雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪サブスクリプション「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル≫

 

今回はティエン・ツォ氏の著作サブスクリプション 「顧客の成功」が新時代のビジネスモデル」を要約していきます。近年急拡大しているサブスクリプションのビジネスモデルおよびSaaSビジネスの急所について様々な業界での導入事例と各機能別組織のあり方についてまとめた本です。「全ての判断を顧客期待起点に」というのは近年のソフトウェアプロダクトの基本的な思想です。これはサブスクモデルの普及によるマーケティングマネジメント・UXデザイン・プロダクトマネジメントの必要性といった時代の潮流と切っても切り離せないテーマであり、様々な自分自身の関心毎や勉強テーマの統合という意味合いで本書を読みました。

 

サブスクリプション 「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル」

サブスクリプション―――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル | 漫画全巻ドットコム

■ジャンル:経営・開発管理・マーケティング

■読破難易度:低~中(様々な業界やSaaS企業の事例を基に記述されている為、読みやすいです。サブスクの概念そのものが馴染みのない人にとってはカタカナ・横文字が多く取っ付きづらさがあるかもしれません)

■対象者:・サブスクモデルについて理解を深めたい方全般

     ・ソフトウェアプロダクトのビジネスに従事する方全般

     ・マーケティングトレンドに明るくなりたい方

 

≪参考文献≫

■ザ・モデル(サブスクモデルの営業・マーケティング機能に特化して解説した本)

■要約≪ザ・モデル≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■INSPIRED(ソフトウェアプロダクトマネジメントの潮流)

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■ユーザーストーリーマッピング(顧客期待を捉える・顧客期待を起点とした機能開発の要であるUXデザイン・エンジニアリングについて)

■要約≪ユーザーストーリーマッピング≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■サブスクモデル台頭による商慣習の変化

・モノで溢れる時代において、「モノの所有ではなく利用ベースの料金発生」という概念が成立し市場浸透するようになりました。サブスクリプションモデルは料金の簡素化によりユーザーのすそ野を広げ、安定収入というビジネス提供者へ果実をもたらしただけでなく、「ユーザー獲得・利用~定着・LTV向上」というそれ専門の営業・マーケティング機能、各ファネルの移行率を高めるUXデザイン(究極的には人を介さずプロダクト上で体験が完結する世界)の重要性が高まるというビジネストレンドをもたらしました。

・上記トレンドは必然的に顧客セグメントの細分化顧客期待に合わせたサービスメニュー・提供方法の開発という事業アジェンダを多くの企業にもたらしました。加えて、2010年代にクラウド技術など「デジタル起点のビジネスモデル・提供方法におけるイノベーション」が実現したことで、サブスクモデルは一気に市場へ浸透していくようになりました。顧客接点におけるカスタマーエクスペリエンスが最重要であり、「ユーザーストーリーや顧客を深く理解した前提にプロダクトやサービスを組み立てていく」という思想が浸透するきっかけを生み出しました。具体的には「プロダクトの体験価値・機能的価値の言語化」・「NPSや継続率・ARRなどを事業の重要指標とする」といった行動変容をもたらしました。

 

■サブスクモデルにおける事業運営の要諦

クラウド技術サブスクモデルの市場浸透により、ソフトウェアプロダクトでのSaaSなどが実現可能になり、UXデザインアジャイル開発など「顧客やユーザーストーリーを起点にMVP開発をベースに仮説検証・PDSサイクル回していくことに重心を置く」という現代のプロダクトマネジメント手法の体系化が進みました。大事なのは顧客のペイン・ゲイン・セグメントを中心に考えるということですが、「顧客が答えを知っているとは限らない」・「顧客に妄信すればいい訳ではない」ということです。サブスクモデルはLTVや継続利用率・CPA・ARRなどを注視して経営せざるを得なく、それは詰まる所「データや顧客インサイトを起点にUXデザインしていくことが事業運営のコアになる」ということを意味します。例えば、ネットフリックスはセグメント別の利用時間に寄与するようなコンテンツ開発に注力しましたし、セールスフォースは分業体制と見込み顧客生成をコアとしました。顧客を引き付ける体験やブランドを持っている企業は非常に強く、GAFAスターバックスなど強烈なビジョンやコアユーザーを持つ企業はプロダクトの世界で良く参照される企業であることも必然の流れです。

・こうした変化がマーケティング分野にもたらしたのはプライシングパッケージングの重要性です。「フリーミアムでライトユーザーを獲得し、課金形式で顧客体験を紡いでいき定着促進と単価を上げていく」というプロダクトマネジメントの基礎的な概念をもたらし、各ファネル別にセールス・マーケティング・UXデザイナーと共に打ち手を施していき、KPI・NSM・ARRにヒットするようなビジネスと顧客価値の両輪を回していくといった事業マネジメントの当たり前を導きだしました。「全ての起点は顧客期待から」という考えのもと、カスタマーインサイト・ジャーニーマップを全ての土台としてプロダクトデザイン・販売チャネルマネジメント・機能開発を徹底していくというサブスクモデル起点のソフトウェアプロダクトの王道的な思考法が市民権を得るに至りました。

・サブスクモデルを導入する企業においてはARR(年間定期収益)が重要な財務指標で、これは伝統的なPLではとらえきれない稼ぐ力や収益性を時間軸の概念から捉えようということです。つまり、解約率取引単価顧客獲得コストなどがビジネスドライバーになり、「それらにダイレクトにヒットする打ち手や当該部門へのマネジメント働きかけ」など専門で行うプロダクトマネジメント業務の必要性をもたらしました。その結果、「定期収入の向上」と「定期コストの削減」という2方向に対して打ち手を施し、プロダクト戦略とロードマップをアップデートしていくのがプロダクトマネージャーの役割となり、顧客インサイトの探索ユーザーストーリーの深い理解をベースとした体験価値・機能的価値の向上の両輪を回していくことが求められるロールが多くの企業で必要とされるようになりました。

 

【所感】

・サブスクモデルの市場浸透とSaaSおよびソフトウェアプロダクトマネジメントが拡大していうのは一つのつながった線であるということが深く理解できてとても面白かったです。ザ・モデルのような営業・マーケティング分野での組織イノベーションやUXデザインの重要性など断片的に理解していた付随テーマもなぜそれだけ重視されるかということがこれまで以上に良く理解できました。「製品のサービス化」というのが大トレンドですが、労働供給制約社会が到来する中で分業して大量の労働人材でサービスを提供していくというのもどこかで限界が来ます。「サービスのプロダクト化」のようなプロダクトで体験が完結できるようにテクノロジー活用やビジネスモデル・販売チャネルイノベーションを狙って志向していきながら思考していくことが必要なのかなと考えた次第です。

・自分自身は営業・マーケティング・組織マネジメントがキャリアの骨格を形成しているのですが、UXデザインやプロダクトマネジメントの重要性が叫ばれる中でVoCに明るいことや顧客起点で考える・仮説を巡らすといったデザイン思考に近しい物にはなじみがあると感じていて、「ビジネストレンドやテクノロジー技術を食わず嫌いせず取り込み、顧客価値向上や提供方法の探索をゼロベースで模索し続けることがバリューを出すうえで大切なのだろう」という自分の現在地と今後の頑張り方のベクトルを再考するに至った次第です。

 

以上となります!