雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪ピクサー流創造するちから≫

今回はエド・キャットムル氏著の「ピクサー流創造するちから」を要約します。氏はピクサー・アニメーション・スタジオの共同創設者であり、ピクサー・アニメーションとディズニー・アニメーションの社長です。ピクサーの経営の歴史を紐解き、創造的な組織をどう作り維持するかを説いた内容となっております。ピクサーがルーカスフィルムから部門独立し、スティーブ・ジョブズが株式の過半数を所有し彼の庇護を受けながらトイ・ストーリーらの画期的な作品を連発していく経営の裏側を紐解いております。

 

「ピクサー流創造するちから」

ピクサー流 創造するちから - EdCatmull/AmyWallace - 電子書籍・無料漫画ならブックライブ

■ジャンル:組織マネジメント

■読破難易度:低(経営者の経営の歴史を独白する仕立てとなっており、非常に読みやすいです。身近な作品も取り扱うため読み物としても面白いです。)

■対象者:・創造的な組織づくりに興味関心のある方

            ・企業経営の歴史の理解を深めたい方

            ・人材育成や企業経営に従事する方

 

≪参考文献≫

■デザイン思考が世界を変える

■要約≪デザイン思考が世界を変える≫ - 雑感

■組織を変える5つの対話

■要約≪組織を変える5つの対話≫ - 雑感

■リーダーの作法 ささいなことをていねいに

■要約≪リーダーの作法 ささいなことをていねいに≫ - 雑感

 

【要約】

■ピクサー・アニメーションの経営要諦

・ピクサーは「トイ・ストーリー」・「モンスターズインク」・「レミーのおいしいレストラン」らを手掛けてきたグラフィックアニメーション会社であり、2006年にディズニー・アニメーションの傘下に入りながらも独自色を担保しながら創造性ある経営を続けてきました。ピクサーは創業当初から完全コンピューターでつくる映画という野心的なビジョンを掲げ、「トイ・ストーリー」シリーズを手がけました。結果的にディズニー・ピクサー双方のカルチャーや意思決定基準を尊重しながらシナジーを生むという複雑な経営を実現し、ディズニー・アニメーションのV字回復に貢献したとされます。ピクサーは率直なフィードバックや創造力・体験を重んじるカルチャーをいついかなる時も徹してきた経営ポリシーがありました。

豊かな環境を整備し、創造性を刺激し、阻害要因に目を光らせるのがマネジメントの最大の仕事であると本書では記述されます。創造的な文化と経営哲学を言語化して如何に浸透させ続けるかということにピクサーの経営は魂を込めているとされます。不確実性や不安定さへの対処・率直さ・目に見えないものへの対峙などがもっとも経営として手を入れるべきテーマなのです。

物語がきちんとしていれば美術的な技巧はその後になるということがピクサーの根底にある考え方です。ルーカスフィルムの業績が芳しくないタイミングでコンピューターグラフィック部門は売却を余儀なくされており、アップルのマッキントッシュ部門を解雇になったスティーブ・ジョブズが経営に乗り出そうと接触をしました。当時のスティーブはスパーリングのように問いかけをしながら論点を明確にするというコトに向き合うスタイルのコミュニケーションでした。1986年にスティーブ・ジョブズが株式の70%を保有する形で、ピクサー・アニメーションはルーカスフィルムから分離独立する形で誕生しました。

 

■ピクサーらしさ

CGで映画を作るという新奇性とストーリーテリングが想像力をもたらすという強烈なコンセプトがピクサーの一貫したポリシーです。また、良いアイデアが全ての起点であり、その為に良い相互作用を設計する・偶発的な機会を作るということが経営におけるポリシーともされています。

・クリエイティブにはそれぞれのプライドやアイデンティティ・目に見えない力関係がある中で率直なフィードバックをするのは相当な心理的安全と目的意識が揃っていないと成しえないです。その一方、で集団浅慮に陥るのは最も回避しないといけない意思決定でもあり、コミュニケーション設計や風土形成はマネジメントが成果最大化観点で整える内容となります。提案や助言をしてストーリーテリングを吟味することはあっても、意思決定のラインと裁量は明確に線引きするというのが創造性と率直な文化の両立に欠かせず、この線引きの意思決定と保つ努力がポイントとされます。人ではなく、問題をみてアイデアをブラッシュアップするというグランドルールを徹することに尽き、その方針を狂気的にやりこむというのが創業以来のピクサーのカルチャーです。

人の知覚は築いたメンタルモデルによりゆがめられ、正しく現実を直視することは多くの人には難しいという前提でマネジメントすることが大事と著者は主張します。複眼でフィードバックして市場や顧客の声を反映する意思決定が如何に大切で難しいかということです。模倣ではなく現地調査で掴んだ本物の感覚を創造に反映させることをピクサーは重んじます。短編映画を技術の表出や長編映画の作成経験の土台にすること、芸術性に投資をすることのメッセージとしてピクサーは活用しました。人間は反省や自己分析をするということを拒み、刹那的なことになりがちです。しっかりと振り返りの機会と対話を設けてメタ認知を促したり、基準や改善要望を示すということが必要になります。反省会という機会そのものが一定の組織学習のシグナルになるだけでなく、どのように振り返りをするかの示しや抽象化・応用かを促すということなのです。

 

【所感】

・アップルCEOティム・クック氏の伝記本で描かれたスティーブ・ジョブズ像とは違ったピクサー・アニメーションでのスティーブ・ジョブズの振る舞いやピクサーでの経験が彼にもたらした影響が生々しく描かれており非常に面白かったです。終章まるまる1章を割いてスティーブ・ジョブズについて触れるほど経営者のエド・キャットムル氏にとっても印象深かったことが伺えます。

・情熱や拘りにベットしたり、偶発的な交流・問いを基にした対話など細部の設計・運用と創造性に価値を信じる強いリーダーシップの発揮による弛まない努力の積み重ねの故に、創造的な組織文化やアウトプットはもたらされるということが改めてよく理解できました。物凄くエネルギーのかかることですし、日常の些細な様々な出来事の重力の中で中長期的に影響をもたらす文化や機会設計に魂を込めるというのは経営者やリーダーシップの強い腹決めが必要であると感じました。個人的には機会設計や人材育成などは打率が悪くても仕掛けを施し、期待し続ける事でしか実現できないと思っていますし、究極的には誰をバスに乗せるかや何にフォーカスするかの取捨選択の腹決めもある(全ての条件下で本書の取組をやっても意味があるとは限らない理由がある)とも感じました。ある種孤独でも未来を描き、ゴールから逆算しギリギリを攻めたり流れに抗い大事な信念やアウトプットを示していくということ、これが経営であるということも再認識・考えさせられる内容でした。

 

以上となります!

■要約≪ティール組織≫

今回はフレデリック・ラルー氏著の「ティール組織」を要約します。日本でも一時期大ブームを引き起こした著作で、組織の進化を発達心理学的アプローチから論じ新たな進化型組織(ティール組織)の在り様を複数の組織の研究・調査から提言するという構成になっています。組織論に関する本は一通り読んできた中で、食わず嫌いのように読んでこなかった本でありこのタイミングで読んでみようと思い立ち読みました。

 

「ティール組織」

Amazon.co.jp: ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現【無料試し読み版】 電子書籍: フレデリック・ラルー ...

