今回は塩野七生氏の「ローマ人の物語」を要約していきます。16は「パクス・ロマーナ」の下巻です。老年となったアウグストゥスの後継者問題・ローマ帝国防衛ライン拡大に向けたゲルマン戦線などを中心に紀元14年にアウグストゥスが死に至るまでのプロセスを記述しています。今回は血筋への強い拘り・指揮官経験・実績の不足といったアウグストゥスの弱点に由来する内容が多いです。
「ローマ人の物語16」
■ジャンル:世界史・歴史小説
■読破難易度:低(非常によみやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとわかりやすくなります。)
■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方
・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方
≪ローマ人の物語11・12(ユリウス・カエサル・ルビコン以後)は下記≫
■要約≪ローマ人の物語11≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪ローマ人の物語12≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪ローマ人の物語13≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪ローマ人の物語14≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪ローマ人の物語15≫ - 雑感 (hatenablog.com)
≪参考文献≫
■ローマ人盛衰原因論
■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)
【要約】
■後継者問題
・57歳を迎えたアウグストゥスは血筋の維持に拘る一方で、条件を満たす後継者の育成に苦戦状態にありました。アウグストゥスは自身の孫であるガイウス・カエサルが15歳になった時に予定執政官になるよう要望を元老院に提出します。また、弟のルキウス・カエサルについても早期から要職に仕向けるよう働きかけ世襲制のような帝政を構築しようとしている思想を明かにしました。その一方で、アウグストゥスの娘ユリアはアウグストゥスの血筋維持方針の為に政略結婚をたらいまわしされる(マルケルス→アグリッパ→ティベリウス)といった具合になり、辟易したユリアはアウグストゥスにより制定されていたみだらな行為を厳しく罰する法により、最終的には財産没収・追放に処されるなどの悲劇が起きました。
・アウグストゥスの期待を背負った自身の孫であるガイウス・カエサル・ルキウス・カエサル兄弟は実績構築の為に、早期より東方問題調停・スペイン遠征などの重役に従事して育成を試みるものの、いずれも突然の病により20代前半にて死亡してしまいます。どうにもこうにもいかなくなり、アウグストゥスとの方針の不一致によりロードス島に隠居していたティベリウス(後の二代目ローマ皇帝)を養子にして政治復帰させる対応を取りました。
■ゲルマン戦線
・カエサルがガリア遠征を経て、ローマ帝国と周辺地域の国境線をライン河に設定して久しい中で、アウグストゥスはゲルマン民族が深い森に潜んでいる東方へ拡大し、エルベ河にすべくゲルマン戦線を指揮していました。主にこの指揮をティベリウスが担当します。当初は東方に攻め入ることに成功し順調に進軍してくのですが、ローマ属領のパンノニアとダルマティアで反乱が勃発します。パンノニアとダルマティアは現在の旧ユーゴスラビア地域であり地形が複雑とされます。
・カエサルはガリア遠征・制圧をする際に現地のガリア民族による統治に重きを置き、徴税や法などの仕組みで間接的に統治・現地文明を尊重するという仕組みでじっくりとローマ化を推し進めました。まして、ゲルマン民族はガリア民族のような高度な文明を持ち合わせておらず、狩猟中心の前時代的な文明度合いといった具合でありました。にも関わらず、まるで属州シリアやアフリカといった高度に文明化され、かつローマ化著しい地域のような官僚的な統治路線をゲルマン戦線に用いたことで反乱因子を招いたとされています。補助兵隊の軍役経験がありローマ市民権を持つ騎士階級にいたゲルマン民族のアルミニウスが中心となり、反乱・蜂起が発生してしまいます。属領統治に従事するクインティリウス・ヴァルス指揮下の軍団三万がやられるなどの悲劇を経て、最終的にティベリウスがゲルマン戦線を完全撤退、防衛ラインをライン河へ後退させる意思決定をするに至ります。
■アウグストゥスの死
・紀元前14年にアウグストゥスは77歳の年齢で死亡します。自身の功績を業績録という文書にまとめ、統治体制の引継ぎを後の二代目ローマ皇帝ティベリウスへ行い死去するという最後まで秩序の構築に奔走しました。アウグストゥスは安定政権の基礎を構築した人であり、何よりも法による意思決定を重んじるという法治国家ローマの基本精神を強く体現した人でした。
【所感】
・血筋への拘り、自身の軍事経験の乏しさという欠点に翻弄されるアウグストゥスの老年期でした。アウグストゥスは長らく感情を抑圧させていたのに対し、「カエサルのガリア制圧と同じレベルの偉業を成そう」という虚栄心にも思える意思決定をしているのは人間の性質が出るなと感じた次第です。
・一方でローマ帝政の基礎を確立し、法律を中心としたシステムによりコトを成しえるという以後200年程度続く繁栄の基礎・近代以降のヨーロッパ社会の国家におけるベストプラクティスを成しえたアウグストゥスの功績はすさまじいものであると考えさせられました。ポンペイウスやカエサルなどのように、「カリスマ性や軍事の才能がなくても適切な時期に自身の強みをテコに適切な役割を発揮すれば偉大な成果を出すことは可能」ということを教えてくれる様でした。
以上となります!