今回はN・グレゴリー・マンキューの「マクロ経済学」について要約していきます。
企業の国際競争化や国の競争優位について関心を持つ中で、関りのあるマクロ経済学の理論についてもう一度1から学び直したいなと思い、読んでみました。本書は長い為、2回に分けて要約していきます。前編として第1部~第3部を要約します。第1部はイントロダクションとして経済学の基本方針を記述、第2部はマクロ経済を論じる上で重要な指標となるGDP(国内総生産)・CPI(消費者物価指数)について、第3部は生産性の概念・貯蓄と投資の関係性・ファイナンス・失業などのマクロ経済の基本的なテーマについて論じています。
■マンキュー経済学Ⅱマクロ編
■ジャンル:経済学
■読破難易度:低~中(大学の経済学部用の教科書として作られているため、とても読みやすいです。カラー刷りで図も豊富にあり、経済学の概念を1から説明しています。)
■対象者:・政策立案・金融理論に興味関心のある方
・国際経済・国の競争優位に興味関心のある方
・経済学を学びなおしたい方
【要約】
・特定市場における需要者と供給者のやり取り、個別取引のメカニズムについて論じたのがミクロ経済学で、応用系として産業組織論・企業戦略論・行動経済学・ゲーム理論などに発展していきます。
・本書で取り扱うマクロ経済学はその名の通り、経済全体に関わる現象を取り扱い、具体的には経済成長理論・政府の財政政策・金融政策・インフレデフレ等のテーマを取り扱います。
■経済学の学問的意義
・経済学はモノやサービスの希少性を巡る取引の営みを記録した学問です。この学問の目的は「社会のシステムを明らかにすること」にあり、他の学問の手法や数学的なモデルを活用して考察する特徴があります。(主に統計学・心理学・政治学など)
■国民所得
・GDPは国全体の貧しさや豊かさをはかる指標として、マクロ経済の代表的な指標に据え置かれて来ました。GDPは一定期間における国内で行われた財やサービスの価値の総額を指します。この指標は国間の比較や経年比較を可能にすることに学問的意義があるとされ、理論的綻びを差し引いても価値は大きいとされます。
※GDPは企業が国際競争化し、多国籍企業による様々な場所で働く人が存在する現代の社会構造には即さないという指摘もあります。物質的な豊かさのみを示す指標であり、精神的な豊かさなど記述できない要素があるのは否めません。
■生計費の測定
・物価指数は額面のうまみがどれくらいあるかを示す指標です。インフレかデフレかにより額面による購買力は異なりますので、それを均し経年比較・定点観測を可能にする優れものです。
・消費者物価指数・生産者物価指数という2つの指標を用いることで物価指数は示され、可処分所得・投資余力などが明らかになります。これがマクロ経済における経済全体へインパクトのある政策立案に繋がります。世の中にものが溢れるようになると、購買活動の選択肢が広がります。選択肢が広がることは貨幣自体の持つ価値が上昇することを意味し、それは「貨幣の市場流通量と企業の購買能力が相関する」ことと似たような現象を意味します。
■生産性
・国の長期的な経済成長を実現するには生産性を高めることが必要です。その為に、企業努力・政策立案が適切になされないといけません。生産性を決定する要因はマクロ経済学的には物的資本・人的資本・天然資源・技術知識の4つと呼ばれます。
・物的資本は天然資源などと区別して主に固定資産等に区分される機械や建物・設備などを意味します。人的資本は要素技術に近しい考え方で教育・技能訓練などを指します。天然資源はその名の通り、土地・河川・金属などの資源を指します。技術知識は特許や生産技術などの上記3つの資本を投下してレバレッジを効かせる技法を指します。
■貯蓄と投資、金融システム
・「経済の総所得-(消費+政府の支出)=国民の貯蓄」ということが言えます。なので、経済の総所得を増加させるか消費を刺激する経済政策というのが採られることになります。尚、いずれも難しい場合は政府が公共事業を積極的に行うことでこの仕組みを実現しようというのがケインズ経済学の思想になります。
・貯蓄と投資は表裏一体であり、政府支出と家計支出・民間企業投資などは全て関連性を持ちます。一見関係のなさそうな政府の財政状態が利率など金融市場に大きな影響を与える為、「政府・企業・家計の3つの視点で経済政策は論じられないとどこかのしわ寄せが全体に波及する」という事態になります。
・金融システムは経済の貯蓄と投資を結びつける役割を果たし、持続的な中長期的な成長を牽引します。貨幣には時間的価値が存在し、他人に貸し借りをすることで経済主体の購買力を増強し、その見返りとして利子を得ることが出来ます。
・統計学・経済学の基本原理を借用する形でファイナンスの理論は形成され、金融商品(債券・株式)に関わる市場取引における再現性の高い理論を構築します。一方で、どこまで言っても市場に潜む不確実性のリスクを軽減することはできないですし、人間は「限定された合理性の基に意思決定をする為市場取引について完全に予測することは不可能」というのも真理です。
■失業
・失業は就労意思がありながら仕事に従事出来ていない状態を示し、自ら進んで仕事に従事していない人・退職者などはここに含まれません。なので、就業率の改善と共に、就労人口の最大化という観点からも政策を立案しないと労働市場の需給バランスや社会保障問題は解消されない難しさがあります。
・失業の多くは摩擦的失業と呼ばれる「労働者が自分の好みや習熟度に合致した仕事を探すのに時間がかかることにより発生する失業」が絡んでくるため難しい問題です。また、長期的に失業に直面する人は一部の人に限られる為、社会保守の政策と組み合わせて考えることが求められます。
【所感】
・恥ずかしいことに経済学部出身でありながら、マクロ経済学の知識が不足しており(授業に1回も出ないで直前に教科書読んで単位取得した記憶があります)丁寧に読み進めました。公共経済学・財政学などの観点からも学ぶ直して検証を深めるとより自分のものになりそうだなという感触を持ちました。※大学時代は具体的なものを好み、経営学の戦略論関連の授業を中心に取得していた自分の俗物さ・浅はかさを思い知り学び直している最中です。
・この分野の理論はアダム・スミスが提唱した古典派経済学の理論を基にシュンペーターやケインズが築き上げたものですが改めて先人の偉大さを感じる次第でした。
・経済学はそれ単体では何も世の中の問題を解決したり、説明はしませんが複数の学問の知見と組み合わせて活用することで新たな見解をもたらすことが出来る意義を感じている次第です。なので、似たようなジャンルを集中的に読み進めていきたいなと思っています。
以上です!