■ジャンル:経営学・組織論

■読破難易度:中(様々な組織の事例を基に1から丁寧に論を構成するため前知識は不要です。一方、抽象的な観念・概念が多くイメージがつきにくい箇所もあります)

■対象者:・ティール組織の理論に興味関心のある方

     ・組織開発・マネジメントに従事する方全般

     ・新たな組織の在り方について理解を深めたい方

 

≪参考文献≫

■U理論

■要約≪U理論≫ - 雑感

 

【要約】

■組織の発達段階

・本書で提唱するティール組織は現代の組織形態の究極の発展形・進化系として論じられます。具体的には神秘的組織(数百の部族集団の時代)→衝動型組織(力による支配)→順応型組織(部族から国家・教会・軍隊などの官僚制組織)→達成型組織(科学偏重の予測と統制の組織。実力主義や階層組織・多国籍企業が特徴)→多元型組織(多様性と平等と文化を重視するコミュニティ型組織)→ティール組織(存在目的を重視する慣行・自主経営・全体性)という具合です。現代の組織の多くは順応型組織~達成型組織~多元型組織の間にあるとして、本書では対比的に論じられます。

 

■ティール組織の要諦(自主経営・全体性)

達成型組織は組織を機械と例え、多元型組織は組織を家族と例えサーバントリーダーを欲するがティール(進化型)組織は生命体の様に表現します。ティール組織は組織の使命や価値基準を明確にして全ての意思決定をそこに中枢沿えるということをし、結果的に自立的に分散型組織が形成されるというイメージになるります。

本当の自分であり続けられるかと組織目的に忠実に協働ができるかがティール組織・自主経営組織に馴染む必須条件となります。強烈にカルチャーやバリューによるマネジメント・意思決定を徹することでしか権限移譲や学習する組織・高いエンゲージメントの組織は作れないものです。

・組織の存在目的や使命を中心に据えて運営することがティール組織が最大限の成果を出す理由とされます。視覚化・継続的な対話・インスピレーションを刺激する偶発的な機会などがティール組織を活性化するとされます。大集団での対話・偶発的な機会・内省促進などにより自己経営を促進するということです。戦略立案承認プロセスなどの階層組織の是を否定して、壁打ち必須とはしながら自己裁量でやるというのがティール組織のポイントです。

・信頼性のあるマネジメントがティール組織には不可欠で、そのためにはボウリングやバーベキューなどのイベントだけでなく、自分のヒストリーや事業のバリューなどのストーリーテリング・対話をする機会に投資をすることが必要になります。定期的な問いを基にした対話によるエンゲージメントや学習設計は組織が秀でた成果や創造性を発揮する上において不可欠であり、かなりのタイムラグと短期的には何も成果にならないことをどう織り込むかということになってくるのです。ティール組織においてはリフレクションと社内外からの率直なフィードバックを起点に組織目的の充足度合いを精査・点検をするという力学をかけ続けるものです。

 

 

■ティール組織を創造するための要諦

・経営トップが組織構造を順応型や達成型で見立てている場合、部分的な組織をティール組織でマネジメントしても危険であるとみて潰したり評価をしないため実現に至りません。信頼によるマネジメント・自主経営等を経営者自身が行うことが全ての起点とされます。規則や原則で組織を統制することを好むのは人間の社会的かつ根源的な性質であり、高い倫理観と目的意識がないとティール組織は成立しません。まして、目標数値や階層組織によるマネジメントには相応の理由と有効性があるのです。ティール組織実現にはCEOの自分自身へのヒーロー性と死別する覚悟が必要なのです。存在目的に耳を傾け、全体性に重きを置くという率先垂範ぶりがティール組織実現の絶対条件です。

・アメとムチによるマネジメントは階層組織・達成型組織において素早く簡単に統率するための手段として有効であり優秀です。階層組織やミドルマネジメント・本社スタッフは達成型組織固有の機能であり、ティール組織になるにはこのメカニズムを如何に変化させるかにかかりますがこれが非常に難しいとされます。ある種の既存組織の中枢・必要とされる役割や個人の自己否定・超越を伴うからです。

 

【所感】

・組織の形態には善し悪しがあるのではなく、あくまで発達段階であるという切り口は非常に印象的であると共にしっくりくる内容でした。そして、達成型組織は力や恐怖・競争によるスピード感と実行力に優れているのは間違いないです。目的・目標や役割を明確にロックして、決められたレールを走りきる・改善しながら目の届く範囲で貢献をしたいという欲望は多くの人間の根源的なニーズであり、それ故に忌み嫌われながらも資本主義に特化した現代の組織形態は一定理にかなったり、支持されているのだろうと自分の中で整理が出来ました。

・現代の多くの組織は多元型組織への脱皮に向けて取り組んでいるというフェーズがリアルな現在地であると思いますが、これも相当な共感性や想像力・好奇心や受けとめ範囲の広さが構成員に求められるものであり、究極的には個人の発達・成長も前提にあるのだろうと感じました。外部環境が変化する中で明らかに達成型組織の力学に限界があるというのは自分も組織をマネジメントする端くれとして認識しているので、非常に考えさせられる考察が多かったです。

・本書で提唱されているティール組織を扱ったホラクラシーはなかなか日本企業では定着しませんでしたが、一時的な小集団や部分的には実行できる考え方であると思え、加えてこの組織形態を目指して改善・発信し続けることでしか進化・成長はないのかなという真理を物語るようにも思えました。

 

以上となります!

■要約≪イリアス(上)≫

今回はホメロス氏著の「イリアス」を要約します。ギリシア神話を扱ったギリシア叙事詩の古典作品であり、あらゆる物語作品に影響を与えています。体系だった文字が未発達の紀元前8世紀頃に本書は構想され、口頭伝達により時代を超えて継承されてきました。イリアスは上下巻構成となっており、上巻の今回は第一~第十二歌までを取り扱います。

 

「イリアス(上)」

ホメロス イリアス 上 (岩波文庫 赤 102-1)

■ジャンル:歴史

■読破難易度:中(登場人物が多く、設定が複雑であるため前提理解になれるまでは非常に読みづらいです。物語の骨子そのものは非常にシンプルです。)

■対象者:・ギリシア叙事詩の古典を理解したい方

                  ・ギリシア神話・世界史の理解を深めたい方

     ・物語作品の起源を理解したい方

 

【要約】

■舞台設定

・本作品は小アジアのトロイアを舞台に行われたトロイア戦争(ギリシア連合アカイア軍VSトロイア軍)の末期を取り扱った内容となります。ギリシア神話の一端を成す作品であり、全能の神ゼウスヘラや戦いの神アレス・アテネなどが人間の戦いを見守り、時に介入するという具合に話は展開していきます。人間の主要人物としてはギリシア軍の勇将アキレウス・王アガメムノン・軍将オデュッセウス・ディオメデス、トロイア軍は大将ヘクトルらが参戦します。ギリシア地域には氏名のようなものが存在しないため、「○○の子××よ」という名乗りが頻繁に登場するのが叙事詩の特徴的な記述形式です。

 

■トロイア戦争

・トロイア戦争末期の舞台においてギリシア軍は王アガメムノンの強欲さや人質を盾にとる行為に勇将アキレウスが激昂し、離反する所から始まります。ギリシア軍のメネラオスとトロイア軍のアレクサンドロス(パリス※ヘクトルの弟)は決闘し、メネラオスが勝利します。こうした戦いの最中にもアテネやアレスなどの神がどちらかの陣営に味方して武力をブーストさせるという構図が続きます。

・神も一枚岩ではありません。全能の神ゼウスがトロイア軍に肩入れする現状にゼウスの妻ヘラが怒ります。ギリシア軍(アカイア軍)にアテネ、トロイア軍にアレスが味方する中で戦が展開されます。人間の戦は一種の神々の代理戦争的な性質を持ち合わせていました。女神アテネはアカイア軍のディオメデスを庇護して間接的にアレスを攻撃します。アレスは様々な神の中でも暴力的な所があり、ゼウス神を恨むなどの性格が垣間見えます。

・戦いはトロイア軍が優勢のまま進みますが、ギリシア軍のアイアスとトロイア軍の大将ヘクトルが一騎打ちを行いつつも、アテネとアポロンの結託により一時休戦協定が持ちかけられることとなります。

・アカイア軍の王アガメムノンは敗勢ということで自暴自棄気味になり、周りからの提言で勇将アキレウスとの仲を戻して戦線復帰することを構想します。アガメムノンはポイニクス・アイアス・オデュッセウスを派遣してアキレウスを仲間陣営に取り戻そうとするも説得は失敗します。敗戦濃厚な情勢を立て直すべく、王アガメムノンはディオメデスとオデュッセウスを敵情視察のために派遣します。トロイア軍のヘクトルも同じことを考え、ドロンを敵情視察に派遣するものの途中でアカイア軍につかまり殺されてしまいます。一方のアカイア軍は敵陣に潜り込むことに成功しトロイア軍の陣営に来援していたトラケ王レソスを殺し、名馬を奪い帰還するという形で戦力ダウンに成功します。

・王アガメムノン自らが奮戦することでトロイア戦争のパワーバランスはアカイア軍が盛り返していくこととなります。一方、その戦いの最中でアガメムノンはダメージを受け戦線を離脱することとなり、アカイア軍のメイン勢力はオデュッセウス・ディオメデスになります。トロイア軍は引き続き大将ヘクトルが檄を飛ばして中心を指揮する構図です。

・トロイア軍は本格的にアルゴス・アカイア軍(ギリシア陣営)を攻めるために壁を攻略する進軍を進め、ヘクトル主導でアイアスが守る拠点を攻めていくこととなります。ヘクトルは防壁を突破するために戦車から降りて隊を組んで歩兵形式でアカイア軍に攻め入ります。アカイア軍の防衛のメインはアイアスが務めており、ゼウスが時折介入して重要人物の致命傷にならないようにするなどのケアがされながら物語は展開します。

 

【所感】

・紀元前8世紀の内容でここまで長編で語り継がれているということの凄みを非常に感じさせられました。文字や書物作成技術が未発達な中でここまで伝承されたのは先人の努力の賜物であると共に、この物語の卓越さ・創造力豊かな所が人を惹きつけたからなのだろうと感じさせられました。ギリシア神話にあまり明るくなく、設定や用語などの前提に戸惑うこともありましたが、慣れてくると非常に創造性豊かで口頭伝達とした際には表現や抑揚などの個人の芸術点的な要素もある作品なのだろうということが浮き彫りになりました。

・本書は神は万能ではないということや戦いの意味や使命を大事にする・友愛や義理の精神を大事にするといった人間社会の根源的な価値観が凝縮されている内容で、だからこそ長きに渡り支持され、あらゆる物語の起源になっているのだろうと感じました。

 

以上となります!

