今回はウォーラーステインの「近代世界システムⅣ」要約後編となります。
資本主義をベースとした経済的な関係性を論じた世界システム論で有名な学者の代表作で、Ⅳは1789~1914年のヨーロッパ社会を中心に分析し、政治的・経済的衝突を経て中道自由主義がヨーロッパ世界経済の潮流を形成していくプロセスを読み解く内容となっています。また、Ⅳは近代世界システム四部作の最終作となっており、これまでのシステム論のおさらいも含まれています。Ⅳ要約後編ということで第四章~第六章を取り扱います。
「近代世界システムⅣ」
■ジャンル:経済・歴史
■読破難易度:中(世界史と古典派経済学の知識があると面白く読み解くことが出来るかと。専門用語などはないので、前情報がないと読めないという類のものではないです。)
■対象者
・経済史について興味関心のある方
・システム論について興味関心のある方
・資本主義の原理に立脚したヨーロッパ各国の関係性について興味関心のある方
※過去の要約は下記。
■要約≪近代世界システムⅠ後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪近代世界システムⅠ前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪近代世界システムⅡ前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪近代世界システムⅡ後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪近代世界システムⅢ前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪近代世界システムⅢ後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪近代世界システムⅣ前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
≪参考文献≫
■プロフェッショナリズムの倫理と資本主義の精神(資本主義と宗教の関係性について論じた本)
■要約≪プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■国富論(政治経済学の原理原則のエッセンスが詰まっており、近代世界システムⅡの時代についての言及もあり、相互補完としてオススメの本)
■要約≪国富論 第一編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪国富論 第二編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪国富論 第三編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪国富論 第四編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪国富論 第五編前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪国富論 第五編後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
【要約】
■中道自由主義国家が支配的になる変遷について
・19世紀初頭のフランス革命・ナポレオン台頭・イギリス産業革命などを経て、ヨーロッパ世界経済の中核は軒並み中道自由主義国家の道を歩みます。具体的にはヘゲモニー国家の地位を務めたイギリス・次いでフランス・新興勢力としてのドイツ・アメリカ合衆国・イタリアといった具合でした。保守主義・社会主義など様々な思想が乱立した中で、「物質的・精神的な利益が最も最大化される自由主義」が支配的になっていくのは要約前編で述べた通りです。
・この時代の主な関心毎は「法の下の平等」・「市場での平等」などの機会の平等の追求でした。具体的には国民国家・普通選挙制度の追求・労働組合の組成(労働者階級の待遇・地位向上)・フェミニスト運動・奴隷解放運動などといった具合であり、多くの人の政治的・経済的権利の追求を呼び寄せる形で中道自由主義は発展しました。
・「資本主義経済を確固たる基盤とし、議会制民主主義による社会全体の高度な分業体制による帝国化追求」というのが19世紀~20世紀初頭の世界システムの中核~半周辺の共通した政治・経済の体制でした。フランス革命を経て、名誉階級の特権であった地位は中産階級(ブルジョワジー※主に資本家)に道が開かれましたが、その後は労働者階級が中産階級(ブルジョワジー)に対して権利を主張する革命運動(社会主義を理想とする)という形で階級闘争の構図は続くこととなりました。
・尚、これらの一連の動きは各国の政治体制や歴史的変遷により度合いが異なり、フランスは革命により国家が変わった国であるため、権利主張をする運動はヨーロッパ社会において群を抜いて多かったとされます。特権階級が建国の歴史・経緯故に存在しなかったアメリカ合衆国では初期から「資本主義による完全競争」・「合議制による政治的意思決定」などがシステムとして定着しました。※二度の戦時需要で市場が伸びたことで自由主義国家として資本主義の象徴としてアメリカ合衆国がイギリスの後のヘゲモニー国家に台頭したのは必然の流れとさえ言えたのでしょう。
■社会科学としての自由主義
・中道自由主義が発達する中で、19世紀以降自然科学は勿論、人文科学・そして社会科学が大規模に確立・発達していきました。人文科学は解釈による論証が中心の世界であり、科学(自然科学・社会科学)は実験による論証が中心の世界といった具合に大学において区分が明確化されていったのは19世紀になってからでした。科学は事実の列挙に法則や事例の説明という意味をもたらす性質があり、人文科学は美意識や行動感覚の関係性に働きかける性質があるとされました。
・特に社会科学は人間社会の行動や現象を法則化・論じるという野心があり、その性質から様々な学問や解釈を借用しながら19世紀に発達した歴史の浅い学問領域です。社会科学の根幹を成す学問として、経済学・政治学・社会学がそれぞれ分化・確立し大学研究が深められていきました。経済学は市場の研究/解明・政治学は国家の研究/解明・社会学は市民社会の研究/解明を目的として発展しました。その学問の利益や性質故に、社会科学は主にイギリスやアメリカ合衆国などの中道自由主義国家で発達し、政治経済の世界に組み込まれて実利を生み出し、20世紀以降の帝国主義路線を理論・思想の側面から下支えしたとされます。
・社会科学分野の発達および大学教育の充実は「下層階級からエリートを選別して、支配階層に取り込むことで力を最大化する」という利益から大幅に加速しました。こうした選別・抜擢の構図ができたことで、知識労働者階級が形成され、労働生産性の最大化や自由競争市場がもたらされたとされます。外交官・政府官僚・財務・会計などの専門領域特化していくことで、国や経済の課題を解決する人材プールの機能を果たしました。※この時代の名残で学歴主義や専門性を推奨する傾向というのは社会の価値観として長らく残っているようです。
【所感】
・現代の当たり前と言える資本主義経済・自由主義は19世紀半ばから一気に台頭・確立したと思うと非常に最近の出来事なのだなと改めて認識させられました。様々な学問分野の書物を読んだ際に宗教的価値観(主にキリスト教)が文脈に入ることなく、極めて合理的に物事を解明しようというスタンスで論が展開される書物が増えるのも19世紀半ば以降の著作が多いなと気付いた次第です。
・16世紀に発展・確立した資本主義経済に立脚した国際分業体制が世界を席巻・支配するに足る影響力を帯びるようになったのは本書で言及される19世紀半ば以降であり、以後帝国主義・ヨーロッパ中心主義といった思想が支配的になっていくのはある意味歴史的必然性があるのかもしれないと感じました。
・歴史・政治・経済/経営などの社会科学分野への関心が元来強い自分ですが、極めて現代の自由主義国家・世界の思想に忠実な価値観であるのかと思い返した次第です。一方で、歴史やヨーロッパ以外の地域を紐解くと支配的ではない価値観・考えというのもたくさん存在する訳です。その為、何を学ぶ・考えるにしても「特定の視点からの見解・決めつけではないか?と疑ってかかり批判的に検証する」姿勢を絶やしてはいけないなと感じました。支配的な思想や行動で思考停止になることが惨劇をもたらすのは多くの歴史が記述しており、それは一個人の生き様にも言えると考えるからです。
・長らく続いた近代世界システム要約シリーズはこれで終了です。世界史や経済学など様々な知見を活用し、システム論的に世界を見ていく非常にダイナミックな著作で大変勉強になりました。時間を置いて読み返し理解を深めていきたい次第です。
以上となります!