雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪ドキュメント トヨタの製品開発≫

 

今回は安達瑛二氏の「ドキュメント トヨタの製品開発」を要約していきます。トヨタ主査制度の戦略・開発・制覇の記録をまとめたものであり、オイルショック直後に「小型上級者市場シェア50%」という野望を掲げ、その実現に向けた約10年の自動車開発~販売の歴史を追った内容となっています。著者自身がトヨタ自動車で製品企画室主査担当を務め、マークⅡチェイサークレスタの開発を手掛けた知見をベースに研究開発・生産・販売などあらゆる自動車メーカーの機能部門にスポットを当てて記述されています。

 

「ドキュメント トヨタの製品開発」

品質工学計算法入門/矢野宏/著 本・コミック : オンライン書店e-hon

■ジャンル:開発管理・経営

■読破難易度:低~中(車作りに詳しくない自分でも無理なく理解することのできる構成でした。自動車開発職種の簡単な概要やイメージの理解があるとより読みやすくなるかもしれません。)

■対象者:・自動車開発業務に興味関心のある方

     ・主査制度・プロダクトマネジメント・事業開発に関心のある方

     ・ビジョンを掲げ、周囲を巻き込み大きな物事を成し遂げる過程を知りたい方

 

【要約】

トヨタ主査制度とは

トヨタ主査制度は特定のブランドについて企画・生産・販売・開発の全てに責任を持つ制度を指します。技術的な面だけに責任を持つプロダクトマネージャーや販売促進の面だけに責任を持つブランドマネージャーとは似て非なるものとされます。主査は一般企業でいう部長次長クラスの職位であり、スタッフ部門に所属します。主査の多くは「技術のスペシャリストでありながら複数の部門を経験しているもの」であり、製品企画生え抜きみたいなことはないポジションです。メーカーという製品開発プロセスの性質上、主査は社内の開発やスタッフ・マーケティング部門は勿論、部品メーカーや販売店・ボディーメーカーなどとの折衝も担います。

・主査はプロダクトマネージャー同様、人事権を持たずにステークホルダーマネジメントを行う性質があり、それはプロダクトのCore・Why・Whatを研ぎ澄まして納得がいくプランで物事を進めよという役割であることを意味します。

 

オイルショック直後の製品開発

トヨタは戦後物凄い勢いで成長していき、販社の秀逸なマネジメント・トヨタ生産方式によるオペレーショナルエクセレンスの追求・主査制度によるマルチセグメント戦略の合わせ技で国際的に台頭していった会社でした。オイルショックはそうした中で初めて迎えた危機的な局面として記述されています。本書がフォーカスするのは小型上級車市場と呼ばれるセグメントであり、日産がローレル・スカイライン連合で圧倒的な市場シェアを抑えていました。

・そんな中、「小型上級車市場シェア50%」という野心的な目標を掲げ、主査主導の基市場を牽引していく新自動車開発が進むのでした。

 

■マークⅡ・チェイサー・クレスタの開発プロセス

・まずは1970年代にマークⅡ、次いでチェイサー、最後に「トヨタらしくない自動車開発(非トヨタロイヤリティーユーザーセグメント開拓目的)」としてのクレスタの3ブランドの小型上級者市場向けの自動車開発が始まります。

・車という有形のプロダクトであるからこそ、デザインはプロダクトセグメントやビジョンを体現するものとして多くの観点から精査される重要項目です。加えて、エンドユーザーが消費者であるので、「感覚的に馴染むデザイン・使い勝手であること」・「安全性が担保されていること」などはこの時代の自動車開発で留意する絶対的なポイントでした。振動耐熱性安全性等の機能面に関する技術的な問題を乗り越えるための仮説検証と並行して、快適性というユーザビリティの先駆けのような概念に関するデザイン・仮説検証も行うのが具体的にこの時代のトヨタ主査がマネジメントしていたテーマでした。

オイルショック以後、モータリゼーションの波が押し寄せる中で自動車開発には「エンドユーザーのライフスタイルを体現する」というブランドデザインは勿論、軽量化省力化などの技術的な高い要望も突き付けられるといった制約条件が付いて回りました。自動車を買うという行為は自身の消費形式を体現したり、自己実現のような要素を持っていたのです。だからこそ、自動車開発にはデザインに関する知識・スキルに加え、顧客セグメントへの深いインサイトマーケットインではなく、プロダクトアウト気味な○○な世界を実現したいというの強い野心・ビジョンが欠かせないのでした。

・1981年にトヨタ小型上級車市場連合(マークⅡ・チェイサー・クレスタ)は日産のローレル・スカイライン連合を上回り市場シェアトップを獲得するのに成功しました。あれよあれよと進み、1983年についに9年前に掲げた「小型上級車市場シェア50%」というNSMを達成しました。

 

【所感】

・自動車製品開発における主査制度はプロダクトマネージャーの役割に近しく、「有形×消費者向け」という製品セグメントの特質も相まって学べる知見が多いのではないかと思い本書を読みました。ソフトウェアやサービス開発と異なり、技術面の問題やQCDに関する言及が多い点などは自動車産業らしさを感じました。その一方で、顧客セグメントを明確に区切り、ユーザーインサイトからビジョンや解くべき課題を設定するプロセスやユーザビリティを重視したコンセプト設定などは現代のプロダクトマネジメント・事業開発にも通じる考え方で非常に先進的な取り組みであったことも伺えます。

・本書を読みながら、トヨタの主査制度における凄まじい当事者意識とステークホルダーマネジメント、付随する膨大な仮説検証・プロジェクトマネジメント・ドキュメンテーションワークなどを想像しました。そして、改めてプロダクトへの愛強い野心・解きたい課題意識などが大事であり、リーダーシップなどと合わせて精神的な胆力と経験値がモノを言う役割であるように感じました。

 

以上となります!