雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪ローマ人の物語6≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。6は「勝者の混迷」の上巻であり、紀元前133~紀元前78年の混沌とした時代を描きます。ポエニ戦争終結し、マケドニア王国・カルタゴが滅亡しヨーロッパ世界に圧倒的な覇権をもって君臨するローマ帝国の様相を呈した時代は内乱が絶え間ない時期でした。上巻ではグラックス兄弟の改革・ガイウス・マリウスの台頭・同盟者戦役勃発・ルキウス・コルネリウス・スッラの台頭までを描きます。

 

ローマ人の物語6」

ロ-マ人の物語 6 / 塩野 七生【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常によみやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとわかりやすくなります。)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方

     ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

 

ローマ人の物語1~2(ローマは一日にして成らず)は下記≫

■要約≪ローマ人の物語1≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪ローマ人の物語2≫ - 雑感 (hatenablog.com)

ローマ人の物語3~5(ハンニバル戦記)は下記

■要約≪ローマ人の物語3≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪ローマ人の物語4≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 ■要約≪ローマ人の物語5≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

グラックス兄弟の改革と悲劇

ティベリウスグラックスガイウス・グラックスはそれぞれ約1年・2年と短期ながら護民官の役割を以て多くの政治改革を推進しました。当時、ポエニ戦争での臨時体制の影響・権力をそのまま引き継ぐ形で貴族階級中心に構成される元老院が最高の政治権力として君臨し、事実上の寡頭政治が行われる時代に発展していました。元老院議員の息の根がかかった奴隷を通じて商工業を行い、巨額の富を形成するなどが横行し貧富の差は拡大するばかりの局面でした。

ティベリウスグラックスは腐敗していたローマの経済体制にくさびを打つ為に農地法を制定し、土地保有の限度を設定すること借地権名義の活用などを制限することで奴隷や家族を駆使した一部の階級が経済的な利権を独占することを回避することを目指しました。ティベリウスは農地や土地保有に関する貴族階級集約の状態を打破し、雇用創出や治安維持をする為に国庫をたくさん使い、時に元老院の権限にも抵触するようなことをしてでも強引に改革を推し進めようとしましたが、反対勢力に弾圧・殺害される事態に陥りました。

・兄の遺志を引き継ぎ護民官となったガイウス・グラックスは失業対策として農地法による自作農の保有促進公共事業の徹底による有効需要創出を行いました。経済政策として、騎士階級の優遇元老院議員で占められた司法制度に騎士階級を参画させるなどの既存統治制度にメスをいれる改革を行い、経済・政治の安定・発展を意図する国策を施しました。兄ほど急進的ではなかったガイウスは旧カルタゴの植民都市の開発事業を護民官2年目に行おうとしましたが、アフリカ出張で不在の機に元老院の働きかけにより政治的に不利な立場に追いやられ、最終的には殺害されるに至りました。

 

■マリウスとスッラの時代

グラックス兄弟の改革以後にローマを牽引することになるガイウス・マリウスは軍事組織で名を挙げて政治の世界に参画する遅咲きの人材でした。スペイン・アフリカでの戦場で武功を上げ、平民階級出身ながら50歳の時に執政官就任することで偉業が始まります。

・マリウスは軍事の造詣が深いことを活かし、「ローマ軍の士気・兵力が落ちていること」に課題設定をし、従来の徴兵制から志願制・職業軍人を推し進めました。マリウスは職業軍人階級という特設の組織を作ることで失業問題を解決すると共に、土地などの既得権益の財産に抵触するようなことをしなかったので、広く受け入れられる改革に成功しました。この改革は結果として民衆の支配基盤をマリウスにもたらし、攻略していたヌミディア王国も半分を制圧するにまで進展する偉業に寄与しました。ヌミディア王国を完全に孤立させるためには外交的な問題を解くことが必要であり、それはマリウスの臣下であり会計検査官であるルキウス・コルネリウス・スッラが問題を解決・活躍しました。スッラは後年に激しい独裁政治を繰り広げたことで有名ですが、若手時代は貧しい貴族階級出身であり開放的な態度をとることで有名であったようです。スッラはヌミディア王国との外交を巧みにこなし、ヌミディア王国の主犯であるユグルタを捉え、終戦に導きました。尚、スッラの偉業が見られるのは勝者の混迷(下)※ローマ人の物語7※となります。

・この頃、長らく論点化していた「ローマ連合に加盟する都市のローマ市民権を認めるかどうか」問題は大詰めを迎えていました。ローマ市民権は獲得できないのに、徴税は行われる・奴隷になり、ローマ市民権を獲得する裏口が存在するなどカオスな状態であり、同盟都市のメリットがないと不平不満が募る事態が続いていました。同盟都市の権利を尊重する法案を立案した護民官ドゥルーススが殺害されたことを機に暴動が起きる事態になり、紀元前90年頃に同盟者戦役と呼ばれるローマ同盟の反乱が勃発しました。

・ローマ同盟の反乱はスッラが率いた軍が功を奏し、鎮圧に成功しました。戦後にはユリウス法と呼ばれる同盟都市のローマ市民権を獲得する権利を尊重する法が可決されました。これを機にローマ連合は解体され、ローマ都市の地方自治体のような形で組み込まれていく形となりました。

 

【所感】

ポエニ戦争以後、共和政末期に到達する過程ということで世界史の教科書では端的に記述がなされる時代区分を詳細に記述していくので読み物として純粋に面白いです。グラックスの兄弟の改革は有名ですが、こんなにも短期間に多数の改革をなしていたのかと驚きました。また、元老院の動向など帝政へ移行していくに至る因子が垣間見える内容でした。

・ローマに関する歴史研究は法律・政治・軍事などにフォーカスすることが多いですが、本書では社会動向や経済政策等についても言及がありあまり視点が偏ることなく読み解くことが出来るので読み心地がよく感じました。参考文献に記載しているモンテスキュー「ローマ人盛衰原因論は軍事や政治に関する言及に集中しすぎているとの批判もある内容ですので、違った考察・視点が得られるように読みながら思いました。

 

以上となります!