今回はマックス・ウェーバーの「社会学の根本概念」を要約していきます。
政治学・宗教学を始めとした様々な学問領域で優れた洞察を後世に残したウェーバーが「社会科学」の学問的意義についてまとめた本です。短編の論文を繋ぎ合わせて出来た本なので、とても平易で読みやすい本です。
「社会学の根本概念」
■ジャンル:社会学
■読破難易度:低(学問の位置づけを論じた本なので、背景知識は不要です)
■対象者:・社会科学がどのように発展したのかについて興味関心のある方
・社会学について興味関心のある方全般
・マックス・ウェーバーの思想のエッセンスを知りたい方
社会学の根本概念 (岩波文庫 白209-6) [ マックス・ヴェーバー ]
【要約】
・本書の命題は下記2つです。
「社会科学が明らかにする命題及び学問(社会科学内)の関連性」
「人間はなぜ組織化するのか?なぜ社会を形成するのか?そこにどのような力学が働くのか?」
■社会学とは
・人は相互作用をすることで社会を形成します。個人が集団に対して働きかける力・行動について着目した学問が社会学であると本書は定義します。社会科学の中でも社会学・歴史学などの人類の営みについて明らかにする学問と法学・哲学・倫理学などの人間の行動の規範について明らかにする学問で類型が異なると言います。
・また、学問として成立するのは合理的で解が一つに定まるものないしは感情移入できるような体験を伴うもののいずれかであるとウェーバーは定義します。
※「一つの方向性に意味が収束しない限りにおいては学問として成立しない」ということですね。人という感情の生き物を分析対象にする為に、自然科学と比べて多義的になることは否めないものの一定の方向で体系化出来ないとそれは学問ではなく、ただの観察であるということかと。
■社会科学の特徴
・経験的観察から法則を見出し意味や解釈を生み出すというプロセスが社会科学特有のものとして存在します。故に、「実社会の分析を対象とした学問であるが、先人の教えや歴史の蓄積成しに優れた洞察が出てこない」とウェーバーは強く主張します。
・その中でも社会学と歴史学は行動の意味関連を明らかにすることが究極的な学問的意義になると本書では結論付けています。社会科学全般は学問間で相互作用をしますし、専門知識を借用することで優れた意味の見出だしができることも多いのが特徴です、なので複数の学問について造詣が深くなることで多面的に解釈をすることが可能になるということもウェーバーは強く主張します。
※あらゆる社会科学分野で大成し、かつ比較を用いて優れた洞察を見出したウェーバーらしい主張です。
■社会的行為
・目的を持つ行為・価値観ベースの行為・感情の赴くままの行為・規律規範に即した行為の4種類に社会的行為は大別されます。人は相互作用をする中で行動をするが、その際に、感情と社会的目的が混在する形で常に行動をすることになります。もっと噛み砕いて言うと、人は常に組織人格と個人人格が併存し、時に矛盾を起こして意思決定・行動をするということです。
■社会的行為の類形
・ある目的や価値観に即した行為で、体系化されるものを習慣と呼ぶことが出来ます。慣習は行為の新しさ故に社会に浸透する場合は流行と呼ばれます。ある目的や価値観に即した行動は分析していくと一定の単位で、特定集団において同じような反応をするものが発生します。これの代表的なものが経済学であり、社会科学のいくつかで似たような系統の学群が存在します。
■共同社会関係と利益社会関係
・集団の行為が一つのベクトルに定まる時、合理的な目的による場合もあれば血縁や共同体としての役割意識の場合もあります。個人の集合体である組織は必ず何らかの目的に即して行動が規定される側面があります。利害関係の一致・価値基準の一致など様々であるが人は組織化する生き物である。
・地縁や家族などの生物的な理由での結束(≒ゲマインシャフト)もあれば目的意識に即した結束(≒ゲゼルシャフト)も存在し、後者は自由主義経済を促進させる最もな理由です。契約や交渉が出来るまでに人間の知性は発達し、社会は高度化したと言えます。
■権力と支配
・支配とは命令を下した際に服従を得られる状態を指します。
・権力とは社会的関係の内部において抵抗を排して自分の意志を貫くことの出来る状態を指します。
・規律とはある命令を下した際に集団が自動的に望ましいふるまいをする状態を指します。古代の王家や家父長などが代表的なもので、統治機関や代表者などはこうした社会のメカニズムを活かして組織を望ましい方向に導いてきた歴史が存在します。
【所感】
・大学で社会科学を学ぶ人が本格的に学ぶ前に出会うことが出来たら、大学の授業が違った見方で見れる程の影響力を発揮する本なのではないかと思いました。個人的な趣味で社会科学全般を勉強するようになって思ったのは、本書で言われている通り学問の連関性です。例えば経済学を知ろうと思うと、歴史学や人類の行動に影響を及ぼした宗教学・哲学に対しても造詣がないと多義的にその意味を解釈できないという場面は実体験としても多々あるので本書の言わんとしていることはとても賛同できます。
・「学問的意義や社会の成り立ちについて理解を深めて何になるのか?」ということですが、個人的には日常を様々な角度から理解することや楽しむことが出来るということに直結すると思っていて、あらゆる事象に対して他人の受け売りではなく自分の物差しで判断できる・楽しめる範囲を広げることは長期的に楽しく生きる上では重要な要素なのかなーと思います。なので、知識をひけらかすことは言語道断ですし、その独自の考察をもってマックス・ウェーバーレベルまではいかなくとも各人置かれた場所で優れた考察・成果物を生み出せるよう鋭意努力するべきということかと。
以上です!