今回はMichael Loppの「リーダーの作法 ささいなことをていねいに」を要約していきます。Netscapeでマネージャー・Appleでディレクター・Slackでエグゼクティブなど様々なテック企業で長年マネジメントに従事、リーダーシップを発揮してきた著者が各階層別に自分が大事であると考えてきた哲学・仕事の進め方を30のエッセイにわけて記述した本です。ピープルマネジメント・コトマネジメントバランスよく記述があり、オライリー・ジャパンシリーズの本ですが非テック企業の人にも非常に参考になる事例が豊富に記述されています。様々なレイヤーのマネジメントの要諦を抑えたいと考え、本書を読みました。
「リーダーの作法 ささいなことをていねいに」
■ジャンル:開発管理・組織マネジメント
■読破難易度:低(平易な言葉で語りかけるように記述されています。ページ数も180ページと比較的短くサクサク読むことが可能です。)
■対象者:・マネージャー・ディレクター・エグゼクティブ各階層における要諦を抑えたい方
・テック企業の働き方に興味関心のある方
・リーダーシップの具体的な発揮方法・コトマネジメント・ピープルマネジメントのバランスのとり方について興味関心のある方
≪参考文献≫
■プロダクトマネージャーのしごと
■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■90日で成果を出すリーダー
■要約≪90日で成果を出すリーダー≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■ハイ・フライヤー
■要約≪ハイ・フライヤー≫ - 雑感 (hatenablog.com)
【要約】
■マネージャー編
・マネジメントは様々な業務が細切れに入り、間接的な影響力を通じてコトを成す・人材育成に関与するというのが基本スタイルとなります。その為、多様なMTGについて「どんな貢献ができるかの仮説設定」・「一日の予定をアジェンダを事前に洗い出す」というプロセスは生産性に大きく寄与する基本動作として推奨されます。種類や優先度が混在する膨大な仕事をこなしていくマネジメントの制約条件はあれど、「仕事を雑にする」・「取り込ぼす」を1回でもしてしまうと仕事の責任・約束を破っても問題ないという組織文化のシグナルを形成してしまいます。そうした営みはひどく生産性や信頼性を損なう愚行であり、システムを構築して間接的な影響力でコトを成す・人材育成に関与するマネジメントの進め方としては細心の注意を払う必要があります。
・「どうすればいいのかわからない未知の問題が持ち込まれて対応する」というのが基本的なマネジメントプロセスです。その為、「背景や構造を理解するための問いを立てる」・「レポートする人のバイアスも一定考慮して信頼するに足る情報かどうかの判断をしていく」などを徹底することが大切になります。また、難題に関する自分自身のバイアスや感情の存在を認識して、その上で「自分が本当に解くべき問題であるのかどうか」を考えるというのも欠かせないプロセスとされます。
・避けて通れないピープルマネジメントについてはパフォーマンス管理状態に陥る人材が発生しないようにすることがマネジメントの最大の誉れであると本書では主張されます。「複数回」メンバーと対話して問題と求める水準の定義・開発計画の設定をしていくことで理解してもらう・変容を促すを経てそれでもダメな時にパファーマンス管理を発動するべきであるとされます。「ギャップを埋めるための明確で計測できる行動や指標を設定する所まで作りこんで改善を要望する」のがマネジメントの役割であり、安直に切捨てればいいというのは二流です。それでも変容しない場合にはこれまでのフィードバックを文章に書き溜めて共有するということを通じて冷静に変容を促すということが推奨されます。
■ディレクター編
