究開発・生産・販売などあらゆる自動車メーカーの機能部門にスポットを当てて記述されています。

 

「ドキュメント トヨタの製品開発」

品質工学計算法入門/矢野宏/著 本・コミック : オンライン書店e-hon

■ジャンル:開発管理・経営

■読破難易度:低~中(車作りに詳しくない自分でも無理なく理解することのできる構成でした。自動車開発職種の簡単な概要やイメージの理解があるとより読みやすくなるかもしれません。)

■対象者:・自動車開発業務に興味関心のある方

     ・主査制度・プロダクトマネジメント・事業開発に関心のある方

     ・ビジョンを掲げ、周囲を巻き込み大きな物事を成し遂げる過程を知りたい方

 

【要約】

トヨタ主査制度とは

トヨタ主査制度は特定のブランドについて企画・生産・販売・開発の全てに責任を持つ制度を指します。技術的な面だけに責任を持つプロダクトマネージャーや販売促進の面だけに責任を持つブランドマネージャーとは似て非なるものとされます。主査は一般企業でいう部長次長クラスの職位であり、スタッフ部門に所属します。主査の多くは「技術のスペシャリストでありながら複数の部門を経験しているもの」であり、製品企画生え抜きみたいなことはないポジションです。メーカーという製品開発プロセスの性質上、主査は社内の開発やスタッフ・マーケティング部門は勿論、部品メーカーや販売店・ボディーメーカーなどとの折衝も担います。

・主査はプロダクトマネージャー同様、人事権を持たずにステークホルダーマネジメントを行う性質があり、それはプロダクトのCore・Why・Whatを研ぎ澄まして納得がいくプランで物事を進めよという役割であることを意味します。

 

オイルショック直後の製品開発

トヨタは戦後物凄い勢いで成長していき、販社の秀逸なマネジメント・トヨタ生産方式によるオペレーショナルエクセレンスの追求・主査制度によるマルチセグメント戦略の合わせ技で国際的に台頭していった会社でした。オイルショックはそうした中で初めて迎えた危機的な局面として記述されています。本書がフォーカスするのは小型上級車市場と呼ばれるセグメントであり、日産がローレル・スカイライン連合で圧倒的な市場シェアを抑えていました。

・そんな中、「小型上級車市場シェア50%」という野心的な目標を掲げ、主査主導の基市場を牽引していく新自動車開発が進むのでした。

 

■マークⅡ・チェイサー・クレスタの開発プロセス

・まずは1970年代にマークⅡ、次いでチェイサー、最後に「トヨタらしくない自動車開発(非トヨタロイヤリティーユーザーセグメント開拓目的)」としてのクレスタの3ブランドの小型上級者市場向けの自動車開発が始まります。

・車という有形のプロダクトであるからこそ、デザインはプロダクトセグメントやビジョンを体現するものとして多くの観点から精査される重要項目です。加えて、エンドユーザーが消費者であるので、「感覚的に馴染むデザイン・使い勝手であること」・「安全性が担保されていること」などはこの時代の自動車開発で留意する絶対的なポイントでした。振動耐熱性安全性等の機能面に関する技術的な問題を乗り越えるための仮説検証と並行して、快適性というユーザビリティの先駆けのような概念に関するデザイン・仮説検証も行うのが具体的にこの時代のトヨタ主査がマネジメントしていたテーマでした。

オイルショック以後、モータリゼーションの波が押し寄せる中で自動車開発には「エンドユーザーのライフスタイルを体現する」というブランドデザインは勿論、軽量化省力化などの技術的な高い要望も突き付けられるといった制約条件が付いて回りました。自動車を買うという行為は自身の消費形式を体現したり、自己実現のような要素を持っていたのです。だからこそ、自動車開発にはデザインに関する知識・スキルに加え、顧客セグメントへの深いインサイトマーケットインではなく、プロダクトアウト気味な○○な世界を実現したいというの強い野心・ビジョンが欠かせないのでした。

