今回はB・J・パインⅡとJ・H・ギルモア共著の[新訳]経験経済を要約していきます。2005年に書かれた本で、モノで溢れる時代において、機能的価値だけでなく体験価値・経験をデザインしていくことがビジネスの急所であるという論を展開する本です。本書で展開される論はマス・カスタマイゼーションやUXデザインの先駆けとなる考え方であり、テクノロジーの発展によりソフトウェアプロダクト市場が急拡大したこと・オンラインとオフラインの融合が容易になったことで経験経済は2010年代以降一気に加速していきました。
「[新訳]経験経済」
■ジャンル:企業経営・マーケティング
■読破難易度:低(前提知識不要で豊富な製品や企業の事例を基に論が展開されます。意識高い論調が続く為、読みづらさを感じる人は一定数いるかもしれません。)
■対象者:・現代の潮流であるマーケティング理論の理解を深めたい方
・UXデザインの必要性について理解を深めたい方
・サービス・ソリューションに関する体系だった理論を学びたい方
≪参考文献≫
■UXデザインの教科書
■要約≪UXデザインの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪UXデザインの教科書 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART1≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART2≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART3≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART4≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART5≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART6≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART7≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART8≫ - 雑感 (hatenablog.com)
【要約】
■経験経済到来の必然性
・モノで溢れる時代においては大量生産方式によるコスト優位やニッチセグメントを探索する差別化戦略といった従来の製品市場戦略単独では思うように成果を上げることが出来ない局面が到来しました。機能的価値のみでは顧客の需要を喚起することが出来ず、利用体験や意味報酬などにヒットするような製品・サービス提供プロセスの磨きこみが欠かせなくなるのはコト消費の流れから必然でした。
・経験経済においてはユーザー体験を構成する意味・効果的な情報伝達導線の設計が付加価値の源泉となり、UXデザインは顧客価値を効果的に届けるマネタイズポイントを司る中核として着目されるようになっていきました。利用目的や体験価値を深く理解し、特定セグメントへ狙って価値提供することがビジネスの急所になる以上、「顧客セグメンテーション」と「ユーザーストーリーへの深い理解・共感」が重要事項になるのでした。
■経験を狙って提供するには
・製品やサービスが機能面だけではコモディティ化する社会において、意味という側面で差別化を志向する中で体験価値にスポットライトがあたるようになりました。体験価値(経験)を形成する要素として、本書では美的・脱日常・娯楽・教育の4つが抑えるべきポイントとして記述されています。その上で、顧客毎に抱える課題や目標、認知の枠組みであるメンタルモデルが違うことを前提にして、「どのセグメントを深耕していくのか」・「それはなぜ自社・●●(製品・サービス名)が担うのか」といった戦略・意思決定は事業開発の急所になるのでしたこれらを体系化したのが現代のプロダクトマネジメントの技法やフレームワーク(例:ロードマップ)と言っても過言ではありません。
・大量生産とカスタマイゼーションの両立が経験経済におけるサービスマネジメントのポイントになります。尚、顧客満足は「当初想定と実態の差分」で形成され、マイナスは顧客我慢を生み出します。「顧客とのタッチポイントにおける顧客我慢・顧客満足の基準を定義し、測定できるようにする」・「我慢・満足の基準を言語化する」などして再現性高く提供する仕組みを構築していくことが経験経済におけるマーケティングマネジメントの基本と言えます。
■経験ビジネスを成功させるための要諦
・本書では経験経済におけるビジネスの7つの原則を下記として推奨しています。
「フラグシップとなる場をつくれ」
「伝統的マーケティングから予算を奪取せよ」
「クリエイティブなアイデアこそが研究開発だ」
「幅広い経験のポートフォリオを用意せよ」
「リアルとバーチャルの経験を融合せよ」
「経験に料金を請求せよ」
「チーフ・エクスペリエンス・オフィサーを雇え」
・意味を消費する世界線において、顧客を変革してその対価として高いビジネス報酬を獲得する・持続的な競争優位が構築される次元で消費され顧客を惹きつける状態を目指すことが要であり、それ専門のマーケティング活動とUXデザインはバカにならないということが示唆されています。
【所感】
・2005年著のマーケティング分野の本ということもあり、さすがに事例や論の目新しさはなかったですが本書の未来予測になるかのような考察は圧巻です。経験経済において重要視される顧客中心主義・人間中心設計などソフトウェアプロダクトを語る上では欠かせない概念や考え方はこうしたマーケティング理論に裏打ちされているという一貫性も再認識できたので良かったです。
・本書然り、「部分的には理解しているが原典から体系だって理論を学ぶということをしてこなかった分野」というのは読むことで別分野の理論やこれまで学んできた当該分野の知識が線で繋がるケースが多く面倒がらず自分の頭を動かし読み解くことを絶やさないようにしたいと気付いた次第でした。
以上となります!