雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪LEAN UX アジャイルなチームによるプロダクト開発≫

 

今回はJeff Gothelf・Josh Seiden共著の「LEAN UX」を要約していきます。Eric Riesシリーズエディタの1冊であり、LEAN UXキャンバスと呼ばれるプロダクト開発におけるフレームワークを用いた効果的な開発手法・コミュニケーションマネジメントについて体系的にまとめた本です。プロダクトマネジメントにおいて顧客価値を定義し、仮説検証を進めながら価値交換システムの機能を高めていく具体的な営みにおいて非常に役立つフレームとして名高く、本書は第三版が出版されています。

 

「LEAN UX アジャイルなチームによるプロダクト開発」

Lean UX 第3版

■ジャンル:開発管理・IT・経営

■読破難易度:中(馴染みがない人にとっては読みづらさがあるかもしれません。バリュープロポジションやビジネスモデルキャンバスに近しい内容となっております。)

■対象者:・事業・プロダクト開発に関わる方全般

     ・効果的に仮説検証を進めていく上で抑えるポイントを体系的に学びたい方

     ・UXデザインとアジャイル開発の橋渡しに興味関心のある方

 

≪参考≫

■リーン顧客開発

■要約≪リーン顧客開発≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■バリュー・プロポジション・デザイン

■要約≪バリュー・プロポジション・デザイン≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■UXデザインの教科書

■要約≪UXデザインの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪UXデザインの教科書 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■LEAN UXとは

・LEAN UXとはリーン・スタートアップ的な思考法でUXデザインを行う行為で、本書はその理論と実践的なフレームワークを体系化した内容となっております。実験計画を立てて、効果的に高速に学習することでビジネスゴールと顧客価値増強にヒットするような開発をしていくことを目指しており、アジャイル開発デザイン思考の概念が随所に盛り込まれています。

・本書の念頭には主にソフトウェア開発があり、製造業の世界と異なり、ソフトウェア開発には要件の完璧さを実現することはかなり難しく、「学習しながら不確実性を解いていく中でピボットしていく」のが基本的な考え方となります。その為にも顧客や課題の解像度を上げてコアを特定しておくことソリューションや課題・ドメインのピボットありきで進められるように整理しておくことなどが優れたプロダクトマネジメントには欠かせません。尚、「仮説検証をしながら不確実性やリスクを取り除いていく工程」をプロダクトディスカバリーと呼びます。

 

■LEAN UX キャンバスを構成する要素について

・プロダクト開発・UXデザイン過程において「何かあった時に立ち返る重要な問いに対する解を記述して一枚絵にしたもの」がLEAN UXキャンバスとなります。具体的にはビジネスプロブレムビジネスの成果ユーザーユーザーの成果とメリットソリューション仮説学習項目MVPと実験計画の8つのボックスです。

・ビジネスプロブレム:「ビジネスが抱えている課題は何か?」という問いに対する解を記述するものです。実装すべき機能開発ではなく、解決しないと行けない顧客および自社ビジネスの課題・どんな状態を目指すのかなどを文書化することがポイントです。「何がスコープの対象で何が対象外とするか」・「ビジネス成果を測るKPIのような定量的な指標を設定すること」なども重要な要素となります。ポイントは「ソリューションありき、決めつけ」にならないように言語化・会話していくこととされます。スコープや戦略に即した適切な課題設定をすることが重要であり、そして「明確に定量的に測定できる」とか「ビジネスアウトカムにヒットすることを見越して逆算的に作りこむ」など判断軸の急所が多数存在します。

・ビジネスの成果:「ソリューション開発によりビジネス課題を解決したと見なすのはどの指標がどの程度になったらか?」という問いに対する解を記述します。具体的なステップとしてはNSMKPIツリーを設定して、「カスタマージャーニーマップがAs is→To beとしてどのように変容するか」を明確に記述することやAARRR(獲得・活性化・継続・収益・紹介)やファネル分析などのフレームワークに忠実に可視化・論点整理をしていくことがポイントとされます。

