雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪競争の戦略≫Ⅲ部 戦略ディシジョンのタイプ

前回・前々回に続きポーターの競争の戦略Ⅲ部をまとめていきます。

今回でポーターシリーズは終了となります!

ty25148248.hatenablog.com

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Ⅲ部は収益を最大化する為に企業はどのような戦略を取りうることが出来るか・そこにどのような市場原理が働くのかについてまとめられています。Ⅰ部が業界分析・競争原理の基本原則の体系化・Ⅱ部がⅠ部の具体的な事例という棲み分けになっています。

個人的には上場しているメーカーのIR資料等を数社読みながら、この本を読むと戦略策定などの工程にこの本の既存思想が土台になって意思決定がなされているのが伝わるのでおすすめです。

 

「競争の戦略」

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【要約】

ポーターは市場戦略は主に3つだとこの本で著しています。

垂直統合■キャパシティ拡大(生産工程の強化)■新規参入

●14 垂直統合の戦略的分析

垂直統合とは販売や生産などあらゆるビジネスプロセス工程を担う部分を内製することを示す、一気通貫で物事を提供するのか・それとも特定の工程を特定の業者に委託すること(市場にゆだねるか)の違いがあるという。

垂直統合の戦略的な利得① 統合の経済性≫

■共同運営の経済性…規模の経済や生産性向上につながる

■社内の管理と調整の経済性

■情報の経済性(工程統合することで市場の情報が入ってきやすくなる)

■市場を相手にしないことの経済性(取引先選定の工数がなくなるためセールス・マーケティング・広告が関連する工程においては不要になる

 

垂直統合の戦略的な利得② 技術の修得≫

■需給の確保…確実な需給が見込める

垂直統合の勘案事項

・川上・川下統合を果たすということは移動障壁(業者の切り替えがしにくくなる)が発生するということになる。

・固定費の増加(簡単に需給の調整が出来なくなるが為に企業運営における打ち手を打つことが増える)

・取引相手を自由に変えられない

・撤退障壁拡大(一度この体制を構築すると変えるのに大きなコストが発生する)

・必要資金が大きい(実現するのには事前の投資資金等が大きく必要になる、そして固定費もかさむ)

・刺激が与えにくい(良くも悪くもビジネスが安定しやすい、そのために市場の競争原理が働かず慢心・非効率が許容されうるリスクが発生する※大手Gで大手本体にBPを依存している会社などはこの典型例)

・異なった経営方式が必要

(どの工程を担うのかにより戦略の急所・人事評価なども色合いを変えないと不合理が発生する、その調整コストが発生するのが垂直統合のミソ)

 

≪川下統合に特有の戦略的問題≫

■製品差別化の能力が強まる…生産工程や販売工程を自社で管理することができる為、戦略の打ち手によりコントロールできる範囲が広がる為

■市場情報が手に入りやすくなる…最終的な顧客接点を担う川下進出をすることでそうしたリアルな情報を低コストでかつタイムリーに把握することが出来るようになり戦略的意思決定の精度(作り過ぎの防止・需要予測の変化)等が担うことが出来るようになる。外部への市場調査の委託などが不要になる

※無形商材を扱うリクルートがこれを重視しているのは市場のインサイトを把握して製品の売り込み方針をタイムリーに変えるのに都合がいいからというのはあるかと。

 

≪川上統合に特有の戦略的問題≫

■社外に情報が漏れない

■差別化…中枢原材料の生産管理などを自社でコントロールできるようになる為

※製造業は固定費・先行投資がかさむビジネスモデルであり利益率を高めに確保するのが難しい業界、しかし先行投資があるが故に参入障壁がどの業界にも一定あり競争が安定しているというメリットがあるということ。保守的で長期的に物事を行う力が重要だし終身雇用制度なども適したということになる。

垂直統合の錯覚≫

■垂直連鎖による各工程の価値が高まるという過剰な期待

■社内でやればコストカットが必ず実現できる

(市場の競争原理を働かせたほうがよいケースもある)

■競争の激しい業界への統合進出は筋が良い(利益が少なく品質の改善や顧客満足度の最大化に注視しており売手・買手の数も必要とする疲弊しうる業界・あまり旨味が出ない)

■戦略的に弱い経営を垂直統合は進む

 

●15 キャパシティ拡大戦略

・工場投資などの設備投資は将来の需要予測(市場の成長性)・競合の動きを加味して判断しなくてはならず最も困難な意思決定である。

消費財メーカーなどは戦略の急所であり、これを外してしまうと高い固定費からビジネス存続も危ぶまれる事態になる。

・肝は競合の動き、設備投資が過剰になると業界全体の供給量と需要のバランスが崩れて参入業者全員が共倒れをするという事態になりかねなくなる。

※汎用製品の業界である場合、明確な製品差別化がなされる顧客の購買要因が価格に支配される場合、大量生産を起こそうというインセンティブが働き設備過剰になりうる。

 

