今回はゲイル・マクダウェルとジャッキー・バヴァロ共著の「プロダクトマネジメントの教科書」を要約していきます。「世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本」の続編でプロダクトマネジメントのキャリア・スキル・ノウハウなどを体系的にまとめた本です。タイトルの通り教科書のように網羅的に膨大な記述がなされており、本書は2回に分けて要約します。後編の今回は本書のF)リーダーシップスキル・G)ピープルマネジメントスキル・H)キャリア・I)プロダクトリーダーQ&A・J)追加情報をまとめています。
「プロダクトマネジメントの教科書」
■ジャンル:開発管理・IT・経営
■読破難易度:中(プロダクトマネジメントに関する全てを取り扱い、非常に緻密な記述がなされているので読むのに時間がかかります。既にPM業務に理解がある人が整理を深める為に読むことを目的とされています。)
■対象者:・プロダクトマネージャー・事業責任者を志す方全般
・プロダクトマネジメントの理論の歴史・要点を抑えたい方
・プロダクトマネジメントのキャリアやスキルの個別論点に興味がある方
※前編の要約は下記※
■要約≪プロダクトマネジメントの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
≪参考文献≫
■プロダクトマネージャーのしごと
■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント
■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■バリュー・プロポジション・デザイン
■要約≪バリュー・プロポジション・デザイン≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■リーダーシップスキル
・「自分の才能は努力と根性により時間をかけて後天的に伸ばすことが出来る」というグロースマインドセットをPM自身は勿論、プロダクト開発チームの組織文化に根付かせるようにコトをマネジメントしていくのが絶対に欠かせない感覚となります。具体的には知的謙虚さ・継続的な組織学習・不確実性への対峙を厭わないメンタリティを指し、これらを最も体現する代表者として強いオーナーシップでコトに対峙し信頼残高を継続的に獲得していくことがミソです。
・「組織図上の指示命令系統にないエンジニアやデザイナーに働きかけることが求められる」のがPMであり、信頼関係構築の為に意図的にコミュニケーションの場を設ける、利害関係を尊重するなどの細かな仕立てるスキルがリーダーシップを発揮する上での絶対条件となります。性質故に意思決定の際は「トレードオフや目的を明確にすること」・「相反する意見がある場合は上司含めてエスカレする形式にすること」が望ましいステップであるとされ、軋轢はコトの意思決定をするという線引きや過去に積み上げた信頼残高を参照するのがセオリーとされます。
・説得・合意形成が重要な業務であるPMにおいて「相手の文脈・価値観に働きかけるようにシナリオややりたきことを伝える」という独特の情報編集能力が求められます。具体的なお作法としては「箇条書きで端的に要点を伝える」、「図示化・定量化してぱっとわかるようにする」などがあり、プロダクト開発チームの会議は都度面倒でも議事録をとり、「ネクストアクション・議題・論点を明確にする」・「誰が何をいつまでに行うなどを記載、合意形成し続ける」ことが要となります。
・PMとしてのリーダーシップを構築・加速させ続ける為に、「面倒な仕事を引き受けてハイレイヤーの仕事にアクセスする環境を構築」したり、「自分の知見やアウトプットをシェアしていくことで情報が流れてくる仕組みを作る」など意図して仕事の流れやシステムを設計しないといけないものです。
・顧客体験価値の全てに責任を持つPMは基本的にデザイナーと良好な関係を構築し、ユーザーインタビュー・リサーチなどの業務の一部に深く入り込んでいく必要があります。顧客価値とビジネス価値の両輪を実現するように遣り繰りするのがPMとデザイナーのコラボレーションにおいて大事で、デザインの視点を軽視したり個人の好みに依存したり、職務期待を理解していない・軽視するような言動は避けないといけません。「データや顧客インサイトを一緒に眺めてユーザーストーリーの解像度を高めるプロセスを意図的に協働する」など、効果的な関係構築・問題解決のステップのベストプラクティスはある程度存在します。また、デザイナーとの関わり方は解決策の依頼というより、「課題設定」や「解くべきお題」・「実現したいユーザーストーリー」などのレイヤーで渡すというのが効果的な方法になります。