・ユーザー:「どのタイプの顧客とユーザー(ペルソナ)に集中するべきか?」という問いに対する解を記述します。「どんな社会属性・制約条件を持ち、プロダクト・サービスの利用目的は何か?」ということを言語化し、具体的には事実を把握するためのユーザーインタビューや定量分析をして解像度を高めていき人口統計学的属性・心理学的属性・行動学的属性に関する情報を記述しながらペルソナを定義してく手順を踏みます。「機能的・情緒的何らかの目標を達成したいとしてプロダクトと接点を持つ」という前提で一連のワークフロー・その過程での心理と行動の変遷を記述していくことを怠らないことがポイントとされます。

・ユーザーの成果とメリット:「ユーザーがプロダクトやサービスを雇用する理由・得られるメリットは何か?」という問いに対する解を記述します。ユーザーストーリーによる可視化・論点化を通じてユーザーへの深い共感をプロダクト開発チームが持ち続けるようにすることがプロダクトマネジメントの妙です。往々にして顧客とエンドユーザーが異なるプロダクト・サービスは多数発生するものであり、「双方に対してのビジネス的な利害を果たせるようにソリューション提供方法や価値を作りこまないと成立しないのが留意するべきポイントとされます。

・ソリューション:「ビジネスプロブレムを解決し、顧客のニーズを満たす為に何を作るべきか?」という問いに対する解を記述します。ユーザーペイン・ゲイン・ワークフローにおける制約条件などを言語化・高い解像度を保つという方向に顧客接点や仮説検証を行うのが運用上のポイントとされます。

・仮説:「ユーザーが××な機能を使うことで○○のメリットを得られ△△のビジネス成果を得ることが出来る」という問いに対する解を記述します。「特定の顧客に深く刺さるからプロダクトとして成立する」とした時になぜそのセグメントに刺さるのかというペインや制約条件・価値観を深く理解することが大切になります。機能開発にばかり目をむけることなく、ユーザーの行動が○○に変容したといえる成功条件の定義・測定をするというコミュニケーションを保つことがプロダクトマネジメント・UXデザインプロセスにおける絶対感覚として推奨されます。

・学習項目:インパクト・リスクの大きいものからアジェンダ化して仮説検証していくことが鉄則とされ、「これって本当にいる?」という問いを巡らし、ユーザビリティやスケーラビリティ・技術制約等の軸で判断していくのが基本ステップとされます。

・MVPと実験計画:「次に重要なことを学習する為に必要な最小限の労力は何か?」という問いに対する解を記述します。LEAN UXキャンバスはリーン・スタートアップと異なり、学習することにフォーカスしているMVPであり、「何を学ぶのか?」・「その為にどんなリソースを割くのか?」ということを思考することがポイントです。プロダクト体験の骨格をなす価値や提供方法・プロセスを確かめる為に、「何を学習するか」・「仮説を確かめる為にどんな検証をするか」・「何が得られていると良しとするか」などを定義して実験・学習していくことがMVPの妙です。モックアップやペーパープロトタイプなどイメージが具体的にわくようなものを作り、プロダクト開発チーム内・顧客とコミュニケーションをとっていくのが重要な営みになります。

 

【所感】

・本書は「プロダクトマネジメント ビルドトラップ」のメリッサ・ぺリや「INSPIRED」のマーティ・ケーガン・「リーン・スタートアップ」のエリック・リースなどが本書推薦文を記述していることからも当該分野において、非常に重要な内容であることがわかります。・Why・Whatとなるコアを定めて共通認識がすりあい、プロダクト開発チームの各機能別に分業して一つの方向めがけて進んでいくという状態をデザイン・運用し続けられている状態が如何に大切で難しいかということを考えさせられました。

・顧客価値とビジネス収益にヒットするイシューを射抜けるように仮説検証・顧客接点をとり探索していくこと・フレームワークに忠実に検証することで漏れなくダブりなく効果的に共通認識をプロダクト開発チームで取り持つことが大切であるということを再認識させられる内容でした。

・本書の内容は主にプロダクト開発チームを想定して記述がなされていますが、事業開発・事業企画全般に通じる思考法や問いに溢れており考えさせられる内容でした。「一枚絵にして何かあった時に立ち返られるようにする」・「図示化・可視化・定量化することはバカにならない」・「テーマオーナーでありながら、上位戦略にヒットするようにアウトカムをデザインする」などの重要な嗅覚を再認識させられた次第です。うまく自分の役割に昇華させていきたいと思わせる内容でした。

 

以上となります!