今回も前回に引き続き、経営戦略に関わる本を要約していきたいと思います。
戦略や筋道を描く力が圧倒的に足りていないと感じる現状なので、集中的に同じジャンルを読んでみています。
「企業参謀」
■ジャンル:経営戦略系
■読破難易度:中(ロジカルシンキング・財務会計の知識ないと何のこっちゃ?という内容かもしれないです 事例が豊富で体系的に記述されているので読後感としては頭が物凄く整理されます)
■対象者:戦略に興味関心のある方・企業の収益構造に興味関心のある方・マーケティングやイノベーションの原理原則に明るくなりたい方
【内容】
マッキンゼーの日本支社長を務めた大前研一氏のデビュー作的な著作です。
1970年代に経営戦略はどのように描くのか?という命題に対する解を体系的にかつ実用性加味して記述した本です。
MBAや管理職研修の題材に多く用いられているという本書ですが、30歳からそこらでこの内容をまとめた大前さんすげぇ、、という感想をひたすら抱きながら読みました。
本が書かれた1970年代後半は、日本が高度経済成長期を経て「とにかく大量生産をして国際競争力を構築⇒低成長時代に次の柱・競争優位性⇒戦略不在」でその体制はマズいですよ、俺ならこんな方針立てるけどね!という提言をしている時代的背景があります。最もこの流れを多くの企業が導入して経営企画の設置・多角化戦略等をしてなんとか国際競争力をつけて、日本が経済大国となっていったので世の中に果たした役割は大きいのかなと。(最も現在の日本企業の周落要因も予言的に記載しているのでそこにも畏怖の念を感じます。。)
下記、読みながら気になった項目の抜粋です。
■戦略的思考をする上での便利なツール
①イシューツリー
(要素分解※これはコンピューターの思考体系を借用しているみたいです。)
②プロフィットツリー
(どのように収益を上げるのか?売上・費用などの要素分解をして変動要素はどこかを分析すること・このプロセスにおいてマーケット分析などの競争戦略の理論やPEST分析のようにそもそもの世の中の構造に明るくなる必要が出てきます。)
⇒マーケティングが強い会社は構造化・現状分析を常日頃から行っており、都度都度必要な情報収集をすればそのフレームワークに当てはめて把握できる仕組みを作りきっており、変化への対応が強いようです。
■経営方針が事業の方針を決める
「売上第一」・「利益重視」・「資本の有効活用」等の方針により必要な資本量とリスクの大きさなどは異なる。
いい経営をできているかどうかは資本をどれだけ有効に回転させているか(機会を創出しているのか)に起因するところがあり、分解していくと「固定資産をどのように活用しているか・流動資産をどのように活用しているのかという尺度」×「売上をどのように立てていて、コスト構造はどのようになっているか」を分解すれば抽出することが出来るという話です。
ROIのような経営指標を置くことにより会社の健全性・状態を可視化できるようにすることで経営は効果的になるということです。
■内製・外販の関係性
マーケットシェアが高い事業であればあるほど企業は内製する傾向にありシェアが小さかったり儲けが少ない時に外販をしたりアウトソースする傾向にあるといえる。中規模事業が多角化することは何も旨味も取り柄もなくてどうしようもない会社になる可能性が高い。マーケットシェアが高ければ利益率が高まったりその資金をもとに新しい投資が出来るもののそれができないしましてや規模が小さい場合、コストがあまりかからないから収益性が高い可能性もある。
■中期経営計画
【前提】仮定を何らかのマーケットデータ等から明確化しておくことが急所となる。
あるべき姿を策定した後にはそのギャップを埋める為に①コスト構造を分析、コストカットできる項目はないかの確認(間接費・支払・決済条件・購買業務・手法など)②市場・販売ケースの改善(売り方を変えて効果的に利益を出せないか?を考える)のプロセスを経て基礎準備が整う。