≪キャパシティ過剰になる要因≫

■技術面での原因

①規模の経済・経験曲線効果が大きい(設備投資のインセンティブが発生する)

②生産技術の変化

■業界構造上の原

①競争業者の川下統合化(川下の需要を取り込むために設備投資をしようとする)

②キャパシティのシェア=競争力の業界(船舶・航空運送等)

③生産能力の新しさが競争優位性(サービス業などは設備の新規性が差別化になる)

■競争上の要因

①新規参入業者が急増(競合への対抗策としての設備投資)

②信頼できる業界リーダー企業がいない

■情報上の要因

①将来への過剰な期待②マーケット・シグナル機能の崩壊(マーケットシグナルを信頼せずに独立に動くようになる)

③金融機関からの圧力(株価維持の為、他社が設備投資をすると金融機関からの圧を受けることがある)

■政府上の原

補助金等設備投資を誘う税制②自国産業の育成方針③雇用促進・雇用維持の圧力

 

≪キャパシティ拡大の抑制要因≫

■財務畑の経営者が就任する■企業の多角化

■新設備には公害防止をはじめとしたさまざまなコストがかかる

■将来についての不確実性が大きい■過去の設備投資が深刻な経営課題になっている

 

●16 新事業への参入戦略

・大前提として市場の完全な競争原理が働く業界は新規参入をしても業界平均以上の収益性を生み出すことはできない。だからこそ新規参入するときには市場要因の働き方が不完全でかつ自社の強みが活きる所に特化して参入するべき。

≪自社内での開発による参入≫

目に見えないコスト(ブランド確立のコスト・仕入れ先・販売先の選定)を算出することなく市場参入を検討して痛い目を見る会社は多い。そして市場に自社が参入することにより生産過剰になり需給バランスの崩れ⇒競争業者からの反撃というリスクがあることは盲点になりやすい。

・競合から反撃が生じる可能性

■低成長業界(マーケットシェアの奪い合いになるため当然の反撃)

■汎用品・差別化が難しい業界(純粋に生産余剰を招く為)

■固定費のかさむ業界(損益分岐点が上がるリスクがある為※参入障壁があることによる業界の安定性と引き換えに運営しているため、生産余剰は大きい影響を及ぼす)

■少数寡占業界(目立つ)

■既存業者がその業界を重要視する戦略を取っている(影響度が大きい)

 

≪新規参入により収益を確保出来る業界≫

■不均衡状態にある業界(新しい業界・参入障壁が形成されつつある時期・情報が不透明な時期の業界等)

※市場要因に大きく左右されうるという基本原則は肝に銘じておいた方が良い

■反撃が緩やかな業界(市場が安定していて競合への攻撃が緩やか、ないしは反撃をするコストに見合う収益を確保しにくい業界等が該当する)

 

≪自力参入の新規参入時の基本的なコンセプト≫

※下記いずれかを満たす方針を打ち出せないと参入に対する収益確保は難しい

■製品コストの引き下げ

■低価格販売によるマーケットシェアの獲得(業界の収益性・寿命を圧縮する為、好ましくないが競合が対応できないという条件の下では効果的に機能する)

■製品差別化の推進■既存事業の流通チャネルを活用した販路拡大

■新たなマーケティング手法の導入■新たなセグメント開発

 

≪吸収合併による参入≫

※基本的な思想としては会社を買収する際は売手のほうが有利になる(事業存続という選択肢を持ち合わせている為)、なので複数のメリットが発生しない時には時間やノウハウを買うなどを目的にしない限りにおいて闇雲な吸収合併は望ましくないということになる。

 

≪吸収合併をするべき条件≫

■自社だけが持つ強みをテコに吸収合併をした際に収益性が向上する条件がある

■自力参入の時と同じロジックで業界選定を出来る銘柄(時間やノウハウを買う感覚に等しい)

■吸収合併で自社既存事業の地位向上などのメリットが確実に見込まれること

 

 

【所感】

・以上となります。市場戦略・競争戦略というと仰々しく凄い技がたくさん潜んでいるのでは?とイメージが抱かれがちですがシンプルに紐解いていくと数種の原理に収束・分類されうるということがよくわかる本でした。競争優位の戦略という姉妹本があって、まだ読めていないのですがもう少し造詣を深める為に時間を取って読んでみようと思います。(競争の戦略以上に高価なのがたまにキズ、、)

・自分が対峙しているビジネス・顧客のビジネスを理解する為の頭の整理・手法の再取得という意味で読者を鍛える素晴らしい本だなと改めて思っている次第です。個人的には「顧客の方針を理解した芯を食った提案」・「自社ビジネスの拡大に向けて自分の職位でできる打ち手を考える引き出しを増やす」という二軸で実務応用を急ぎたい所です。※半年前くらいから低水準ではありますが前者は少しずつできるようになってきた感覚がありますが後者はまだまだですし、組織全体としての底上げという観点ではまだまだ仕組化をしたりなど出来ることはあるなと。宝の持ち腐れ・頭でっかちにだけはならないようにしたい所です。