今回は塩野七生氏の「ローマ人の物語」を要約していきます。9は「ユリウス・カエサル ルビコン以前」の中巻です。ローマ帝国属州スペイン統治にて武功を挙げたカエサルはその勢いのまま第一回三頭政治を司り41歳で執政官に就任し、ガリア遠征を繰り広げる紀元前60~49年までを扱います。
「ローマ人の物語9」
■ジャンル:世界史・歴史小説
■読破難易度:低(非常によみやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとわかりやすくなります。)
■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方
・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方
≪ローマ人の物語6~7(勝者の混迷)は下記≫
■要約≪ローマ人の物語6≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪ローマ人の物語7≫ - 雑感 (hatenablog.com)
≪ローマ人の物語8(ユリウス・カエサル ルビコン以前)は下記≫
■要約≪ローマ人の物語8≫ - 雑感 (hatenablog.com)
≪参考文献≫
■ローマ人盛衰原因論
■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)
【要約】
■壮年前期:スペイン統治~執政官時代(紀元前60~49年)
・カエサルは南部スペインに赴き、属州統治の一環として税制改革を行いました。当初の租税はローマ市民であるか属州現地人であるかに関係なくいい加減な対象に1/10税負担を強いるといった具合でした。カエサルはこれを明確にし、「誰が・いつ・どの程度」といった尺度を法律にて明文化しました。加えて、現在のポルトガルにあたるスペイン西部の統治を推し進めて属領統治の任を終えました。
・この頃、スッラが構築した「共和政(寡頭政治)の維持こそがポイントである」とする元老院派(主勢力は小カトーとキケロ)と東方遠征にて大きな武功を挙げたポンペイウスは均衡関係にあり、利害が一致したポンペイウス・カエサル・クラッススは三者連合を隠密に形成し、カエサルが執政官就任に成功します。
・カエサルは執政官就任以後、急進派というレッテルを覆す為に「元老院議会の議事録を翌日文書にて情報開示する」ということを進めました。ポンペイウスが獲得した東方領土の属国開発促進を推奨したり、元老院議員など国家公務員の規則を制定したりと次々に政治を実行しました。経済発展と元老院議員の特権や硬直的な体制を崩すための打ち手というのが狙いです。その流れでカエサルはグラックス兄弟以来タブー視されていた農地法を成立させ、クラッススおよび騎士階級向けに属州統治に関わる租税を免除する法案成立・ポンペイウス向けにローマの友好国であるエジプトの王位を即位させ、それをポンペイウスの庇護下に置くという領土拡大のようなお膳立てをするなどして三頭政治を確固たるものにしました。カエサルが執政官就任以後は領土拡大とローマ帝国強化の目的を果たす為に、属州ガリア統治の権利を獲得しました。
■壮年前期:ガリア戦役(1年目~5年目)(紀元前60~49年)
・ガリア戦役初年度のカエサルは基盤を構築する為、ローマ本国に三頭政治派の政治勢力を構築することを中心にリソースを割きながらガリア領の周辺民族平定を少しずつ推し進めました。ガリア戦役2年目はゲルマン人とガリア人・ローマ軍が三つ巴の構図の中で、カエサルは現ベルギー・スイス一帯の地域のガリア領土内の民族を平定していく動きを進めました。ライン川以東には大量のゲルマン民族が睨みをきかせるという構図の中でカエサルはバランスを取りながらガリア領の攻略を進めていきます。
・ガリア戦役3年目になるとローマ本国の三頭政治に綻びが出始め、元老院派と三頭政治のパワーバランスは逆転しつつある状態にありました。カエサルはその状態を不味いと判断し、ルビコン川北部のルッカという町でカエサル・クラッスス・ポンペイウスの三者会談ルッカ会談を行い政治結託の再確認をしました。具体的な内容は会談では選挙を冬に延期した上で「クラッスス・ポンペイウスの執政官再選を目指す」というもので、加えて「執政官退任後の属領統治の赴任地を事前に決める」ということも行い、ポンペイウスはスペイン・クラッススはシリアに赴任することで元老院に強い抑止力を働かせる構図を構築しました。ガリア戦役四年目になると執政官をポンペイウス・クラッスス両名が務める盤石の構図となったので、カエサルはガリア戦役に集中することを決めました。具体的にはガリア北東部(現フランス~ドイツの境目)の開拓を推し進め、カエサルは長年の悩みの種であるゲルマン民族の脅威に対処する為に、ライン川に橋をかけて直接攻撃を仕掛けられるような体制を作るという大胆な構想でゲルマン民族を直接叩きました。
・ガリア戦役四年目終わり頃にカエサル率いるローマ軍はブリタニア人(現イギリス)との接触を試み、ガリアと共にローマ帝国内部に組み込む構想を練るようになりました。ガリア戦役五年目はガリア北部(現フランス)~ブリタニア南部(現イギリス)への進軍リベンジに奔走する年となります。少しの均衡が崩れたことを境にガリア領土ではガリア軍による反乱が勃発し、弟キケロとクラッスス息子率いるローマ軍がピンチに陥ります。カエサルが合流しローマ軍7000vsベルギー+ガリア反乱軍60000という圧倒的な兵力差を作戦の妙で切り返し、何とか平定に成功します。その後、カエサルはガリア遠征のスコープをガリア最大勢力の平定およびゲルマン民族掃討に定め、ガリア戦役終盤へ向かっていくこととなります。
・一方、ローマ本土はポンペイウス+クラッススの三頭政治体制に綻びが出て執政官に元老院派が多数を占めるまで盛り返していました。元老院は三頭政治、カエサルを切り崩すためにポンペイウスを元老院派に引き入れようとし、クラッススはパルティア遠征総大将の準備をしている状態です。こうした混沌とした局面でガリア戦役六年目が始まり、下巻(10)に向かいます。
【所感】
・後の西ローマ帝国~フランク王国の基盤を作ることになるガリア領(フランス・オランダ・ベルギー・スイス)とゲルマン民族文明(ドイツ)・ブリタニア人(イギリス)が一気に登場してきて、ポンペイウスが東方遠征にてローマ領土を拡大していることと同じくらいの偉業を成していること、後のヨーロッパ世界の基礎が構築されたことなどがわかり地図を見返しながら読むのが非常に面白い巻でした。
・世界史を学んだ際には無味乾燥に映ったポンペイウス・キケロ・クラッスス・小カトーなどにもスポットライトが当たっており、関心毎や政治的力関係などが浮き彫りになり面白く読むことが出来ました。また、カエサル著のガリア戦記は文章の美しさも相まって名著と名高いのでタイミングを見て読んでみたいと思う次第でした。ローマ人の物語は8~10が「ユリウス・カエサル ルビコン以前」で11~13が「ユリウス・カエサル ルビコン以後」といった具合で多くのリソースを共和制末期およびカエサルに割いていることがわかる著者の特別の思い入れが感じられるパートです。1~7に比べると非常にスローペースで叙述されますが、ヨーロッパ世界のコアが形成されたタイミングですので楽しみながら読み進めたい次第です。
以上となります!