・マネージャーを管理する部長(ディレクター)以上の職階になると細部を理解する・コントロールするということは絶対に出来なくなるとされます。ディレクターはマネージャーと異なり、組織全体に及ぶビジョンや戦略を通じて仕事を動かすことや自由にコミュニケーションされる状態の構築・組織構造の設計・変革を牽引するなどの役割でバリューを出せるかという活躍ポイント・レバレッジポイントの変容があるとされます。ディレクター・シニアマネージャーはエグゼクティブになる為の準備であり、間接的な影響力やビジョン・チェンジマネジメントなどのスキルが絶対に必要になるとされ、エグゼクティブから個別に対話する機会を設けられる関係性に突入します。その為、と上下のコミュニケーションよりも横のコミュニケーションが大事になり、社内政治や人脈形成・情報収集は切っても切り離せない形になります。
・新しい仕事・環境に直面した時に全体を掴んでバリューを出せるようになるには90日かかるとされており、最初の1か月のハネムーン状態が終わると現実を直視・絶望し、3か月目にようやく構造を理解、突破功を見出すといった具合になります。ポイントはこのトンネルは必ず抜けることが出来て、時間が解決するので気になりリストなどを洗い出して検知できるようにしながら結論を先送りする・楽観的にあるということがメンタルマネジメントの観点で重要とされます。
・ディレクターは「自分は管掌組織の事象に関する成果責任ではなく説明責任を負っているのだ」という感覚が大事であり、権限移譲を通じた人材育成・戦略実現の器を早くから実践していかないと絶対に小さな組織のマネジメントしか務まらないとされます。任せて対話して基準と方向性を明示するを繰り返し、「必要な感覚や経験を抑えてもらうことで信頼を獲得する」・「内発的動機付けを刺激するプロセスを通じて、間接的な影響力でコトの遂行と人材育成の両輪を回していきなさい」と本書では何度も主張されます。
・手厳しいことは多義なく端的に伝えることで変容を促す・基準を明示するということがあり、適度なバランスをもって対峙することで人材の活性化や組織文化の伝播などの副次的な効果を持ちます。手厳しいフィードバックは相手の脳が危険信号を出すものであり、適切に受け止めて変容してくれるかはタイミング・伝え方・相手の理解の仕方に寄りけりとされます。その為、感情を排して事実とこうしたら良いという形の+αの提言の仕方を推奨します。※そもそも受け手がこちらの指摘を受けとめるかどうかはわからないので。
・人は増えるとコミュニケーションコスト故に複雑になる傾向があり、一方でチームを組成してコラボレーションできると大きな変化を生むこともできるとされます。ルールは組織が効果的に機能するための原理原則・仕組みであり、「進化・拡張していくようにマネジメントすること」と「しっかり説明すること」を徹底しないと簡単に崩壊するものです。ルールはビジョン(どんな山を登るのか・何を成しえたいのか)・価値観(どんな判断軸をもつか・それはなぜか)・プラクティス(ビジョンと価値観に基づいて具体的に推奨される行動は何か)を明確に言語化・伝えるということを常に組織形成の初期からやっていくことがポイントであり、しつこく原理原則や目的を伝えていくということをして文化を根付かせないと絶対に組織拡張・間接マネジメントは出来ないとされます。ビジョン・価値観・プラクティスは定着してなんぼなので、実践して軌道修正し続けるということでしか仕組みを運用出来ないとされます。
■エグゼクティブ編
・エグゼクティブになると、ビジネスや組織全体の成果に責任を負うようになりマネジメントのマネジメント所ではない変数をコントロール・働きかけるようになるとされます。ラインマネジメントがトラブルなどの消化活動をしている中で、エグゼクティブが処理に追われるとは大規模な出来事になります。その上で防火活動をしたり、組織図や文化を形成するなどの無形資産構築にも気を払うようになることが中心になります。また、エグゼクティブになると株式市場との折衝も付きまとうようになるので、ファイナンスを教養として持っていないと意思決定が出来ないという世界に直面するとされます。