・1981年にトヨタ小型上級車市場連合(マークⅡ・チェイサー・クレスタ)は日産のローレル・スカイライン連合を上回り市場シェアトップを獲得するのに成功しました。あれよあれよと進み、1983年についに9年前に掲げた「小型上級車市場シェア50%」というNSMを達成しました。

 

【所感】

・自動車製品開発における主査制度はプロダクトマネージャーの役割に近しく、「有形×消費者向け」という製品セグメントの特質も相まって学べる知見が多いのではないかと思い本書を読みました。ソフトウェアやサービス開発と異なり、技術面の問題やQCDに関する言及が多い点などは自動車産業らしさを感じました。その一方で、顧客セグメントを明確に区切り、ユーザーインサイトからビジョンや解くべき課題を設定するプロセスやユーザビリティを重視したコンセプト設定などは現代のプロダクトマネジメント・事業開発にも通じる考え方で非常に先進的な取り組みであったことも伺えます。

・本書を読みながら、トヨタの主査制度における凄まじい当事者意識とステークホルダーマネジメント、付随する膨大な仮説検証・プロジェクトマネジメント・ドキュメンテーションワークなどを想像しました。そして、改めてプロダクトへの愛強い野心・解きたい課題意識などが大事であり、リーダーシップなどと合わせて精神的な胆力と経験値がモノを言う役割であるように感じました。

 

以上となります!

■要約≪プロダクトマネジメントの教科書 前編≫

 

今回はゲイル・マクダウェルとジャッキー・バヴァロ共著のプロダクトマネジメントの教科書」を要約していきます。「世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本」の続編でプロダクトマネジメントのキャリア・スキル・ノウハウなどを体系的にまとめた本です。タイトルの通り教科書のように網羅的に膨大な記述がなされており、本書は2回に分けて要約します。前編の今回はプロダクトマネージャーの役割・プロダクトスキル・実行スキル・戦略的スキルの記述内容にフォーカスします。

 

プロダクトマネジメントの教科書」

Amazon.co.jp: プロダクトマネジメントの教科書 PMの仕事を極める ― スキル、フレームワーク、プラクティス (Compass ...

■ジャンル:開発管理・IT・経営

■読破難易度:中(プロダクトマネジメントに関する全てを取り扱い、非常に緻密な記述がなされているので読むのに時間がかかります。既にPM業務に理解がある人が整理を深める為に読むことを目的とされています。)

■対象者:・プロダクトマネージャー・事業責任者を志す方全般

     ・プロダクトマネジメントの理論の歴史・要点を抑えたい方

     ・プロダクトマネジメントのキャリアやスキルの個別論点に興味がある方

 

≪参考文献≫

■プロダクトマネージャーのしごと

■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■バリュー・プロポジション・デザイン

■要約≪バリュー・プロポジション・デザイン≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■プロダクトマネージャーの役割

・本書ではプロダクトマネージャーとして必要なスキルをプロダクトスキル実行スキル戦略的スキルリーダーシップスキルピープルマネジメントスキルの5分野に区分しております。プロダクトスキルはユーザーインサイト・データインサイト・分析的問題解決力・技術的なスキル・プロダクトセンスとデザインセンス、実行スキルはプロジェクトマネジメント・MVP・スコープ定義とインクリメンタル開発・プロダクトローンチ・タイムマネジメント・物事を成し遂げる力、戦略的スキルは戦略・ビジョン・ロードマップ・ビジネスモデル・目標設定・OKR、リーダーシップスキルはコミュニケーション・コラボレーション・パーソナルマインドセット・メンタリング、ピープルマネジメントスキルは「本当にマネージャーになりたいですか?」・マネージャーになるには・リクルーティング・コーチング・パフォーマンス評価・プロダクトプロセス・チーム編成の各論となります。

・プロダクトマネージャーは役割が複雑で多面的であり、企業ごとに担う範囲が違うが為に、人により解釈がずれる宿命を持つようです。リサーチャー・データサイエンティスト・UXデザイナーなどプロダクトチームで不在な役割を兼務するということもよくあり、総合格闘技性が強い為に定義はあいまいになりますし、体系だった方法や育成方法も定まらないです。