■要約≪海の都の物語1≫

今回は塩野七生氏著の「海の都の物語」を要約します。ヴェネツィア共和国建国~滅亡までの1000年余りの建国史を扱った内容で氏の代表作の1つです。本書は6巻構成で1巻は建国~第四次十字軍(1202~1204年)までの時代を取り扱います。ローマ帝国亡き後に様々な帝国や都市国家が成立する中で、独自路線で長期的に反映し一時期は東地中海世界を海軍と交易で圧倒的にリードする存在にまでなったヴェネツィア共和国の特異性が垣間見えます。

 

「海の都の物語1」

【中古】海の都の物語ヴェネツィア共和国の一千年1(新潮文庫)

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:中(平易な言葉で記述されておりますが、ややマニアックな内容が多く世界史の基礎知識がないと置いてきぼりになる場面もあるかもしれません。)

■対象者:・ヴェネツィア共和国の歴史について興味関心のある方

       ・地中海世界について理解を深めたい方

       ・制約条件下での統治の凄みを体感したい方

 

≪参考文献≫

■ローマ亡き後の地中海世界

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界1≫ - 雑感

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界2≫ - 雑感

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界3≫ - 雑感

■要約≪ローマ亡き後の地中海世界4≫ - 雑感

 

【要約】

■ヴェネツィア誕生

・紀元452年にヴェネツィア共和国は誕生しました。ヴェネツィアはアッティラ率いるフン族の脅威を受けて市民が亡命するような形で集団避難した干潟を母体としています。ヴェネツィア共和国は東ローマ帝国領土を引き継いだビザンチン帝国の属国として船で輸送を役割として重宝されて発展します。ヴェネツィア共和国は紀元697年より終身名誉職である元首を選挙で選出し、合議をベースとしながら最高意思決定機関を元首にする統治体制を採用するようになります。

・ヴェネツィア共和国は国の成立経緯故に合理的で現実を直視する思考を好み、海運・海軍・商業に特化して発展しました。住居は教区を設定し、教会・司祭をトップとして1つの区は1500人単位で構成されて統治されました。12世紀に区は大規模再編されて、カナレッジョ区・カステッロ区・聖マルコ区・聖ポーロ区・聖クローチェ区・ドロソドゥーロ区の6つになって現在に至ります。

 

■海上交易で発展を遂げるヴェネツィア共和国

・ヴェネツィア共和国は地中海世界では独自路線で発展を遂げます。イスラム教徒の海賊をも交易対象として交易・海運を通じて豊かになる道を歩んでいきます。紀元991年ヴェネツィア元首ピエトロ・オルセオロ二世が元首に即位した時代に地中海世界の交易権を大規模に拡大することに成功します。神聖ローマ帝国とビザンチン帝国が覇権を争う時勢において、ヴェネツィア共和国はアドリア海の海賊対峙とビザンチン帝国西部の防衛機能を担うという大義名分のもとに、自由に海軍を活用・造船する権利を獲得します。結果的にアドリア海東部の海上都市を実質的にヴェネツィアの同盟都市に巻き込むことに成功し、塩・魚・奴隷・木材・香辛料などの品目を用いた交易を西ヨーロッパ各国・イスラム圏・ビザンチン帝国らと行うことで経済的に発展を遂げます。

自由と独立を守り抜き現実を直視した圧倒的な合理主義を徹底したのがヴェネツィア共和国でした。ヴェネツィア共和国はカトリックが多かったのですが、政治的に形式上はビザンチン帝国の傘下という体をとりました。ヴェネツィア共和国は法王派と皇帝派という中世ヨーロッパの闘争の調停人として度々登場しました。

・ヴェネツィア共和国は南イタリア・シチリアを征服したノルマン人のコンスタンティノープル遠征を撃退したことで、1081年以降ビザンチン帝国圏における完全免税の特権を手に入れることに成功し、地中海や黒海周辺の交易をする拠点や貿易網を確立します。12世紀の十字軍の時代になると海軍の強さを活かしてピサやジェノヴァを差し置いて貢献し、通商の自由を獲得し、アドリア海から東地中海へ交易覇権を広げます。

 

■第四次十字軍

・ヴェネツィア共和国の地中海世界における力はビザンチン帝国討伐になる第四次十字軍を機に一気に変化します。第四次十字軍はフランスの貴族主導でイスラム勢力の主要拠点であるエジプトのカイロを海軍で攻めるという構想のもと始動しました。フランスには自前の海軍がないということで、海軍大国となりつつあったヴェネツィア共和国への十字軍協力要請が入ります。ヴェネツィア共和国元首エンリコ・ダンドロは狡猾に十字軍と交渉を進めます。まず、十字軍への兵力と船供給の見返りに十字軍が獲得した領土の半分をヴェネツィア共和国が獲得するとする契約を結び大量の艦隊造船費用を十字軍に負担してもらうことを勝ち取ります。十字軍陣営は多額の費用負担を強いられ、払えない分の費用補填として、十字軍の軍勢を活用してヴェネツィア共和国がハンガリー王国に攻められていた海上都市ザーラを奪還させるために十字軍兵力を貸与することを交渉しました。この海上都市ザーラ奪還作戦を巡り、十字軍はローマ法王の逆鱗に触れて破門を言い渡されてしまいます。

・冬の時期に差し掛かり航海を控えていたタイミングでビザンチン帝国の皇太子アレクシスが十字軍を頼りに亡命してきました。アレクシスはコンスタンティノープルを奪還することに十字軍の兵力を貸与することでギリシア正教会をローマ・カトリック教会に統合するという無茶苦茶な条件を提示してきました。ヴェネツィア共和国元首エンリコ・ダンドロはこの構想が実現すればコンスタンティノープルを貿易圏に出来るメリットがあるため(当時はエジプトのアレクサンドリアと並んで重要な貿易都市)、十字軍の根本思想・目的には反するものの提案に賛成しました。

・フランス中心の十字軍陸軍とヴェネツィア海軍の混成でコンスタンティノープルを攻めることとなり、海軍の効果的な働きによりビザンチン皇帝は失脚することとなり、皇帝アレクシス四世がビザンチン皇帝に即位します。しかし、懸賞金は手に入らず、ギリシア人やフランス人の衝突により第二次コンスタンティノープル攻城戦へ発展しました。その後、コンスタンティノープルは崩壊し、十字軍陣営による壮絶な略奪が繰り広げられ、ビザンチン帝国はラテン陣営の息の根がかかった国家という意味でラテン帝国に名称を変更することとなりました。この戦いを機にヴェネツィア共和国はラテン帝国の領土の3/8を保有することとなり、皇帝の意思決定を支える要職にも据え置かれることとなりました。

 

【所感】

・ヴェネツィア共和国の制約条件下でやり繰りをして選択と集中・合理的な判断を徹底する国家統治の様は非常に示唆に富んでおります。漁夫の利を掴むのがうまく、海運・海軍・貿易など集中特化して大国と交渉・持ちつ持たれつの関係を保ちかつ共和政を維持し続けるという絶妙なバランスを維持した点に凄みを感じました。合理的かつ現実を直視したマネジメント上手な集団であり、時にはキリスト教のタブーに反することもいとわないなどの徹底ぶりが面白かったです。

・これだけ条件に恵まれず言い訳をしようと思えばいくらでも諦めることができたり、どこかの属国に成り下がることも出来た中でやり繰りをし続けた野心的な精神がヴェネツィア共和国全体には見え隠れしました。何を目指すのか・なぜやるのかといった基本的な問いに対して徹底して集中するということはビジネスパーソンや統治の歴史に大きな示唆を与えるように感じました。

 

以上となります!

