雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪ローマ人の物語1≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。「ローマ人の物語」「ギリシア人の物語」「十字軍物語」などで有名な著者であり、本書は代表作となります。1は「ローマは一日にして成らず」の上下巻の上巻であり、紀元前8世紀~5世紀までのローマ誕生から共和政ローマまでの移行期およびその前時代のギリシア文明に関する言及が中心です。

 

ローマ人の物語1」

古代ローマを楽しく知るために、おすすめする本【目的別で紹介】 | 古代ローマライブラリー

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常に読みやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとよりわかりやすくなります)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方全般

     ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■ローマ黎明期

・ローマはロムルスとその配下のラテン人により紀元前8世紀に建国されました。ロムルス元老院民集という3つの政治機構をまずは構築しました。王は市民選挙による選出という形式を採用しており、この時代の元老院は長老100名により構成され、王に対しての助言機能を果たしていました。ラテン人はみな独身男性であったので異民族の女性を集団略奪する必要に迫られ、サビーニ族から女性を略奪し戦争に勝利して和平を結び自国に取り込むことで集団の基盤を構築しました。

ロムルスが37年の統治の後に急死した後はサビーニ族のヌマが王の座に即位しました。ヌマは農業や牧畜業の振興に力を注ぎ、あまり戦いをしないようにして国の統治基盤を形成しました。建国当初から他民族国家であったこともあり、職能別組織の構築暦の導入などの社会システム整備に奔走しました。ヌマが合計43年の統治をした後は3代目がラテン系ローマ人のトゥルス・ホスティリウス(32年の治世)・4代目がサビーニ族の王アンクス・マルキウス(河に橋をかけ住居面積と防御壁構築に努め、塩田事業を行うなど基盤を構築)・5代目は北イタリア半島の盟主、エトルリアの血を持つタルクィニウス・プリスコ(37年の治世)と続いていきました。タルクィニウスの治世は物凄く秀でていたとされており、具体的には元老院議員の倍増・下水事業の実施・大競技場・神殿などの公共設備建設などを行いました。これを実現する技術は生まれ育ったエトルリアから持ち込むという芸法を見せました。

・タルクィニウスが気に入った奴隷出身のセルヴィウス・トゥリウスは6代目の王として即位します。防衛政策としてローマの7つの丘を囲う城壁建設事業を推進することとなり、更なる国力増強・優位性拡大に寄与したとされます。加えて、軍制の改革納税者=選挙権を有するという政治制度の改革なども行いました。

・セルヴィウスはタルクィニウスの子供に暗殺されることとなり、息子が7代目のローマ王となります。彼の息子セクストゥスは蛮行を行い一家の名誉を損ない、彼ら一族をローマから追い出す機運が高まることになります。タルクィニウスの治世は25年で終わり、約245年続いた王政(紀元前750~509年)は終焉を迎えることになります。これ以後、ローマは共和政へ移行「市民集会により選ばれた2名の執政官により政治が遂行される時代」を迎えます。政治基盤が未熟な時代には中央集権型のトップダウン統治が有効であり、王がいずれも長生きしたことで優れた基盤をローマは構築したとされます。

 

共和政ローマ

ルキウス・ユニウス・ブルータスが王を追放し、共和政開始を宣言しました。市民集会により選ばれた2名の執政官により1年任期で政治を行う体制が始まりました。ブルータスはタルクィニウスの親戚にあたり豊富な情報を持ち合わせながら大局を見て判断が出来たと考察されます。共和政の統治能力を高める為に元老院の権限を強め元老院議員は300名体制に増強しました。ブルータスと双璧をなした執政官ヴァレリウスエトルリアとの戦いを指揮しブルータスなき後の共和政を統治しました。彼の振舞いは贅沢品が多くまるで王政を彷彿するようなところがあったのでローマ市民から疑念を抱かれまいした。こうした中で、懐柔策として様々な法律を制定してローマ市民からの求心力を得て統治体制を安定化することに腐心せざるを得なかったとされます。

・ヴァレリウス・ププリゴラは結局合計6年間の執政官を担うことになり、共和政ローマ初期の基盤構築を牽引しました。塩を国有化して貨幣や産業基盤を形成し、他国からのローマ移民を優遇するなどの政策を用いて基盤を整えようとしました。エトルリアの盟主プロセンナと和平を結び国の治安を安定させた後でヴァレリウス・ププリゴラは死にました。

