雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪UXデザインの教科書 前編≫

 

今回は安藤昌也氏の「UXデザインの教科書」を要約していきます。その名の通り、「製品やサービスを使う時の体験を狙って高める営み」であるUXデザインの概念について人間工学の研究・IOS策定の歴史・体系化されたフレームワークなど関連テーマを網羅的に取り扱う当該分野の鉄板本です。本書は内容盛り沢山である為、2回に分けて要約します。前編の今回はPARTⅠ(UXデザインの概要)・PARTⅡ(基礎体験)をまとめます。

 

「UXデザインの教科書」

楽天ブックス: UXデザインの教科書 - 安藤昌也 - 9784621300374 : 本

■ジャンル:IT

■読破難易度:低~中(平易な言葉で記述されているので読みやすいですが、プロダクトマネジメント・エンジニアリングいずれかのバックグランドがあったほうが理解しやすいかと)

■対象者:・UXデザインの概略を掴みたい方

     ・サービス・プロダクト開発に従事する方全般

     ・人間の感情や行動の変遷に興味関心のある方

≪参考文献≫

■ジョブ理論

■要約≪ジョブ理論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■リーン顧客開発

■要約≪リーン顧客開発≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■UXデザインとは

・UXデザインとは使う人がサービスや製品の効用を享受する体験を高める営みであり、根底にあるプロダクトを通じた課題解決の実現可能性やロイヤリティ・LTV向上などのビジネス成果に寄与します。UXデザインは開発対象のドメイン知識や心理学・行動経済学マーケティング・ソフトウェア開発・UIデザインなどの知識・理論と相乗効果を成し、プロダクト価値を想定顧客に適切に届け、価値を最大化させる役割を果たします。その為、プロダクトマネージャーは勿論のことエンジニアリング部門やビジネス部門(営業・マーケティング)においてもUXデザインの概念を抑えて事業場の意思決定・運営することが何よりも大切とされます。

・UXデザインはモノを作れば作るだけ売れた時代が終焉し、モノで溢れた時代において「如何に想定顧客に選ばれ、想定顧客の制約条件(価値観・行動・心理の変遷)を留意した形で製品・サービスを提供していくか」の一連の流れを設計し、狙って価値を届ける動作全般がスコープとなります。

・UXデザインの重要性はデジタルテクノロジーが発展した現代においてより増しています。なぜならテクノロジードリブンのモノづくりでは人間ではなく、技術が中心となった仕様・導線になってしまうことが自然であり、それでは適切にユーザーに価値が届きません。(ユーザーが製品やサービスを正しく認識し使いこなすことが出来ないので、価値を認識出来ないという事態が発生する為)「人間の為に製品・サービスの価値提供プロセスを編み直すこと(人間中心設計)」がUXデザインの神髄です。

・UXデザインの必要性が認知され叫ばれるようになったのは2007年にスマートフォンが爆発的に普及してからとされます。操作性を評価するユーザビリティだけでなく、感情面や心理の変遷などを捉える情緒的なプロダクト価値も評価しようという潮流になったことで(UXがプロダクトの競争優位や方向性を定義するまでに重要な要因となったから)局面は大きく変化しました。UXは学問的には人間工学の領域であり、情報系や建築系の一部に包含され、社会システムという意味では工学は勿論、経済や文学(心理学)的な横断的な概念と言えます。

 

■UXデザインを効果的に行う為の考え方・フレームワーク

・体験価値が重視される経験経済の局面となった現代において「顧客に正しく価値を届けて体験価値を付与し、顧客が抱える問題解決や得たいゲインを獲得できる」ようにすることがプロダクト開発におけるUXデザインの最大の役割となります。UXデザイナーは「顧客に憑依し、知識や行動・感情の制約条件、前後の動作を理解すること」が大切になり、テクノロジーの知見も必要ですが同じくらいEQ的なスキル・知見が不可欠な複合技と言えます。

