今回は「科学革命の構造」を要約していきます。
パラダイムシフトという言葉は誰しも聞いたことがあると思いますが、その言葉を社会に大きく知らしめるに至った本です。著者は物理学に造詣の深い科学史の学者です。自然科学という学問の構造や対峙する者に求められる倫理観を説いた熱い内容の本です。
■科学革命の構造
■ジャンル:哲学・自然科学
■読破難易度:中(本書で述べられる論自体は非常にシンプルです。自然科学や西洋哲学に明るいと深く理解出来ると思います。)
■対象者:・パラダイムに興味関心のある方
・自然科学の発達の歴史に興味関心のある方
【要約】
※前提として、本書でいう「科学」とは物理や化学などの自然科学を指します。
■科学の発達の歴史
・パラダイムとはある時代を支配するものの見方を指し、特定のパラダイムにおいて有効な知識群を通常科学と呼びます。通常科学は教科書に記述される知識や論文化されるテーマのようなイメージになります。
・科学の歴史はパラダイムシフトを繰り返し断続的に発展してきたのが実態で、教科書で知識を学ぶような順序だった連続的な歴史像とは異なるというのが特筆すべきポイントと言えます。学派が複数存在する状態は成熟期に移行する過程の状態の象徴と言えます。
※アリストテレス・プトレマイオス・ガリレオガリレイ・ニュートン・アインシュタインなど後世に残るような見解を提唱した科学者によるものの見方が特定領域で高度に発展したというのは現代の自然科学の発達を見ても明らかでしょう。
■自然科学に対峙する者が持つべき倫理観
・上記学問の性質から「前提を疑い、未知のものを受け入れ探究し続ける」職業倫理観が何より大事とされます。その過程で活用する教科書は「科学者になる為に必要な知識のインプット」には優れているものの、パラダイムの概念など「実際に科学者を実践する際の概念や価値観と異なる」というのが避けられない矛盾として現実にあると本書では述べられます。
■他学問領域と比較した際の自然科学の特徴
・非連続的な発展をするという像は芸術や人文科学など他の分野でも存在します。しかし、自然科学にはパラダイムが確立し通常科学となった期間には学派が一つしか存在せず他の学派を絶やす暴力性があるというのが他の学問領域との決定的な違いが存在します。
※これは芸術や人文科学が解釈の世界であるのに対し、自然科学が法則や真理の追究という恣意的な要素が入る余地がないという研究対象の属性の違いによるものからも明らかと言えます。
■発見と発明
・パラダイムの確立に至るまでに多くの発見(事実)と発明(理論)が試行されます。発明やパラダイムは「ある現象に関する発見を起点に掘り下げて、理論を構築する」ことで生み出されます。それ故に、科学者は複数の学問の考えを借用しながら没入することを求められます。
・歴史を紐解くと、「既存の理論の枠組みで説明がつかない現象が観測され、それを解明するヒントになりうる発見から理論が数十年後に提唱され、パラダイムがシフトする」というプロセスを経ていく規則性が存在します。
【所感】
・自然科学を取り扱った本をあまり読んだことがなかったので、導入部分は前提を理解するのに戸惑いましたが読み進めると非常に明快な論が展開されるので、読んでいて心地良かったです。
・学問の特徴やその領域に対峙する際の職業倫理を説いている部分が一番印象に残っており、人類の叡智がこのように作られてきたのかと読みながらワクワクしました。僕は趣味で将棋をやるのですが、自然科学の学派を一つに収束させる特徴というのは将棋にも似たような所があるなと感じました。ある戦法や局面の解釈について解明されるまで棋士がこぞって研究をし、結論が出るまでそれは続き、結論が出ると一つの解釈でしばらく硬直状態になるというプロセスは自然科学そのものだなと感じました。
・背景知識が高校1年生レベルで止まっているので、前途多難ではありますがこうした自然科学の理解を深める読書も定期的に行っていきたいなと感じました。世界は広いと改めて再認識した次第です。
以上となります!