・新たな組織や役割における最初の90日は非常に大事であるとされ、著者は重要な意思決定はせず黙って観察して因果関係やイシューを見たてるということに時間を割くべきとされます。昇進ではなくキャリアの再出発であり、うまくロールするには最低でも3年程度必要とされるというのが相場のようです。特にスタートアップや独立組織で働く場合に「自分達は特殊である」というバイアスに支配されないようにすることが大事であるとされ、こねくり回すのではなく実際に行動・意思決定していくことが大切とされます。第一印象は大事であり、リーダーシップを発揮する為に変に質問をして遮断をするではなく、要点だけ抑えて行動・実行していきまずは組織の成果を出すということに専念することがエグゼクティブとして重要な役割になるようだ。
・文化とはある程度の組織単位になると自ずと出来ているものであり、行動規範や価値観を並べてもあまり意味はなく、仕組みでカバーするとか体現していると呼べるストーリーを表出・伝播していくなどの方法で望ましい方向にもっていくのがよくあるやり方とされます。その意味において価値観を表出する仕事を共有して対話するということでストーリーや信仰を形成するナレッジマネジメントはコミュニケーションエンジンとして不可欠であり、そんなことに時間を割かないはチームとしてのレバレッジ作用のない傭兵のようなものであるとされます。
・人間は情報不足の場合、最悪のシナリオを作り出し噂をひろげるという性質を持っているようです。コミュニケーションの断絶や人員の変化による文化の変化というものは危ない兆候であり、「価値基準や戦略の言語化・対話を継続的に行い、文化をメンテナンスする」ということを軽視しないことがマネジメント上の良いコラボレーション促進のための仕組み化の打ち手です。周りの人がそうしているからという集団思考によるミスリードの影響力は図りしれないものであり、文化は誤った意思決定や価値基準を伝播・拡張するリスクを潜んでいます。
・マネジメントの仕事の半分は情報を集め、評価・再分配することにあるとされ、対人関係における気を払いコミュニケーションの品質を担保するは全ての仕事の基礎になります。情報は「新鮮かどうか」・「重要かどうか」の二軸でプロットして取り扱うのがセオリーとされます。重要なのに遅配されるという情報を極力なくすことが大事で、遅くなればなるほど影響度合いが大きいとか打てる選択肢に限りがあるということになります。
・具体的なエグゼクティブの仕事の進め方として推奨されるのは1on1をコアメンバーと継続的に行い、意思決定や鮮度の高い情報収集を行うことを通じて間接的な影響力を発揮・マネジメントの人材育成機能を補完するということ・権限移譲を積極的に行い、仕事を起点に能力開発・オーナーシップ発露を狙えということが書かれています。物事をシステム・フローチャートと認識して関係性や上位戦略を参照すること・問題解決の仕組みを構築することなどがポイントになります。OKRの設定や論点整理・戦略結合などはプロジェクトやテーマを委任している中でもマネジメントが自ら手を入れてチューニングする必要のある仕事とされます。「意見を事実のように言う」・「陰口を言う」などは組織の文化や意思決定・会議の品質を下げるので真っ先に手を入れるべきテーマとされます。
【所感】
・様々な階層のマネジメントにおける要諦・事例が豊富に記述されており、具体的な仕事をする上での指針などもテーマに含まれており読みながらなるほどと非常に考えさせられる内容でした。自分にとって、マネジメント分野の本は様々な事例や考え方のプロセスの記述がある本が長く読み続けて手元に置く傾向が多いなと気付きました。1on1と権限移譲に非常に重きを置くという著者のスタイルが一番印象に残っていて、人は経験とその言語化・振り返りを通じてしか成長できない(一番のレバレッジポイントである)という強い意志が垣間見えたように感じて言われてみればなるほどと思わされた次第です。情報収集なのか・意思決定なのかなど場の目的を明確にすることや文化・システムの構築などの様々な役割について自分がぼんやりイメージをして大事にしていたことを改めてきれいに言語化されていた内容となっており、非常に納得感のある内容でした。また、時間を置いて読み返し内省の材料にしたいと思った次第です。
以上となります!