■要約≪皇帝フリードリッヒ二世の生涯(下)≫

今回は塩野七生氏著の「皇帝フリードリッヒ二世の生涯」上巻を要約します。フリードリッヒ二世は神聖ローマ帝国の皇帝シチリア王国の王を務めました。第六回十字軍を率い、中央集権型の法治国家を志向するなどの偉業を重ね当時としては極めて先進的な考えをもったリベラルアーツに満ちた皇帝とされます。下巻は十字軍以後のヨーロッパでの統治劇と度重なるローマ法王との対立、死後のフリードリッヒ帝国の崩壊までを描いた内容となります。

 

「皇帝フリードリッヒ二世の生涯(下)」

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■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低~中(平易な言葉で記述されていますが、中世ヨーロッパの前知識や土地勘がわからないと置いてきぼりになる場面もあるかもしれません)

■対象者:・中世ヨーロッパ社会の理解を深めたい方

     ・ルネサンス・法治国家について興味関心がある方

     ・神聖ローマ皇帝に興味関心がある方

※上巻の要約は下記※

 

 

≪参考文献≫

■十字軍物語4

■要約≪十字軍物語4≫ - 雑感

 

【要約】

■皇帝フリードリッヒ二世とローマ法王の対立劇

・フリードリッヒがロンバルディア戦役を経て北部イタリアを制圧してからも、神聖ローマ皇帝とローマ法王との対立劇は続きます。1239年にローマ法王グレゴリウス九世はキリスト教に従順しないとして神聖ローマ皇帝であり、シチリア王国の王であるフリードリッヒ二世を3回目の破門とします。ローマ法王はコンスタンティヌス大帝の寄進書により、キリスト教の司教の中でも際立つ存在とみなされ、「コンスタンティヌス大帝より西ヨーロッパを支配する権利を付与された」ということを論拠に中世ヨーロッパにおいて大きな影響力を発揮していました。尚、コンスタンティヌス大帝の寄進書は後世によりローマ法王庁のでっち上げであり嘘であったことがわかります。

・フリードリッヒ二世は破門された状態が芳しくないため、ローマを攻め入ろうとします。しかし、そのタイミングでローマ法王グレゴリウス9世が死亡し、次期ローマ法王指名までの22か月の休戦状態に突入します。

 

■間奏曲

・フリードリッヒ二世は正妻がアラゴン王家のコスタンツァであとは政略結婚や愛人ばかりでした。11名の妻と15名の子供がいたとされます。その中にはイェルサレム王女ヨランダや愛人ビアンカなども名を連ねます。フリードリッヒ二世はイェルサレム王女ヨランダやランチア候女ビアンカ・イギリスのヘンリー三世の妹イザベルなどと政略結婚や愛人関係にあり、大量の愛人と7人の息子と8人の娘が生まれました。フリードリッヒ二世は正妻・愛人の区別なく子供の苦労ないように面倒をつくす正直者であり、それは女性にうけたようでした。フリードリッヒ二世の息子の有名どころはハインリッヒ・エンツォ・フェデリーコ・コンラッド(ハインリッヒの後を継ぎドイツ王になる)・リカルド・マンフレディ(ダンテの戯曲に取り上げられる)・エンリコです。娘は軒並み有力者に嫁がせるに成功し、人を巻き込むのに優れていたとされます。

・中世ヨーロッパにおいて封建領主を抑えて中央集権国家を作るという壮大な構想をフリードリッヒ二世は実行しました。聖職者のべラルドと宗教騎士団のヘルマンを従え、封建領主も皇帝の行政官僚にします。フリードリッヒ二世は権限移譲しながらも猛烈な要望と自分自身が物凄く働くというリーダーシップにより関係者を掌握したとされます。封建制や宗教による支配には合理性を欠いており、効果的でなく行政官僚が君主を支え、法で統治するという中央集権型の統治を中世においてフリードリッヒ二世は唯一志向した圧倒的な先進性がありました。

・フリードリッヒ二世は実験・実践から学んだ理論書であるタカ狩りの書を息子のマンフレディ向けに作成したとされます。百科全書のように鳥や獲物を解説するという実践的かつ科学的な態度で記述したとされます。知力・視力・聴力・判断力・自己統制力などのスキルが鷹狩りには必要であり、没入感があることがよかったようでした。

 

■激突再開

・ローマ法王グレゴリウス9世の後任のローマ法王はインノケンティウス四世になります。インノケンティウス四世は攻め入ろうとする皇帝フリードリッヒ二世との会談を拒み、ジェノヴァに逃亡しアルプス山脈を経てリヨンに逃げ込み公会議を開き、フリードリッヒ二世を異端裁判に処することで抵抗しようとしてきました。

リヨン公会議ではフリードリッヒ二世のギリシア正教に娘を嫁がせた件やサラセン人がシチリア王国にいることなどを引き合いに出し、ローマ・カトリックの教えに反するとして異端認定され、神聖ローマ皇帝の選任をドイツの諸侯で行うこととシチリア王国はローマ法王が支配するものとするという判決が下されました。

・この判決を受け、フリードリッヒ二世は政教分離・地上の支配は皇帝というイエスやフリードリッヒ二世の方針を踏みにじる動きとして、強く抵抗しました。まずはローマ法王の地上での越権行為をヨーロッパ中の国家向けに手紙を書くことで波及させることで各国の反フリードリッヒ路線を抑制することに成功します。その上でピサやローマ周辺の都市国家の皇帝支持を固めることでローマ法王インノケンティウス四世は身の安全からフランスの修道院に亡命する形となります。その上でフリードリッヒ二世にとっての抵抗勢力であるロンバルディア同盟の代表都市であるミラノとパルマを攻め入ります。

・ドイツではフリードリッヒ二世の子息であるコンラッドが法王派に対して攻め入り、北部イタリアはエンリコがリーダーとして皇帝派を率いて攻め入る最中で、皇帝フリードリッヒ二世は体調不良となりローマ法王勢力を攻め落とすことなく56歳で死亡します。

 

■皇帝フリードリッヒ二世亡き後の世界

・フリードリッヒ二世の遺言に従い、親族のコンラッドが神聖ローマ帝国・マンフレディがシチリア王国を統治する形へ移行します。フリードリッヒ二世の死亡を踏まえたローマ法王インノケンティウス四世によるヨーロッパ各国への決起呼びかけにはどの大国もなびきませんでした。フランスは神聖ローマ帝国(ドイツ)・シチリア王国と不可侵協定を結んでおり、イギリス・スペインはフリードリッヒ二世の親族が嫁いでいた為です。

・しかし、エンツォが捕虜になり三男のエンリコが政治舞台から抜けたことでフリードリッヒ二世が築いた君主制統治基盤は脆さを持つようになります。フェデリーコ・コンラッドと子息が相次いで病死し、マンフレディ-一強になる中で、インノケンティウス四世によりマンフレディは破門されてしまいます。ローマ法王が強硬派ウルバン四世になったタイミングでは拍車がかかり、フランス王家をそそのかし不可侵協定を破り攻め入らせるという手段に出ます。フランス王家ルイ9世の弟のシャルル・ダンジューがシチリア王に任命されることで構図は一変します。1266年のベネヴェントの戦闘でマンフレディVS新シチリア王のフランス勢力という構図で雌雄が決し、マンフレディが戦死することでフリードリッヒ二世の帝国は完全に崩壊します。その後もシャルル・ダンジューによりフリードリッヒ二世の家系は徹底的に攻め入られました。スペインアラゴン家王妃のコスタンツァがマンフレディの側近の医師であるジョヴァンニと結託して14年の月日を経てスペイン王家を動かすまではこの勢力図は変わりませんでした。シチリア島にスペイン軍が上陸し、シャルル率いるフランス勢力を討伐してしまいシチリア島だけがコスタンツァが統治する体制に戻るという形で歴史は展開しました。

 

【所感】

・学問を志向し、君主制国家・法による支配など極めて先進的な考えをもっていた皇帝フリードリッヒ二世の異質さが際立ちます。政略結婚や官僚制の充実など戦略的な基盤統治にも優れており、それでいて半ば無神論者的な合理性をもった政治的意思決定などローマ・カトリック教会の影響力が最盛期の時代の出来事とは思えない鮮烈さがありました。ルネサンス以前の時代に神聖ローマ帝国+シチリア王国という大帝国を統治しながらこのような偉業を成しえた皇帝フリードリッヒ二世の振る舞いには異質であることを恐れず自分の考えに忠実にコトを成すということの重要性を勇気づけられます。

・暗黒の中世ヨーロッパと評される時代であっても十字軍国家時代も然り、紐解いていくと非常に後世に影響を与える出来事や考えさせられる論展開などが多数あり歴史を学ぶ面白さを改めて認識させてもらえる内容でした。

 

以上となります!

