今回は塩野七生氏の「ローマ人の物語」を要約していきます。17は「悪名高き皇帝たち」の一巻です。初代ローマ皇帝亡き後の治世を牽引した二代目ローマ皇帝ティベリウスの紀元14年~37年の動きをまとめた内容となっております。
「ローマ人の物語17」
■ジャンル:世界史・歴史小説
■読破難易度:低(非常によみやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとわかりやすくなります。)
■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方
・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方
≪ローマ人の物語14・15・16(パクス・ロマーナ)は下記≫
■要約≪ローマ人の物語14≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪ローマ人の物語15≫ - 雑感 (hatenablog.com)
≪参考文献≫
■ローマ人盛衰原因論
■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)
【要約】
■ティベリウスの統治方針・実施事項概略
・二代目ローマ皇帝ティベリウスはアウグストゥスの遺言を受け、皇帝になります。しかし、その文脈からティベリウスはアウグストゥスの子息であるゲルマニクスの中継ぎということが明確な文脈にある中での皇帝就任となりました。クラウディウス家直系の血筋にある名家のティベリウスにとってこの任用プロセスは大きな屈辱でした。
・ティベリウスの統治方針は神格化された初代ローマ皇帝アウグストゥス路線を維持しながら謙虚な態度を徹底して帝政の基盤を構築するという極めて非凡なものであったとされます。具体的には皇帝への権力集中というメッセージを避けるために、政治要職の選挙を市民集会から元老院に変えて、元老院階級にローマ全軍最高指揮権を付与するなどの権限移譲・皇帝と元老院は対等であるというメッセージを強く打ち出しました。
・ティベリウスは国防対策や適切な人材を重用すること・基準に沿い人材活用するプイロス遵守徹底などの点において、天才的な才能を発揮しました。また、軍事畑出身の強みを活かし、ガリアのローマ化徹底とゲルマン民族戦線・中東防衛ラインの国防を手厚くするといった統治システムを在任中に強化し、ローマ帝国の統治システムを確固たるものに形作った功績があります。
・ティベリウスは在任中にゲルマン民族戦線の平定・待遇改善を求める師団の反乱制定・東方制定(中東諸国対応)などの地味ではあるが重要な問題を次々にこなしました。ローマ帝国は中東の大国パルティアを抑制するための仕組として属州シリアとアルメニア王国との同盟関係があるという構図を構築しており、絶えない諸国の動乱や力関係に対してアウグストゥスの後継者として名高いゲルマニクスを派遣してこの問題を処理しようとしました。遠征の最中、ゲルマニクスは突然の病死を迎えてしまいます。その結果、ローマ皇帝後継者路線はティベリウスの息子ドゥルースス、ゲルマニクスの息子カリグラ(後の三代目ローマ皇帝)などの世代へ移転していくこととなります。
・東方制定以後のティベリウスは後任人材育成の狙いで35歳になるドゥルーススに護民官特権を与えるなどの準備を入念に行っていきますが、ドゥルーススが急死するというトラブルに見舞われます。
・ティベリウスはローマ帝国における帝政を全うに実行しようと考え、アメリカの大統領制に近しいような皇帝と元老院議会の力関係の均衡性・協業意思決定プロセスに重きを置く人物でした。あくまで自身は第一人者であるということに拘りました。しかし、元老院議員の中でも有能な人材は問題解決の為に属州総督に派遣されるという具合で国内の議論は保身や近視眼的な視点の強い名家の元老院議員が中心に議論をリードするという具合になり、徐々に機能不全に陥ってしまいます。この事態にティベリウスは絶望してしまい、急遽ローマ帝国本国を離れ、ナポリの近くに浮かぶカプリ島に引きこもるという事態に発展してしまいます。
【所感】
・ティベリウス以降、ローマ帝国は混乱・崩壊の道を進んでいくということでそのきっかけを作った意味で「悪名高き皇帝たち」の一角として扱われます。ユーモアに欠けるが人選や軍事に明るいなど極めて真面目で真面目過ぎたが故に理想と現実の差に絶望して、後世にとんでもない悪影響をもたらすといった事態に発展したのだろうと感じました。
・元老院議員のスタンス・名家や血筋、後継者の問題は共和政ローマ時代でも見られたことであり、ヨーロッパ史の歴史の中でも手を変え品を変え発生する事象であり人間の根源的な性質なのだろうと考えさせられる内容でした。様々な文化・文明・言語・人種が混在するローマ帝国ではこうした境目を作る風潮は避けて通ることはできず、(アイデンティティの確立や楽をしたいという欲望から)その意味においては人間は長い歴史の中で性質的には大きく変わっていないのだろうと感じました。ティベリウスは地味ですが、非常に優れた才能とシステム構築を徹底したという意味において「悪名高き皇帝」の中でも優れた才能の持ち主という印象を持ちました。
以上となります!