今回は塩野七生氏著の「海の都の物語」を要約します。ヴェネツィア共和国建国~滅亡までの1000年余りの建国史を扱った内容で氏の代表作の1つです。本書は6巻構成で4巻は宿敵トルコ・聖地巡礼パック旅行といったヴェネツィアを語る上で欠かせない15世紀の情勢を記述しています。ビザンチン帝国亡き後の大国として台頭したオスマン帝国のもたらした地中海交易・海軍偏重のヴェネツィアへのダメージやイェルサレムへの聖地巡礼パック旅行という国家事業の様など色合いが際立つ内容となっています。
「海の都の物語4」

■ジャンル:世界史・歴史小説
■読破難易度:中(平易な言葉で記述されておりますが、ややマニアックな内容が多く世界史の基礎知識がないと置いてきぼりになる場面もあるかもしれません。)
■対象者:・ヴェネツィア共和国の歴史について興味関心のある方
・地中海世界について理解を深めたい方
・制約条件下での統治の凄みを体感したい方
≪参考文献≫
■ローマ亡き後の地中海世界
【要約】
■宿敵トルコ
・オスマン帝国は1293年に誕生し、小アジア周辺から領土を広げて帝国の地位に上り詰めました。大量の傭兵により構成される陸軍国家であり、スルタンがスレイマン1世の時に最盛期を迎えます。スレイマン1世の時代にオスマン帝国は西へ進軍し、ビザンチン帝国領を攻め入ることとなります。当時は東側はモンゴル勢力が圧倒的であり、南には後に滅ぼすことになるマムルーク朝(シリア・エジプト)がいる構図でした。
・オスマン帝国はトラキア地方・ブルガリア・マケドニアと次々に領土を獲得し、1436年にはビザンチン帝国の首都コンスタンティノープルを陥落させるにまで至ります。黒海交易・地中海交易の主要拠点であるコンスタンティノープルとアレクサンドリアが生命線であったヴェネツィア共和国にとってはこれは大ダメージでした。ヴェネツィア共和国はオスマン帝国と友好通商条約を結ぶなどして、対策を講じますがスルタンがマホメッド二世の治世に状況は一転します。オスマン帝国は更なる西への領土拡大を狙い、ハンガリー王国領とヴェネツィアのネグロポンテ・クレタ島を攻め入ろうとして交戦状態になります。
・ヴェネツィア共和国は海軍ではオスマン帝国を圧倒することができましたが、陸上での大量の兵力を用いた総力戦の前には部が悪く、ネグロポンテを手放すこととなります。コルフ島・クレタ島を守り抜く条約を秘密裏に度重なる交渉をすることでヴェネツィア共和国はなんとか守り戦線は保たれることとなります。以後260年余り、世界に君主制国家・大国の時代にシフトする中で、外交術などを駆使してなんとかしのぐ時代をヴェネツィア共和国は続けていくこととなります。
■聖地巡礼パック旅行
・十字軍国家亡き後もヨーロッパ世界にとってキリスト教の教義は生活の一部であり、重要でした。イスラム勢力の手に落ちたイェルサレムなどの聖地巡礼をするパック旅行をヴェネツィア共和国は国の事業として推進することで、新たな商業の柱を15世紀に確立します。ヴェネツィアからコルフ島・クレタ島・ロードス島・キプロス島を経て、ヤッファ~イェルサレムへ向かう数カ月に及ぶ船旅(一部陸路あり)の観光ツアーでした。宿泊先の斡旋や旅先での買い出しの連れ添い、道中のキリスト教関連施設の観光・商業の促進などを得意の海運・海軍の力をもってヨーロッパ世界をリードするという具合でした。これは大人気を博して、旅行記などが世界では多数出版される時代になりました。
【所感】
・「ローマ亡き後の地中海世界」でオスマン帝国の台頭・ヨーロッパ世界への脅威は十分理解していましたが、交易と海軍に特化したヴェネツィアには甚大な影響を及ぼした・苦しめられたということが見て取れました。東地中海交易を封鎖され、苦手な陸軍の大軍で攻め込まれるという技をされると脆いというヴェネツィア共和国らしさが露呈した内容でもあると感じました。そんな中でもやり繰りをしながらヨーロッパ世界の防衛ラインになるだけでなく、海軍・交易・外交などの力で経済大国であり続けるのは流石の様と感じました。
・聖地巡礼パック旅行は十字軍以後の地中海世界の都市の特色が克明に描写されており、読み物として面白かったです。また、これをビジネスチャンスにして国の中心産業に仕立てる野心と強み特化のヴェネツィアの国家運営は圧巻だなと感じました。個人的には国内の政治や治安・経済が安定しているからこその成しえる技だなと感じ、資本主義や民主主義の強さと成立条件を物語っているように感じました。
以上となります!