・プロダクトマネージャーが牽引する一般的なプロダクトライフサイクルのステップはディスカバリー定義デザイン開発デリバリー考察です。プロダクトマネジメントスキルは経験により習熟する側面が強いとされており、それを補う為には世の中に存在するフレームワークやベストプラクティスを使い倒すことがポイントとされます。プロダクトマネジメントは不確実性やトレードオフという特有の感覚になれていくことで習熟していくものとされ、うまく軌道に乗る頃には次のロールを期待されていることが一般的です。

 

■プロダクトスキル

・ユーザーのペインを解き、ゲインをもたらすことがプロダクト開発の役目なので、ユーザーストーリーに対する深い理解と共感を得る為に、プロダクトマネージャーは実顧客にヒアリングし続けることをいつでも徹底しないといけないとされます。これを怠り、「誰も使わない機能開発」や「致命的な機能改悪をする」ということにならないように進めるのがポイントとされます。アンケートやリサーチではなく、実顧客に実際にリアルで会いヒアリングして、「ユーザーストーリー・メンタルモデルの解像度を高めていくということをあらゆるフェーズで徹底し続けること」プロダクトマネジメントスキルを磨き続ける為の不可欠な導線とされます。「片付けようとしているジョブを明かにするという視点で思考を巡らせること」や「既存の解決策の効果がどれほどか」・「なぜ既存の解決策では問題が解決されないのか」ということに問いを巡らせていくことがユーザーストーリーの解像度を高める上で不可欠です。

曖昧な問題を特定し、解くべき問いを明かにする・構造化するというのはプロダクトマネージャーの重要なスキルセットであり、これをうまくやれないとエンジニアやデザイナーシニアステークホルダーとうまく協業していく第一歩をくじくこととなります。「プロダクトの成功・成長を構成する重要なファネルを理解することや歩留まりを上げる為に検討しないといけないテーマや打ち手候補がライトに浮かぶレベルまで問題を構造化することをしているか?」というのはプロダクトマネージャーとしての手腕を問われるよくある問いです。

プロダクトデザインは直感的な理解と導線が接続していることが大切です。UIだけでなくユーザビリティなどもしっかり整合性がないと「使ってもらう」・「使い続けてもらう」というプロダクトの成功可否を左右する歩留まりで大きく打撃を受けるということが発生してしまいます。機能開発や仮説検証を進める際は常に何を明らかにする検証なのか?・この開発により何が得られどのような世界に近づくのか?・具体的にヒットするビジネス指標はどのようなものか?・プロダクトビジョンやロードマップにどのようにヒットするか?という問いに対して解を出せるようにプロダクトマネージャーはプロダクトチームをマネジメントしていきながら進めるバランス感覚が求められます。

・プロダクトマネージャーの技術的なスキルはエンジニアとのコミュニケーションの生産性を構築する上では重要な要素であり、技術の背景にあるテクノロジーへの造詣・簡単なコードの作成ができるようになっておくことは重要なステップとされます。「プロダクト思考過程のシェア」や「ブレインストーミングにエンジニアを巻き込む」などは意外に見えて有効なやり方とされます。技術制約を理解しておくこと・最悪自分で手を動かしてそれらしいアウトプットの方向を示すことができるようになっておくこと工数見積もりやリアリティのあるプロダクトマネジメントの可能性を広げるので、プロダクトマネージャーは自発的に学び経験を作ることで備えておくことが推奨されます。

・プロダクトマネージャーはPRDを筆頭に多数のドキュメンテーションスキルが必要とされます。ドキュメンテーションにおいては「MECEであること」・「要点を簡潔におさえること」・「文書が独り歩きすることを想定して作成すること」など様々な観点を留意しないといけなく、場数がモノを言います。模範的なフレームワーク問題・ゴール・ユースケース・タイムライン・具体案・重要なトレードオフと意思決定といった具合の見出しで構成することです。

 