・エンジニアとPMのコラボレーションにおいては基本的には「エンジニアをパートナーとして扱う」・「技術的な制約を理解し尊重する」・「エンジニアの同意なしにスケジュールの具体的な日付を決めない(コーディング・テストをするにしてもエンジニアリングチームでかなりのユースケースを想定するなど不確定な調査・検証プロセスを踏むから)」などの原理原則が存在します。
■ピープルマネジメントスキル
・PM組織のピープルマネジメントについては「ピープルマネージャーになりたいかどうか」がPMのキャリアを考える上での判断ポイントとなります。能力開発・人材見立て・チームビルディングなど特有のスキルがつきまとうからです。「PMとしての専門性・影響範囲を広げること」と「ピープルマネージャーになること」はトレードオフになるケースもあり、「本当に自分はピープルマネージャーになりたいのか?」という問いは大切なものになります。ピープルマネージャーは大きな権限・影響力を持つと同時に、「感情の生き物である人間」という資源を管理・アクセスするので構造的に精神的に疲弊する性質のある仕事が避けて通れないとされます。
・ピープルマネージャーはその性質上、秘密保持事項が多くなり、納得できない方針変更を遂行する必要が増えるなど「素直になりきれない」・「孤独になりやすい」構造を持つとされます。そして、資源制約・人材育成というミッションの性質上、自分より下手にやる仕事を他人に任せて失敗許容すること含めて遂行するという管理が必要になる難しさがあります。ピープルマネージャーとしてワークするには、ベースの処理能力・システム構築・戦略作成~推進などのスキルを極限まで高めることが大事で、それに加えて権限移譲・適切なコーチングなどがポイントになるとされます。厳しい判断やチームに短期的な損失を与えるような意思決定・伝達も避けて通れないというのが難しさを形成します。自分の言動が会社オフィシャルの見解であるというシグナルを与えうるということも慎重に考慮して仕事をこなしていく必要が増えます。
・組織を形成することもピープルマネージャーの仕事であり、組織をミッションベースなのか機能別なのかどんな目的・狙いで設計するのかということについて、マネジメントは必ず思案をしないといけなくなるフェーズが来ます。その際は「急所・論点やゴール・上位戦略を参照してどのような意思決定プロセスや指示命令系統を構築することがアウトカムに近づくか」という視点で組織を設計・合意形成することがポイントになるとされます。プロダクトマネジメントにおいては各論と全体最適との視点を行き来することになるので、ユーザーストーリーやプロダクトビジョン・ロードマップなどの鳥観図のようなものを作り、常にアップデート・合意形成の道しるべにするという仕事を仕立てるスキルが高度に求められます。
■キャリア
・社内昇進・転職・PM外職種へピボットと様々な方向にシフトするPM人材のキャリアについてまとめられています。スキルや経験・プロダクトで担うスコープの広さ・深さなどでキャリアのラベルが付くケースが一般的です。「プロダクト単独なのか・マルチプロダクトなのか」、「機能改善なのかプロダクト戦略や組織まで担うのか」などが具体的なPMとしてのキャリアステップの先に担う仕事の役割です。その一方で、PMそのものが十分に上級役職であるので、シニアPMまで昇進した上で役割を変えるかどうかは好みの問題が強くなってくるとされます。
・PMのレベルは「APM→PM1→PM2→シニアPM→プリンシプルPM~ここから管理職~→PMリード→PMディレクター→プロダクト責任者(CPO)」となります。プロダクトマネジメントにおける影響度は「どれだけのインパクトのある改善か」・「その改善をどれだけのユーザーが体験しているか」という2軸で評価することが基本とされます。
・PMのセカンドキャリアは千差万別で代表的なものはGM・VC・エンジェル投資家・CEO・CXO・プロダクトコーチングです。GMは部門横断的であり、ビジネスサイドの統括もするPMよりもよりミニCEOっぽさの出る役割となります。プロダクトの成功だけでなく、収益にも責任を持つというロールを目指す場合は事業責任者→GMというのが一般的なステップのようです。VCは資金調達をしてその元手でスタートアップへ投資し取締役に就任しながらIPOやバイアウト目指して企業運営にコミットしていくビジネスモデルです。VCは「未来がつくられていく過程にいること」・「アイデアの流れの中に身を置くのが好きなこと」などが要件として求められ、「プロダクトを自分の手で作りたい人」や「ステークホルダーマネジメントが苦手な人」・「フィードバックや学習ループをしっかり回したい人」には不向きとされます。エンジェル投資家もVC同様で、プロダクトマネジメントにおける「プロダクトのコアを定め、市場と顧客のリサーチをしてソリューションを定めMVPをリリースしてPMF→グロースしていくというフェーズにおける知見を応用して投資でバリューを出す為に付加価値を出す」というストーリーでPMからのピボット先で多いです。CEOやCXOを目指すというのもよくあるPMからのピボット先であり、これはプロダクト全体を統括する・戦略的な役割を発揮する・チームリーダーシップを発揮して非連続の成長や変革を牽引するというPMロールを高めていく役割です。PMという役割そのものが習熟するのが難しいことに着眼してコーチやコンサルティングの道で生きていくというのも存在し、これはワークライフバランスやバラエティを重んじる際に有効な選択肢となります。