 

古代ギリシア

ギリシア文明は紀元前2000年にクレタ島から始まったとされます。首都クノッススは紀元前1300年頃に衰退していくことになり、以後はギリシア本島南部のミケーネ文明が牽引していくことになります。彼らの生き様を記述したのがイリアスオデュッセイアです。トロイ遠征などをしていたことで災いし紀元前1200年頃にミケーネ文明は滅び、主役はドーリア民族へシフトします。

ポリスと呼ばれる都市国家が勃興し、ドーリア民族が基盤のスパルタアカイア人(純粋ギリシア人)のアテネが有力ポリスとして台頭していくことになります。ギリシアは紀元前8世紀くらいまでは王政⇒貴族政をしていましたが都市工業に勤しむ中産階級の台頭を受け、民主主義の道に政治体制が変容していきました。ソロンが改革をなした代表的な政治家の1名です。人口調査・資源配分の把握・私有財産制の認可・選挙権の認可など現代風の政治体制を紀元前6世紀に行った凄い人です。

・ソロンが退位した後に多数の有力諸侯が交錯する形になり無政府状態を迎え、僭主ペイシストラトスが台頭することになります。20年の独裁政権では商業や海軍・運輸業強化など国力増強に努めており、平和な時代を迎えていたとされます。その後はクリステネスクレイステネス)が台頭し、区画整備や民集会の権限を強化し民主政の基盤を作るなどした改革を牽引しました。行政機関のような骨組みを構築し、身分制度を緩和するなどして政治システムの構築を急ぎました。独裁リスクを避けるための陶片追放制度を構築したのもこの時です。

ギリシア文明においてアテネと双対をなす有力勢力スパルタは民主政治でなければ独自の強さを誇る文明でした。支配層であった階級と商工業を担い被支配層であったペリオイコイという明確な区分がされた社会でした。ドーリア人が力を占有しており、異民族のペリオイコイは兵役を課せられながら参政権はないといった厳しい統治体制でした。

・紀元前5世紀頃に中東世界を統一したペルシアギリシア文明と戦争をして覇権を争うことになるペルシア戦争が起こります。この時代からバルカン半島は中東(アジア)・ヨーロッパの小競り合いをする地域であったことがわかります。ペルシアは地中海の利権主張・宗教的な優位性という2つの大義名分をもってギリシア文明に戦争を仕掛けることとなります。一枚岩ではないギリシア文明に対して巧妙な外交を仕掛けて、スパルタ・アテネなどの有力ポリスを攻撃していく展開となります。アテネは巧妙な重装歩兵部隊の連携もあってペルシア王国の攻撃を退けることに成功しました。この時代のアテネを率いたのはテミストクレスであり、国庫強化と海軍増強に努めて自国防衛出来る体制を整備しました。ペルシア戦争は最初はペルシア王国が有利に進めましたが、サラミスの海戦を機に形成は逆転し小アジア陸軍はスパルタ・海軍はアテネが率いて侵攻していくことになり、紀元前478年にペルシア王国がバルカン半島から撤退して終結することとなります。

・事後の体制構築としてデロス同盟というギリシア文明全体の同盟を構築することなり、功績からアテネが主導していくことになりました。海軍を中心に軍隊を組成して治安維持に努めましたが、アテネの支配圏が気に入らず後にスパルタデロス同盟を撤退、ペロポネソス同盟を構築することに繋がります。

 

【所感】

・超大作ということで読み始める心理ハードルが高く後回しにしていた本ですが、非常に読みやすく時系列や人物の特徴が際立つように記述されており面白いです。古代ギリシアやローマは馴染みがないこともあり、世界史を勉強した際には年代や用語を丸暗記して凌いだ記憶があったので本書の内容で線で繋がる理解が出来たことは非常に良かったです。

・ヨーロッパ文明を理解する為にはギリシア・ローマ二大文明の構造・変遷を理解することが欠かせないと思っており、近現代の深い理解には周り回って本書のような古代を理解していくことが必要だなと再認識した次第です。理解を整理する意味も込めて都度読んだら要約を投稿していこうと思います。

 

以上となります!