■実行スキル

プロダクトマネジメントには水面下で多数のプロジェクトマネジメントを行うことやアジェンダを設定するためのスコープ設定・実行支援のデリバリースキルなど複合的な技法が付いて回るものです。プロダクト開発におけるプロジェクトマネジメントでは優先順位付け・チェックポイント・納期・マイルストーン設定という形でプロダクト開発チームをリードする役割がプロダクトマネージャーには求められ、定期的に示唆や進捗・今後の展望についてドキュメンテーションする必要が発生することが一般的です。

・プロダクト開発にはトレードオフになるような意思決定を都度していくことがつきものであり、その為には上位組織や戦略を考慮したスコープ定義・そのロジック設定が欠かせません。これらのグランドルールはプロダクト開発・プロジェクト組成初期にステークホルダーですり合わせておくこと・明文化しておくことがポイントとされます。

・プロダクトローンチ直前はエンジニアやデザイナーだけでなくビジネス部門やシニアステークホルダーとの密接な連携も多くなります。プロダクトが市場にてPMFして収益を生み出しながら持続的に成長していく必要があり、それ故にサービスオンボーディングの為の重要論点の設定GTM(Go To Markrt)の策定などがプロダクトローンチ後の後続テーマとして発生します。この際にプレスリリースを書くかのように「誰のどんな問題を解くか?」・「既存プロダクト・解決策と異なり○○が優れている」・「市場全体では××のポジショニングを取る」などの概念をドキュメンテーション化しておくことが大切とされます。

 

■戦略的スキル

・チームの方向性を決めるビジョンや戦略等はプロダクトマネージャーが担う重要な役割であり、具体的にはロードマップ作成優先順位付けなどの業務にて発揮することとなります。プロダクト戦略にはプロダクトビジョン戦略フレームワークロードマップの3つが重要であるとされ、プロダクトチームが共通の理解をして語れる粒感にそぎ落とされ浸透していかないといけないものです。逆に、常に立ち返る道しるべとして使い倒し続けることをリーダーがしないとそのプロダクト戦略はまともな白物とは言えません。

ゴールやビジョンを示すことと同じくらい大事なのが重要ポイントの把握・実現手段・手順の明示によるプロダクト開発チームのリードです。これを具体的なワークに落とすと、「ロードマップ作成」と「優先順位付け」・「論点だし」になります。資源制約を考慮してより重要な問いを明らかにするための仮説検証プロセスを推し進める・それをステークホルダーと合意形成するなどが具体的なスキルセットとして求められます。まずは作業の優先順位付け・納期・誰が責任をもつかを明らかにすることが第一ステップです。これは信頼残高を起点に、「職位や土地勘を遣わずにコトとして合意形成・推進していく能力」が必要になり、相応のロジカル・クリティカルシンキングと経験値が求められるスキルとなります。

・ロードマップ作成と優先順位付けにおいて考慮する点ユースケースのカバー範囲ビジネスインパク実現可能性ユーザーメリットの大きさなどがあげられ、原案をプロダクトマネージャーが洗い出し、プロダクト開発チームのコアメンバーで精査・合意するというのがよくあるプロジェクト初期の手順です。プロダクトマネージャーは意思決定の連続です。ロードマップや優先順位付けをしながら、シニアステークホルダーから持ち込まれる相談を時にNOをつきつけながら刷新・遂行していく強い精神的なタフさが求められるワークです。

 

【所感】

・本書は約500ページに渡り膨大な記述がなされており、その約200ページ程度を前半ということで取り扱いました。こうして整理するとスキル・スタンス・ノウハウを漏れなく濃密にまとめている本であることがよくわかります。一定数のプロジェクトマネジメントや企画関連業務をこなし、プロダクトマネジメントに関する書籍で理論の輪郭を掴んでいるからこそおさらいという感覚で読み進めることが出来てとても面白かったです。記述のスタイルや抑えている観点は「プロダクトマネージャーのしごと」に近く、生々しい避けられない問題をどのように取り扱い対処していくかなどの膨大なユースケースを抑えている点が流石であると感じました。

プロダクトマネジメント分野においてはベストプラクティスとされる理論・書籍・事例などがある程度パターン化しており、個別事例の掘り下げなどをして理解を深めていくことが今後の成長において必要なのだろうと再認識した次第でした。

 

以上となります!

