雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪管理会計 第七版 第1部+第2部≫

今回は櫻井通晴氏著の管理会計第七版」を要約します。管理会計分野のバイブルと名高い本で、管理会計の歴史・実務上の論点に言及しながら管理会計の理論を体系的に論じた大作となります。本書は900ページ程度の分厚い書籍であり、3回に分けて要約します。1回目の今回は第1部(管理会計の基礎)と第2部(利益管理のための管理会計)を要約します。

 

管理会計 第七版」

管理会計〔第七版〕 | 櫻井 通晴 |本 | 通販 | Amazon

■ジャンル:会計学

■読破難易度:中(非常に平易な言葉と豊富な図解で記述されており、ビジネスに従事している方には読みやすいです。工業簿記や製造業の知見があると読みやすいかもしれません。ページ数が900と膨大なため、読みきることそのものは大変です。)

■対象者:・管理会計の歴史と理論を体系的に学びたい方

     ・管理会計の理論が実務にどのように活用されるかを理解したい方

     ・事業責任者・事業企画・経営企画・経営管理に従事する方全般

 

≪参考文献≫

経理・財務・経営企画部門のためのFP&A入門

■要約≪経理・財務・経営企画部門のためのFP&A入門≫ - 雑感

 

管理会計・入門

■要約≪管理会計・入門≫ - 雑感

 

【要約】

管理会計の概要

管理会計企業のマネジメント・コントロールを効果的・円滑にするために会計の指標を用いて、計画と実績の差分の分析・パフォーマンスの診断などを通じて企業活動を適正に是正・改善していくツールとしての作用があります。管理会計は企業内部向けのツールであり、情報伝達・意思決定の精度向上などの作用をもたらすものです。管理会計のフレームは経営企画や事業企画が主導で運用することが一般的であり、本社と事業部・部門のコミュニケーション・財務コントロール・意思決定の精度向上などに役立てます。管理会計に従事する人にはMBAなどの専門性機密保持誠実性客観性などの特有のスキルとマインドセットが求められるとされます。

 

管理会計のトレンド

管理会計にもトレンドがあり、1960年代は損益分岐点分析・原価計算・1975年以降は範囲の経済が戦略トレンドになる中で管理会計の世界ではJITTQCなどがトレンドになり、90年代のバブル崩壊以後はBPRABCがトレンドになり、EVAEBITDAなど株主還元の指標重視の傾向が見えるようになりました。2000年代以降は戦略と会計の一体化ということでBSCレベニューマネジメントDXなども類似トレンドとして台頭しました。

予算統制・標準原価計算・ABCなどは企業経営の効率性・効果性などを図るために管理会計が責任を持つ分野とされまs。ABCは製造業の原価計算を情報産業やサービス業にも適応する発想です。日本の20世紀の発展は原価管理をベースにした拡大再生産であったとされ、戦略的意思決定やトランスフォーメーションは乗り越えないといけない経営の論点と評されます。責任管理・利益ベースの資源分配などのコントロール・競争作用を可能にするのが管理会計の指標であり、本社経営陣とスタッフによるモニタリングとコントロールと事業部の市場浸透・組織ケイパビリティUPの役割分担という優れたシステムを可能にしました。売上計画に関してはある程度シミュレーションをすることが容易で、研究開発や新規事業などのプロジェクトは予算や効果試算をして戦略的な整合性やポテンシャル・リーダーシップで取捨選択が最終的にされることが多いです。

 

■中長期経営計画・利益計画・目標管理

利益計画は事業部長+事業企画が提出した原案を経営企画が調整して整備し、FP&Aなどの部門が管理・運用・改善提案していくといった形でコントロール体制を築くことが一般的です。目標利益の設定から収益・費用の目安値が出て、自社の資源やマーケットトレンド・プロダクトトレンドを鑑みて、大アジェンダを設定し、プロジェクト計画~統制しながら定期モニタリング・改善活動を企業全体で役割分担して行うというのが一般的な流れです。BSCはこうした中期経営計画と事業アジェンダ定量定性目標を連動・可視化・整理するための優れたフレームとされます。