【基本原理】「利益増加=コストカット+売上増加(利益率増加)」という基本方針からなる、また選択と集中をする意味においてマーケティング活動はコストカット・利益率増加の両面で効果を発揮する(セグメンテーションと市場・顧客需要の開拓を担うから)。
【戦略原案】■新事業進出■新市場進出■垂直統合■合併・吸収■業務提携■事業分離■撤退・売却など
⇒利益率を高めるか成長速度を外部に買うか需要を創造するかということ
■中期経営計画のプロセス
「あるべき姿の策定」⇒「原価計算でどうにかなる範囲+利益率増加でどうにかなる範囲の抽出」⇒「浮き上がる現状と理想の差を見出し、新事業算出・多角化などの打ち手を洗い出して比較検討」⇒「最適な手法を選択・実行プランを考える」の順
(枝葉の部分は現場管理者でやる)
■PPM
多角化経営のかじ取りの難しい所は事業ごとに製品ライフサイクルや収益構造が異なること、そんな文脈において一つ一つ課題と打ち手をシャープに定める必要があるのが難しさを示す。
⇒採用の文脈・観点で見ると、総合職採用は会社起点に立つと人材の流動性が保ちやすいというメリットを有していた、しかしジョブ型採用にみられる個人の満足度・納得感の醸成により市場・社会から求められる雇用の在り方を提供しないと市場から優秀な人材を調達しにくくなったというのがさらに頭を悩ます問題だなと思います。
【ポートフォリオの組み方】業界の魅力度(将来性や市場規模)×自社の強み(マーケットシェア・ROI・利益率)等を指標に組む
■製品・市場戦略
アンゾフの4つの戦略(市場浸透・新製品開発・新市場開発・多角化)に基づいて理論構築。
製品市場戦略を構築する上での必要手順は下記。
①市場性の動態把握
⇒市場の動向・顧客の山はどこか・何向け用途が多いか※関連する需要を喚起する商材の市場動向も見ないと背中からやられることになるから注意
②内部経済の分析
⇒自社における製品の位置づけ・損益分岐点はどこにあり魅力的なのかどうか等
③競合状態の把握
⇒製品・地域別の競合の強みについて把握、なぜそのような原因・構造になっているかを把握することで自社が攻めの投資をすべきか、収益を回収して撤退すべきかなどのかじ取りが出来るようになる。
④自社の強み・弱み把握
⇒購買者インタビューなどから定量定性両面での強み・弱み・業界でのビジネスの成否を分ける要素を見出すことが肝となる。
⑤KSFと照らし合わせた上で改善機会の抽出・打ち手の実行
⇒これはBP別の現状可視化をして打ち手を決めることが有効、あくまで市場や競合を見て判断・遂行すべしというのがドラッカーやポーターの思想に近い。
⑥改善計画作成
■参謀五戒(戦略的思考をする上での重要事項)
・イフという言葉に対する本質的な恐れをなくせ
・完璧主義はよくない
・KSFを徹底的に追求する志向を止めるな
・できないことから物事を考えるな(枝葉から入るな)
・記憶力に頼るのではなく論理や分析
■戦略的思考グループ
どの国でもブレーンの数というのは一定数に収束する、アメリカにおいては大規模企業だけではなく小規模にも分散するが日本は大規模に群がる。日本は大企業が人を余してしまい、ブルーカラーのような仕事をさせコストだけかかり無能を大量量産しているというのは致し方ない構図だが国策的に危機的なものという警笛。
※これはアメリカが小規模でも優秀な人材を惹きつける付加価値の高い事業を展開している会社・産業がたくさんあるからに思えます。日本においては所詮ネットベンチャーがあるくらいであり、必ずしも優秀な人材プールや秀逸なビジネスモデル・それ相応の待遇を払えるキャッシュを生み出せる力があるのかに起因するのでは?という仮説です。
■低成長時代の経営戦略
◎命題
企業の成り立ちや企業体質が異なる中で画一的な事業戦略の立案・フレームを当てはめて考えることは課題解決に紐づかない。