■要約≪対人支援に活かすネガティブ・ケイパビリティ≫

今回は日本能率協会マネジメントセンター出版の「対人支援に活かすネガティブ・ケイパビリティ」を要約します。ネガティブ・ケイパビリティとは「性急に答えを求めずに、不確かさや疑念の中に留まっていられる能力」「自分の枠組を外して他者を理解しようとする共感的想像力」を指します。対人支援職の絶対感覚として体系的に論じており、10の専門家インタビューからそのからくりを解明しようとする内容です。

 

「対人支援に活かすネガティブ・ケイパビリティ」

書籍『対人支援に活かす ネガティブ・ケイパビリティ』6月20日発売 | 株式会社日本能率協会マネジメントセンターのプレスリリース

■ジャンル:

■読破難易度:

■対象者:・対人支援職に従事する方全般

       ・キャリアコンサルティング理論を学びたい方・実践活用したい方

       ・マネジメント職全般

 

≪参考文献≫

■EQ こころの知能指数

■要約≪EQ こころの知能指数≫ - 雑感

■組織化の社会心理学

■要約≪組織化の社会心理学≫ - 雑感

 

【要約】

■ネガティブ・ケイパビリティとは

・ネガティブ・ケイパビリティとは性急に答えを求めずに不確かさや疑念の中に留まっていられる能力・自分の枠組を外して他者を理解しようとする共感的想像力を指します。いわば保留状態維持力です。自分が対象者を理解すること対象者が理解できるように関わることという明確なスキルが必要とされます。断定するのではなく、答えがない・わからないという状態を保持していく力ということになります。これは判断を保留する・常に疑い本当にそうか?と問い格闘し続ける力ということです。

・ネガティブ・ケイパビリティはバイアスや自分の価値観ではなく、曖昧さを許容して他者の価値観で物事をみる、没入するスキルです。芸術などは自分と価値観・背景の異なる人の表現や感情をありのままに受けとめる営みであり、ネガティブ・ケイパビリティの最たる例です。仏教の無我・無心・諦念などの概念もネガティブ・ケイパビリティの代表例です。ありのままを捉え、見たくない現実をも飲み込むという姿勢はマインドフルネスに近しいとされます。

・自分と異なる価値観を持つ人との邂逅や偶発的な機会を受け入れて変わるという越境などがネガティブ・ケイパビリティの根幹をなす要素であり、水平思考/ラテラル・シンキングに近しいです。熟慮・内省して過去の経験や周囲の評価・諦めに抗うというのがリーダーのスキルとされます。保留状態を保ち、内省と観察をして解を導き出そうという姿勢そのものがネガティブ・ケイパビリティの根幹を成すのです。

 

対人支援職エキスパート10人のインタビューから見えるネガティブ・ケイパビリティ

・対人支援職は対象者の負の側面も見えることから対象者は本質的には善なる存在と見なすことが求められる倫理観を必要とします。対人支援においては見立てはバイアスになるもので、動的に変わりうるものとして観察していくことや生い立ち・人間関係に着目することが求められます。平常時は顧客の意向を尊重する問いを欠かさないアプローチだが緊急時には詳細な指示をこちらから行うケースが多いです。対人支援職にはその仕事の性質上、上下関係を回避するアプローチの倫理観とその一方で、医療分野では情報の非対称性による致し方なさがあります。相手の力を信じながら謙虚であり、自分の仕事ぶりに誇りを持つという倫理観が共通します。

・一方、対人支援職の仕事には際限がなく境目が曖昧であるため、バーンアウトも多発しやすく患者や病院・親などのステークホルダーとの衝突の悩ましさを構造的に持ちます。「ここで終了」と区切りをつけて情の乗り移りがしないようにすることが必要になる倫理観も対人支援職には必要です。対人支援職には様々なイレギュラーケースがつきものであるため、支援終了のタイミングで振り返りをして、やりようがなかったかを考えるのが共通傾向の倫理観とされます。そして、顧客の評価は顧客のみにあるというものでもあります。対人支援職は役に立ちたいという気持ちと限りがあるという無力感の間を行き来することになります。想像力と問いかけをしていき、ケースワークし続けることは対人支援職としての絶対感覚になり、詰まる所、如何に経験をつむかとそこから振り返りと学習をしていくかであり、人間の基本的な知性が必要な職業なのです。

 

【所感】

・実務の棚卸をしながら理論を体系的に学べる構成となっており、大変読み応えと充実感のある内容でした。特に10名の対人支援職エキスパートへのインタビュー内容は具体の業務内容や葛藤・職業倫理に触れるものとして大変興味深く読むことが出来ました。曖昧性を如何に許容し、機会として企て改善していくかや人に期待する・性善説に立ち続けるという曖昧さが対人支援職の根幹を成す性質です。知識と経験に立脚した専門性はもちろんのこと、経験学習や人に関心を持つ・共感性や想像力を耕していくことが絶対感覚であるということを再認識しました。とした時に、ビジネスとして高速に拡大再生産をするという営みと必ずしも学習曲線や学習・型化項目がイコールにならないという悩ましさや矛盾と如何に向き合うかということが対人支援産業を経営するにあたっては必要な感覚であろうと感じました。効率性と共感性や学習効率すべてを持ち合わせている人間は希少であり、誰にどこまでを要望するかという矛盾やどこまでの投資を許容できるかということに葛藤し続けるのだろうと思います。

・キャリアコンサルティング理論の枠組で本書は記述がされていますが、対人支援職全般に通じる職業倫理であり、マネジメントや顧客接点全般にも重要な営みであるように感じました。実践を理論を通して振り返るという営みの重要性を再認識できてよかったです。

 

以上となります!

■要約≪道徳感情論(下)≫

今回はアダム・スミス氏著の「道徳感情論」を要約していきます。「国富論」で有名な氏のもう一つの代表作であり、タイトルの通り人間が抱く道徳感情に関して論じた哲学分野の本となります。キリスト教的な人間観と国富論で論を展開されるような合理的かつ論理的な描写が混ざった氏独特の表現・論展開がポイントです。本書は600ページ超の超大作となり、2回に分けて要約します。後編の今回は第四編~第七編を要約します。

 

「道徳感情論」

預言者失格?アダム・スミス | 高橋医院

■ジャンル:哲学

■読破難易度:中(文章量が多く、1文1文が長く独特の読みづらさがあるので、一部抵抗がある人もいるかもしれません。主題と主張は明快で繰り返し主張されるため、論旨はとらえやすいです。)

■対象者:・アダム・スミスの思想について深く理解したい方

     ・人間の集団心理や他人に対して抱く感情のメカニズムを理解したい方

     ・人間らしさについて考えを深めたい方

 

≪参考文献≫

国富論

■要約≪国富論 第一編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第二編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第三編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第四編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第五編前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国富論 第五編後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪前編の要約は下記≫

■要約≪道徳感情論(前編)≫ - 雑感

 

【要約】

■道徳的な是認や否認という感情に対する慣習や流行の影響について

・美醜の感覚は慣習と流行の掛け合わせであり、本質的には様式美やバランス以外は存在せず、文化文明によりけりなのです。衣装や家具の流行は移り変わりがあり、芸術は数十年単位でしか変動しないとされます。様式・形式の体系があり、それに即したものがもれなく美しいと評価するのが芸術分野全般です。

・恐怖・憎悪・軽蔑といった感情は暴力的な権力や支配・慣習が影響を及ぼすものです。どの階層にいてどのような美徳・倫理観・道徳を持つかで望ましい振る舞いは規定されます。道徳感情の大半は絶対的ではなく、相対比較なのです。どのような振る舞いが美徳とされるかは文化文明によりけりであり、自己統制と友愛どちらが徳として良いとされるかも千差万別です。

