今回はマックス・ウェーバーの「権力と支配」を要約していきます。
本書は「経済と社会」という氏の大作から支配の諸類型と官僚制組織について考察した部分を抽出・再編成した構成となっています。社会科学の土台を形成した偉大な功績を残したマックス・ウェーバーの入門書の位置づけにあるとされます。
「権力と支配」
■ジャンル:政治学
■読破難易度:中~高(論の展開は非常に美しく読みやすいのですが、抽象的な言葉が多く社会学の基礎知識がないと置いてきぼりになる箇所が所々あります)
■対象者:・権力・支配のメカニズムに興味関心のある方
・組織の力学について興味関心のある方
・官僚制の仕組みについて興味関心のある方
≪参考文献≫
■職業としての学問(マックス・ウェーバーの思想のエッセンス)
■要約≪職業としての学問≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■職業としての政治(マックス・ウェーバーの思想のエッセンス(政治分野))
■要約≪職業としての政治≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神(マックス・ウェーバーの思想のエッセンス(比較・考察する学問的アプローチ))
■要約≪プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神≫ - 雑感 (hatenablog.com)
【要約】
■支配・権力の正当性について
・支配とは「一定の範囲の集合をある命令に服従させること」を指します。勢力・影響力や利害関係などもこれらの支配の力を増減させる因子になります。経済合理に即した支配だけが全てではなく、人間社会には必ずその「集団のエネルギーを取りまとめて、意思決定をすることに責任を持つ」幹部を必要とします。
・利害関係や観念的動機から、人間は誰かに常に服従を強いられますし、支配を行使しようとし続ける生き物です。それをシステムとして高度に組み立てたのが官僚制組織であり、ウェーバーは至高と見なします。
・正当な支配体系は大きく3種類とされ、合理的支配・伝統的支配・カリスマ的支配です。合理的支配は成文化され支配関係が生み出されている(会社の組織図など)ということを意味し、伝統的支配は歴史や権威・伝統による暗黙的な支配関係を指します。カリスマ的支配は名前の通り、首長のカリスマ性に立脚した権力・支配関係を指します。※マックス・ウェーバーは人間社会の構造や比較による優れた考察を生み出しており、それは歴史学・宗教学・法学など様々な学問領域の知見を借用したものとなっております。その為、アウトプットはしかり分析・考察手法についても後世に影響を残したとされます。
■合法的支配
・「法により指示命令系統などの秩序がしっかり定められている」のが合法的支配の力学が働く組織で、代表例は行政組織とされます。司法は法を運用し、権利の配分を是正し、行政は法に基づいた成果を出す為の手足といった具合に国家権力も法秩序に基づいた指示命令系統・役割分担がなされています。
・合法的支配において、文書による意思決定内容の伝達プロセスに拘ります。「法律による指示命令系統」という秩序を維持拡大する為に公的組織が採るべき手法だからです。この支配体系に従事する人に求められるのは高度な倫理観と情報処理能力であり、指示命令系統に即して業務を滞りなく遂行すること(ここで個人の個性や裁量は論点になっていません)がポイントです。
■伝統的支配
・伝統や権威に紐づいた首長の支配を伝統的支配と呼び、これは未開社会でも存在した統治システムです。指示命令系統は法規ではなく伝統による権威を前提としており、被支配者は服従するのが基本です。
・封建社会で主に採用された統治システムであり、バックにある権威や閉鎖的な空間においてその共同体を維持すること自体に力学が働く場面においてしか成立しない考え方です。長老制や家父長制などが典型例であり、変数の少ない社会において暗黙の了解のもとに形成される独特の統治システムです。基本的にこの統治システムは行政幹部のようなものが存在せず、意思決定のかなりの部分を首長に委ね、構成員は服従を強いるという性質が強いです。なので、その権威を全体の利益にかなうように仕向けないと基本的に即座に崩壊していく性質を持ちました。
■カリスマ的支配
・ある人物の資質を支配の源泉とする統治体制をカリスマ的支配と呼びます。古代の専制政治や軍人統治・政党政治・企業社会など様々な組織形態において存在しうる統治体制です。モルモン教を始めとする新興宗教の教祖などもこの要素を統治体制に含みます。
・行政規則や抽象的法規は存在せず、内部組織の主従関係などはぐちゃぐちゃであることが多いです。官僚型組織のように構成員の個人のパワーや意識ではなく、組織としての役割遂行に重きが置かれている組織形態・支配形態とは全然違うのが特徴です。
・カリスマ的支配は他の統治体制と異なり、非合理的であり革命的なエネルギーを包含する体制と言えて、革新的な事象を起こす際などにあらゆる組織において用いられる統治手法です。問題は再現性・持続性に欠けることであり、移行期をしっかり経ていかないと内部から崩壊するとされます。
■官僚制
・専門分化し、組織図に明確な指示命令系統が記述されるという仕組みが官僚制組織の特徴です。人的マネジメントや構成員の裁量や個性に依存せず成果を創出したり、組織力学を働かせることができるのがポイントです。
・官職は就くのに専門知識を課す試験の通過が必要で、専門性や役割に付随する義務を行使する性質があり、本質的に天職とされます。政治権力にアクセスする性質や代理人の性質があるので地位は高くなる宿命にあるとされます。
・「人ではなく役割に報酬を付与する、役割を文書や法秩序により規定する」というのが官僚制組織の成立条件です。その為、貨幣経済・資本主義経済の発展と官僚制組織は切っても切り離せない関係にあります。予算と法という枠組みで専門性を駆使して指示命令系統に則り行政執行をする官僚制組織は性質上、優秀で権威ある地位とならないと成立しません。
・組織図や法秩序により指示命令系統や組織目的・行動規範が安定化することで、組織が持続性を持つということが官僚制組織の長所です。行政執行という分野の性質上、営利追求ではないので非効率性があろうともこれが最適になることが多いという話です。
・作業の正確さ・恒久性・迅速性等を担保することにおいては個人の裁量に任せることなく、組織目的に忠実に専門性を持って課題解決の実行にコミットする官僚制組織は合理性があります。官僚制組織は分権化の究極系であり、これが出来るのは価値基準や指示命令系統が厳格に定められているからです。
【所感】
・かなりボリュームが多かったので、封建制や政党組織等に関する記述のパートは大幅に割愛して要約しました。3つの支配体系は「職業としての政治」にも言及のある内容であり、権力の暴力性とうまく向き合う高度な倫理観というのが組織の成果に向き合う人の定めなのだと感じました。
・官僚制組織についてはビジネス組織と公的機関では組織目的や価値基準、レバレッジポイントが違うので公的機関に関しては上述の結論なのだと解釈しました。組織としての再現性、安定性は抜群であり大規模組織を迅速に動かすには一定必要な要素たるのは間違いないです。権力の行使を私得のために行なうのを抑制する効果が認められ、社会主義組織の鉄板でもあったということからも有用性があるのは確固たる所です。
・本書を読みながら、政治や法律・経済などの学問を学ぶと民間・公共とセクターが違えども人の集合体である組織・社会には普遍的な法則が見えてくるものだと気付けたのは大きな発見でした。
以上となります!