雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪起業の科学≫

今回は田所雅之氏著の「起業の科学」を要約していきます。シリアルアントレプレナー・VCとして著名な氏自身の経験と様々な業界のベストプラクティスを題材にイデア構想~検証~PMF~グロースするまでのフェーズにおいて何をどう考えていけばいいかを順序立てて体系化した本です。2017年著の本なので、事例やマーケティングチャネルに関して少し古い参照もありますが普遍的な法則や論が豊富に記述されている点が魅力的です。

 

「起業の科学」

起業の科学スタートアップサイエンス : 田所雅之 | HMV&BOOKS online - 9784822259754

■ジャンル:開発管理・UXデザイン・経営学

■読破難易度:中(カタカナや業界用語が多く、当該分野になれていないと気持ち悪さがあるかもしれません)

■対象者:・起業の流れを体得したい方

     ・事業開発・投資に関わる方全般

     ・スタートアップやビジネスモデルの事例について解像度を上げたい方

 

≪参考文献≫

■エフェクチュエーション

■要約≪エフェクチュエーション 前編≫ - 雑感

■要約≪エフェクチュエーション 後編≫ - 雑感

 

キャズムver2

■要約≪キャズムver2≫ - 雑感

 

■LEANUX

■要約≪LEAN UX アジャイルなチームによるプロダクト開発≫ - 雑感

 

■ジョブ理論

■要約≪ジョブ理論≫ - 雑感

 

【要約】

■ステップ①アイデアの検証

・著者はシリアルアントレプレナーであり、VCです。スタートアップの方法論はコンテキストが大事ですが、即した一覧になるバイブルのようなものがないことに課題意識を抱きました。時間や資金制約の中でアイデア検証~実装化を如何にデザインしていくかがスタートアップの成功確率をあげるとされ本書は起業して成功するまでの20ステージを体系化したものでイデア検証→顧客課題検証→ソリューション検証→PMF→スケーリングの5つに大きく大別されます。

・良いアイデアが何かを理解し解決すべき課題を明確にする・自分達がやる意味/意義を見出す・検証プラン策定などが抑えるべきポイントです。HOWから入らない、顧客のメンタルモデルにディープダイブしてビジネスニーズとなる機会・アイデアを探索・観察するが大切な視点です。課題ドリブンでないビジネスアイデアは絶対に顧客受容性やマーケティング/販売競争の問題に直面するのでご法度とされます。課題の質を高めてからソリューションの質を高める、この順番をブラさないことが絶対感覚です。課題から入らずに失敗するのはグーグルやAppleでも陥ることであり、絶対に思考の順番・優先順位をぶらしてはいけないとされます。

・課題を特定するには業界や領域に関する深い知識・経験が必須であり、創業者の感覚・ケイパビリティに成功確率は絶対的に左右されます。また、自分事の問題を取り扱うというのも良いアイデアになるとされます。誰の問題を解決するか?は大切な視点であり、共感と深く理解することと客観的にペインの強さや市場の大きさを見るバランスも求められます。OpenAIで活躍するサム・アルトマンはVCとして圧倒的な実績も持っているようです。ビジョンやミッションの深さにも影響するが、顧客をどれだけ深く理解しているか・市場構造をどれだけ抑えて考え抜いてるかはスタートアップにおいて大事になります。強い原体験が創業のきっかけになるのであれば幅広い経験と経験から洞察することをしていくべきということになります。

 

■ステップ②課題の質を上げる

課題の仮説を構築する・仮説検証のために顧客と対話する・対話を通じて仮説を磨き、フォーカスすべき課題を明確にするの3つが大事な要素です。顧客と課題の解像度を高めることがビジネスとして成立するかのポイントになり、市場規模や競合優位性なども大事になります。

MVPとペルソナを設定して重要仮説を解明していくことに時間を割いていき、現実的にビジネスとして成立する(顧客が存在する)ソリューションを編んでいくのが良いとされます。ソリューションを人間中心・課題中心の視点にすることでソリューション中心・プロダクト中心なHOW先行を避けることがこの思考プロセスで大切です。顧客の関心毎や行動・心理を明確にして、ターゲットを敢えて絞り探索していくことに意味があるとされます。カスタマージャーニーを可視化することでソリューションの効用や効果的なタッチポイントを明確化していくことで、新たな仮説や望ましいプロダクトストーリーを明確化していくことに意味があります。

・ペルソナ・カスタマージャーニーマップ作成後はジャベリンボードで課題仮説の深堀をしていくのがセオリーとされます。カスタマー・課題・ソリューション・前提条件の4つの観点で問いを立てることがポイントです。カスタマーは誰か?・課題は何か?・ソリューションは何か?・前提条件は何か?という4つの観点です。課題仮説を立てる際の前提条件として、どんな制約条件や価値観があるか?ということを洞察・言語化することが大切になります。課題仮説をクリアにするためにその前提条件の仮説を洗い出し、実験するということをしていくことが良い課題設定のためのポイントです。

・課題仮説がクリアになったら、これがビジネスとして成立するか・顧客開拓検討をするためのリーチをして熱狂的な支持者を見つけ価値探索するステップになっていきます。このステップでは既存の解決策を何等か試みて行動している顧客候補にリーチすることが最も望ましいとされます。スポットコンサルサービスやSNSを活用して顧客リーチ・インタビューするのが一般的な流れになります。既存の解決策・どんな不・不満があるか・どこまでの予算を課題解決に用いることが出来るか?ということが問うべき観点です。願望ではなくお金を払ってでも解決したいという行動を射抜くことが大切です。

 

