雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪十字軍物語3≫

今回は塩野七生氏の「十字軍物語」を要約します。「ローマ人の物語」・「ギリシア人の物語」と並んで歴史小説三部作の一つであり、4巻構成です。キリスト教の聖地イェルサレム奪還に向けてカトリック教会が掲げた大義名分を掲げた連合軍構想に集いし軍が十字軍です。3は第三次~第五次十字軍の時代を描いており、リチャード1世の獅子奮迅の活躍やヴェネツィア共和国の巧みな交渉の結果のラテン帝国の誕生など第一次・第二次十字軍とは毛色の異なる様相を呈します。

 

「十字軍物語3」

十字軍物語 第3巻/塩野七生 : bookfanプレミアム - 通販 - Yahoo!ショッピング

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:中(周辺地域の力勢力や歴史的変遷を理解できるとより深く楽しむことのできる作品です。内容自体は平易な言葉で書かれている為、読むことは容易です。)

■対象者:・十字軍の歴史について興味関心のある方

     ・中世の世界について理解を深めたい方

     ・キリスト教・イスラム教・中東地域について理解を深めたい方

 

※十字軍物語1・2の要約は下記※

■要約≪十字軍物語1≫ - 雑感

■要約≪十字軍物語2≫ - 雑感

 

≪参考文献≫

ローマ人の物語1・43

■要約≪ローマ人の物語1≫ - 雑感

■要約≪ローマ人の物語43≫ - 雑感

 

■ギリシア人の物語1・4

■要約≪ギリシア人の物語1≫ - 雑感

■要約≪ギリシア人の物語4≫ - 雑感

 

【要約】

■リチャード1世と第三次十字軍

・第三次十字軍はローマ法王クレメンス1世の呼びかけにより組成されます。イギリスからはリチャード1世・フランスからはフィリップ2世・神聖ローマ帝国からはフリードリッヒ1世という王自ら軍を率いて出撃するという華やかな十字軍が組成されます。聖都イェルサレム奪還に向けて、海上都市をキリスト教陣営の手に戻し、ヴェネツィア・ピサ・ジェノヴァらの海軍勢力・海上交易を活かすこと、並びにシリア-エジプト間のイスラム陣営の物流網を絶つことが重要と考え、十字軍は展開されます。

・十字軍は手始めに海上都市ティロスを防衛し、アッコン奪還作戦へシフトします。サラディン率いるイスラム陣営はジハード(聖戦)の大義によりシーア派・スンニ派の対立を超えた軍を組成していましたが、守勢のこの時期にはそうした大義は余り効力を発揮せず、苦戦を強いられます。一方の十字軍陣営はというと、神聖ローマ帝国のフリードリッヒ1世が溺死するという事件により、帝国軍の大半が解散をしたことで一気に兵力を低下させてしまい、フランスのフィリップ2世・イギリスのリチャード1世が合流するまで長期化を余儀なくされます。

・リチャード1世が南下をする中でビザンチン帝国領であったキプロス島を攻略し、供給網を整備し、十字軍陣営に本格参戦する中で潮目は変わります。リチャード1世の圧倒的なリーダーシップと采配が功を奏し、早々にアッコンを奪還すると十字軍陣営はピサやジェノヴァの海上船と連携しながら南下し、次々に海上都市を十字軍陣営に取り戻していくことに成功します。十字軍とサラディン率いるイスラム陣営はアルスーフの戦闘で激突し、病院騎士団・聖堂騎士団が守りを展開しながらリチャード1世自らフロントに出る獅子奮迅の動きをするという動きを展開し、結果的に十字軍陣営が大勝利に終わります。リチャード1世率いる十字軍陣営はアルスーフ・ヤッファと主要海上都市を抑え、エジプトとの連結点である海上都市アスカロンを攻撃する中で有利な状態でサラディン率いるイスラム陣営との講和を取り付けます。リチャード1世はイギリス本国で同じ十字軍に参戦していたフランスのフィリップ二世の策略により、国土を脅かされている事態になっていました。こうした背景もあり、早期戦争終結を望まざるを得なかったこともあり、第二次十字軍よりは領土を拡大するも聖都イェルサレムはイスラム陣営のものは変わらずという形で第三次十字軍は終了します。以後、数十年の休戦・平和な状態へ進みます。

 

■ヴェネツィア共和国と第四次十字軍

・第四次十字軍はローマ法王のインノケンティウス三世が呼びかけることで展開されます。過去の十字軍はローマ法王代理が不在であったことや聖都イェルサレムを奪還していないということで満足いくものではないという言い分です。インノケンティウス三世は十字軍を組成するにあたり、フランスやイギリスは国内の戦争に明け暮れ、神聖ローマ帝国はフリードリッヒ1世亡き後皇帝不在の中、十字軍のリーダーにピサやジェノヴァが海上交易を十字軍国家で行っていることで冷や飯を食う羽目になっているヴェネツィア共和国元首のダンドロに目をつけます。