目標管理制度(MBOドラッカーにより分権型・階層型組織をマネジメントするための効果的なフレームとして提唱されましたが、部分最適に陥りやすいことや評価の客観性・正当性が見えないといった問題を含んでおり運用が難しい点があるとされます。

 

■予算管理

・予算管理の目的は計画設定と責任の公式化・調整と伝達・統制(動機付けと業績評価)の3つの側面があるとされます。予算の具体的な内訳としては損益予算・資金予算・資本支出予算の3つがあるとされ、それぞれ管理することでお金の流れがどうなっているか・事業や部門の活動の効率性、内訳を理解、改善する働きを持ちます。日本では事業部門の提出した予算の積み上げで管理、評価しようとするボトムアップ型予算の形式が一般的とされ、それは経営管理・事業部の動機付け、適切な評価などの側面からも筋が良いとされます。企業全体の置かれている状況や事業フェーズにより成長性投資効率性どちらに重きを置いて判断するかは別れます。

・予算のミソは利益計画予算編成期間の本社と事業部・部門の綿密なキャッチボールによる戦略浸透・軌道修正にあるとされます。尚、生産計画や在庫管理などの重要性が事業構造として少ない形態においては予算管理は相対的に重要性が薄くなるとされ、サービス業やソフトウェア産業などの場合はコスト管理と売上・事業戦略のレビュー・投資判断という側面が予算担当者には強くなり、FP&Aの要素が強くなります。

 

損益分岐点分析・直接原価計算

損益分岐点分析CVP分析(原価-操業度-利益)の2つは事業や部門の構造を可視化し望ましい水準にて事業や部門がマネジメントされているか・どのように改善管理していくかを対話するためのツールとして非常に重要です。損益分岐点分析は利益構造を可視化してTAMなどと照合し、そもそもの事業や部門の評価をすること・利益計画達成の為にどこに手をいれるか(率や量をいじくる)、そのための施策やプロジェクトを計画~実施するといった管理に繋げていくことが可能になります。固定費・変動費で項目分解することで事業構造や外部環境・内部環境において何が重要項目として考慮すべきかなどが明らかになります。

原価計算望ましいコストライン・利益計画などの示唆をもたらすという意味において古典的な管理会計のツールとして長らく存在してきました。生産性・操業度・要員計画などの経営の重要な意思決定に大きな影響を与えます。原価計算という共通指標を形成することで、複数の事業部や工場・拠点の生産性や収益性・パフォーマンスを真っすぐ判断することが出来、それが投資意思決定などにも影響を与えるものです。直接原価計算は1930年代以降発展して、1980年には応用系としてTOC(制約理論・スループット会計)なども誕生しました。在庫削減・CFの確保・業務費用の削減などは管理会計的な営みを通じて狙う目標になります。原価計算は批判的に検証・活用・進化を続ける中でJIT線形計画法などの経営意思決定の武器として優れたものを生み出す源流を形成したとされます。

 

【所感】

管理会計については大学時代に学んだことがあり、入門書も数冊読んだことがありましたが本書を読んだことで財務会計との抜本的な性質の違い、学問としての歴史・有用性・理論毎の特徴、差分を深く理解できました。実務従事者などにとっては理論と実践を繋ぎ、業務の棚卸にも寄与するような内容なのではないかと感じました。

・間接部門の業務に従事する方がビジネスに貢献するとなった時に、管理会計の指標や考え方を参照しながらアウトプットを出すということは多かれ少なかれみんなやっているものであり、源流を正しく理解するということは重要な営みであると感じました。学問として研ぎ澄まされた理論や考え方に忠実に日々の業務遂行・問いや仮説の設定をするということを徹底できるかで意思決定の精度は向上し続ける、狙って改善できるものなのだろうと感じた次第でした。

 

以上となります!