 

■美徳の特徴について

・人間が他人を評するのはその人自身や他人への与える影響力を持って評されます。安全・健康・繁栄を追求して快楽を維持するようにするのが人間の自然な振る舞いです。倹約・鍛錬・誠実さや都合が良いように集団に所属し、時に自己統制するのが賢明さです。欲望に飲まれることなく中長期の利害に照らして短期の自己犠牲や抑制を厭わないというのが賢明さの本質です。一貫性や他人の権利を侵害しない行為が誠実さを形成し、これはどのような文明でも一定傾向として見られる振る舞いです。

・正義のための法律や宗教が特定の社会規範となり、道徳となるのは人間社会が成立するための必須条件です。そして、家族や自分自身に対して好き嫌いを理解したり、友愛の意を込めるのは自然なものです。愛情は習慣化された共感であり、血縁関係はこれを促進します。共同体験・単純接触効果が共感を形成し、身分制度や血縁を重んじるヨーロッパの慣習はある種の愛情や共感を阻害する気運にもなります。悲劇や喜劇は人生のお題を論じるものでこれを消費して喜怒哀楽を示すことは想像力のある徳のある行為になります。そして、宗教や法律が道徳を強化する。愛国心は人間愛とは異なる性質の道徳感情です。

・正義と思いやり・自己統制するのは賢明な徳ある人の振る舞いです。恐怖や怒りといった激情を統制することはそれだけで徳ある行為とされます。恐怖の抑制は勇気であり、怒りの抑制は高潔さです。勤勉や倹約などを行うことが相当に自制心を必要とする行為は徳ある人として社会は評価します。倫理観や徳・寛大さとはある種の美意識・プライドであり、自己統制やこうありたいという気持ちを強くもたないと成しえないとされます。

 

■道徳哲学の体系について

・正義はあらゆる社会的な徳を含んでいます。正義とは行為や振る舞いの適合性を指します。徳とは正しい理性に従った中庸的な振る舞いです。人間はメタ認知や共感の精神から道徳的に望ましい行為を推奨する構造の中に生きています。行為の適合性を担保するためには適切な訓練・教育・道徳指針(法律や宗教)が必要であり、それを守ることが良き社会市民であるというインセンティブ制度設計の上の運用の積み重ねが必要になります。自己実現や友愛の精神は道徳を耕すために推奨され、これはそもそも人間が持ち合わせる共感性故に啓発されやすいということです。

不道徳さに対しての違和感や美徳をもつという道徳心が人類が集住し平和や秩序を形成する源になっています。徳は理性や社会性などの複合的な要素です。欲望を統制し、他人の権利や幸福を侵害しない倫理観こそが徳です。凡庸な承認・賞賛は必ずしも有徳さとイコールにならないという人間社会の欲深さや矛盾があります。類似性や尊敬の念は友愛の精神を形成するものです。法は特定の行為を抑制したり、裁きを簡便化するためにあるある種の社会規範・道徳です。宗教や武力など人間は絶対的な権力権威をもつものに支配される脆さを持ちます。

 

【所感】

・アダム・スミスは性善説に立ちながら人間の脆さ・欲深さを直視・葛藤しながら道徳哲学を論じているという姿勢が随所に感じられ非常に印象的でした。キリスト教などの宗教が形成する道徳哲学や法律・倫理などの社会規範、ギリシア哲学(アリストテレス・プラトン)などが古典であり、長らく普遍的な法則は変わらないとして度々引用することが特徴に感じられました。共感性や徳・倫理観など日常生活では面と向かってあまり考えないテーマであるからこそ、本書の文意を読む解くのは大変困難を極めましたが定期的に人生の意味・人間の美徳を考えるということは精神的な豊かさ・熟達の観点で大事と思うのでこうした格闘は忘れないでいきたいと思わされる次第でした。プラトンの「国家」などをもう一度読み返して考えてみようと思います。

 

以上となります!

■要約≪ダイナミック・ケイパビリティの戦略経営論≫

今回は中央経済社出版の「ダイナミック・ケイパビリティの戦略経営論」を要約します。ダイナミック・ケイパビリティとは経営者を筆頭とした企業の環境変化・変革行動の能力を指し、これが競争優位の源泉を指すという学派です。組織の経済学らの系譜に属した理論であり、不確実性と変化スピード著しい現代のビジネス環境の競争戦略を論じる理論的土台にあります。

 

「ダイナミック・ケイパビリティの戦略経営論」

ダイナミック・ケイパビリティの戦略経営論

■ジャンル:経営学

■読破難易度:低(初学者でもわかるように経営学の潮流をおさらいし、かつ豊富な具体例をベースに論が展開されます。)

■対象者:・ダイナミック・ケイパビリティの理解を深めたい方

     ・組織ケイパビリティや企業変革に興味関心のある方

     ・マネジメントやリーダーシップに関わる方全般

 

≪参考文献≫

■市場と企業組織

■要約≪市場と企業組織≫ - 雑感

■組織の経済学

■要約≪組織の経済学 Ⅰ部~Ⅲ部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪組織の経済学 Ⅳ部~Ⅴ部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪組織の経済学 Ⅵ部~Ⅶ部≫ - 雑感

■企業成長の理論

■要約≪企業成長の理論≫ - 雑感

 

【要約】

■ダイナミック・ケイパビリティ論の理論研究

・ダイナミック・ケイパビリティとは経営者の環境変化適応能力を指します。具体的には感知・捕捉・適応の三要素で構成されます。変化著しいビジネス環境においては脅威を感知・機会を再利用する・持続的競争優位を構築する為に、資源や組織・戦略を再編成するという能動的な働きかけが必要です。 企業には様々なルーティンの束があり、その集合体としての組織ケイパビリティと戦略があります。組織構造やインセンティブ制度設計・業務システムなど様々な土台がありますが、それをメンテナンス・必要に応じて環境に働きかけ望ましい方向にデザイン(時にやらないことを決める)というのが経営の妙です。

・競争戦略論は長らくミクロ経済学(新古典派経済学)の系譜にあり、利益最大化・効用最大化かつ情報収集を完全に行える合理的な存在を前提に企業を論じてきました。ゲーム理論やポーターの競争戦略論(ポジショニング学派)などが最たる例です。ポジショニング理論で説明できない企業競争の事象を解明しようと企業内部の資源に着目したペンローズの理論や資源ベース理論のバーニー(VRIO理論)らを経て、コースの「組織の経済学」、ウィリアムソンの取引コスト理論と限定された合理性や制約条件下での組織の意思決定(選好性・実行力)に差分を見出す学派へ変化・進化していきます。

・ダイナミック・ケイパビリティは環境変化適応のための資源再配置・構築するメタ能力を指し、これが組織としてのラーニングアジリティと言えます。その為には経営者が無形資産のマネジメントにコミットすることや学習設計・課題の仕入れと集中を以てトップダウンに推し進めることが必要です。学習された安定的なパターンを構築する構造設計や再構築のケイパビリティが企業の無形資産と言えます。経験の蓄積・知識の明瞭化・知識の成文化がダイナミック・ケイパビリティの構成要素です。認知の枠組み構築や学習のマネジメントがダイナミック・ケイパビリティの神髄です。

 

■ダイナミック・ケイパビリティ論の応用研究

・ダイナミック・ケイパビリティ論は特定の条件下でどのように認識をして行動する科の差分や指針を説明する論にもなります。本書では産業政策や地方創生政策・軍事技術開発・企業の国際戦略などの意思決定事例を読み解く指針として活用されます。詰まる所、外界の環境と内部資源をどう認識して何にレバレッジポイントを置くか(何を捨てる・やらないとするか)の差分は経営組織の認知行動やラーニングアジリティの差分ということでこれがダイナミック・ケイパビリティであるということです。無形資産は生もので定量化しづらく、曖昧さや成果反映にタイムラグを有するということから曖昧さを許容できるかという組織の胆力や視座視界が露骨に出るともされます。

 

■ダイナミック・ケイパビリティ論のミクロ的基礎研究

洞察や探索などのダイナミック・ケイパビリティに働きかける動きこそが現代のマネジメントの最大の役割という風に評されます。変化にどう適応するかは認知の枠組みや学習計画をアップデート・デザインするということです。機会をどう認知し、脅威に対峙するか・力学設計して変化するか、それにより変革や組織成果に責任を持つという動的な振る舞いが現代のビジネス環境の望ましいリーダーです。とはいえ、それを後天的に身に着ける機会や先天的な性質は相当に差分をわけるものです。推測と反芻を通じて自己否定をしながら新たな知を統合する営みということです。新しい問題を発見し構想する批判的構想力が次世代リーダーのポイントであるということです。そして、これを既存のメンタルモデルや評価軸で両輪として持ち合わせるのは相当に難しいことであり、短期的に矛盾を含むということを意味します。