・第四次十字軍はイスラム陣営を弱体化させるために、聖都イェルサレムを直で目指すのではなくエジプトのカイロを攻略してイスラム勢力を激減させることが狙いになりました。ヴェネツィア共和国はヨーロッパ世界において海軍力で圧倒的でありましたが、十字軍の構想に乗る為の費用や条件を交渉で突き付けてきたことでフランスやローマ法王庁は苦戦を強いられます。折り合いをつけるために、キリスト教陣営であるザーラという港を襲撃してヴェネツィア共和国の通商の自由を確保するために駆り出されたり、途中で出会ったビザンチン皇子アレクシスのお願いにより行き先が同じキリスト教陣営(ギリシア正教ではあるが)のビザンチン帝国の首都コンスタンティノープルに変更になるなどグダグダな様相を呈します。

・結果的に第四次十字軍によるコンスタンティノープル攻略戦は10か月かけて行われ、皇帝・皇子アレクシスらが殺され十字軍陣営が勝利します。その結果、ビザンチン帝国の帝位が空位となり、ラテン帝国への名称変更が発生します。フランドル伯のボードワンがラテン帝国の皇帝に選出されます。以後は60年弱の十字軍国家として実質的にヴェネツィア共和国が蔭で支配をする国家が誕生します。

 

■ローマ法王庁と第五次十字軍

・第五次十字軍はローマ法王庁主導にて、海軍をジェノヴァが供給しエジプトの港町を攻めるという構想で進行します。リチャード1世とサラディンによる休戦協定を経て、平和を長期的に享受していた十字軍国家は軍出動のニーズを持ち合わせていない事態になり、ローマ法王庁の宗教的な美意識や海上都市国家の経済的動機に十字軍は支配されるようになります。ローマ法王代理はペラーヨというスペイン生まれの敬虔な修道士が務めることとなります。

・対するイスラム陣営はアラディールが73歳になり世代交代となり、シーア派スンニ派の対立やシリアのダマスカスとエジプトのカイロどちらを中心にする、スルタン・カリフ対立などがある時代に突入していました。十字軍はジェノヴァ率いる海軍筆頭にエジプトのダミエッタという海上都市を攻撃します。十字軍陣営はイスラム陣営がアラディール亡き後の息子たちによる分割統治の仲違いが功を奏し、効果的に進軍を進めますが、イェルサレム王ブリエンヌと法王代理ペラーヨはどちらが十字軍の指揮をとるかをめぐり対立し、統率がとれない状態が続きます。

・イスラム側からエジプトからの十字軍撤退を条件に十字軍側にイェルサレムを返還する交渉が提示されるものの、この好条件をイェルサレムの司教や法王代理ペラーヨがプロセスの宗教的な意義から反対し、ジェノヴァにとってもエジプトの海上交易を手放すは十字軍によるメリットがないと退け交渉は決裂します。2年の戦いの末にエジプトの戦線基地を獲得することに成功するものの、今度はこれを誰が統治するかでイェルサレム王ブリエンヌと法王代理ペラーヨは対立します。なんとか調停は終わり、防衛軍は神聖ローマ皇帝になるフリードリッヒ二世が到着するまでイェルサレム王が代理統治するという形で着地します。この構想を聞いたイスラム陣営のアル・カミールは危機感を覚え、再度十字軍陣営に講和を持ち込むもののペラーヨの反発により否決されたため、ダムを決壊させることでエジプトの戦線基地を自ら破壊するという動きに出ました。結果的に十字軍陣営はエジプトの戦線において食糧不足に陥りじり貧になり、8年の休戦協定を結んでエジプトを引き上げるという形で第五回十字軍は終わります。

 

【所感】

・第三次~第五次いずれの十字軍も関係者の利害関係が交錯する中での駆け引きや華々しい戦いが続くなど読み応えのある内容でした。中世世界の各国のスタンス・力関係や関心事項がよくわかり、世界史専攻ではなかった自分にとって非常に立体的な学びを得ることのできる内容でした。宗教による思想の支配や統率・海上都市など現代では考えにくいパワー・グループがいることは非常に印象的でした。

・本音と建て前はどの時代にも存在し、極めて人間的なやりとりが続いていくのが十字軍物語前提に通じることであり、人間社会の本質は普遍的であるという意味でもあるのかなと読み進めました。リチャード1世は久しぶりの英雄と言わんばかりの気持ちよさを誇り、ヴェネツィア共和国のしたたかさやローマ法王庁やイスラム陣営の頑強さ・非合理性などはまさにという具合でした。

 

以上となります!