■プロダクトリーダーQ&A
・10個の事例を学びながらPMのなり方とその出口戦略について学ぶ構成となっております。PMになるには「コンピューターサイエンスとビジネスの大学での専攻を有して、関連企業のインターンシップで成果を出してAPMになるケース」やPMっぽい仕事からの社内異動・非PM職種×テック企業→小さな企業のPM・MBA採用などのパターンがあるようです。また、特定業界への専門性や既存プロダクトのコアユーザーからのピボット、起業→買収された会社でのPMなどもよくあるルートであり、副専攻とタイミングを活かしてなるケースがほとんどであることがわかります。
・PMキャリアの積み上げの典型例は大手ITプロダクトを経由してCEOや起業のような形でピボットしていくものです。また、PMっぽい仕事を流れで掴み、スキルや経験化していくケースでPMへなることが多いことも本書では記述されています。PMワークをしていく中で「顧客価値とビジネス価値の両立・非連続の成長ストーリーを描くためにマーケティングやMBAを学ぶ必要に迫られる」というケースが多いのはあるあるなようで、知的好奇心や課題解決・タフに物事を対処していくスタンスなどがモノを言うことが伺えます。
■追加情報
・PMは企業フェーズ・ビジネスモデル・業界などにより様々な強みが活きるポジションがあり、かつビジネスなのかUXなのかエンジニアリングなのかなど専門畑の伸び方も違うといった総合格闘技的な振る舞いが出来る役割であることが魅力です。PMの多くはプロダクトに対して愛が溢れており、コンシューマー向けのPMを目指す人が最も多いようです。
・コンシューマー向けPMはエンゲージメントを高めることが役割目的であるケースが大半であり、DAU/MAUや滞在時間などがKPIとして追いかけることになるのが一般的です。マーケティングチャネル・UXデザインなどがプロダクトの成功に寄与するケースが多く、「データを見ながらパイの大きいユースケース・顧客セグメントに関する開発アジェンダを解いていく」というプロセスを踏むことが基本的となります。声の大きい一部のユーザーに惑わされない、プロダクトの世界線を大切にするなどが求められる職業倫理です。
・BtoBのPMは地味だが顧客価値とビジネス収益が連動することを体感できる貴重なポジションでぜひ経験するべきとして本書では推奨されます。プロダクト開発チームにおいてはセールスと連携しながら、PMがエンジニアリングやデザインに対して顧客インサイトを情報伝達していくロールを担うことが多いです。BtoBのPMは収益に関して指標を追い求める傾向が多く、ARR・新規販売件数・アクティブプレミアムユーザー・継続率・解約率などをKPIマネジメントしているケースが多いです。そして、マーケット構造把握・競合分析・優位性の構築・エンドユーザー、購買者双方の利害を理解することなどが具体的に必要な要件として浮かび上がるケースが多いです。
・eコマースやマーケットプレイス(プラットフォーム型)・ゲームなどそのプロダクト特有の性質を考慮した必要なスキルセット・開発優先順位などは様々存在します。トレンドやテクノロジーについて常にキャッチアップし続けることと副専攻を自学自習で学んで基礎基盤を強固にすることなどが求められるのがPMの好みが別れる要素でもあります。
【所感】
・前半はPMのコトマネジメントの側面を中心に取り扱いましたが、後編の今回はヒト組織マネジメントやキャリアに関する側面が多い内容でした。10名のPMに関するインタビューパートが非常に充実しており、PMワーク・なり方の絶対解はなく千差万別、ただし必要なソフトうスキル・スタンスはある程度共通項があるというのがよくわかりました。
・UXデザインやマーケティングなど自分自身が元来なじみのある職能をテコにPMっぽいワークの面積を広げていくことが必要であると再認識し、事業責任を果たしていく上ではPMロールをしっかり取り込んでいくことが大切だなと考えた次第でした。気が付いたらPMになっていたという本書記述のケースは非常に共感ができるもので、関連分野に関して勝手に学び、小さく実験していくというここ1年で身に付いたスタンスが極めて重要なことを再確認できたのは良かったです。もっと顧客体験価値の向上とビジネスアウトカム最大化にコミットしたいなと身が引き締まる思いで本書を読みました。定期的に棚卸を兼ねて読み直したいと思える名著です。