 

【所感】

・経営戦略論の歴史・潮流をおさらいするような構成になっており、非常にマニアックな内容でしたが個人的には大変興味深く読むことが出来ました。企業組織や競争の争点を何と見立てるかの差分や外部環境の変数の差分から動的に論点が変化する中で、その時代のメカニズムを解明しようと理論化した歴史の賜物であるということが良く伺えます。変革リーダーシップやエフェクチュエーション・ラーニングアジリティといった現代のトレンドを体系的に理論化したのがダイナミック・ケイパビリティ論であるということが良く整理して理解できました。

・競争優位を持続させることや争点をどこに見出だすか(主に内部組織の関係性や認知の枠組み・学習能力が現代の論点)が相当に高度になり難しくなっているということも意味するのだと感じました。静的ではなく、動的に競争環境や組織を論じる、不確実性の中で意思決定するということの重要性は増しておりそれは経験により開発される産物でもあるということでしょう。一方で、競争環境が厳しかったり高度化・高速化するビジネス環境でこの能力を開発する機会を勝ち得る・投資するということは相当に難しいという皮肉もあるなと感じた次第です。

 

以上となります!

■要約≪Aligned≫

今回はBruceMcCarthy・MelissaAppel氏共著の「Aligned」を要約していきます。オライリー・ジャパンシリーズの1冊でプロダクト開発におけるステークホルダーとの関係性の築き方の要諦をまとめた小説仕立ての本です。プロダクトマネジメントにおける人マネジメント全般のフレームワークや優先順位の付け方などを網羅的に記述しており、ロードマップや関係性構築などの内容を重点的しており実践的な内容となっております。

 

「Aligned プロダクト開発におけるステークホルダーとの関係性の築き方」

楽天ブックス: Aligned - プロダクト開発におけるステークホルダーとの関係性の築き方 - Bruce McCarthy ...

■ジャンル:開発管理

■読破難易度:低(平易な言葉で記述されており、架空の企業のプロダクトマネージャーのストーリーを追いかける仕立てとなっており読みやすいです。)

■対象者:・プロダクトマネジメント・ピープルマネジメントに従事する方全般

       ・不確実性やステークホルダーマネジメントの技法を深めたい方

       ・合意形成・信頼関係構築をスキルとして体得したい方・得意にしたい方

 

≪参考文献≫

■リーダーの作法 ささいなことをていねいに

■要約≪リーダーの作法 ささいなことをていねいに≫ - 雑感

■プロダクトマネージャーのしごと

■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■組織を変える5つの対話

■要約≪組織を変える5つの対話≫ - 雑感

 

【要約】

■プロダクトマネジメントと組織

・プロダクトマネジメントはコトに向き合いながら部門横断的なコミュニケーションを通じて、時に人にも働きかけながら良い問題を解く・変革を推進することで顧客価値とビジネス成果を高める総合格闘技です。プロダクトマネジメントにおいてはレポートラインと異なる目に見えない力関係を行使する非公式の組織が存在するものです。職能別の組織の関心毎を調停して優先順位付けする、折衝しておれたり優先度高く働きかけるなどのバランス・パワーゲームが必要です。

・目に見えない影響力はプロダクトマネジメントのような組織間連携や戦略ありきの仕事においては馬鹿にならず、メンテナンスをしてステークホルダーの関心に叶うようにコミュニケーションを図っていく(先回りしてこちらから働きかけるが理想)のが望ましいです。シニアステークホルダーが何に責任を負っており、どのような関心毎や優先順位であるかは直接本人から明示してもらえることは少なく、何に支配されている・関心があるかはこちらから率直に会話をしていく、関係性をメンテナンスすることが必要になります。

・意思決定の文化は会社の特質やフェーズにより何が最適かは異なり、複数のやり方を効果的に用いることで組織成果やビジネス戦略に叶うように繋げることが間を橋渡しするマネジメントの組織成果の要諦です。意思決定の文化は指示型・参加型・民主型・コンセンサス型の4つがあるとされます。意思決定の基準と担い手を誰とするかを決めるのが大事なマネジメントの振る舞いであり、ケアしたり自発的にアクセスすることが差分を生みます。意思決定の文化において考慮すべきポイントは誰が推進者・承認者・貢献者・通知対象者であるか?ということにあります。説明責任はレポート先を明確にすることと、貢献・意見出しはしても意思決定の権限は渡さないなどの整理も重要です。

 

■ステークホルダーとの関係構築の技法

ステークホルダーディスカバリーインタビューはプロダクトマネジメントの初期において組織文化や力関係を規定するために行うステップとしてユーザーインタビュー並に大事です。誰と話すかの洗い出し・優先順位付けをしたうえで関係性構築・ドメインやコンテキストの学習のために行うインタビューとなります。自分語りをせず、どれだけ自分が傾聴できるかを示したり、ビジネスの重要な指標や戦略・関心毎を洗い出すという意味において重要です。

・意思決定のスタイルには個人差があり、優先順位付けの中で資源交渉やどのようにやるを勝ち取るかはバカにならないスキルです。人間は親和性バイアスをもち、共通のものを持つ人と関係性を構築しようとします。共通体験や自己開示は結果的に協業を円滑に進めるための重要なプロセスになりうるので、馬鹿にならないとされます。

・利害関係・性質の異なるステークホルダーとの折衝は納期を守る・素早く対応する・透明性ある振る舞い・誠実さを示すなどの積み重ねが必要であり、目に見えない影響力を発揮するためのコストを払うことを厭わない姿勢が必要です。依頼が来るとは出来るという信頼があるからであり、そうでない場合はシニアステークホルダーに直接連絡が入ります。ステークホルダーの言語で話すこと・各論の確実なデリバリーではなく、不確実性を許容して構造と戦略的な対話につとめることが信頼を勝ち取るために必要です。究極的にはその意思決定のテーブルにおいて意味ある人材と認定されるかどうかというレベルの差分にもなります。

 

【所感】

・ビジョンやロードマップを基に優先順位付け・合意形成をしていく類のタフミッションを持っている場合はプロダクトマネージャーでなくとも本書記載の内容を参考にした振る舞いが求められる場面というのは多数存在するように感じます。個人的には物量をこなしていく中で一定の成果になることから(組織の重力力学も半端ない)、型化や系パビリティ/ベロシティ向上にばかり目を向け、解くべきお題の取捨選択ややらないを決める合意形成・折衝が磨かれない/軽視されるという場面は多くの組織や職階で存在するように思えます。良い問題を解くことやコンテキスト・戦略整合性・資源交渉はラインマネジメントから変革・経営への進化において避けて通れないステップであるように感じます。その意味において本書のケースやフレームは非常に実践的で、自分の業務スタイルや実務の内省の題材としても良いように思えます。

・コンセンサスをとり、ビジネス成果にヒットするようにベクトルや優先順位付けを整理していく・ステークホルダーのビジネス上の成功にも寄与するようにアウトプット・アウトカムを仕立てるという想像力や気配りは部門横断型組織を率いて成果を出すための必須条件であると感じており、これは様々な経験や視点・観察・洞察をできるかというある種の経験と先天的な要素が併存するものだよなと再認識させられました。

・プロダクトマネジメントは営業以上に資源に限りがある中で無限にアジェンダがある中での優先順位付けや何にフォーカスする科の意思決定を研ぎ澄ます仕事であり、利害関係の異なるステークホルダー折衝が高度に求められかつ仮説検証的にUXデザインをしながら論点が動的に動くという性質がある為、このようなフレームワークが必要になるということでもあるよなと感じました。本書はフレームとしての目新しさ・斬新さがある内容は少ないものの、非常に実践的かつ具体的であり仕事の棚卸としてもとても良い題材が揃っているなと感じた次第です。

 

以上となります!

