雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 前編≫

 

今回はマーティ・ケーガンの「INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメントを要約していきます。プロダクトマネジメントの鉄板本と名高く、著者はHPやeBayなど様々なテクノロジー企業で活躍した当該分野の第一人者の一人です。本書は内容が盛り沢山の為、2回に分けて要約していきます。前回の今回はPARTⅠ~Ⅲを取り扱います。

 

「INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント

INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント by マーティ・ケーガン · OverDrive: ebooks ...

■ジャンル:開発管理・IT・経営

■読破難易度:低~中(プロダクト関連職種初学者でもわかるように記述されており、入門書としてもおすすめです。)

■対象者:・プロダクトマネージャー・事業責任者を志す方全般

     ・UX・マーケティング分野で優れた成果を上げたい方

     ・新規事業・イノベーションの原理原則に興味関心のある方

 

≪参考文献≫

プロダクトマネジメント

■要約≪プロダクトマネジメント≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■プロダクトマネージャーのしごと

■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)

プロダクトマネジメントのすべて

■要約≪プロダクトマネジメントのすべて 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪プロダクトマネジメントのすべて(後編)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■プロダクトマネージャーについて

・プロダクトマネージャーはマーケティング部門に所属しながらセールス・エンジニアリング・デザインなどに対しても造詣がありながら関係者をやり繰りして「プロダクトビジョンの実現」と「ロードマップの推進」に責任を持ちアウトカムをもたらすことがミッションです。「顧客に愛される製品をつくり、ペインを解きユーザーの課題解決・ゲインをもたらすものであることに腐心すること」がプロダクトマネージャーの何よりも大切なスタンスとされます。

顧客が抱える課題を解決しながらビジネスニーズを満たす道を模索し、責任を持つのがプロダクトマネージャーです。膨大な責任と仕事量をこなすのが基本的で、平均で週60時間近く労働しているのが基本とされます。デザイナーやエンジニアからのピボットがIT業界のプロダクトマネージャーとしては多く、CEOが兼務しているケースも多いです。オンラインとオフラインの融合を通じて顧客体験価値をデザインし、LTV最大化と顧客課題解決を両立するのがITプロダクトマネージャーの基本的に目指すゴールとなります。こうした性質故に、プロダクトマネージャーは事業責任者やCEOを目指す上での登竜門とされます。

 

■プロダクトマネージャーに必要な能力・経験・マインドセットについて

・プロダクトマネージャーは性質的に非常に過酷な役割であり、プロジェクトマネージャーやビジネスアナリストとは似て非なるものです。「ビジネスセンス」・「主要な幹部との信頼関係」・「顧客に対する知識」・「製品に対する情熱」・「製品開発チームとの関係性」などがないとなしえない役割とされます。全てのビジネスは顧客に依存しており、顧客が誰でどんな問題を解決するかのプロダクトの方向性を決めることがプロダクトマネージャーの最大の役割です。ステークホルダーを会議室に招き、意思決定をして進めていく委員会形式のプロダクト組織運営をしているロードマップ管理者はご法度とされます。上記の仕事の性質故にドメインの圧倒的な理解(顧客の仕事の進め方・購買プロセス・行動や心理の変遷など)と知識・経験に立脚した筋の良い打ち手仮説を設定し続けることが欠かせないスキルセットとされます。

・また、プロダクトマネージャーは知的好奇心があり、新しい技術や知識に常にキャッチアップし続ける頭の良さが明確に求められる役割でもあります。加えて、プロダクトの方向性を決める為にステークホルダーとのコンフリクトを恐れず説得・合意形成し続ける精神的な粘り強さも必要といった具合に総合格闘技の要素が強いとされます。

※尚、上記ミッションを部下や人事権を持たない非公式な力でステークホルダーに働きかけるという制約条件つきで進めるという難しさがついてまわります。

プロダクトマネジメントにおいてはコンピューターサイエンス経済学経営学の造詣を持つ人が多いですが、「人間の問題を解決しビジョンを形成する」というその性質故に芸術哲学歴史政治に明るい人が偉大なプロダクトマネージャーに多い要件のようです。これはユーザーの課題や行動・心理・制約条件に関する深い洞察力に紐づく学問領域だからと考えられます。偉大なプロダクトマネージャーは「我々の顧客は誰でどんな問題を解決しているのか?」・「それを自社がやらないといけないのはなぜか?」という問いに対して絶対的な解をおけるように考え、行動し続けることを徹底しているとされます。

 

■製品開発チームのマネジメントについて

・製品ロードマップはシニアステークホルダーの関心毎に翻弄される運命にあり、具合が悪いことにロードマップで掲げたことの半分程度は実現されません。というのも「価値の欠如」・「ユーザビリティの欠如」・「実現可能性の欠如」など様々な制約条件が計画と実績で乖離しうる宿命にあるからです。「アウトプットではなくアウトカム志向であれ」というのが製品開発組織のあるべき組織風土になります。そして、それを下支えするマネジメントシステムがOKR(Objectives and Key Results)ということになる※OKRは目標は定性的であり、主要な結果は定量的に客観指標であることが導入・運用の鉄板原則とされます。

・プロダクトビジョンは熱狂的なものでなくてはならず、組織目的や何を目指しているのかの道しるべとなります。プロダクトビジョンをステークホルダーと合意形成して日々のコミュニケーションでも徹底することが優れたプロダクト開発の原理原則であり、狂ったような宗教的なチームが理想とされます。そして、それは機能開発に終始するビルドトラップが上記を軽視している状態の象徴と言えるのです。ディテールの作りこみは柔軟にピボットしてもいいですが、プロダクトビジョンを朝礼暮改するというのはプロダクトマネジメントが稚拙な状態と言わざるを得ないと本書では記述されます。

プロダクトマネジメントにおいてはユーザーストーリだけでなく、プロトタイプを作ることや顧客インサイトや成果を惜しみなく共有し続けて間接的にビジョン浸透を徹底することが欠かせません。「傭兵ではなく伝道師たれ」というのはわかりやすいプロダクトマネジメントチームの原理原則です。純粋にプロダクトチームと長い時間を過ごすことやUXデザインマーケティングに明るくあることが不可欠であり、「プロダクトビジョンの体現」と「ビジネスとしての採算・成長性を描くこと」も責任範囲であり、極めて範囲が多岐にわたるものです。

 

【所感】

・当該分野の先駆者として名高い本ということもあり非常にわかりやすく網羅的かつ体系的に記述されており、読みやすいです。プロダクトマネージャーというと、エンジニアリングの造詣が重要なようにイメージされますが、本書ではエンジニアリングと同じくらいUXやマーケティングが大事であり、ドメイン知識やプロダクトマネジメントの経験の場数も大切と記述されています。なので、マーケティングや販売部門の責任者がピボットする形で事業開発・プロダクトマネジメントのような役割を担うケースが多いのかと非常に納得でした。

・オーナーシップの範囲と課題設定~問題解決の深さが似たような役割を求められる仕事に直近従事する中で、プロダクトマネジメントのお作法は非常に刺激的で勉強になると共に自分の不勉強さと必要な知識・経験の多さにびっくりします。特にUXデザインについては集中して勉強し土地勘をつけていくことが必要ではないかと感じており、近々UXに纏わる勉強を集中的に進めようと考えている次第です。営業やマーケティング・組織マネジメントの経験に通じるものがあり、改めてドメイン知識や顧客接点部門の経験・知識・スキルの応用範囲の広さにはびっくりする次第です。

 

以上となります!