■ステップ③ソリューションの検証

・痛みを感じる課題を特定して、それをビジネスの形で成立させるためにソリューションの在り方を規定していくプロセスです。プロトタイプを実際に見込み顧客にアプローチしてフィードバックを得ることで現実的なソリューションの骨格を作っていくスタイルになります。

課題に対しての解決方法が適切であるかをクリアに仕切ってからソリューションを磨いていくが大切で、その順番を履き違えると不確実性に飲み込まれます。尚化と必須を厳密に判断・優先順位付けして検証・開発していくを徹底することがこの段階では大切になります。UIとUXは密接ですがUXに顧客はお金を払う・プロダクトを雇用するのでUXから考えるが基本原則となります。ペルソナとカスタマージャーニーマップを明確化して、検証論点をカンバンボードにて可視化・優先順位付けしながら案件管理するが良いとされます。

・可視化・対話プロセスを通じて顧客は何に価値を感じるのか?・それはなぜか?を言語化していくことで新たな仮説や論点を明確化していく、顧客インサイトや行動で確からしさを取るというその実行のスピードや構造化が全てになります。お金を払う・価値を規定するのは顧客であるので顧客との継続的な対話によりインサイトを捉えることは大事で、UIやソリューションの骨格を決めるのはこちらの仕事になります。顧客インタビュー・フィードバックを通じて顧客のMustとNice-to-haveを分けて整理してフィーチャー開発の優先順位付けをしていくことでバックログマネジメントしながらビジネス価値を高めるこの営みが何より大切です。

 

■ステップ④人が欲しがるものを作る(PMF

・顧客ニーズの把握と仮説検証が終わった後にはプロダクトをほぼ完成版で世の中にリリースして、ビジネスとしてのポテンシャルを測定するフェーズになります。課題仮説の磨きこみをした上で、MVPを構築するというこの順番が大切です。構築-計測-学習のループを回していくことを通じて仮説検証とビジネス価値を高めることを怠らないのが大切な振る舞いとなります。最低限の機能でそもそも顧客は存在するのか?が重要かつ最初に明らかにしないといけない問いです。

実験毎に何を学んだかを言語化すること検証観点をステータス別に可視化するカンバンボードを用いて事業開発をしていくことが基本的な流れです。実験したいユーザーストーリーを言語化して、何が出来ると良いか・どう判断するかなどの言語化と実験計画を設計して実験するステップが大切です。ユーザーはどんな目的のためにどんな課題を解決したいか・そのためにどんなフィーチャーが必要かということの言語化と仮説設定をして高速で学習をしていくことがポイントになります。

・仮説検証を通じて定性的な評価と定量的な証明を同時並行で行い、MVPの骨格を磨いていくことが良いとされます。本フェーズになるとプロダクトが市場流通してビジネスとして成立していけるか?・そのためにどんな論点を解かないといけないか?などが明確になってくるので、AARRRのフレームで現在地測定・ファネル分析を通じて、重要かつ解き明かさないといけないテーマを明確にしていく、追加検証する・機能開発するにつなげていくことが大事になります。

 

■ステップ⑤スケールするための変革

PMFフェーズになったら経営効率トップラインを引き上げるがアジェンダになり、その結果LTV最大化CPA最小化を狙うことになります。

・この段階で考慮すべきものは顧客一人あたりの採算性を指すユニットエコノミクスであり、ユニットエコノミクスはLTVからCPAを引いたものとされます。ファネルにおけるCVR改善や無料集客経路の構築・集客グロスをどうやって継続的に増やしていくかが論点になります。

・LTVを高めるには既存顧客の解約率や単価に手を入れていくのがセオリーとされます。なぜなら新規顧客獲得コストは既存顧客維持コストの5倍かかるのが一般的であるからです。なので、既存顧客の維持とLTVを高めるために熱狂的な顧客体験・顧客満足に至るストーリーにどんな要素があり、どうすれば狙ってその世界に到達できるかの解像度を高め、施策を施していく(セールス・プロダクトデザイン・オペレーションなどが主な論点)ことがポイントとなります。

・また、CPAを下げるためにネットマーケティング(口コミ・SEO)などのオーガニックの顧客獲得有料顧客獲得施策をどう組み立てて耕していくかというプロダクトマーケティングの戦略を秀逸に組み立てていくことも重要になります。口コミ・知人紹介によるバイラル・ネットワーク効果を構築できるとCPAは劇的に下がるものであり、これはトップラインを引き上げる・LTVを高めることと同じくらい重要です。一般的には本フェーズにおいて改めてプロダクトの利用目的やペルソナ・顧客セグメンテーションを設定して、各セグメント毎に刺さるポイントが何でどんなチャネルを用いて集客すればいいかというGTM戦略を描いていくことになります。

 

【所感】

・2年弱関連領域の書籍を数十冊読み進めてきた自分にとってまさに体系化された全てが詰まった本と感じ、非常に面白く読むことが出来ました。VCや起業家の方などが手元に置いて読み返すバイブルとして名高いのは納得です。各論について掘り下げて言及している書籍や動画などをインプットして理論の理解を深め、一定の実践経験を積んだ上で読み直していくと理解が深まって良い本だと思いました。逆にこれが初見となると、あまり頭に入ってこない人もいるかもしれないなと感じました。

・改めて大事なのは顧客と顧客のジョブの解像度であり、それをビジネスの形で持続的かつ連続的な成長曲線を描く形で価値提供できるか(最後はLTVやCPA・トップラインをどうするの話に立ち返るので)が後続論点になっていくという構造を再認識しました。小さくとも部分的でもいいので当該分野については自分なりに試して体感するということが一番大事だというのが個人的な持論で小さく検証・試していき理論を頭でっかちなものにしないというのが大切だなと感じた次第です。

 

以上となります!