 

 

 

■要約≪皇帝フリードリッヒ二世の生涯(上)≫

今回は塩野七生氏著の「皇帝フリードリッヒ二世の生涯」上巻を要約します。フリードリッヒ二世は神聖ローマ帝国の皇帝シチリア王国の王を務めました。第六回十字軍を率い、中央集権型の法治国家を志向するなどの偉業を重ね当時としては極めて先進的な考えをもったリベラルアーツに満ちた皇帝とされます。上巻は生い立ちから43歳で第二次ロンバルディア戦役を経て北部イタリアを制圧するまでの変遷を辿る内容となります。

 

「皇帝フリードリッヒ二世の生涯(上)」

【完結済】皇帝フリードリッヒ二世の生涯 (新潮文庫) - 塩野七生 - 無料漫画・試し読み!電子書籍通販 ebookjapan

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低~中(平易な言葉で記述されていますが、中世ヨーロッパの前知識や土地勘がわからないと置いてきぼりになる場面もあるかもしれません)

■対象者:・中世ヨーロッパ社会の理解を深めたい方

     ・ルネサンス・法治国家について興味関心がある方

     ・神聖ローマ皇帝に興味関心がある方

 

≪参考文献≫

■十字軍物語4

■要約≪十字軍物語4≫ - 雑感

 

【要約】

■フリードリッヒ二世の生い立ち

・フリードリッヒ二世は神聖ローマ皇帝ハインリッヒとノルマン王朝でシチリア王国の王女であるコスタンツァの息子として生まれました。フリードリッヒが3歳の時に突然父は死亡し、その後母コスタンツァも失ったことで、ローマ法王インノケンティウス三世を後見人として3歳の若さでシチリア王に即位します。フリードリッヒ二世はサラセン人とノルマン王朝のキリスト教勢力が併存するシチリア島という空間で独学に勤しむ生い立ちをしたことで、結果的にキリスト教の教義に忠実ではないルネサンス的な皇帝になります。フリードリッヒ二世はラテン語・フランス語・イタリア語・ドイツ語・ギリシア語・アラビア語を嗜み、庶民と接しドイツとイタリアという2つの統治思想の影響を受けて育つことで高度なリベラルアーツに勤しむこととなりました。

・フリードリッヒ二世は14歳でコスタンツァというスペインアラゴン家の王女と結婚します。インノケンティウス三世と結託し、神聖ローマ皇帝のザクセン公であるオットーを退け、20歳の時にシチリア王と神聖ローマ皇帝を兼務することとなります。パレルモ大司教べラルドチュートン騎士団団長ヘルマンがフリードリッヒ二世の側近として、以後の歴史の活躍を下支えすることとなります。

・フリードリッヒ二世はドイツの統治を息子のハインリッヒをドイツ王にすることで委ね、南イタリアとシチリア島の中央集権化を推し進めます。ボローニャ大学の法学の権威であるロフレド・エピフォーニオと面会し、封建制から君主制に移行するための法整備と君主を支える官僚制の高度化を試行します。フリードリッヒ二世はナポリにナポリ大学を作り、官僚育成・法学・医学の発達に勤めました。当時としては斬新な奨学金や学生会館を整備して優秀な学生を引き寄せたとされます。

 

■無血十字軍

・フリードリッヒ二世の家系はヨーロッパの王国の例にもれず、十字軍が家業でした。フリードリッヒ二世自身はシチリア島でイスラム勢力と共存して育ってきた価値観を有し、中東におけるこの時代のイスラム勢力は穏健派のアル・カミールということもあり、外交による十字軍の可能性を模索します。フリードリッヒ二世は権威付けのためにイェルサレム王国の王女ヨランダと再婚だけ行った上で、軍を前面に出した十字軍を展開するのではなく水面下での交渉(外交によるイェルサレム奪還)を長らく推し進めました。こうした経緯もあり、強権派であるローマ法王グレゴリウス九世の手により、十字軍の意欲不十分ということでフリードリッヒ二世は二度も破門させられます。

・そんなこともお構いなしにガザやヤッファでフリードリッヒ二世とアル・カミール(ファラディン)の交渉が水面下でチェスを交えて長期戦を展開します。最終的にフリードリッヒ二世とアル・カミールは講和を結び、イェルサレム解放・捕虜の交換・10年の休戦協定という共存の道が実現されました。十字軍の思想に忠実なイェルサレム司教や聖堂騎士団・ローマ法王からこの結果は大反対を受けました。フリードリッヒ二世は破門となっていたので、チュートン騎士団団長ヘルマンが講和を結んだという形で展開されます。リチャード一世・サラディンで成立したイェルサレムのイスラムキリスト共存路線はアル・カミール・フリードリッヒ二世路線でも続き、遂にイェルサレムはキリスト教陣営の手元に戻ってきました。イェルサレムをキリスト教陣営に渡したほうが十字軍組成リスクが低くなり、結果的に楽・得をするというのがアル・カミールが導きだした結論でした。その後チュートン騎士団団長ヘルマンの計らいにより、ローマ法王グレゴリウス9世とフリードリッヒ二世は仲直りをして破門解除に至ります。イスラム陣営との平和路線は20年続き、アル・カミールやファラディンが死亡し、ルイ9世が第七次十字軍でエジプトに攻め入るまで続きました。

 

■法治国家・ロンバルディア戦役

・十字軍を終え、フリードリッヒ二世はユスティニアヌス大帝の時の「ローマ法大全」以来の偉業となる「メルフィ憲章」による法治国家の道を目指しました。これは神の代理人として法王があり、その法王の任命により皇帝や王が現世を統治するという中世ヨーロッパの世界観としては衝撃的な構想で、宗教改革以前に政教分離を明示した革命的な皇帝であり200年後に展開されるルネサンスの基礎を築いたとされます。フリードリッヒ二世はシチリア王国の統治機構を司教・封建諸侯の代表と建設大臣・海軍大臣・陸軍大臣・財政経済大臣・司法大臣・内務大臣・官房長官らによる閣議決定をするという形にしました。封建諸侯や聖職者から権限をはく奪して法による司法的な判断をするということを最も重んじました。医師・薬剤師・裁判官・検事・弁護人を専門職として組成させました。

・南イタリアとシチリア島の法治国家化を済ませたフリードリッヒ二世は神聖ローマ帝国領の北部イタリアの支配強化に乗り出します。北部イタリアのロンバルディア同盟は独立自治を望むとしてフリードリッヒ一世の時代から神聖ローマ帝国に対抗を重ねてきた歴史を持ちます。コムーネと呼ばれる自治都市はローマ帝国崩壊以後、北方蛮族と対峙して生き延びてきた変遷があり自治の文化が強かったとされます。

・1236年にロンバルディア同盟とローマ法王庁は結託している中で、フリードリッヒ率いる神聖ローマ帝国軍は第一次ロンバルディア戦役を繰り広げることとなります。これは北部イタリアが主張する地方分権を認めず、フリードリッヒ二世がシチリア王国で展開する中央集権国家を志向する故のことでした。ローマ法王としては北部イタリアを神聖ローマ帝国に抑えられると南イタリアとで挟み撃ちになるので、避けたかったとされます。フリードリッヒ二世はドイツの騎兵とサラセン人の弓兵らの大軍を率いて武力行使と外交による交渉を並行しながら、ロンバルディア同盟を攻略していきます。結果的に1237年、フリードリッヒ二世が43歳の時にロンバルディア同盟は降伏・解体になり、北部イタリアは神聖ローマ皇帝の勢力図に組み込まれました。

 

【所感】

・生い立ちの特殊さと本人の好奇心・合理主義が幸いして、中世ヨーロッパでは到底考えられないような思想をもった皇帝としてフリードリッヒ二世はあったということが伺えます。相当に特殊だったのでしょう。両親から名家の血筋を受け継ぎ、インノケンティウス三世というスポンサー、圧倒的に優秀な忠誠心溢れる側近であるパレルモ大司教べラルドとチュートン騎士団団長ヘルマンとあらゆる条件を兼ね備えてもいるという奇跡が偉業を残したのだと考えられます。近代国家以後の世界の歴史を理解しているからこそ、フリードリッヒ二世の思想は非常に研ぎ澄まされ納得感のあるものとわかるものの当代の人としては相当に理解しづらい考えだったことが伺えます。

・神聖ローマ帝国の複雑な国・地域の事情や北部イタリアの独特の性質・歴史などはあまりフォーカスされない内容であるため、非常に興味深い内容でした。十字軍だけでも相当に込み入っているもののこうした複雑性をも処理・解決してしまうので、フリードリッヒ二世はシンプルに問題解決能力とリーダーシップが高いのだろうと再認識させられました。

 

以上となります!