■要約≪ローマ人の物語5≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。5は「ハンニバル戦記」の上中下巻の下巻であり、紀元前205~紀元前146年の第二次ポエニ戦争終結、事後のマケドニア王国・カルタゴ滅亡までを描いています。4最終盤でローマ軍の救世主として登場したスキピオが引き続き戦いを率いてついにカルタゴの名将ハンニバルと相まみえます。前半は主に第二次ポエニ戦争の個別戦局に関する記述が中心で後半は事後のローマ帝国マネジメント方針や同盟国マケドニアギリシア文明・カルタゴとの折衝の様が描かれます。

 

ローマ人の物語5」

ローマ人の物語 (5) ― ハンニバル戦記(下) (新潮文庫)

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常によみやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとわかりやすくなります。)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方

       ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

 

ローマ人の物語3(ハンニバル戦記(上))は下記≫

■要約≪ローマ人の物語3≫ - 雑感 (hatenablog.com)

ローマ人の物語4(ハンニバル戦記(中))は下記≫

■要約≪ローマ人の物語4≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■第二次ポエニ戦争終期(紀元前205~201年)

・この時代のローマは執政官ファビウスが「ローマ本土防衛構想」を掲げている状態であり、スキピオカルタゴ本国を攻めるという構想を推し進めるのは容易ではありませんでした。マケドニア王国がカルタゴとの同盟を破棄しているチャンスをみて、スキピオは独自にシチリア半島経由でカルタゴ本国を進軍するという動きを見せることとなります。カルタゴ第二の都市ウティカ奇襲に成功したスキピオは有利な条件でカルタゴと講和に持ち込める体制を構築し、その最中でローマVSカルタゴの最終決戦「ザマの戦い」が勃発します。ザマの戦いは事前にカルタゴ軍のハンニバルローマ軍のスキピオで、ポエニ戦争の火種となった「サルデーニャ島・スペインの領有権を巡る主張の違い」を確認した上で始まりました。

カルタゴ軍は得意な「像の突撃・スペイン・アフリカ大陸の傭兵による奇襲戦法」を採用しましたが、ローマ軍のスキピオは読み切り、軽装歩兵と重装歩兵の絶妙な隊列バランスを組み、騎兵を用いた側面攻撃をすることで圧勝します。この敗戦の結果を踏まえ、カルタゴ軍は講和を持ち込み、「カルタゴサルデーニャ島イタリア半島・スペインからの完全撤退」という形で終結しました。

 

■第二次ポエニ戦争事後(紀元前200~183年)

ポエニ戦争以後のローマ元老院スキピオ・アフリカヌスが先導していく形式をとり、ギリシア人の依頼を受けてまずはマケドニア王国の侵略を推し進めていくことになります。ローマはプトレマイオス朝エジプト・セレウコス朝シリアなどとの絶妙な関係を意識しながらアテネに対して侵攻を深めるマケドニア王国とどう対峙するかを判断する展開になりました。マケドニア国王フィリップスポエニ戦争においてハンニバルと結託してローマを攻めようとした前科持ちということで介入体制を持たざるを得ないとされました。

・この時代のヘレニズム諸王国はアレクサンドロス大王の以後分割統治されて、アンティゴノス朝マケドニアセレウコス朝シリア・プトレマイオス朝エジプトの3国が政治的な覇権争いを百年程度緩やかに続けていた状態でした。エジプトやシリアは素直にギリシア人に現地文明が服従するという形式を採用しましたが、アテネやスパルタなど優れた文明をもつマケドニア地域はそうはいかず、ギリシア現地がアカイア同盟・アエトリア同盟を結託するなどの抵抗を見せていました。当時のローマはギリシア文化に傾倒していたこともあり、ギリシア現地勢力の抵抗に力は課すもののマケドニアを滅亡させるまでには至らない、至れないという複雑なバランスでした。結果的にローマはマケドニア王国と戦い圧勝を収めることでギリシア都市の自治は保たれ、緩やかな同盟関係に進展していくのでした。マケドニア王国・ギリシア諸勢力の懐柔に成功したローマ軍は旧カルタゴ軍のハンニバルをかくまうセレウコス朝シリアと小アジアで戦争をすることとなり、ポエニ戦争で鍛え上げられたスキピオ式の兵法をもってこの戦いも圧倒していくこととなります。

