雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪理科系の作文技術≫

 

今回は木下是雄氏の「理科系の作文技術」を要約していきます。タイトルの通り、理解系の研究者・技術者・学生を想定して論文・レポート・説明書・手紙の書き方・学会講演のコツを具体的に記述した本です。情報伝達を使命とするビジネス文書を作成する際に参考になるかと思い、当該分野のベストプラクティスと名高い本書を読んでみようと思いました。報告や意見を述べる類の書類作成・プレゼンテーション全般に通じる考えが本書には詰まっており、非常に参考になりました。

 

「理科系の作文技術」

Amazon.co.jp: 理科系の作文技術(リフロー版) (中公新書) eBook: 木下是雄: Kindleストア

■ジャンル:思考法

■読破難易度:低

■対象者:・情報伝達を使命とする文章を作成する方全般

     ・わかりやすい文章作成に興味関心のある方

     ・要点を掻い摘んで論を展開する方法に興味のある方

 

【要約】

■本書の前提

事実と意見で構成され、心情的要素のレポートを求められていない類の文章作成を想定して本書は論が展開されます。事実なのか意見なのかを明かにすること直感的・論理的な順序で記述することの2点が理科系の作文技術における根幹をなす原理原則とされます。不要な言葉は極力減らす平易な言葉で多義のないように書く読み手に敬意を払うなども重要な基本法則とされます。

 

■前準備と文章構成プロセス

・理科系の文章は主張・結論が先にあり、それを伝える道具としての材料を揃えるという手順になり、文章作成するときには既に結論・材料が揃っているのが特徴です。相手は何を知りたいのか・情報伝達の為の課題・論点は何かを事前に精査・考え抜くというプロセスを軽視している文章があまりにも多いと著者は指摘します。一つの文章は一つの主題に集中するのが読み手への情報伝達の基本原理とされます。「誰向けか」・「何を明らかにしようとしてこの文章を書くのか」はメモ書きでいいので、文章作成の前段に言語化しておき指針とすることが本書では推奨されます。

結論ファーストが推奨され、目次とそれぞれのサマリを記載して読み手をリードするのが書き手の御作法になります。仕事の文書は重点先行主義であるべきとされ、新聞の見出し記事が最たる例です。ベーシックな構成は序論‐本論‐結びの三部構成であり、序論で背景課題設定仮説、結びで残論点今後の展望などを記載するのが一般的です。

問いと論点、その設定背景を明確にして論証始めるのは書き手の情報伝達のマナーになります。尚、情報過多の時代において望ましい文章構成も変容しつつあるとされ、積み上げではなく、概観から細部へズームインしていくような構造を明示する記述方法が理科系の作文技術では推奨されます。

 

■事実と意見

事実とは「証拠を挙げて裏付けることのできるもの」で、意見とは「何事かについてある人が下す判断」です。レポートの中心をなすのは事実であり、意見ではなくアメリカでは言語技術の授業でこうした考え方を体系的に学びます。仮説なのか・事実なのか・意見なのか・判断なのか・推論なのかなど立場を明確にして記述するということは情報伝達を目的とする文章作成の基本ルールとなります。読み手にコストを割かずに要点を明確にして伝える・判断を仰ぐというのは知識労働者の基本作法となります。

・理論は証明になりそうな事実が相当にあるがまだ普遍化していない「仮説」です。全ての人が容認しないといけないレベルの理論は法則です。事実に関する文章には修飾語を極力省いて主観・意見が入らないようにするのが基本の考え方となります。意見に関しては断定系で書き、誰が述べているのかを明確にするというのが理科系の文章においては推奨されます。

 

■口頭伝達を想定した作文技術

目で読むための文章耳で聞くための文章には構成の善し悪しが全然違うとされます。読む時はわからない場合、読み返しができるが耳で聞いてわからない場合は後戻りが出来ないということがポイントになります。シナリオライティングと一種の俳優のスキルが必要とされます。PPT毎に要点を掻い摘んで発表用のメモを用いて当日実施するというのがセオリーのようであり、いくら学会など前提知識の揃う場であっても用語の定義や条件の定義などを明確にして図示化して認知コストを下げるということに気を払うべきとされます。

 

【所感】

外山滋比古氏の「思考の整理学」に似たような雰囲気を持つ文章構成・主張であり、非常に頭がクリアになる読書体験を得ることが出来ました。「要点を掻い摘んで伝える」・「事実なのか意見なのか分けて情報伝達する」といったお作法に乏しかった過去の自分に煎じて飲ませたいと思うような内容でした。誰向けであるのか・自分はどんな立場・条件から意見を主張している・事実を描写しているのかなどを明確にして読み手のコストを下げることに気を払うべきという発想が全くなかった過去の自分を顧みるような記述が多かったです。

・エクセルやパワーポイントで要点や概念をまとめて情報伝達・意思決定を仰ぐという仕事において、本書の工夫や考え方は非常に参考になるものが多く、事例(自然科学分野、特に物理)がわからなくても学びになることが多いです。タイトルから読みづらさ・手に取りづらさを感じる方もいるかもしれませんが思い切って読んでみると、誰でも得られるものが多い名著に感じました。

・読み手に負荷をかけることなく、事実と意見を分けて明瞭に情報伝達するには相応のスキルと手順が必要でありますが、だらだら思いつくがままに文章作成するというのは知識労働者として傲慢でありご法度という本書の記述には身が引き締まりました。

 

以上となります!