企業の方針により、PPMにしろ何にしろ優先すべきものは異なるし、変化の激しい時代で常に原点に戻り続けないといけない。
◎方針の抽出
企業の競争戦略は競合との比較により規定されうる部分が多い、即ち「どのBPが優れているのか」や「利益率が良い産業なのか」という競合比較をすることで常に「事業を続けるべきかどうか」・「どのようなかじ取りをすることが経済合理性観点で適切か?」を志向出来る
◎事業部制の罠
事業部の中での温床で育ってきた人にとっては会社全体の視点で決断するということが不足し、それが経営人材の確保の不足になっている。(すなわち事業を拡大させる観点では事業部制は優秀だが、兵隊を育成するに過ぎない、それくらい整備された環境で短期財務を最大化する経験しか詰めなくなっているという。)
■KSFに基づく企業戦略
低成長経済下では不採算事業の収益をカバーするほどの資金的な余裕を持つことは出来ず、うまく行く事業に集中投資せざるを得ない。※本業と全く異なる事業領域に多角化をした際に、なかなかその領域で一定収益は出せても大型のシェアを取れない理由には本業で活かせるKSFが転用できないからというケースが多い。
■KSFの分類
原材料がKSFとなる業界…コーヒー豆などが一例でありその仕入れルートを廉価で効果的に確保することが全ての肝になる。
生産設備がKSFとなる業界…規模の経済が働く鉄鋼やアルミニウム業界などがその一例であり初期投資からの収益回収期間が物凄くかかる特徴有
設計がKSFとなる業界…航空機業界などが一例だが設計プロセスが最も難易度が高いとKSFとなる、一度業界の覇権をとってしまうと、どんどん新製品を打ち出し競合優位性を作っていくことになる。
(この文脈において技術者の育成は非常に難しいし時間はかかるが一度成熟すればそれだけで大きな競争優位となる)
特許がKSFとなる業界…印刷や化学メーカーなどに多いがその技術を生み出すことが出来る会社が市場において非常にすくないという場合。この特許に依存して次の柱を生み出さないとすぐに淘汰されてしまうのは気を付けるべき事象
品揃えがKSFとなる業界…スーパーなどが一例だが網羅的な製品ラインナップを揃えること自体に価値があるという思想。
大きく投資費用がかかり、選択と集中に迫られるときに元々のBP別の強みがないと苦戦を強いられる。
アプリケーションがKSFとなる業界…エレクトロニクス関連業界がまさにその一例であり、80年代くらいにはすでに市場が飽和していた。ハード設計などの技術は大まかに成熟しているため、いかに優れたソフトウェアを作ることができるか=競争優位性になるエレ関連の企業は多い。
販売がKSFとなる業界…全国に網羅をしていることが強みになるケース、自動車メーカーなどはその例であり販売力を維持しながらいかに効率的な事業運営(人件費削減・販管費削減など)を出来るかが肝であり営業マネジャーや管理部門の力が強くなる構造になる。
【所感】
自分の要約メモを抜粋しましたが、ものすごく長大作となってしまいました。。
戦略を立てるとかビジネスをどのように拡大させていくのか・何に着眼するのか?を網羅的に把握・整理できる内容なのでとても勉強になりました。実は2年前にも読んでみたのですが当時はロジカルシンキングと財務会計のスキルが著しく低く理解できず途中で断念をしたので、自分の変化感も感じられる内容でした。
大学の経済学・経営学で学んだ原理原則を実務に落とし込むとこんな感じで行うという模範例のような構成になっていて、3C分析などと合わせて企業を把握するツールとしても優れている内容だなと感じました。
如何に競争優位性を構築し、製品ライフサイクル・企業ライフサイクルを加味して右肩上がりに事業を運営していくか?という命題への答えのように思て、少しでも現場でその戦略を体現・推進できる人材になっていきたいなと思った次第です。
以上です!!
次はしばらく続いた戦略系のものから組織周りやらスキル系の内容の本にシフトしたいと思います!