・上記を効果的に実行していく為には体系だった手順に沿い、フレームワークを用いて仮説検証していくのが望ましいとされ具体的には「誰をどんなふうにしたいのか」のビジョンをゴールとして、重要論点・検討ステップを設計・合意、KA法ジャーニーマップで可視化、ユーザーストーリーマッピングに落とし込み機能開発・仮説検証の優先順位付けをしながら進めるのが基本形式となります。ユーザーストーリーマッピングはペルソナの心理・行動の変遷から解くべき機能・お題の選定・検討をしていく為の効果的なフレームワークです。これらも過去20年くらいで一気に整備・体系化された時代であり、まだ人間中心設計のUXデザインは過渡期なのです。

UXデザインはとにかく「想定顧客をどんなステップでありたい姿にしたいか」のシナリオメイキングから具体的な機能開発や導線設計が不可欠です。ユーザーインタフェースのプロトタイプを検討する為にはABテストで重要仮説を検証することを徹底しないといけなく、モックアップと呼ばれるプロトタイプを作ることもUXデザイナー業務範囲になります。

 

■UXデザインの階層構造

・UXは「戦略→要件→構造→骨格→表層」と5つの階層構造であり、具体になればなるほどUIデザイナーやエンジニアの世界で、戦略や要件はUXデザイナーやプロダクトマネージャーのスコープです。UXデザインは人間中心設計を実現し、価値を届けるためにユーザーや製品サービス、ビジネス(ビジネスモデル・組織人材・システム)に働きかけます。デザインにはグラフィックデザイン、インターフェースデザインも含まれ、いくらUXデザイナーであろうともUIデザインの最低限の知識は必要になります。

・プロセスを作りこむ際には・製品関与度自己効力感でユーザーをライト・マニアなどにプロットし、ユーザーのバランスやUIUXの作り込みの方向性を定めるマーケティングのような活動がつきまいます。体験価値は経験的知識・累積的UXや利用体験の階層構造で形成されます。

・UXデザインを推し進める上では人間中心デザインプロセス(HCD)の6つの原則を留意して進めることが望ましいとされています。

「設計がユーザー・タスク・環境の明確な理解に基づいている」

「ユーザーが設計と開発全体を通じて参加している」

「設計がユーザー中心の評価により実施され洗練されている」

「プロセスを繰り返している」

「設計がユーザーエクスペリエンス全体に取り組んでいる」

「設計チームが学術的なスキルと視点を取り込んでいる」

具体的には「調査⇒企画・仕様検討⇒設計⇒評価⇒提供」と決まった検討手順が定められており、「UXデザインを通じてどんな問いを解くのか?」・「想定ユーザーはどんな制約条件下でプロダクトを雇用し、前後にどのような心理や行動の変遷を経るのか?」を把握し、具体的なソリューション・機能の優先順位付け・重要仮説検証・KPI設計するなどが具体的な後続手順とされます。

※認知工学・人間工学・感性工学はUXデザインにダイレクトに直結する学問領域であり、周辺領域として認知心理学社会心理学文化人類学などがあり関連学問を体系的に学ぶことはUXデザインのスキルセットに相乗効果をもたらすとされます。

 

 

【所感】

・事業開発・プロダクトマネジメントについて学びを深める中で自然とUXデザインに辿り着き本書を読んだのですが、モノであふれる時代にUXデザインに留意することが事業運営上大切であることがよくわかりました。感覚で理解していたものを理論で明瞭に言語化された感覚です。

・発達した理論に忠実にフレームワークを用いてもれなく・ダブりなく効果的に仮説検証~機能開発していくのが実際の流れである点はプロダクトマネジメントに通じる所があると感じた次第です。また、UXデザインの基本プロセスである「想定顧客の感情や行動の変遷、その裏側にある物語や制約条件を捉え、抽象化・課題設定する」行為は営業やマーケティング・組織マネジメントにおいて自分自身が磨いてきた思考プロセスと極めて通じるものを感じ、これは人間中心設計というUXデザインのグランドルール故に構造的に類似するのだと理解しました。

 

以上となります!