 

マケドニア滅亡(紀元前179~167年)

マケドニア王国は統治する国王の思想により、ローマとの距離感は変容し続けるものであり聡明なフィリップス5世はローマと友好関係を構築しましたがフィリップス5世の後に即位した王ペルセウスは反ローマ的な思想の持主でした。ギリシア文明というのは誇り高く、自分達が特異であることや優れた文化文明を構築し、ヨーロッパ世界の起源を形成したという自負をお持ちであり、ローマに対しての現状を憂いての抵抗でした。

・ローマはスキピオ系列であるエミリウスという執政官がハンニバルに鍛えられたスキピオ式兵法を用いて巧みな戦いを展開し、マケドニア王国を圧倒します。結果的にマケドニア王国自体は滅亡の道を歩み、ギリシア都市は自由自治を尊重するスタイルでローマはマネジメントし、公道を作る・強い租税を強いるなどの方式は採用せず絶妙な距離感で対峙することをローマは意思決定しました。

 

カルタゴ滅亡(紀元前149~146年)

ポエニ戦争以後のカルタゴは独立国家として存続していましたが、武装は抑えられ戦いは常にローマの許諾をとるという形であったのでじり貧な状態にありました。カルタゴはかつての通商国家としての国際的な競争優位がなく、ただの農園経営に従事する弱小国といった具合でした。カルタゴは同じ同盟関係にあり、カルタゴの隣国にあたるヌミディア王国の台頭・脅威に悩まされていました。カルタゴヌミディア王国の脅威から約6万の傭兵を調達し、ヌミディア王国に対して専守防衛の観点から攻撃を仕掛けました。これが災いとなり、カルタゴは滅亡の道を進むこととなります。カルタゴヌミディア王国との戦いで敗戦すると共に、ローマに対して反省の色を徹底しなかったことで「ローマ同盟を反故にした国」という認識を元老院が強めるに至ってしまいました。この時代のローマはギリシア都市がマケドニア王国崩壊以後、体たらくであり反ローマ的な動きをみせることもあり、「寛容路線の帝国主義」から「強硬派帝国主義」へ思想を変容させるフェーズでもありました。こうしたこともあり、カルタゴは滅亡・ローマ属領化の道を進むことになってしまいました。

・この時代にスペインカルタゴはローマの属州になり、ローマ直轄統治をするに至りました。加えて、おこぼれのような形で後継者不足に困った小アジアの一帯がローマ直轄領に組み込まれることとなり、ローマは一気に地中海世界をも治めるに至りました。ギリシアと合わせてこれが東ローマ帝国の基礎を構築します。

 

【所感】

・4の華々しい戦争を取り扱うのに比べて戦争前後の各国・関係者の駆け引きにフォーカスした展開となっており、世界地図を見返しながら読み進めることで非常に面白く読むことができました。わずか60年の間に一気にローマ帝国が広大になった様は圧巻であり、ヨーロッパ世界においてローマとギリシアが誇り高き文明として評価される理由を再確認できたように思えました。

・現代とは全く異なる各国の力関係・発展度合いを鑑みると、国の発展を後世する変数が時代と共に変容し都度そのシステムに最適化している国が一時的な覇権を占めるということを繰り返してきているのが歴史であるということを再認識させられます。近代世界システムシリーズ(資本主義に立脚した国際分業体制のからくり)にも似たような記述がありましたが、それを改めて理解した次第でした。

 

以上となります!